表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

28 ゾンビ、報告をする

 翌日。

 俺はガードレールにぶつかって破損した自動車の傍で、スマホを手に取った。

 まずはカラに連絡しないといけない。

 カラは待ち構えていたように、すぐに応答した。


「フミピョン?」


「西浦先生の車を見つけたよ。車の傍で西浦先生と優花さん、車内で彩さんを発見。だけど、全員生きてはいるけど、感染していて、完全なゾンビ。宮沢さんは車から降りてどこかへ逃げたみたいだ。行方不明」


「そっか……」


 昨日、あの後、カラの電話に反応した人はいなかった。

 俺たちが優花さんの感染の可能性に気が付いた時には、たぶん、もう西浦先生達は事故にあった後だったんだろう。


 応答がなかったので、昨日、俺は付近の捜索を開始した。

 でも、昨日は何も見つけることができなかった。俺はまた一晩を大学で過ごし、今朝、捜索を再開した。

 そして今、西浦先生の車を見つけたところだ。


 優花さんは事故の時に怪我をしたようで、血塗れでへたりこむように座っていた。

 西浦先生は大きな怪我はなく、ぼーっと車の周囲を散歩している。

 彩さんはシートベルトをしめたまま車内にいた。

 みんな、俺の存在にはまるで気が付いていないようだ。


 俺はカラに言った。


「なぐさめにしかならないけど。ゾンビはみんな意識が繋がって夢を見ているような状態なんだ。きっと、今はみんな幸せな世界にいるはずだよ。俺は一度あの世界に行ったけど。この世界にいるよりずっと幸せだって、ゾンビのみんなは言ってた。非感染者とは、もう会話できないけど」

 

 カラは数秒の沈黙の後で言った。


「そっか。ゾンビになって幸せかもしれないんだね。だから、ゾンビって楽しそうなんだ……。でも、あたしは寂しいな。アヤヤンともう話せないなんて」


 俺には何も言えなかった。

 その寂しさは、よく知っている。

 数秒の間を置いて、カラは言った。


「フミピョン。治療薬の開発、がんばろ。もう一度、みんなとおしゃべりできるように」


 俺は力強くうなずいた。別にビデオ通話じゃないからカラには見えないけど。


「うん。治療薬を作ろう。だから、後で勉強教えて?」


 カラは力強く言った。


「まかせて。バシバシ叩きこんであげる」


「あいや、そんなスパルタ教育じゃなくていい……。じゃ、また後で。俺、中林先生にも報告しないと」


 俺はカラとの通話を切り、今度は中林先生に電話をかけた。


「先生。避難途中で事故にあった西浦先生達を見つけました。生きてはいるけど感染していて、今は完全にゾンビになっています」


 俺は昨夜、中林先生に西浦先生達が避難途中で音信不通になったと報告していた。

 だから、中林先生はこの結果を予測していたはずだ。

 中林先生は淡々と言った。


「そうか。気にするな。おそらく、西浦にとってはその方が良かった」


「良かった?」


 俺は自分の耳を疑った。

 中林先生は淡々と説明した。


「避難したところで、今は治療を受けられる状況じゃない。感染しなければ遅かれ早かれ、死んでいた。ゾンビウイルスに増強された生命力で病を乗り越えるほかに生き残る術はなかったんだ」


 俺はそれを聞いて、なんで中林先生が西浦先生を助けようとしなかったのか、初めて理解した。


 パンデミックで医療崩壊が進んでいる今、感染拡大地域からの避難民をすぐにみてくれる病院は少ない。

 しかも、感染拡大地域は毎日広がっている。

 だから、避難しても治療を受けられる可能性は低い。

 むしろ、西浦先生は、避難すれば死ぬ。


 中林先生は、そう思っていたのだ。


 中林先生の本音はきっと、「避難せず、ゾンビウイルスに感染してでも生き延びてほしい」だったんだ。

 そう口にはできないとしても……いや、中林先生のことだから、はっきり言いそうだな。俺には言ってなかったけど、西浦先生には言ってたかも。


 中林先生は淡々と言った。


「本人も生き延びられるとは思っていなかっただろう。あいつが助けを呼んだのは、一緒にいた学生達のためだ。自分はどうなろうと、学生達のことは無事に避難させたがっていた。結局、避難させることはできなかったようだが。どうせ、今はゾンビになって楽しそうな顔をしているんだろう?」


 俺は、ぼーっと立っているゾンビの西浦先生を見た。

 噛み跡みたいな傷と変色した皮膚と付着した血液で、ぱっと見は不気味だけど。西浦先生は穏やかでちょっと嬉しそうな顔をしていた。


「はい」


 俺は、そこでカラのことを思い出して、中林先生に告げた。


「そういえば、感染したのは全員じゃないです。一人、感染しないで生き残って、しかも、研究所に来てくれる人がいます」


 中林先生はしみじみと言った。


「そうか。一人だけでも助けられたか。どういう学生だ?」


「とても頭のいい人です。名前は大鳥カラです」


 中林先生の、微妙に嫌そうな声が聞こえた。


「……カラか」


「あ、知ってたんですか?」


 そういえば、カラも中林先生のことを知っていた。元から知り合いだったようだ。

 でも、中林先生は無愛想に言った。


「知らん。西浦のところに行くたびに、あいつがうるさく絡んできただけだ。そこそこ優秀なのは認めるが、あいつはうるさすぎる」


 中林先生の「知り合い」認定は厳しいからなぁ。


「前から仲が良かったみたいで、よかったです」


 俺はそう言って通話を切った。

 中林先生は本当に嫌いだったら、「そんな奴、連れてくるな」ってはっきり言うはずだ。だから、たぶん、カラのことはそこそこ気に入っているんだろう。

 

 さて、国防軍や自警団のゾンビ狩りに出くわす前に、早く3人を安全な場所に移動しなくちゃいけない。

 俺はとりあえず近くの建物に入って、西浦先生達を移動できそうか、中を確認していった。




終わり


ありがとうございました。



~ ゾンビの木根文亮シリーズ ~

1 本編「ゾンビになったと追放された俺は(以下略)」(https://ncode.syosetu.com/n8772gx/)

2 この話「(前略)桜の樹の下にはゾンビ(以下略)」(本編の第86部分の後になります)

3 短編「クリスマスのゾンビたち」(https://ncode.syosetu.com/n7304hj/)(同じ年の12月です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  特殊設定ミステリとして滅茶苦茶秀逸でした。  トリックや「実はこうだった」のヒントは「そうだった! その情報前にちゃんと出てた!」ですし(自分的には伏線は超重要)、「実はこうだった」から…
[良い点] 完結、おめでとうございます。 面白かったです。 救助できた人がいた半面、犠牲者が出たのは残念ですね。 ゾンビになって人でも、ある意味で精神的な救いがあるのがよかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ