17 ゾンビ、避難させる
驚く工学部の人達に、カラは説明した。
「アランがエンジニアを探してるんだって。だから、あたしはフミピョンといっしょに恵庭隈研究所に行くよ」
カラが研究所に来てくれるらしい。
いいニュースだけど、俺は初耳だ。
西浦先生が言った。
「ですが、大鳥さん、中林さんの研究所は……」
「わかってる。隔離地区の中にあるから、パンデミックが収まるまで、どこにも行けなくなるかも」
「カラちゃん……」
ショートヘアの女性が何かを言おうとして、結局何も言えずに黙った。
カラは言った。
「アヤヤン。パンデミックが落ち着いたら、また会お? それで、パフェを食べまくろ。それまでは、オンラインでしか会えなくなるけど、ズッ友だよ」
アヤヤンさんは、涙を飲みこむように、うなずいた。
アヤヤンさんではない、別の女性が言った。
「そんなこと言わずに、避難しないと。せっかく、今、避難できるんだから。一緒に……」
カラはゆっくりと首を横にふった。
「ううん。あたしは行かないよ。ユーカリン。それに……。こんなこと言いたくなかったから、言わないつもりだったけど……。でも、やっぱり、黙ってられない。あたしさ、みんなのことが好き。ザワチン以外はみんな好き。だけどさ、みんな、何かを隠しているよね。たぶん、ザワチン以外、みんな」
西浦先生、アヤヤンさん、ユーカリンさんは、黙ってうつむいている。カラの言う通り、何かを隠しているのかもしれない。
一人だけ、カラに面と向かって抗議したのは、ザワチンさんだ。
「大鳥さん。なんで、わざわざ、僕以外って連呼するわけ? 別に君に好かれなくてもいいけどさ。わざわざそういう言い方はしないでほしいな」
文句を言うザワチンさんに、カラは言った。
「だいじょぶ。ザワチンのことも好きだよ。そういうKYなとことかマジウケるもん」
「どこまでも、引っかかる言い方をするよね、君。それに、君にだけは空気が読めないとか言われたくないんだけど」
(へー。ケーワイって、空気が読めないってことなのか)
俺は感心した。何気にザワチンさんはカラがしゃべる「外国語?」をちゃんと理解している。
ザワチンさんは不満そうだけど、西浦先生はザワチンさんを無視して、カラに言った。
「大鳥さん。できれば知っていることを全て話すべきだとはわかっています。しかし、今は避難を優先させてください。皆さんの安全を確保できたら、僕は起こってしまったことの責任を取るつもりです」
西浦先生は、顔色も悪く、辛そうだ。
精神的ストレスもあるかもしれないけど、西浦先生は体調がすでに限界ギリギリなのかもしれない。
カラはうなずいた。
「わかってるよ。ニッシー。今は、生き延びなきゃ。だから、みんなは早く避難して」
「すみません。大鳥さん。中林さんによろしく伝えてください。みなさん、行きましょう」
西浦先生はそう言って頭を下げ、カラ以外の工学部の人達はエレベーターに向かった。
「カラちゃん、バイバイ。元気でね。また会おうね」
エレベーターに乗りこんだ後、アヤヤンさんがそう言って、手を振った。
カラも手を振りながら言った。
「うん。アヤヤン、また今度ね。絶対にまた会おうね」
俺はみんなと一緒にエレベーターで1階に降りた。
エレベーターの中で、西浦先生は俺に何かスティック状のものを渡して、小声で「これを大鳥さんに渡してください」と言った。
エレベーターはすぐに1階に到着したから、俺は渡された物が何か確認せず、とりあえずポケットにいれた。
エレベーターの扉が開いた。
非感染者が近づくとゾンビは動き出すから、ここまで来たら急がないといけない。
車のところまでもう一度避難ルートを確認して、俺はみんなを呼んだ。
工学部の4人は一気に車まで移動し、乗りこんだ。
ゾンビ達はすぐに気が付いて近寄ってこようとした。
だけど、ゾンビが近づいた時にはもう車のドアは閉じられていた。
運転席の西浦先生がエンジンをかけて、車はゆっくりと発進した。
だけど、ゾンビに囲まれた車は、サポカーの安全運転システムのせいで発車するとすぐに止まった。
先生が自動停止を解除したようで、車はすぐにゆっくりと動き出した。だけど、その後も車は何度もとまりかけた。
ゾンビ達は車に張り付くようにまとわりつき、ボンネットの上に乗るゾンビまでいたから。
それでも、西浦先生の車はゾンビの群衆の間をかき分けるように進んで行った。
(時間はかかりそうだけど、なんとか避難できそうだな)
去っていく車を見送ると、俺はエレベーターに乗って4階に戻った。
俺がエレベーターから降りた時、カラはまだエレベーター前のバリケードのところにいた。
カラは待ち構えていたように俺に言った。
「フミピョン、早く早く。あたしがここに残ったのは、この事件の真相が知りたいからなんだ。早く一緒に謎を解こ!」




