仕組まれた出会いー7
「ラフター様、お話ししたい事があるのですが。」
花火が上がる。
楽しい時間はここまでだ。
震える手を隠すように後ろに回し、笑顔を貼り付ける。
「今日は、お別れを言いに来たんです。急遽お店を畳むことになってしまって……。明日にはこの街を離れるので、最後にご挨拶できて良かったです。短い間ですが、お世話になりました。」
あぁ、普通に言えているだろうか、未練がましく聞こえないだろうか。
葡萄祭りがある時には、あんな花屋がいたなと思い出してくれるだろうか。
「……どこへ……?」
先ほどまでの笑顔が消え、ラフター様の黒い瞳が見開かれる。
少しでも寂しいと思ってくれたらそれだけで満足だ。
「母がお店をやっていた頃からお世話になっていた農家さんで、奥さんと息子さんの3人でやっていて人手が足りないそうなので。慣れ親しんだ街を離れるのは寂しいですが、新しい街で心機一転してきます。」
笑ってさよなら出来る。
まだ、出来る。
今ならきっと少しの時間で彼を忘れられる。
「……エルナ、それなら。……僕と結婚してくれないか?」
「……え?」
あまりに思いがけない言葉に、用意した別れの言葉も吹き飛んでしまう。
「ラフター様、……何を言って。」
ラフター様は私の手を取り、慣れた手つきで甲に口付けを落とす。
「エルナだって分かっていただろう?僕の気持ちを。僕は君以外考えられない。」
下から見上げるように私の瞳を覗き込む黒い瞳は妖しく鋭い。
ラフター様から感じる色気に抵抗できず、顔に熱が集中するのが分かる。
予想だにしない展開に頭も体もついていけない。
「でも、平民の私と結婚なんて……無理です。」
「どうして?前も言ったけど、魔法を重視する貴族社会では魔法が使えれば平民と結婚もできると言っただろう?」
手の甲に唇を落としたまま、こちらを熱っぽく見つめる瞳に対抗する術を私は持たない。
「……でも……。」
「そうか、ダメなら僕が公爵家を捨てよう。妹のメルティに公爵家を継いでもらうために婿を取って
貰えばいい。」
またしても予想外の方向からの話に固まってしまう。
「妹は来年、侯爵家へ嫁ぐ予定だったが諦めてもらおう。2人は仲が良かったのに残念だ。」
いや、妹さんも可哀想だけれど、ラフター様が平民になんてありえない。帝国随一の魔力を誇る彼が爵位を捨てるなんて不可能だ。国の宝が……。
「いや、あの、それは……。」
「心配しないで、エルナ。父も母もどんな嫁でも文句は言わないから僕に早く結婚して孫の顔を見せろと口を酸っぱくして言う。だから大丈夫。」
「それは貴族なら誰でもという意味じゃ……。」と心の声が漏れたのはしようがないと思う。
「エルナ、君だけが僕を幸せにできる。『愛する人に愛される』喜びを僕にくれないか。君を幸せにすると約束する。」
あの日の些細な言葉を覚えていたのだろうか。
お母さん、私、この手を取ってもいいかな。
「……ラフター様。私も、あなたを幸せにします。」
夢を見てもいいだろうか。
ゆっくりと顔を近づけてくるラフター様は今までに無く熱を帯びた瞳をしている。
壊れ物を扱うかのように、優しく私の唇にキスを落とす。
さっきまでさよならを言う言葉を沢山用意していたのが信じられない。
結局貴族の世界に足を踏み入れる事になったけれど、きっと大丈夫。
あぁ、アレク様にも言わなければ。
ラフター様にも私の出生を明かさなければ。
きっと大丈夫。
きっと……。
翌日には、ラフター様の屋敷へと連れて行かれていた。
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