仕組まれた出会いー8
その翌日にはスカイロッド公爵邸に用意された自室にいた。
朝にはスカイロッド邸の執事のカルースさんという方が迎えに来られ、部屋には大量のギフトボックスが山と積まれていた。
「……こ、この箱はなんでしょうか……。」
見覚えのある箱が沢山積まれ、部屋の景観を損ねている。
沢山の包装紙はアレク様が持って来たものと同じものばかりだ。
あのアレク様からのプレゼントの山は、大家さんに手紙と一緒に預かってもらうようカルースさんに言伝をお願いした。
しばらく領地の視察に行くと手紙をもらっていたから、帰って来た時私がいないと大騒ぎになりそうなので、ラフター様の屋敷にいることを書いておいた。
「ラフター様から公爵家に相応しいドレスや宝石類を揃えておくようご指示をいただきました。他に何か必要なものがございましたらお申し付けください。」
つまりこれはラフター様が選んだものではないということだ。
「……お気遣いありがとうございます。用意して下さったものでも十分過ぎるほどですので。とりあえずドレスだけ開封させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです。エルナ様の為にご用意したものですので。」
どれも煌びやかなドレスだったが、薄いブルーのドレスはとてもシンプルで、一番気遅れせずに着れそうだったので、今着ている服から着替えさせてもらうことにした。
「ジュエリー類も開封致しましょうか?」
メイドさん達に聞かれたが、このシンプルなドレスならラフター様からもらった紫水晶のネックレスで十分だと思い、そのままで机上に重ねて置いておいて欲しいというと、彼女達は困惑気味だったが、指示通りにしてくれた。
だって、結局ラフター様が選んでいないのなら見てもしょうがないし、身に付けたいとも思わない。
ドレスだって本当は今着ている綿のワンピースではお屋敷をうろつくのはまずいかなと思ったので着替えようと思っただけだ。
宝石は付けるよう指示された時だけでいい。高級なものは身に付けているのさえ落ち着かない。
とりあえず着替えを手伝ってもらい、屋敷の案内はカルースさんがしてくれた。
屋敷の案内が一通り終わったところにラフター様が帰ってこられた。
「お帰りなさいませ、ラフター様。」
出迎えに行くと、いつもと違う騎士服にドキっとしてしまった。
腰に剣を携え、染み一つない白い騎士服はいつもより凛々しく、艶っぽく危険な雰囲気を出していた。
これは、魔法より色気が凶器になるのでは……。
ラフター様もこちらを見ると、ふっと安心したような目をした。
「屋敷はもう見て回ったかな?部屋はどうだった?」
「あ、はい。皆さん親切にしてくださいますし、お部屋も素敵でした。プレゼントもありがとうございます。」
「そのドレスは家から着てきたもの?」
あぁ。やっぱりドレスや贈り物は彼が選んだものではなかった。
ドキドキしていた心臓がスッと重くなる。
でも、あんなにたくさんのプレゼントを昨日の今日で忙しいラフター様が全て選ぶなんて不可能
で当たり前だ。
あぁ、貪欲になっていく自分が怖い。
「いえ、……先程贈っていただいたドレスの中の一つです。素敵なものをありがとうございました。」
「……そうか。ところで宝石はまだ届いていなかったのか?」
そう言って執事のカルースさんに向かって聞いた。
慌てて私が割って入る。
「いえ、まだ宝石類のプレゼントを開封していないだけで、たくさん頂いています。」
そう言うと彼の視線が私の胸元のネックレスを見た。
「これだけじゃダメでしたでしょうか……。」
「……いや、紫水晶だけでも十分綺麗だ。」
笑顔なのに、複雑そうな。理解し難いと言った表情をしたラフター様に困惑した。
やっぱり頂いたものを開封もしていないなんて失礼だったのだろうか。
いや、でもあの箱を開封していたら日が暮れてしまう。一人悶々と考えていると、
「エルナ、話があるんだが、いいかな。」
そう言われ、サロンに案内された。
「結婚式は一週間後にしようと思う。」
「はい?」
早過ぎるでしょ!?
私まだご家族にも挨拶していませんけど!?
そう思ったのが顔に出ていたのだろう。
「両親も妹も領地に住んでいるから、五日もあればこちらに来られる。魔道具を使って既に連絡をしているから恐らくすぐにでもこちらに向かうだろう。挨拶はその時でいい。それまで私も結婚の手続きで忙しくなるからあまり屋敷にいられないが……。」
「いやいや、まだご挨拶もしていないのに勝手に結婚を進めるのはいかがなものかと……。」
え、貴族ってこんななの?いや、絶対違うよね。むしろ皇族に連なるなら尚更違うよね!?
「平民の君が婚約者として長くここにいればいるほど変な憶測が流れる。……それに……。」
そう言って椅子から立ち上がり、私の横に座った。
私の髪を一房掴み、そっと口付けする。私に向けられた妖しく光る双眸は呼吸を停止させる。
長いまつ毛が影を落とす様すら……背徳的だ。
「屋敷に君がいるのに、手を出せないなんて……。本当は明日にでも式を挙げたいくらいだ。でも、どんなに短く見積もっても1週間はかかる。式まで我慢する私を褒め称えていいと思うが……。」
はい!!はい!!はいーーー!!ここに色気で窒息させようとする人がいます!!
息……息ができない。
ハクハクと酸素を求め、視線でメイドさんに助けを求めると……。
スッと目を逸らされた。
なぜ!!??
カルースさんに視線を移すと彼にも視線を逸らされた。
その時、頬に手が当てられ無理やりラフター様と視線を合わせられる。
気がつけば、いつの間にかソファに横になり、ラフター様が私の上にしかかる体勢になっていた。
いつの間に!!
恐るべし色気の凶器!
「僕といる時に他の男に目を向けるなんてね……。煽っているのかな……。」
「ちちちちち、ちが……違います。」
迫ってくるラフター様は、男とは思えない、毛穴一つない顔で迫ってくるのを押し返そうと必死になるが、腕力では到底叶わない。
必死に押し返す私を、ふっと笑いながら、カルースさんやメイド達に向かってシッシと手を振り部屋から出した。
追い出すなーーー!!
「あぁ、でももう、結婚するんだからいいかな……。」
そう言いながら頬にリップ音をさせながらキスを落としていく。
手つきがどんどん怪しくなっていき、体の力が入らなくなっていく。
「ら、ラフター……様。」
「ん?」
「も、もう少し、……じ、時間をください。は、初めてなので、心の準備が……。」
彼の手がぴたりと止まった。
あぁぁぁぁ、何を言っているんだ私は。
「……はじめて?」
反芻しないで!てか、初めてですとも!!
私を何だと思ってるんだー!!
そう言ってぽすん、と私の首に顔を埋める。
「……そうか……、初めてか。」
ふっと笑った吐息が首元をくすぐり全身が粟立つ。
そんな状態のままどうしたらいいいのか分からないので、手の行き場を失い、彫刻のように固まっていると、ぎゅっと抱きしめられた。
ただただ優しく抱きしめられた。
「じゃあ、大人しく一週間後まで待つとしよう。それまでに心の準備をしておいてくれ。」
そう言って私の顔を覗き込んだラフター様の瞳は熱を帯びながらも、優しく微笑んでくれた。
もう、その表情に腰がくだけ、顔を真っ赤にして、
「は、……はひ。」
と返事するので精一杯だった。




