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21 ゾンビ、第一の事件の真相を見る(後半)

 立花さんは彩さんの両腕をつかみ、がくがくと揺すりながら叫んだ。


「俺は悪くないんだ!」


 そして、立花さんは彩さんを乱暴に突き飛ばした。

 後ろに倒れた彩さんは怯えた目で、咎めるような目で、立花さんを見た。

 立花さんは叫んだ。


「そんな目で俺をみるな。俺は悪くないんだ!」


 立花さんが彩さんへと向かって歩を進めた。

 その時、画面が揺れ動き、急に立花さんの後ろ姿が大きくなっていった。


 一瞬、こちら側に振り返った立花さんの驚いた表情が映し出された。

 立花さんは驚愕の表情を浮かべたまま叫んだ。


「やめろ!」


 画面は激しく動いた。

 立花さんの頭や手足が画面の中で激しく動いていた。

 ロボットの無機質な声が聞こえた。


「大人しくしてください。逮捕します」


 画面は立花さんの頭で半分隠れ、その向こうに彩さんの青ざめた顔が見えた。


「暴れないでください。制圧します」


 次の瞬間、何かが折れるような不気味な音と、立花さんの口からもれた妙な音が聞こえた。


~~~



 そこで、俺は思わず叫んだ。


「ちょっと待った! 今のって、まさか、立花さんが殺された場面じゃ……?」


 カラは再生を止めなかった。


~~~


 彩さんの叫び声が響いた。


「TGS1、やめて!」


 画面は動かなくなった。

 立花さんの後頭部は、画面から消えた。

 今は、画面に映っているのは彩さんだけだ。

 青ざめた彩さんは、震えたまま、唖然とした表情で下の方を見ていた。

 立花さんの体が、そこにあるのだろう。


 まるで静止画像のように、何も動かない時間がしばらく続いた。

 やがて、彩さんは一度立ち上がってから、しゃがんだ。


 カメラが動き床に倒れたまま動かない立花さんの姿が見えた。

 彩さんは立花さんの腕を取った。

 脈を確認しようとしているように見えた。

 彩さんは腕を置き、青ざめ混乱した表情でこちらを見た。

 何かを考えているようだった。


 数十秒後、彩さんは意を決したように、立花さんの体を引きずりだした。

 立花さんの首は、あり得ない角度に曲がっていて、動かされるたびにぐらりと揺れる顔は恐ろしい形相だった。


「運搬のお手伝いをしますか?」


 ロボットの無機質な声が聞こえた。一呼吸おいて、彩さんの震えた声がした。


「お願いします」

 

 画面がまた動き出した。

 彩さんは窓を開け、そして、窓の外へ立花さんの体が消えていった。


~~~~


 カラは映像の再生をとめた。

 俺が手に持つカラのスマホが振動した。

 彩さんからのメッセージが入っていた。


―――――――

 わたしが問いただすと、怒った立花さんがわたしに襲いかかりました。

 とたんにTGS1が動き出し、後ろから立花さんを締めあげました。

 そして、立花さんを殺してしまいました。


 ショックと混乱で、その後のことは、よく思い出せません。

 でも、このままでは西浦先生に迷惑をかけてしまうと思いました。

 事件を隠さなきゃいけない、と。

 そして、わたしは窓から立花さんを落としました。

 


 なんであんなことをしちゃったのか、自分でもわかりません。

 あの時、正直に話せばよかった。そうすれば、もう何も起こらなかったかもしれないのに。

 ごめんなさい。カラちゃん。

――――――



 俺はスマホを除菌シートで拭いてからカラに返し、部屋の中で静かにたたずむ人型ロボットを見た。

 ロボット自体はさっきと何も変わっていない。だけど、このロボットが人を殺したと思うと、不気味に見えてくる。

 俺は困惑したままつぶやくように言った。


「このロボットが殺人犯、いや、ロボットは人間じゃないから凶器……ってこと? でも、彩さんはああなることを予想していなかったんだよな? なんで殺人が起こったんだ……? 西浦先生が彩さんを守るために?」


 カラは、スマホのメッセージを読みながら、淡々と言った。


「テゴッチが加えた変更を知らずに、ニッシーがプログラムを書き換えちゃったせい。さっき聞いた録音で二人が言ってたじゃん?」


「そういえば、そんな会話があったかも」


 カラはスマホから顔をあげ、椅子にもたれかかってTGS1を見ながら言った。


「TGS1は人間の数倍以上の力を出せる仕様……てか、ぶっちゃけ、素手で頭蓋骨割れるかも? ってレベルのヤバさなんだよね。事故が起きたらマジヤバだから力を弱めて制限かけてた。だけど、ニッシーの知らないところでテゴッチがその出力をあげちゃった。ゾンビを殺すために、最大出力にしちゃったんだと思う」


「そんなに強いの? このロボット。工事現場の作業ロボットっていうより、兵器だな」


 俺は目の前のロボットがますます怖くなってきた。

 カラは淡々と説明を続けた。


「テゴッチがこだわっちゃって、無駄にスペック高いんだー。で、ニッシーが追加したのは、たぶん、警備ロボットとしてTGS1が自分の判断で暴漢を羽交い絞めにして無力化するプログラムだったんだと思う。元からそういう機能を加える予定だったから。でも、テゴッチが出力を変えたせいで、TGS1の力が強すぎて、首の骨を折っちゃった」


 俺はようやく事態が理解できた。


「じゃ、1つ目の事件は、先生たちの連絡ミスから起きた事故だったってこと? 立花さんが逆上して三上さんを襲ったから、この警備ロボットのプログラムが反応して、間違って殺しちゃったっていう?」


 彩さんからのメッセージを読み終えたカラは、スマホをしまい、俺にむかってうなずいた。


「そ。たぶん、ニッシーは立花さんが逆上することを予想して、TGS1のいる場所で話をするようにアヤヤンにアドバイスをしたんだよ。結局、ニッシーの予想通りになったけど、テゴッチのおかげで予想外の事故になっちゃった。アヤヤンは事故の原因を知らないから、このままじゃ自分のせいでニッシーが殺人犯になっちゃうと思って、とっさに、立花さんの飛び降り自殺に偽装した」


「なるほど。そういうことだったのか。よかった、よかった。……よくはないか。人が死んでるんだから。でも、殺人犯がいなかったのは、よかったよな? カラの言う通り、彩さんは、殺してはいなかったんだ」


 殺された立花さんは不運だけど。映像を見る限り、あれは自業自得だ。

 TGS1が助けていなかったら、彩さんが危なかった。

 合点がいったので、俺はカラに言った。


「これで、一つ目の事件は解決か。でも、2つ目と3つ目が謎のままだな。俺はてっきり、3人とも彩さんが復讐のために殺したんだと思っちゃったけど」


 少なくとも1つ目の事件は違っていた。

 でも、さっきの録音と今の録画から情報によると、彩さんは手越先生にも木村さんにも恨みがある。

 そして、1つ目の事件は事故だったとしても、それがきっかけになって、次の殺人事件が起こったのかもしれない。


 だけど、カラはきっぱりと断言した。


「アヤヤンは人を殺したりしないよ。それに、3つ目の事件の犯人はもうわかってるもん。フミピョンのおかげで」


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