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真実は悪夢

応接室の扉を開けた瞬間。アレクが怒気を孕んだ瞳で近づいてきた。


「ラフター……!!お前っ……!!」


胸ぐらを掴まれその勢いのまま壁に叩きつけられる。


この様子なら知っているのだろう。


結婚が決まってから、エルナと、アレクの接触はゼロにしてきた。


アレクとシャーロットという従弟妹夫婦を守るため始めた計画はいつからか姿を変えていた。


「どうした?殴れよ。お前にはその権利がある。」


「……っ。」


苦しそうな顔をしながらも振り上げた拳を僕の顔面の横に叩きつけた。


「……やっと!やっと会えたんだ。これからやっと幸せに、幸せにしてやろうと…」


目に涙を浮かべ、堪える姿をみて怒りを覚える。シャーロット1人大切に出来ない男が、エルナを、日陰の存在にしかなれないエルナを幸せになど出来る訳が無い。


「お前には俺を殴る権利がある。でも、それはシャーロットのいるお前のセリフじゃない!俺もクズだが、お前も……」


「妹だ!!」


「……。妹??」


「そう。父の隠し子だ。」






世界が暗転する。


全てがひっくり返る。


それが本当なら……、自分のした事は何だったのか。


「そ……れは……」


本当か?という言葉が続かない。

真実を知ることに怯え、声がかすれた。


アレクは内ポケットから一通の封筒を取り出し差し出した。


「何だこれは……」


「父宛にエルナの母から送られたものだ。お前も知ってると思うが、今父は魔塔に急遽作らせた延命装置に入っているが、いつ命が尽きるかは分からない。父が意識を失う前に僕に渡したんだ。」


アレクは拳を握りしめた。


「何で僕が父の愛人の子を探さないといけないのかと思った。でも……。」


封筒から取り出した手紙を僕に渡してきた。


『敬愛なるレイニード公爵閣下


突然のお手紙、大変失礼いたします。


2ヶ月前に女の子を出産致しました。

あの時の子です。

どうぞ、エシュピルナ夫人には出産の際、母子共に亡くなったとお伝えください。

お産まれになったお子様も、公爵夫人も健やかに5ヶ月が経ったとお伺いしました。

女であれど跡目争いの火種になりかねないとも言えません。

この手紙も姿絵も、確認されましたら処分してください。


お体の弱いエシュピルナ様に、余計な負担がかからないよう、私が出来る最期の一つです。


今後のレイニード公爵家のご発展と、ご子息のお健やかな成長。そしてエシュピルナ様のご健康に願いを込めて。 サンドラ』


手元にある姿絵は、エルナによく似た女性が愛おしそうに、赤ん坊を抱いたものだった。


「……母の専属侍女として働いていたが、母の出産と同時に突然屋敷を去ったそうだ。」


何度も手紙を読み返す。

そこには何の打算もない、愛も請わない。淡々と、レイニード家との縁切りを望む言葉が綴られている。


これだけ美しければ、しかも子供を産んだなら愛人として豪華な暮らしが望めたはずだ。


「父は、彼女に謝りたい……そして娘に会いたいと……。会えなくても幸せかどうかだけでも知りたいと。」


レイニード公爵とエシュピルナ叔母上は社交界でも夫婦仲が良いと有名だ。

とてもじゃないが叔母上を裏切っていたとは思えない。


「……エシュピルナ叔母上は、公爵と侍女の関係を知っていたのか……?」


「……どうかな……。母には内緒で探して欲しいと言われけど、僕が生まれた3ヶ月後にエルナが生まれたなら妊娠7ヶ月ぐらいまで追い出されず屋敷に、……よく分からないな。今は頭が回らないよ。」


アレクは項垂れたままソファに座り込んだ。


「シャーロットが泣きながら帰ってきたんだ。全て私が悪いと。僕の行動が怪しいと君に相談したと。」


そう、始まりはシャーロットからの相談だった。

仲のいい従弟妹夫婦にそんな事はないと思ってた。

アレクは本当に、幼い頃から従妹としてだけでなく大切な女の子としてシャーロットを扱っていた。

だからこそ、アレクに限ってそんな事実は無かったと裏を取るつもりで調べさせたんだ。


結果は、頻繁に平民女性のところに通っているという報告だった。


「シャーロットが、スカイロッド領に向かう途中の小休憩中にエルナに話しかけられて、妹だと知ったのだそうだ。愛人じゃないから安心して欲しいと。僕に裏切られたと思っているより、妹だと知っていた方が胎教に良いと思うからと言ったそうだ。」


そうしてアレクは一粒涙を零した。


「すまない……ラフター…君のせいじゃない。僕のせいだ。僕がシャーロットに疑われるようにエルナを探したのが悪かったんだ。言えばよかった。妹がいると。でも、母と仲のいいシャーロットに父の裏切りを黙っていてくれと言うのが彼女の負担になると思うと……。僕が彼女を……妹を殺したんだ。」


違う。

死に追いやったのは僕だ。

公爵領の別荘地に行かなければ。

あの悪夢の様なやりとりが彼女との最後だった。

彼女は愛人が出来る様な人間ではないと分かっているのに、執着が、独占欲が判断を歪ませた判断に導いた。

そして彼女におぞましい言葉を投げつけた。


「まだ遺体は見つかっていない。捜索の指揮を執ってくる……。」


まだ彼女に謝っていない。

本当の気持ちも伝えていない。

あのやり取りが最期だなんて思いたくない。


「あの崖から落ちて助かっているわけがないだろ!」


部屋を出ようとしたところで、腕を掴まれ、止められる。


「離してくれ、アレク。彼女の遺体を、この目で見ない限り諦めない。」


掴まれた腕を振り払ってドアを開けた途端、ビクリとして足を止める。




そこには母とエシュピルナ叔母上が真っ青な顔で立っていた。

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