女部屋と男部屋ー2
「報告は以上です。ラフター様」
スカイロッド騎士団の副団長から、書類を受け取り軽く目を通す。それを見てやはりそうかと確信する。
「分かった。引き続き調査をしてくれ。ここの家門も調べておいてくれ。」
そう言って小さなメモを副団長に渡すと、彼は敬礼をして出て行った。
「例の調査か?」
レイニード公爵家へ向かう途中の宿で同室になったアレクがワインを差し出して来た。
彼の質問に軽く頷き、もらったばかりの報告書を渡した。
「最近領内で広がりつつある麻薬と、先日捕獲した武器の密輸調査だ。」
ため息をつかざるを得ない。
「この麻薬はタチが悪いと報告を受けているが、栽培場所も業者も全く足が掴めない。専門官に聞いてもかなり栽培の難しい植物で、特定の土地でしか栽培出来ないと言っていた。だから地域を特定してしまえばかなりの流出を防げるとは言われているが……。」
市民への被害も広がっていて、中毒者が幻覚を起こし、刃傷沙汰も何件か上がっている。
「武器の密輸はかなり証拠集めができたから、後は決定的な証拠を待つだけだ。」
「……これは王都でも2、3年ぐらい前から少し出回っているものだな。」
アレクは報告書を見ながら言った。
食い入るように見ている。
「……何か思い当たることがあるのか?」
「……父に言われてエルナを調査した際に母親の死因も調べたんだが、大通りで数人切りつけられている。エルナも母親と巻き込まれたが、彼女は無傷で母親はその際亡くなったそうだ。彼女に……は聞けないな。犯人もその後捕獲の際に警邏に切り付けられた傷で死んで、調査はそこで止まっている。」
「…………そうか。」
沈黙が広がり、報告書をめくる音だけが室内に響く。
「―――――。」
「「なぁ……。」」
アレクと自分の声が重なり、お互いに顔を見合わせる。
「アレク、お前から言ってくれ。聞きたいことがあるんだろう?」
そう言うとアレクは少し考えた後、口を開いた。
「エルナと何があった?お前は大まかなことの顛末を話したが、エルナのあの反応は尋常じゃなかった。あの日、お前はエルナを傷つけたと。ひどく侮辱したと言っていたが実際何を言ったんだ?あまりの憔悴ぶりにしつこく聞ける状態じゃなかったから……。その後もお前は時間ができる度にエルナの捜索に行くし……。」
「…………別に逃げていたわけじゃないぞ?」
……そういえば事細かには説明していなかったかもしれない。
正直あの時は気が動転してなんて説明したかなんてはっきり覚えていない。
毎日悪夢のようにあの日の朝の夢を見る。
毎日の事すぎて感覚が麻痺していたのか、当然のように知っていると何故か思っていた。
「…あの日は――――」
左頬に強い衝撃を受ける。
避けようと思えば避けられた。
誰かに責められたかった。
お前はクズだと。
人として最低だと。
誰も責めない。
探しても探してもエルナの痕跡ひとつ見つからない。
ただ、ただ、崖に通う日々が続いた。
殴られた衝撃で椅子から転げ落ち、その椅子も激しく壁にぶつかる。
「ラフター……!!」
あの時は殴られなかった。
本来、あの時に殴られるべきだったのに。
誰かに責めてほしいと思っていたのにこうして責められても少しも気分が軽くならない。
目を充血させ、怒りのまま拳を振るったアレクの右手は赤くなっている。
「ラフター……。もう何に怒っていいのか分からないよ。自分の軽率な行動が……全てを招いたかと思うと。……。それでも、お前を殴らずにはいられない……。」
その時、ノック音がして心配そうなシャーロットの声がした。
「アレク?ラフター?どうかした?大丈夫??」
「大丈夫だよ。シャーロット。ちょっとつまずいて椅子が倒れただけだから。」
アレクが震える声を抑えて言った。
「…………そう?ならいいんだけど。気をつけてね。」
シャーロットは何かを感じ取ったのだろうそのまま部屋に戻っていく気配がした。
「……エルナと離婚するのか?」
「彼女がそう望むなら。」
アレクは、そうか…と小さく呟くとそのまま会話は途切れた。
――――――そのあとは何も話すこともないまま眠りについた。
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