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女部屋と男部屋ー1

「ふふ、エルナとゆっくり喋りたいと思っていたの。」


私が目を覚ました翌日にはレイニード公爵領に向かうことになり、道中泊まる事になった宿の部屋にシャーロットといた。


比較的質のいい宿はここのツインの2部屋しか空いていなかったので、私はラナ達と一緒の宿で構わないと言ったが皆んなに断固拒否された。


この宿の方が護衛もしやすいと言われ、皆んなの負担を増やす訳には行かないと思ってしまう。

ふた部屋しかないので部屋割りに恐怖を覚えたが、シャーロットが私と一緒の部屋がいいと申し出てくれたのだ。


「ありがとうございます。おかげでゆっくり休めます。」


「いいの。私がゆっくり話をしたかっただけだから。」


嬉しそうに話してくれるふわふわの綿菓子のような彼女はとても二人目を妊娠しているとは思えない、少女のようだ。


「……エルナ。私のこと責めないでしょう?あなたは、私が悪くないって言うけれど、誰がどう見ても私が悪いわ。でも、……誰も私を責めてくれないの。罪悪感だけが募っていくの…。」


「シャーロット……。」



突然核心に触れる彼女は不安そうに瞳を揺らす。

会話の上手な彼女がこんなふうに突然切り出すなんて、きっと罪悪感で心中穏やかではないのだろう。



彼女はホットミルクの入ったカップを一口口に当てて視線を私の指に落とした。


「あの崖での事故の日、あなたが私の前に立った時、その指輪を見てなんて厚かましい女かと思ったの。」


「え……?あぁ。まぁ、……愛人と思ってらっしゃったなら正常な反応じゃないですか?」


「普通、ただの愛人には自分の媒体石なんてあげないのよ。」



彼女はじっと指輪を見た。



「……自分の媒体石を渡す意味を知っているかしら?」


「はい、『貴方を守る』とかそういう意味ですよね?」



「……そうよ。『命をかけて貴方を守る』という意味よ。」




おっっっっっっっっも!!!重すぎる!!


「あの、これはアレク様からではなく、母の形見で……。」


「ふふ、知っているわ。アレクは事故のことを知ったお義母様から同じデザインのものを渡されていたの。アレクは見たこともないという反応で、私がエルナのものと同じだと言ったら、貴方がそれを持っているのは知らなかったみたい。」


同じデザインとはどういう事だろう。侍女とその主人がお揃い?こんな高価なものを?


もしくはお父様が二人に……??

そうだとしたら一つの屋敷でそんなことが起こるのはちょっとした恐怖を感じる。


「エルナ……貴方の考えが手に取るように分かるわ……。顔に出てる。」


ジト目でそう言われるが、早く答えが欲しい。


「でもお義母様は詳しいことは仰らなくて……。」


と小さなため息をついた。


「でも会えばきっと何か分かるわ。」


シャーロットは私を安心させるように微笑んだ。


「その……貴方が嫌なら答えなくていいのだけど……。」


「はい。」


「…………………………。」


「…………………………?」


「…………………………。」


「……っあの、シャーロット?なんでしょう?」


あまりの沈黙にこちらが窒息しそうなほど息を詰めて待ってしまう。


「……貴方はラフターを好きだった……のよね?」


「………………。はい??」


核心もど真ん中すぎませんか?もっとオブラートに包んで欲しい……。


「…………まぁ。そぅ。……ですかね。」


彼女から視線を逸らし、横目であらぬ方向を見る。


すると、彼女はまた大きな瞳から涙をボロボロとこぼし始めた。


「私、なんて事を。ずっと、初めて会う時まで貴方のこと金に目が眩んだ娼婦のような女だと思っていたの。」


わぉ。ちょっと正直に言い過ぎじゃありませんか?


と思ったけれど、黙って聞く事にした。

彼女は妊婦だ。流れる涙を我慢したり、心に一物抱えて過ごすのは良くない。


「だから、貴方がラフターと結婚したと聞いた時罪悪感なんてなかった。ラフターが結婚を犠牲にと思ったけれど、彼はいつも興味無さそうだったし、どこの誰と結婚しても一緒だって言っていたから……。……だめね。結局私は自分を正当化していたのね。」


彼女はこの先を話してもいいのか私の方を窺いながらゆっくり話した。


「……でも、貴方が崖から転落したのを知った時の彼は……。尋常ではなかったの。戦争で部下を失っても、部下を悼んでも、あんなに取り乱すことも憔悴する事も無かった。アレクとラフターに何があったか聞いたけれど、彼はただ彼女を侮辱し、傷つけた……と。思い出すだけで気分が悪くなると言っていたわ。だから貴方がどんな風に傷ついたか分からないの。」


ごめんなさい。と彼女は頭を下げた。


「あなたたちが本当に好き合っているのなら、一緒になってくれたなら嬉しいと思うけど、エルナが嫌なら私が貴方を守るわ。私に出来ることをさせて欲しいの。」


あぁ、なんて。可愛い義姉だろうか。

生粋の貴族。王族として生まれ、降嫁といえど公爵家夫人として社交界のトップに立つ女性とは思えない。

義理の妹と言えど、所詮は妾腹の妹だ。

「ごめんね。勘違いだったみたい」

で済ませばいいのに。

そしたら少しは私は貴方も恨めたかもしれないのに……。


言ってもいいだろうか。

この暗い、辛い気持ちを……。行き場のない怒りと、想いを――。


「あの日の朝は――――――――――――。」












「――――――クズね。」


真っ青な顔で頬をピクピクと顔を引きつかせ、結婚式の翌朝の話を聞いたシャーロットは元王女とは思えない言葉を言い放った。


「結婚式の翌日の朝!?ベッドの上で!???頭おかしいんじゃない??わ……私が言える立場ではないけれど、本当にクズだわ……。貴方はラフターを許すと言ったけど、そこまで言われたら私、相手を燃やしているわ。」



物騒な元王女様の御乱心だ。


「……でも、来るもの拒まず。去るもの追わずのラフターが女性にそこまで言うなんて。……何か心当たりはある?」


「え、あぁ。……朝起きた時私がこの指輪にキスをしてたのを見て……。と言ってましたけど。」


「ええええ!!??それにキスしたの?」


シャーロットの顔はこれでもかと言わんばかり青くなって、目も落ちるんじゃないかと思うくらい見開かれている。



「え?だめなんですか?」


「……結婚式で媒体石は使った……わよね?」


「え?使ってませんよ。」


誓いの言葉とキスだけのなんら普通の結婚式と変わらないと思う。


「貴族の結婚式はお互いの媒体石のついた指輪をはめる時、その石にキスをして結婚の誓いをするのよ。」


「知りませんよ。そんな重要情報。そもそもその時はまだ私の媒体石は決めていなかったし……。平民育ちが知るわけないです。」


媒体石のめんどくささにうんざりしてしまう。

知識のないことはなんと恐ろしいことか。

そういえば私の結婚指輪は小さなダイヤモンドが付いていたけど、彼の指に嵌めようと指輪を手に取った時、彼のはシンプルだと思った記憶がある。



「まぁ。そうね。そうであったとしても……初夜の翌朝に……。人のことを言えた義理ではないけど、外道の所業だわ。私なら一瞬で消しクズにしているわ。」


またさらに物騒な王女様らしくない発言が……。



「言われたことは許せませんけど、彼のしたことに一定の理解は出来るんです……。」


そう言うと、シャーロットは信じられないという顔をした。


「……どこが???エルナがどこに理解ができるのか私は全く分からないんだけど……。」


「もし、私が本当に愛人だったとして、その存在がシャーロットの流産につながったとしたら小さな命が消えるんです。一度でも流産しているのならその可能性は軽視するべきではないし、母体だって負担は大きいです。」


シャーロットは小さく息を呑んだ。

きっと流産した時のことを思い出したのだろう。


「……アレク様のお母様と、ラフター様は仲が良かったですか?」


「え?……えぇ。そうね。私やアレクが産まれる前から第2の母親のように可愛がっていたと聞いていたわ。」


「……第2のお母様と慕う相手の心臓が弱いのであれば少しでもショックを与えないように問題を取り除きたいのは当然です。アレク様のお父様が寝たきりで、万が一お母様に何かあって、シャーロット様まで御子を失うなんて事になったら。大事な人達の命と愛人の排除なら私でも同じことをするかもしれない。」


そう言うと、シャーロットは目に涙を溜めて震えながら言った。


「そ、それでも。……それでも、貴方が投げつけられた言葉を許容するなんて出来ないわ……。貴方のように寛容にはなれないし、そんな風に考えられない。……エルナ、貴方は本当に心が綺麗なのね。」


思いもよらない言葉に笑ってしまう。

全然違うのに。


「ふふ。そんな立派なものじゃありませんよ。…………実はもうやり返しているんですよ。あの結婚式の日のあの時に。」


「え?……え?何をしたの……?」


そう私はあの時無意識に小さな復讐をした。

自分が傷つく傷を少しでも塞ごうと、自分の醜さを隠した。


「秘密です。私の性格の悪さがバレてしまうから。」


口元に一本指を立て、悪戯っ子の顔を作ってそう言うと、「仕返しは大事だわ。」とシャーロットは花のように笑った。



きっと、ラフター様が守りたかったのはこんな彼女の笑顔だ。


ふと自分の指を見る。


そう言えば、私の結婚指輪は…。


――――その時、隣の部屋から激しい物音がした。


隣はラフター様とアレク様が泊まってる部屋だ。



私の意識は指輪から逸れた。








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