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【コミカライズ】公爵に求婚された令嬢は裏切りを知る〜私を捨てたはずの公爵は愛を乞う〜  作者: 柏みなみ@10/24『そして、あなたは〜』②発売


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公爵は愛を乞うー1



雨の音が聴こえる。


あの時と同じだ……。


かすかに花の香りがする。


「……スイートピー……?」


思わず声に出た。


「あぁ、エルナ。気がついたのね。今みんなを呼んで来るから。」


横からシャーロットの声がした。


彼女の顔をじっと見る。記憶の中で最後に会った人物の顔は当時と変わりなく可愛らしい。

その途端涙が溢れた。


「……無事に、御子が生まれたんですね。……よかった。……本当に……。」


侍女にみんなを呼ぶよう声をかけたシャーロットはぴたりと固まった。

その華奢な体を震わせ、彼女も涙を零した。


「こんな時にまで、私のことなんて……。エルナ。ごめんなさい。ごめんなさい。」


何を謝ることがあるんだろうか。


どれだけ望まれた子か。


アレク様がどんなに心待ちにしていたか知っている。

辛い流産を乗り越えて授かった命だ。


「あれは事故です。むしろあなたが落ちなくてよかった。」


すると彼女はわんわん声を上げて泣いた。

ラナが近くに来て、温かいミルクを出してくれた。


「シャーロット様は昨日奥様が倒れてからずっとお側にいらしたんですよ。お腹に二人目がいらっしゃるのにアレク様に止められてもここにいると、頑なに。」


「だって、男性陣がここにいるのはだめだと思ったのよ、ラフターがそばに居ると言い張ったんだけど、……あなたがどう思うか分からなくて……。」


優しい気遣いに心が癒される。


「ありがとうございます。……でも、妊婦さんが無理をしては絶対にいけません。お心遣いは本当に嬉しいですが、何かあっては遅いんです。」


あえて、強めの口調で言うと、シャーロットはシュンとしおれたレタスのようになった。


「……はい。」


か、かわいい。きっとアレク様はこんな素直なシャーロットだから好きになったのね。


思わず笑ってしまうと、シャーロットも微笑んだ。


ふと入り口に人の気配を感じ、そちらに目をやると、侍女に呼ばれたであろうアレク様とラフター様が立っていた。


「あぁ、エルナ。良かった。目が覚めたんだね。」


アレク様はホッとしたように言った。

その後ろから入ってくるラフター様は疲れた様子だったが、彼の顔は見ないようにした。

だって、どうしていいか分からない。



どんな顔をして彼を見ればいいのだろうか。

騙されたとも知らず、彼に恋した自分が。

記憶を失くしてもなお彼に恋した自分が、恥ずかしくも、惨めで、傷つけられて、なんとかプライドを保とうとする自分がいる。




顔を見たいのに見たくない。


もはや視線を逸らす以外なかった。


「エルナ、もし体調が良ければみんなで話をしたいんだが……。」


アレク様が優しく問いかけてくれるが、答えは否だ。

これ以上現実を突きつけられたくない。


「大丈夫です。必要ありませんよ、アレク様。」


「……いや、でも。君の記憶が戻ったらみんな謝りたかったんだ……。謝って済むことではないけれど……。」


困惑するアレク様がそう言うと、ラフター様がそばに来た。

彼が近くに来るだけで覚えのあるムスクの香りが胸をざわつかせる。


この香りだけで、抱きしめられた時の幸福感と、裏切られたことの傷口が交錯する。


「エルナ、どうしても君に伝えたいことがあるんだ……。君に誤解したまままでいてほしくな……。」


「誤解?」


ラフター様の言葉に被せて言った。

言葉が強くなったのはしようがない。

これ以上彼の声を聞くのも耐えられない。早く遠く、遠くへ行ってほしい。

この持て余した心をこれ以上乱して欲しくない。


「私は誤解なんてしていません。アレク様が私のところに来ていたのをシャーロットが私を愛人と誤解された。ラフター様もそう思って私をアレク様から排除するために結婚して、領地の別荘へ送った。その道中たまたま私が崖から落ちた。」


思わず彼の目を見て言い放ってしまった。


「何か違いますか?」


「……違わない。違わないが……。」


「気にしないでください。誰も悪くないんです。誰の謝罪も要りません。欲しくないんです。」


アレク様はシャーロットの体を心配して言えなかった。

シャーロットは愛人の存在を不安に思って相談した。

ラフターは大事な従弟妹家族を守るために自身の結婚を犠牲にした。

そして、私は出生の秘密を明かすのが怖かった。


それぞれがそれぞれに事情がある。それぞれが被害者だ。


ただ、私の心がついて行かないだけ。





誰もが口を噤み、雨の音だけが室内を満たす。


「――それでも、君に話したい。」


そっと手に触れられ、思わず手を引いてしまった。

彼の熱い手がするはずのない火傷をしたかのように熱く感じてしまう。


あまりに強く引きすぎてベッドサイドの花瓶に腕があたり、ガチャンと音を立てて床に落ちた。

生けてあったスイートピーが散らばった。



思わず彼の顔を見てしまうと、傷ついたような目をしていた。


傷ついたのは私だ。

彼を愛した私だけが傷ついた。


なのに、彼の夜空のような瞳に星はない。

あの頃、あんなにキラキラと輝いていたのに。


どうしてあなたがそんな目をするの――






「――――――全てを元に戻しましょう。ラフター様。」




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