仕組まれた出会いー5
食事が終わり、公爵邸に植えるという花の話をしているとすっかり昼時を過ぎていた。
「帰りは歩いて帰ろうか。」
そう言われ、街を散策しながら帰ることになった。
ふと見ると、商店街の飾り付けの雰囲気が少し変わっていたことに気づく。
街の至る所にワインや葡萄の蔦やモチーフが飾られている。
「そう言えばそろそろ葡萄祭りの時期ですもんね。」
「あぁ、また治安部隊も忙しくなる時期だな。毎年ワインで酔い潰れ、道端で寝ている連中が増えるんだ。」
少し顔を顰めたので、まさかと思い聞いてみた。
「お祭りに行ったことはないとか……言いませんよね……?」
「無いな。疲れるだけじゃないか?」
信じられない、お祭りだからこその楽しみがあるのに、貴族の人って……。
「それは人生損していますね。焼きそば、たこ焼き……。あぁ、そう言えば一昨年あった海鮮焼きのお店は去年出ていなかったけど、今年はあるかなぁ。白ワインが合うってみんなが言っていたけど、一昨年はまだ飲めなかったから……。」
「海鮮焼き?」
「そうです。牡蠣にホタテに海老。世界三大海鮮焼きと言っても過言ではないと思います。ここは海が遠くてなかなか新鮮な海の幸なんで口にできませんから。一昨年は食べた瞬間この世のものとは思えない味が口いっぱいに広がって……。」
あの時の味を思い出しながら目を閉じ夢見心地になる。
公爵様はなんだそれと笑いながら話に付き合ってくれた。
なんて無邪気に笑うんだろう。と思ったのを覚えている。
帰ってから、鏡に映った自分の胸元に小さく光る紫の小さな花に触れる。
こんなものを貰ってしまったら消せる想いも消せなくなってしまう。
彼は貴族だ。しかも公爵の地位にある。
私の出生を知ったら軽蔑されるかもしれない。
アレク様の異母妹なんて事が知れたら外聞は悪いし、ラフター様の叔母でもあるアレク様の母親を傷つけることになってしまう。
まだ飽きて去っていってしまう方がマシだ。
彼に軽蔑の目を向けられたら立ち直れないかもしれない。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「エルナ?アレクだけど。」
ドアの外から異母兄の声がして、ドアを開けにいった。
「いらっしゃいませ。アレク様。」
金髪碧眼の美形の兄は柔らかく微笑んで部屋に入った。
「変わりない?」
彼の手にある高級店の包装紙に包まれたいくつかの箱を見てため息をついた。
「また……。必要ないって言っているじゃありませんか。」
彼は毎日服や宝石を持ってくる。
初めて持ってきた時開けてドン引きした後は、毎回封も開けずに部屋の隅に山と重ねられていく。
「アレク様。見てください。毎日持ってきていただいても部屋が狭くなるだけで迷惑極まりないです。」
その山を示すも彼はため息をつく。
「だから、もう少し治安のいい所に部屋を買おうと言っているじゃないか。大事な妹をこんなとこにいつまでも置いて置けないよ。」
「そうは言っても私の生活拠点はここですし、仕事もありますから。って、もう毎回この話題も飽きません!?」
アレク様は初めてここに来た時から何かと甘やかそうとする。
「人間、怠惰なことを覚えると碌な人間になりませんから。」
「うんうん、いいね。その現実的な考え。大好きだよ。」
だめだ、ニコニコと惜しげもなく言う彼には、全く堪えない。
「というか、毎日こんなトコに来て大丈夫なんですか?奥様はもうすぐ出産ですよね?」
そう言うと、アレク様の雰囲気が柔らかくなって、私をじっと見つめた。
「だから、来るんだよ。エルナ。僕は自分の子の誕生が楽しみでたまらない。未だ彼女のお腹にいるのに動くんだ。僕がお腹に手を添えると蹴るんだよ。……もう会う前から愛しくて堪らない。」
そうして自身の手のひらを見た。
「僕の母は体が弱くて子供も僕1人だ。それでも産まれただけでも奇跡だと言われた。従兄弟達は兄弟姉妹がいてとても、……とても羨ましかった。小さい頃の君を知らないから、今は一日でも君の成長を目に焼き付けたいんだ。」
「いや、もうこれ以上は成長というか、背も伸びませんよ……。」
「それに君は無条件で僕が甘やかせる存在だ。甘やかして何が悪い。」
そういたずらっ子の笑みを見せたアレク様の瞳はどこまでも優しかった。
「で、そのネックレスは誰から?」
そう言って私の首元に目をやった。思わぬ方向から話が展開し、答えに詰まる。優しかった目がうっすらと据わっている。
「僕の妹に手を出す輩がいるとはね。いつその男を紹介してくれるのかな?今までそんな話聞いたことないけど。」
いや、誰も、いつも何も、絶対紹介しませんけどね。
「答えに詰まると言うことは、やっぱり男からの贈り物か。君の瞳の色と同じ宝石を贈るなんて、下心がないとは思えない。」
違う、違う、そんな人じゃない。私はネックレスを一つ貰ったからといって恥ずかしい勘違いはしたくない。
「ち、違います。これは、私が魔法を使えるのを知って……持っていた方がいいから媒体石にどうかって……。」
と言った瞬間、アレク様の目がガッと開いた。
「君の媒体石に!?」
カカかか、顔が、顔が怖いです。アレク様……。
兄のあまりの形相にドン引きしても仕方ないと思う。
「媒体石を送る意味を知っているのか?求婚や愛の告白を意味しているんだぞ?」
「……え?
え……それはないんじゃないかなぁ。魔法使えるのは知らなかったわけだし……。たまたま、持っていたのでどうかって言う感じでしたし。」
「媒体石と言って、それを渡したと言うことは相手は貴族だな……。その紫水晶の横にあるのはダイヤモンド。……まさか相手はダイヤを媒体にしているんじゃないか?」
またしても返答に窮してしまう。
「自分の媒体石を異性に渡すのは、君を守るという意味合いだ……。家族や恋人にしか普通渡さないんだぞ。」
「え……。」
ラフター様はそんなこと言っていなかった。
プルプルと震えるアレク様は今までにないほど動揺している。
「どこの家門のどいつだ。家ごと取り潰してやる!!」
御乱心!!御乱心ーーーー!!!!
あなたの従兄ですなんて口が裂けても言えない!!
「あ、あの……。そんなことより、私、お父様の病状が気になるのですが……。」
なんとか話を逸らそうと話題を振ると、たっぷり3秒停止して、通常運転のアレク様に戻った。
「そうだな、『そんなこと』は、またじっくり話をしよう。今日は父のことも伝えたくて。
実は父の魔導延命装置の入れ替えが今度あるんだ。延命装置の中に入っている間は目を覚まさないが、入れ替えの際は話もできるはずだ。その時に父に会ってくれないだろうか。」
いつかはと思っていたけれど、会うのが怖いと思う自分がいる。
「……少し、考えさせてください。」
「もちろんだ。入れ替えはまだ先だからゆっくり考えてくれ。」
そう言ってアレク様は私の頭をぽんぽんと触った。
「いつか君が公爵家に家族として来てくれたらいいと思っている。でも、君が決めたらいい。家族がいることを忘れないでくれ。君はもう天涯孤独ではないんだから。」
「……はい。」
公爵家に入ろうとは思わないけれど、母が死んで、もう1人だと思っていた私の前に現れた『兄』という存在にどれだけ救われただろうか。
母が亡くなった寂しさは中々消えないけれど、突然の孤独から優しく抱きしめてくれる家族が出来た。
「……ありがとうございます。アレク様。」
感謝の気持ちは本物だ。大切にしてくれているのも言葉から、表情から伝わる。
「……いつか、お兄様と呼んでもらえる日を楽しみにしているよ。」
そう言って笑った顔はどこか従兄のラフター様にも似ていた。
あぁ、きっとアレク様を見るたびにラフター様を思い出すんだと、胸がちくりとした。
アレク様が会いに来るたびに、頭から離れることはないだろう。
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