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アレキサンドライトの真実ー1

馬車がレイニード家の門を潜ると大きな屋敷が見えてきた。


レイニード公爵邸の中には綺麗に整えられた庭と噴水が見える。

ここが母の暮らした屋敷かと、ぼんやりと思いながら外を眺めた。


あの宿でシャーロットと話をした日から、彼女がラフター様と二人きりにならないように気を使ってくれるのがわかる。


その優しさが本当に嬉しかった。



レイニード邸に着くと、アレク様に案内されながらシャーロット、ラフター様の四人全員で応接間にいく。


ノックしたドアの向こう側から震える返事で入室を促された。部屋の中には銀髪に紫色の瞳のすらりとした貴婦人が一人、窓際に立っていた。

こちらを向いた女性は目を見開き、私を見て固まっていた。


「エルナ、僕の母のエシュピルナ=レイニードだよ。」


アレク様に紹介され、緊張しながら口を開く。


「初めまして、エルナと……。」


挨拶をしようと礼をとったところ、


「サンドラ……。あぁ……アレキサンドラ。」


震える小さな声が母の名前を呟いた。


私以外の全員が驚きの声を小さく呟く。


「あぁ、サンドラにそっくりだわ。」


そう言いながら近づいてくる前公爵夫人の瞳も震える声も優しい。

アレク様は心配ないと言っていたけれど……そうは言っても、少しくらいは憎まれているとか、そういった反応を想像していた。


「あなたに触れてもいいかしら。」


固まっていた私に恐る恐る問いかける。


「……はい。」


そう言って優しく私に触れた手は、薄いガラスに触るかのように、羽が触れるかのようにやさしかった。


「……ご、ごめんなさい、エルナさん。サンドラにも……。全て私が悪いのよ。誰も悪くないの。私だけが、私自身のためにサンドラを……。」


ポロポロと涙を流す前公爵夫人に私は動けないままでいた。


「母さん、座って話をしよう。」


アレク様が夫人を支えながら全員にソファを勧めた。

ちょうどお茶も運ばれ、前公爵夫人が一口飲んで、ふぅと一息ついた。


「ごめんなさいね、見苦しいところを見せてしまったわね。」


「い、いえ。そんな……。」


「エルナさん、昔話をしてもいいかしら。あなたには全てをお話ししなくてはいけないと思うの。」


取り乱すわけでもなく、優しくこちらを見る前公爵夫人は私を見ていると言うよりは、どこか懐かしむような瞳だった。


「はい。……お願いします。それから、私のことはどうぞ、エルナとお呼び下さい。」


そう促すと、では私のこともエシュピルナと気軽に呼んでね。と微笑み、ぽつりぽつりと話し始めた。


「私とラフターの母親が、現王の姉妹という事はご存知かしら。」


「はい。」


「私は三人兄弟の中でも昔から体が弱くて中々外で遊ぶ事のない子供時代を過ごしたわ。でも、好奇心だけは旺盛。体調の良い時に外に出たら、侍女を撒いて王城を探検していたのよ。」



ふふふ、と微笑みながら昔を懐かしむように窓の外を見つめている。



「王城の奥に魔塔という教会と魔法の研究をする施設があって、初めてサンドラに会ったのはそこだったの。」


「母は、魔塔の関係者だったということですか?」


知らなかった真実に驚愕する。母は本当に自分の過去を話さなかった。


「そうよ。しかも特別待遇のね。……彼女は5歳の時に魔塔に連れて来られたの。稀少な癒し魔法の使い手として。」


「母が、癒し魔法を……?」


見たことはない。今まで母の魔法は小さな火や風、水など少し生活が楽になる程度のものだったはずだ。


「あなたのお店はお花屋さんと聞いたけど、どのお花も長持ちしたのではなくて?」


「…………はい。」


心当たりがありすぎる。常連客は皆ここのお花は長持ちするからと口を揃えて言ってくれた。


「動物だろうが、植物だろうが彼女の魔法は生きとし生けるもの全てにおいて効果があったの。……彼女は魔塔が窮屈だったのでしょうね、初めて会った時も毎日同じ事をやらされてつまらないと言っていたわ。」


「外に出られない者同士、すぐに仲良くなった。ずっと、私の結婚が決まるまで、お互い時間があれば会っていた。王女としてではなく、普通の女友達だったわ。」


そう言って私の指輪に視線を落とした。


「そして私の結婚の時、私とお揃いのその指輪を渡したの。彼女の媒体石であったアレキサンドライトを。友情の証としてね。……彼女は言ったわ、一緒に連れて行ってと。私の体を心配して、知らないところで死んでほしくないって。」


何も言えず話を聞く私を見つめて言った。


「父にお願いしたわ。彼女を侍女として公爵家に嫁ぎたいと。魔塔は大反対したけれど、父も私の体を心配してそのようにしてくれたわ。彼女を保護する為の公爵家という安全な後ろ盾もあったしね。」


――――そうして、2年がすぎた頃。


「……3度目の流産だった。もうボロボロだったのよ……。」


思い出に涙するエシュピルナ様に誰も声をかけられない。


「流産するたびに主人も、次があるから大丈夫って。今お腹にいるその子に産まれてほしいのに、会いたいのに……。愛しているからこそ子供が欲しいのに、出来ない。周りは妾でも作って子供を産ませるべきだとも言ったわ。……そして、発作や流産のたびに治癒魔法をかけてくれるサンドラの負担も大きいわ。」


「負担……?」


思わず呟いてしまった。


「そう。癒し魔法は負担が大きいの。小さな擦り傷なんかは大した魔力の消費にはならないけれど、心臓発作や、元々体の弱い流産の傷は私の体の消耗も激しいから治癒しようとすればかなりの負担なのよ。魔力の使いすぎは命に関わるわ。私の為にいつも倒れそうになるサンドラを見ているのも辛かった。」


しばらく私をじっと見つめて言った。


「……だから、思わず呟いてしまったの。貴方の子なら愛せるのにと。」



――――自分と同じ銀髪、紫の瞳をしたアレキサンドラの子なら愛せると思ったの――――





ここまで読んで頂きありがとうございます。

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