表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/44

ウィステリアー藤ー2

私を見つめる黒目黒髪の男性は、神の創りたもうた最高傑作ではないかと思うほどの美しい顔をしている。


そして怖い!


なんか知らんけどイケメンの雰囲気が激怖なんだけど!!

そんなイケメンの横ではソチアル家の執事が真っ青になっている。


「スカイロッド公爵様!?」


ソチアル伯爵が驚いて席を立ち、上位貴族に対する礼をとる。

それに慌てて伯爵家の者も私も倣う。

レイニード公爵も、スカイロッド公爵も全く誰なのか分からない。私の記憶は何も反応してくれない。


「……エルナ……。」


彼は今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。


「……あの……?」


急に雰囲気が変わって、戸惑ってしまった。

エルナというのが私を指しているんだろうけれど、申し訳ないがピンとも来ない。

全く思い出せない。


ゆっくりとこちらに近づいてくる。

思わず一歩後退りをするが、それ以上下がる事を雰囲気が許さない。


彼は私の前に片膝をつき、私の左手を取って苦悶の表情をした後、手の甲を自身の額に当てた。


「……良かった。生きて……。温かい……。」


どうしていいか分からず、戸惑っていると、……温かい雫がひとつ、ふたつ、手を伝って流れた。


「あの……。スカイロッド……公爵…様………?」


彼はハッとして私の顔を見る。

私の顔から何か読み取ろうとしているのか、じっと見つめられた。


「ラフター、エルナは記憶を無くしている。自分が誰かも。……エルナ、彼は君の夫だよ。」


レイニード公爵が助け船を出してくれたが私の混乱は増しただけだ。


「……記憶が?」


そう零したスカイロッド公爵は、レイニード公爵を見て、またこちらに視線を戻した。


こんなに綺麗な人が自分の夫だなんて信じられない。

横に立ったら私なんて霞んでしまう。

というか、結婚していたなんて驚き以外のなんでもない。



「ソチアル伯爵、妹は今日にでも連れて帰ってもいいだろうか。父も母も、娘を突然失って心を痛めている。崖から堕ちて、遺体すら見つからず……。一刻も早く両親に会わせたい。」


レイニード公爵がそう言うとソチアル伯爵は二つ返事でもちろんですと言った。


「感謝します。長い間妹を保護して頂き感謝の念に堪えません。後日、またお礼をさせて頂きに参ります。」


それと同時にスカイロッド公爵も、


「伯爵、私からも心からお礼を。また改めてお礼をさせて頂きたい。」


そう言ってソチアル伯爵と握手をした。











エルナが生きていることを知った喜びと、彼女に拒絶される恐怖でソチアル伯爵邸へ急いだ。


週に数回、エルナの手がかりを見つけるために彼女が転落した崖下を捜索している。

崖下には川が流れている。川沿いには草木が茂り、言葉通り草の根をかき分けて彼女を探した。

アレクもそれを知っていたのだろう。


川の上流にあるソチアル領は捜索場所から目と鼻の先だった。



彼女に謝罪と、真実を。


愛馬をこれ以上ない速度で走らせ、彼女の顔を見た瞬間視界が歪んだ。鼻の奥がツンとして、彼女に近づく。


手に取った彼女の左手に結婚指輪はなかった。


彼女の置いていった物の中に結婚指輪はなかったから、それだけは身につけていてくれたと思っていたが、アレキサンドライトの指輪しかしていなかった。


領地に向かう道中にでも捨てたのだろうか。そうされても文句は言えない。

それ以上のことをしたのだから。

どんなにその事に暗い感情が渦を巻こうと、彼女にその想いを伝えることも、口にする権利もない。


温かい、柔らかい、彼女の手は、涙腺を壊した。


頭上から、「スカイロッド公爵様……。」そう降ってきた彼女の声は変わらず、澄んでいた。


そのあまりに澄んだ声と呼び方に違和感を覚える……。


スカイロッド公爵様?

ラフターとはもう呼べないと言うことだろうか?


彼女の顔から意図を読み取ろうとするも、全く分からない。

キョトンとした顔は何の感情もなく、…そう、愛も、憎しみも何も感じなかった。


彼女の中から、僕は完全に消え去っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ