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13 第2の事件

 翌朝。

 カラは床の上で目覚めた。

 先生たちの研究室の中にはソファがある部屋や寝袋がある部屋もあった。

 だけど、カラの部屋は何もない。

 カーペットの上に、段ボールと梱包材・通称プチプチを引いて寝ている。

 そんな状態でも、夜はぐっすり眠れた。


 窓の外が明るいのを見て、カラは寝たまま背伸びをした

 その時、どこかから、かすかに悲鳴が聞こえた気がした。

 カラは飛び起きた。


 ドアストッパーを外して部屋の外に出ると、向かい側でもドアが開く音がした。

 西浦先生が部屋から出てきた。


「ニッシー、悲鳴が聞こえなかった?」


 そう尋ねた瞬間、また断続的な悲鳴が聞こえた。

 音が聞こえるのは、階下からだ。


 カラは中央の階段に向かった。

 階段のむこうで部屋のドアが開き、青ざめた顔で亡霊のように優花が部屋から出てきた。


 カラは階段を駆け下りた。

 廊下に蒼白な顔の宮沢が震えながら立っていた。

 場所は手越先生の部屋の前だ。


「ザワチン! どうしたの?」


 宮沢は「そこ……」と弱弱しい声で言い、手越先生の部屋のドアの下を指さした。

 ドアはしっかりと閉まっていて、中は見えない。

 

 だが、ドアの下に血痕がある。

 ドアの向こうから流れ出た血だまりの一部のように見えた。


 カラはドアを叩いた。


「テゴッチ! 中にいるなら返事をして?」


 返事はなかった。


「大鳥さん、離れてください」


 西浦先生はゴム手袋をつけ、ドアノブをひねった。

 鍵は開いているが、ドアはあかない。数ミリ動いたところでとまってしまう。

 中からドアストッパーでとめられているようだ。


 研究室のドアは外からカードキーで開閉するようになっている。中からはカギがかけられない。

 だから、今は安全のため、部屋の中にいる時は室内でドアストッパーを使っていた。

 ドアは内開きだから、ドアストッパーがあれば開けられない。

 

 カラは言った。


「外から鍵が閉まってなくて、ドアストッパーが中にある。ってことは、中にテゴッチがいるってことだよね?」


「手越先生! 手越先生! 返事をしてください」


 西浦先生が呼びかけても、返事はない。

 西浦先生は振り返って指示を出した。


「誰か、定規か何かを入手してください」


 宮沢が駆け出し、院生室に入ると、すぐに金属製の長い定規を持ってきた。

 西浦先生は、ドアの下に定規をさしいれた。

 ドアの下には隙間なんてないように見えていたけれど、定規はすっとドアの下に入っていった。

 西浦先生は何度も定規を動かして、ドアストッパーをどかした。

 そして、ドアを開けた。


 西浦先生はドアを開けたまま、立ち尽くした。

 カラは横から中をのぞきこんだ。


 部屋の中は明るかった。

 窓から朝日が差しこみ、さらに電灯もついていた。

 

 向かって右側の奥の本棚の前。本棚にかけたロープで首をつった手越先生の姿があった。 

 手越先生の顔は、すっかり腫れあがり変色していて、あちこちから出血していた。


 西浦先生が悲しそうにつぶやいた。


「手越先生……」


 宮沢が後ろからたずねた。


「て、手越先生は? どうなさったんですか?」


 カラは宮沢に教えた。


「テゴッチは死んだよ。首を吊ったみたいに見えるけど……」


 宮沢はか細い悲鳴を上げた。


「ひぃー。やっぱり……死んでた……。首つり? 自殺? 手越先生は、立花君のことを後悔して……?」


 カラはきっぱり、宮沢の推測を否定した。


「違うと思う。だって、ボコボコに殴られてるから」


 ドア付近の床には、大きな血だまりの染みがあった。

 カラは床の血だまりを踏まないように気をつけながら、部屋の中に入った。


 部屋の中は、荒れていた。

 入り口近くにあったテーブルや椅子が、明らかに元とは違う位置にあり、床に色々なものが落ちている。

 床に落ちているものの中には、血のついた壊れたスタンドライトがあった。

 もともとはテーブルの上にあったものだろう。

 金属製のスタンドライトは折れてボコボコになっている。


 カラはつぶやいた。


「このスタンドライトでテゴッチを殴り殺した後で、犯人は遺体を移動して、ロープで首をつったような形にしたってことかな?」


 宮沢が廊下から、か細い声で言った。


「でも、大鳥さん。僕らが今開けるまで、この部屋は中からドアストッパーがかけられていたんだよ? つまり、誰も中に入ってないんだ。完全な密室だったんだよ。だから、ありえないよ。他殺なんて」


 カラは唸った。


「密室殺人ってわけか……。しかも、わざわざ首つりに見せる必要もないよね。謎だらけじゃん」


 カラの言葉を聞き、宮沢が震えた声で言った。


「そういえば、あの桜の木の呪いの犠牲者は、たいてい首吊り自殺……。やっぱり、これは桜の木の呪いなのかも……」


 カラはため息をつきながら、廊下に戻った。

 中を見ないように部屋に背中を向けている宮沢に、カラは言った。


「ありえんてぃ。どう考えても、桜は関係ないじゃん。ザワチン、迷信深すぎ」


 宮沢は、部屋に背中を向けたまま、手を振り上げて叫んだ。


「うるさい! 君にわかるか! 桜は、桜は、日本じゃただの植物じゃないんだ! 昔から不気味な話がいっぱいあるんだよ。だって、おかしいだろ? あんなに美しい花を咲かせるんだから」


「ザワチンって、意外と感受性豊かだよね」


 皮肉ではなく、カラは素直に感心している。


「君が感性ゼロなんだよ。ギャル雑誌ばかりじゃなくて、ちょっとは日本の文学作品でも読んだらどうだい?」


「でもさ、ザワチン。今、桜の花の季節じゃないじゃん。緑で元気そうな桜の木を見て、おかしくなるわけ? むしろ、あたしは元気になるよ? アゲアゲ・アゲポヨ・アゲミザワって感じ」


「それは……」


 宮沢はそれ以上何も言えず、黙った。


 部屋の中では、西浦先生がデスクの引き出しを開けていた。

 西浦先生は引き出しの中からハサミをとりだすとロープを切り、手越先生の遺体を床におろした。

 遺体に手を合わせた後、西浦先生は廊下に出てきた。


 廊下で、西浦先生はみんなを見渡したずねた。


「全員そろっていますか?」


 カラ、優花、宮沢は互いを見やった。

 二人足りない。

 木村と彩がこの場にいなかった。 

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