狂気ー3
殺してやる。
怒りで視界が真っ赤に染まる中、目の前でエルナを地面に押さえつけ、驚いたようにこちらを見つめる男に剣を向ける。
「ミゲル=ソチアル……。貴様……。エルナを離せ。」
「スカイロッド公爵……。なぜこんなに早く……。」
悔しそうな表情を浮かべる男はギリギリとエルナを押さえつけている。
恐らく魔法で彼女の体を動けなくもしている。
迂闊に攻撃してはエルナまで傷つけてしまう。
「当然だろう?エルナに近づく男は全て排除だ。……この一年、なぜ全くエルナの痕跡さえ見つけられなかったのか……。範囲を広げ、知らせも出した。特に重点的に川下を探した。そして見つかったのは川上のソチアル領……。疑問に思わない方がおかしいだろう?どう考えても意図的にエルナを隠していた。」
「…………ふっ。あはははは!!知っていたさ。スカイロッド公爵。エルナがスカイロッドの公爵夫人ということも。」
そう言って、片手でエルナを押さえつけたまま、胸ポケットから金の指輪を出した。
「それは……。」
「エルナの結婚指輪だよ。指輪の裏には『ラフター・スカイロッド 愛を込めて』笑いが溢れたね。あのどんな女にも心を移さない、かの有名な公爵が、この女と結婚しているなんて。」
「貴様……。」
「あれ、エルナ。新しい結婚指輪もしてるじゃないか。」
エルナの指輪に視線を落とした男がニヤリと笑った。
「やめて!触らないで!!」
思わず叫んだ彼女を更に押さえつけ、彼女の指から指輪を外した。
「どれどれ、今度は裏に何が刻んで……っは。まさか裏に媒体石とは。反撃でも狙っていたか?」
途端に奴の顔が冷えたようにエルナを見下ろす。
彼女はイヤリングもしていない。
これ以上奴を刺激しては何をするか分からない。
アレクが来るまで何とかして引き留めなくては。
「……何が望みだ。このまま逃げても騎士団がすぐお前を追うぞ。」
「はぁ?……なんか勘違いしていないか?どっちに交渉権があると思ってるんだ?大体、お前のせいで取引場所も変えないといけなくなったんだ。この女を探して毎日毎日騎士団がうろついてちゃ取引もまともに出来やしない。この国ともおさらばして、隣の国のお得意様の貴族と栽培をするんだよ。」
国を出られては迂闊に追えない。騎士団を引き連れて行こう物なら侵略と捉えられても文句は言えない。下手をすると戦争だ。
男はエルナを無理やり立たせ、短剣を彼女の首に当てた。
ザワリと恐怖と怒りがない混ぜになり、じっとり汗が滲む。
「武器を捨てろ。魔法も使う気配を見せたらエルナを刺す。この女は自分で癒せるだろうが、見捨てるか?自分の妻を。血を流させるか??公爵が瀕死の状態で見つかればそっちに人数を割かれて騎士団の追跡も人数が減るだろうよ。」
それを聞いたエルナの笑う声が聞こえた。
「……ふっ。ミゲル様。何か勘違いをしてるわ。所詮私は始めから本物の妻じゃなかった。愛されていた訳じゃない。残念だけど、交渉材料にはならないわ。」
「どうかな?この男が崖に来るたび何をしていたか知らないだろう?お前を探して、帰る前に必ず紫の花を植えて帰るんだ。自分で植えてるんだぞ?笑えるだろ?一体何を思って植えていたんだろうなぁ。……エルナ、交渉材料になるかならないか……やってみれば分かるさ。」
エルナの目が驚きで見開かれる。
交渉材料になるかならないか?
そんなの分かりきっている。
もし、彼女に会えたなら。
もし、彼女が生きていたら。
2度と傷つけないと心に誓った。
周りに生きている訳がないと言われても、聞かないふりをして。
崖に探しに来て手がかり一つ見つからず、絶望を見せつけられても。
それでも彼女が生きていた奇跡に誓いを、想いを違えたりしない。
この選択が帝国を守る公爵として間違っていても……。
右手に持っていた剣を投げ捨てる。
勝ち誇った顔の男と、真っ青なエルナ。
ニヤニヤと下品な笑いを顔に貼り付け、奥の通路に向かって横を通り過ぎようとした瞬間、腹部に熱い衝撃が走った。
「きゃあああああああああ!!!!」
エルナの悲鳴が聞こえる。
奴の持っていた短剣が自分の脇腹に刺さっている。
「ぐっ…………。」
倒れそうになるのをグッと堪えるが、愉悦の顔をした奴が言った。
「死ねよ。ずっと気に入らなかったんだ。身分も、地位も、金も、容姿も、能力も!!会った事のない人間でも、話を耳にしただけで憎いと思える人間がいるなんて思わなかったよ。エルナすら持っていかれた時はどうやって殺してやろうかとずっと考えていた。」
愉悦に浸る男が、刺していたナイフを抜いた。
「良いね。天下のスカイロッド公爵の無様に、苦痛に満ちた顔が見られるなんて。最高の日だよ。」
「やめて!!やめて!!言うことを聞くから!!やめて!!!」
エルナが泣いている。
彼女の泣き顔はもういらない。
ただただ、幸せに笑っていてほしい。
「死ねよ。」
そう言って、もう一度腹部に短剣を刺された瞬間、男の腕を掴み、顔面を殴りつけた。
奴の手がエルナから緩んだ瞬間、彼女をこちらに引き寄せ、防御壁を張った。
「ラフター様!!ラフター様……!!」
彼女を抱きしめたまま足に力が入らず地面に崩れ落ちた。
支えてくれた彼女がアレキサンドライトの指輪を外した。
「これを……。」
「出てこい!ウィステリア!!クソッ!!」
顔面を殴る力が入りきらなかったのか、起き上がった男が口元から血を流しながら、防御壁をガンガンと攻撃してくる。
彼女が僕の指にアレキサンドライトの指輪を嵌め、エルナの母親の残した癒し魔法が作動したと思った瞬間、―――――――――
アレキサンドライトが砕けた。
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