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帰還ー1ー

ソチアル伯爵邸から出るのに時間はかからなかった。


もともと荷物も少ないし、スカイロッド公爵様に、私の服は屋敷にあるから、ここでのものは置いていっても良いといわれた。結局持ってきたのは私がミゲル様に助けられた時身につけていたものだけだった。



別れの挨拶の時にはミゲル様は今にも泣くんじゃないかという顔をして別れを惜しんでくれた。

私を助けてくれて、結婚まで申し込んでくれた人だ。

1番気にかけてくれた優しい人。

知らなかったとはいえ、私は人妻だったのだ。馴れ馴れしくするのが良くないことぐらいわかる。



「ミゲル様、本当にありがとうございました。御恩は忘れません。」


「ウィステリア、僕は……。」


「エルナ=スカイロッド公爵夫人です。ミゲル様。」


横からシャーロット様がにっこり微笑みながら、ミゲル様に有無を言わせぬ圧力で指摘を入れた。


「公爵夫人……私は気にしま……。」


「気にしてください、エルナ様。」


この人、見かけと違って圧がすごい!

見た目は可愛くて、ふわふわした綿菓子みたいな女性なのに!


「は、はい。」


思わず背筋が伸びてしまう。

ミゲル様が、少し複雑そうな顔をしながら言い直した。


「スカイロッド公爵夫人、僕はあなたと出会えて良かった。あなたから沢山の生きる希望を貰えました。またいつかお会いできるのを楽しみにしています。」


ミゲル様はいつも私と出会えて、人生が変わったと嬉しそうに言ってくれた。


記憶の無い私の何が彼に影響を与えたかは分からないけれど、彼の前向きな言葉は自分が誰か分からない不安から救ってくれた。


「こちらこそ、……ありがとうございました。またいつか。」


そう言うと彼は私の手の甲に敬愛を示すキスをした。







馬車には、レイニード公爵夫妻と、スカイロッド公爵様が乗っていた。

スカイロッド公爵様が乗ってきた馬は従者に任せて馬車に乗るそうだ。

挨拶を済ませて乗り込んだ馬車の中はなんだか異様な雰囲気が漂っていたが、空いた席に座る以外の選択肢など無いのでとりあえず着席した。


「あの、これからすぐ王都に向かうのですか?」


馬車が走り出し、誰にともなく訪ねると、レイニード公爵様が答えてくれた。


「実は先にラフターの治めるスカイロッド領に向かって、それから王都にある僕の屋敷に行こうかと思う。いいかな?」


いいかなと言われても、何も分からないので言われた通りにするしかない。


「スカイロッド領には子孫繁栄の象徴の神様が祀られていて、そこに安産祈願に行くの。一年前にあなたとスカイロッド領に向かった時もそれが目的だったの。」


公爵夫人が説明を付け足してくれる。


「じゃあ公爵夫人は今、お腹にお子様がいらっしゃるんですか?おめでとうございます。」


そう言うと夫人は嬉しそうに顔を綻ばした。


「ありがとう。あなたにそう言ってもらえて本当に嬉しい。」


それから、少し、迷うように言った。


「あの、もし良ければなんだけど、私のことはシャーロットと呼んでもらえないかしら?」


前はそう呼んでいたのだろうか。


「はい、分かりました。シャーロット様。」


「あ、いえ、『様』は無しで、シャーロットと。」


いきなりハードル上がった。

しかし、先ほどミゲル様と話をしていたような圧はなく、懇願するような、紫色の瞳を不安げに揺らしている。


「では、そのようにお呼びします。シャーロット。私も『エルナ』と呼んでいただけますか?」


と聞くと、


「もちろんよ。ありがとう。」


と頬を染めて、花の様に微笑んだ。


それからしばらく、スカイロッド領に着くまではシャーロットとおしゃべりを続けた。

去年生まれた子が男の子で、1人目の方が悪阻がきつかったとか、これから向かうスカイロッドの特産品について等色んな話をしてくれた。

とても話し上手なシャーロットはこちらの様子を窺い、空気を読みながら飽きさせないよう気を使ってくれていた。


女性の会話に男性陣はほとんど口を挟むこともなく、2人とも穏やかに、こちらを見守っていた。



本当はスカイロッド公爵様にも色々聴きたかったのだが、彼が私を見つめる瞳の優しさに、思わず躊躇ってしまい何も聞けなかった。

あんな綺麗な顔に、あんな目で見つめられたら誰だってそうなってもしょうがない……と思う…。



休憩も挟みながらスカイロッド領についたのは夜遅くで、明日またゆっくり話をしようという事になった。私の専属のメイドという『ラナ』という栗毛の綺麗な女性が色々とお世話をしてくれた。





翌朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。


窓からカーテンを開いた時、視界に飛び込んできた景色に驚いた。

夜には気づかなかった庭の美しさに息を呑む。


紫の花をメインに庭には沢山の花が咲き誇っていた。


「綺麗……」


その時ドアの外からラナに声をかけられる。


「奥様、お目覚めでしょうか。入ってもよろしいですか。」


私が起きる気配がしたのだろうか。

さすが公爵家のメイドは優秀だ。

どうぞ、と言うと「おはようございます。」と入ってきた。


「あの、ラナさん。庭を見て回りたいんですけど、良いですか?」


すると、ラナさんは嬉しそうにもちろんですと言ってくれた。


「あちらのお庭は公爵様自ら花を選ばれてるんです。今までお花なんて興味なかった公爵様が庭師に色々聴きながら奥様のために季節毎に植える花を選んでいらっしゃるんです。」


これを伝えたかったと言わんばかりのドヤ顔に思わず反応に困ってしまう。

昨日までいるとも思わなかった旦那様がいて、私のために花を選んでくれているなんて……。


「奥様、それから昨日も申し上げましたが、私の事は『ラナさん』ではなく、『ラナ』とお呼びください。私が旦那様や侍女長に叱られます。」


呼び捨てるのには抵抗があるが、叱られると言われてはそうするしかない。

了承するとラナは上機嫌で庭に出る準備を手伝ってくれた。





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