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父の目覚めー2

「お父様……っ。」


伸ばした手は思わずエシュピルナ様と取り合った手の上に重ねた。




逝かないで。




そう思った途端、視界の端に映った揺れるイヤリングは仄かな輝きを灯す。

突然魔力が制御の利かないほど流れ出ていくのを感じる。


呼吸が苦しくなり、水面からぎりぎり顔を出して呼吸するかのような酸素不足が襲ってくる。


「アレク!ラフター!早く彼女を離して!死んでしまうわ!」


隣にいるはずのエシュピルナ様の悲鳴のような声が遠くで聞こえるようだ。


心臓も激しく暴れ狂うかのように脈打つ。


後ろから引っ張られるのを感じたが、強くアルベルト様の手を掴んだ。

まだ離してはダメだと本能が告げる。


さらに後ろに強く引っ張られ、手が離れたことに気がつく。


体は全身が悲鳴を上げているかのように痛む。

筋肉痛どころの騒ぎではない。

全身から汗が噴き出すのが分かる。

喉もカラカラで、めまいもする。


「エルナ……。」


後ろから声がした。



「エルナ……。エルナ……。」


ラフター様の声だ。泣きそうな、震える声だ……。

後ろから抱えられるように引っ張ったのは彼だったのか。


離してと言いたいのに、声も出せない。



なんとか見上げた視線の先には驚いたようにこちらを見つめるアルベルト様がいた。


「お父……さ……。」


浅い呼吸を繰り返す私に、エシュピルナ様が手を握った。


「何て無理をするの!使った事もない癒し魔法を強引に使うなんて。……お願いだから、これ以上は使わないで。そんなことの為に紫水晶を渡したんじゃないわ……。」


きっとそうだろう。

あの時二人の目は覚悟していたと思う。

それを私が無理やり切ったのだ。



「……母が亡くなって……私の育てた花も、長持ちすると言われていたんです。だからきっと私も無意識に使っていたんだと思います。元気に咲いてって思いながら……。だから、使えるかなって……。」



「……お願いよ。これ以上あなた達から何も奪ってはいけないのよ……。お願い。お願いよエルナ。」


後ろから私を抱きしめる腕に力が籠る。

私の手を握る細い手に力が籠る。


「私は……何か奪われたなんて思いません。私は私が思うように力を使ったんです。……。」


浅い呼吸で、喋るのも辛いけれど、これだけは伝えなくては……。


「私が失いたくなかったからそうしたんです。……エシュピルナ様が……母に産んで欲しいと言わなかったら私は存在しなかった。私は母に愛されていたと思っています。不幸だなんて思った事は無い。母だって、……。」


きっと貴方を守りたかった。


「父上!!」


アレク様の声がして顔を上げると、アルベルト様がアレク様を支えにして立っている。


さっきまで、腕も持ち上がらなかった人とは思えない。


「アレク……エルナのとこへ連れて行ってくれ……。」


アレク様に支えられゆっくりとこちらに向かってくる。



「エルナ……。何と言っていいか分からない……。言葉に出来ない。」

そう言ってエシュピルナ様と私を一緒に抱きしめた。


「でも、……ありがとう。」


その空気を壊すように、サリバン様の大きな声が響いた。


「素晴らしい!!エルナ様はアレキサンドラ様の才能を見事に引き継いでおられるのですね。是非魔塔でその御技を発揮致していただけませんか。」



突然の事に驚くと同時に、絶対に行きたくないという思い。母のように閉じ込められるのはごめんだ。


少し呼吸も落ち着いてきて、いつも通り喋れる程度にはなった。


「せっかくですが、ご遠慮します。」


「何故ですか!?貴方のその力で救われる人がたくさん居るというのに。」


血走った目で迫ってこられ、恐怖を覚える。


「魔塔では、サンドラ様の様に聖女のように崇められ、貴方を敬い、ひれ伏す者ばかりです。贅沢な暮らしも、思うがままですよ。」


「私は、誰かにひれ伏して欲しくもないし、贅沢な生活がしたい訳ではありません。」


「貴方は!救える人間を見捨て……。」


「お止めなさい。」


エシュピルナ様がサリバン様と私の間に立ちはだかる様にして言った。


「エルナは行かないと言っているんです。彼女は魔塔にはやりません。」


「その通りだ。儂の娘はどこにもやらん。この子の嫌がることを無理強いするのは許さん。」


まだ立つのが精一杯のアルベルト様も視線だけでサリバン様を制す。


「……っ。しかし、彼女の存在を守れますか?アレキサンドラ様を守れなかった公爵家が。当時、王のご意向と、公爵家という万全の守りの環境があるからこそ彼女は魔塔を出られたのです。あそこにいれば、彼女は今も王宮の奥で強固な守りの中にいたはずだというのに。」


その言葉にエシュピルナ様もアルベルト様も言葉を失う。


「彼女の存在が知られれば他国から狙われる事もあるでしょう。それほどまでに稀有な存在なのです。」


正義は我にありと言わんばかりのサリバン様に冷水をかけたのはラフター様だった。


「彼女は僕の妻だ。確か魔塔の教会に行けるものは未婚が条件だったと思うが。」


ヒュッとサリバン様の息をのむ音が聞こえた。


「つ……つつ、妻!?スカイロッド公爵の!?まさか彼女が行方不明になっていたという公爵夫人ですか??……し、しかし彼女は結婚指輪をしていないではないですか。」


「一年前に結婚している。調べればすぐにでも分かるだろう。指輪はサイズが合わなくなったから新しく作り直している。」


思わぬ展開に固まってしまう。もうすぐ離婚しますけどねと言いたいけれど、言ってしまえば魔塔とやらに行かされかねない。



「帝国最強と謳われるスカイロッド騎士団が彼女を守れないと思うか?どこよりも安全なところだと自負しているが……。サリバン殿はどう思われるかな?」


背後から私の首筋に軽くリップ音を立てて、思わず私の心臓が大きく跳ねる。


「最愛の妻がいなくなってしまっては、私は帝国の盾として、剣として使い物にならないだろうよ。」


国を守る要が誰か分かっているか?そう言うと、サリバン様は眉間に深い皺を刻み、不愉快そうに口を噤んだ。


では、お帰りはあちらだとラフター様が勝手知ったる我が家の様にレイニード家の執事に案内を促す。

魔塔の人たちが渋々と部屋を出た瞬間。


「待て待て待てぇぇい!!!!!!ぬわぁんで、わしのエルナがお前の嫁になっとんじゃい!」


そう言ってラフター様の胸ぐらをアルベルト様が掴んだ。


そして全員がはたと気づく。




――――そうだ、この人、ずっと寝てたんだ――――――。







「認めん!認めんぞ!!お前のような次から次へと女を渡り歩くような男は絶対に!!わしのエルナは絶対にやらん!ええぃ!離れんか!エルナから離れろ!!!アレク、コイツを引っぺがせえええええ!」




そんな、ここの主人の雄叫びが、数年ぶりに屋敷に響き渡った。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

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