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舞踏会と皇女ー1

「――というわけで、来週は王室の舞踏会にあなたのお披露目も兼ねて参加する予定なのよ。今お義父様とお義母様、アレクが王城で父様……陛下に色々説明しに行ってるわ。」


毎日の日課となった私の部屋でお茶を飲むシャーロットが言った。

お父様はここ一ヶ月、毎日私の癒し魔法の練習に付き合った成果か、ほぼ全快状態になった。食欲も増し、初めて会った時の痩せほそった体からは想像も出来ないほど肉付きも良くなった。

アレクお兄様に似た精悍な顔立ちは生気に満ちている。


リハビリも兼ねてと魔法やレイニード家の騎士団に混ざって剣のトレーニングもされていて、その際たまたま近くを通った時に、「ラフター殺す、ラフター殺す、ラフターしばく……」と低い声で呪文のような言葉を吐いていたのを聞いた。


そっと気配を消してその場を去ったのは記憶に新しい。


「……ところで、エルナ、この部屋温室か何かにする予定??日に日に花がすごい増えていくけど……。」


「…………。」


ドン引きしながらも揶揄い混じりで言ってくるシャーロットを思わずジト目で見てしまう。


「ラフターも本当にマメね。あの人も密輸やらの問題で忙しいはずなのに……。毎日違う花を届けに来るんでしょう?しかもお義父様がいるから来るのは窓から。更にあなたが生けちゃうと花も長持ちするからこんな部屋になっちゃうのね。」


楽しそうに笑う彼女に言えるのは「花に罪はありませんから。」しかなかった。

ドレスや宝石ならどこか空き部屋に押し込んで仕舞えばいいいけれど花はそうはいかない。


それを分かっているから彼は花ばかり大量に届けに来るのだ。


窓から覗いた私の部屋を見て満足そうにいつも帰っていく。

それがまた心を騒つかせる。

この花を見る度に彼を思い出さずにはいられない。


なので、なるべく部屋の外に出ようと思うのだが、結局寝るのも起きるのもこの部屋だ。

ため息をつき、話題を変えようと口を開く。


「で、その舞踏会とやらは私も踊らないとダメですか?小さい頃に母に教えてもらったんですが、ダンスはてんでダメでした。」


「そうね、他国の皇族も来られるから、一曲くらいは……。私は妊婦で踊れないから、アレクに……。」


その時シャーロットの目が見開かれ、ふわりと覚えのあるムスクの香りがした。


「僕がダンスの練習に付き合おうか?」


耳元で囁くように言った声に思わず手に持っていたカップから紅茶が溢れそうになる。

私の背後に立ち、机と腕で囲むよう両腕が添えられている。後ろを向いたら至近距離で目が合うことに怯え、身動き取れなくなった。


「ラフター……。いきなり入ってくるなんてマナー違反にも程があるわ。」


シャーロットはため息をつく。


「窓が開いていたんだ。そしたら面白い話が聞こえて。」


「ラフター様、あなたとの練習ではまともな練習になると思いません。」


前を向いたまま言うと、


「どうして?リードはきちんとできると思うよ。」


「そうではなく、私があなたの足めがけてヒールを叩きつける練習になるので、ステップの練習にもなりません。」


ギョッとシャーロットが目を見開く。


「君のその美しい足に叩きつけられるなら、喜んで両足を差し出すよ。」


その発言に「キモっ。」とドン引きしたシャーロット。


「…………。試してみますか?」


「喜んで。……もし一度も踏まれなかったら君の練習相手にしてもらえるのかな?」


「……そうですね。一度も踏めなかったら――。」



――――――そうしてダンスの練習が始まった。




練習はドレスではなく、足さばきが確認できるよう膝丈の動きやすいワンピースを着させてもらった。

ダンスホールの部屋の隅には椅子に座ってこちらを見つめるシャーロット。


「では、奥様。お手を。」


そう言って手を取ると同時に音楽が始まりステップを踏み始めた。


「上手いじゃないか。」


彼が少し驚いたように微笑んだ瞬間――――戦いの火蓋が切って落とされた。


彼の右足めがけてヒールを叩きこむも、ひらりと躱される。

2度、3度、叩き込もうとするもターンで躱され、上手くステップを踏まされている。


もはや彼の顔を見る余裕もなく、必死に足元を見て、せめて一撃でもと思うが一向に当たらない。

曲が終わり、私は息も絶え絶えなのに、彼は汗ひとつかかず、爽やかな笑顔でこちらをうっとり見つめている。


今のやり取りに、うっとりする要素がどこにあったのか分からないが、整った顔で、息一つ乱さず満足そうにしている事に、そしてうっかりその微笑みに心臓が跳ねた自分に苛立ちを覚える。



「…………もう一曲つきあっていただけます?」


浅い呼吸でそう言う私に彼は満面の笑みで「何曲でも」と応えた。


もう一度スタートポジションに着く。


その時、お父様とエシュピルナ様、アレクお兄様が部屋に入ってきたのが見えたと同時に曲が始まった。


もう一度先ほどと同じことをしてもと思い、タイミングを変え、角度を変え、わざとリズムを変え彼の足を狙うが一向に当たらない。


「エルナ、右!右!左!ほれ!……そこで粉砕じゃ!!」


とシャーロットから経緯を聞いたであろうお父様の声援が飛ぶ。


一向に踏めないのに、必死に足を動かすから段々と足も痛くなってきた。

普段履き慣れないダンス用のヒールで靴擦れも酷くなってくる。


足元が鈍って来たのを感じたのか、ラフター様が、


「エルナ、足が痛む?今日はこの辺で終わりにするかい?」


そう言われて、


「まだです!」


と足元に向けていた視線をキッと上げた。

あぁ、足が痛くて涙が滲む。


私と目が合った瞬間、不意に彼の動きが止まった。


その瞬間――――――私の勝利が決まった。



「〜〜〜〜〜…………っ。」


お父様の拍手喝采が鳴り響く中、あまりのクリーンヒットに悶絶するラフター様に、


「ラフター様では私のダンス相手は不足のようですわね。今日はありがとうございました。」


と捨て台詞を吐き、痛む足を堪え自室に戻った。

その後、靴擦れをこっそり癒し魔法で治したのは言うまでもない。





ここまで読んで頂きありがとうございます。

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