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ウィステリアー藤ー1

「ウィステリア。大丈夫かい?疲れていない?まだ、体は本調子じゃないんじゃないか?奥で休まない?」


横から茶色の優しい瞳の青年が覗き込むように声をかけてきた。

彼はとても心配性だ。今日も無理に参加しなくていいとずっと心配してくれていた。


「大丈夫よミゲル様。今日はあなたのお兄様の、次期ソチアル伯爵様の結婚式じゃない。席を外すなんてとんでもないわ。」


そう言って今日の主役の2人に視線を移す。すると、


「……そ、そろそろ僕たちもどうかな……、け、結婚。」


ミゲル様は顔を真っ赤にして言った。

彼は出会った時から結婚を申し込んでくれていた。


約1年前。目が覚めたら自分が誰なのか分からなくなっていたその時から。

川辺で倒れていたところをミゲル様が助けてくれたそうで、親切にも伯爵邸においてくれている。自分の名前も思い出せず、紫の瞳の色から『ウィステリア』、藤の花の名前をつけてくれた。


自分が誰かも分からないし、恐らく平民の私では伯爵家には釣り合わない。そう言っても彼は、「君は魔法が使えるから平民でも結婚ができるから心配ない。」と言ってくれるが……。

結婚という言葉がいつも私の心に何か引っかかって胸を詰まらせる。


でも、もういいかもしれない。彼は私を愛して、大事にしてくれるだろう。無くした記憶が何なのか、探してこだわるのはもうやめる時期かもしれない。


「そう……ね。」


その時背後から腕を掴まれた。


「エルナ!?」


あまりに驚いて振り向く。


そこには金髪碧眼の背の高い男性と、銀髪紫眼の小柄な女性が立っていた。


「間違いない……エルナ……。」


「あの?」


困惑する私を守るようにミゲル様が前に立ってくれた。


「レイニード公爵様とお見受けしますが、いきなりレディの体に触れるのは無礼では?」


いつになく頼もしいミゲル様の発言に驚く。

公爵様?


「ウィステリア、大丈夫かい?顔色が良くないけど奥で休むかい?」


ミゲル様は気遣ってくれるが、目の前の男性と女性の方が真っ青だ。


「……ウィステリア?」


「……いえ、エルナ様です。ほら、あの指輪は。」


そう言って女性が私の指に嵌められたアレキサンドライトを眼で示した。


「あの?どなたでしょうか……?」


そう言うと2人とも更に驚いた。


「エルナ……記憶が……?僕はアレク。アレクサンダー=レイニード。君の兄だ。こっちは妻のシャーロット。」


兄?家族?公爵家が?


「ウィステリアは平民です。それにアレクサンダー=レイニード公爵様に妹君がいるなんて聞いたことがありません。」


その時、騒ぎを聞きつけてか、今日の主役のミゲル様の兄のダンテ様と、花嫁のミシェローゼ様が来た。


「どうかされましたか?レイニード公爵夫妻。トラブルでも?」


「いえ、実は行方不明だった妹がこちらでお世話になっていた様で。」


そう言って私を公爵様は私を見た。


「え、ウィステリアがですか?彼女は平民だと?……人違いでは……。」


ミゲルの兄夫婦も驚く。


「一年前、崖から落ちて亡くなったと思っていたのです。彼女はいつからこちらに?」


「ちょうど一年ぐらい前なので、時期は一致しますね……。」



野次馬が一定の距離を空けて増えてきた。


「とりあえず披露宴が終わってからゆっくり話しましょう。ミゲル。」


「……分かりました。」


その時、公爵様が後ろの従者に、


「そこのセレ川の下流の谷間にラフターが恐らく来ているだろうから呼んできてくれ。」


そう指示を受けて頷いた従者はその場を離れた。


ラフターという名前を聞いてもピンと来なかった。







披露宴後、応接間にはミゲル様と彼の父であるソチアル伯爵、長男のダンテ様とミシェローゼ様。

私の兄というアレクサンダー公爵夫妻が揃ってから話が始まった。


「彼女は、僕の妹で間違いない。あの事故当時、君はそのアレキサンドライトの指輪をしていたのをシャーロットは覚えている。」


そう言って公爵様はポケットから全く同じデザインのアレキサンドライトを取り出した。


「これは母から僕に譲られたもので、妹も同じデザインのものを持っていたんだ。」


「で、でも、僕が彼女を助けた時、平民の格好で倒れていましたよ……。」


ミゲル様は不安そうに口にした。


「ミゲル様。その時のエルナ様は理由があって平民の格好をしておりましたが、服装は白い綿のワンピースに、青と紫の小花柄が刺繍されたものじゃありませんでしたか?」


とシャーロット様が聞いた。


その通りだ。今は着る事はないけれど、きちんとクローゼットの中にある。

ミゲル様も返答に詰まる。


その時、ノックもなくドアが大きな音を立てて突然開いた。

息を切らせて入ってきた漆黒の髪と瞳をした背の高い男性は、迷う事なくこちらを見つめた。


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