仕組まれた出会い-2
その後も、二日に一度のペースで公爵様は来店した。
何でも花を贈る楽しみを覚えたんだとか。
私も花言葉や、切り花を長持ちさせる方法など、聞き上手な彼に話すのが楽しかった。
花の話を聞きたいと何度か食事に誘われたが、彼を焦がれて並んでいる女性の列に入るのが嫌で頑なに断った。
所詮貴族令嬢と違う庶民が面白いだけで、すぐに飽きて彼は来店しなくなるだろう。
私は父親がどうあれ、貴族の世界には入りたくない。
アレクお兄様にもそう言っている。
そう思っていたのだけれど…。
「だから、今度は、家の庭の花も一部口を出そうかと思っているんだ。で、この時期植えるなら何がいいとか、育て方とか教えて欲しい。」
あまりの熱心さに結局負けたのは私だった。
「わかりました。一度だけなら……。お食事、ご一緒します。」
というか、私生産者ではないんですけどね?少し家で趣味で育てているのはあっても。
なんて、根性のない私。
でも、この顔でこんなふうに迫られたら、断れる女性がいるか。いや、いない。
でも、こんな貴族の人は今までいなかったから。最初の印象は悪かったけど、それだけじゃないところを知ってしまった。
そして、はたと気づく。
「でも、公爵様。私ディナー用のドレスとか持っていないので……。」
「大丈夫。それはもちろん僕が用意するよ。君に合うドレスも宝石も一式贈る。君の好きなブティックに買いに行こう。」
「いや、出来ればランチでお願い出来ますか??」
これなら、ディナーに比べてハードルも高くないし、そんなに気後れもしないだろう。
「……はい?」
公爵様は口を開けた間抜けヅラだが、こんなにイケメンでは間抜けになれない
「テーブルマナーとかあまり自信が無いし、公爵様と一緒に行くのは注目を浴びそうだし……かなりハードルが高すぎるので、ちょっと綺麗めの格好程度で行ける様なランチなら、ご一緒します。」
一応、侍女勤めをしていた母にテーブルマナーや令嬢の礼儀作法なんかは仕込まれているけれど、実践経験のない私は上位貴族の公爵様に披露する自信なんかない。
分かったと了承してくれたので、一安心だ。
公爵様もあんまりかっちりしすぎないよう、ラフな格好でお願いしよう。
「でもランチに行く衣装は用意させてもらえるのかな?」
「もらえません。」
何言ってるの?貴族めんどくさいな。
「公爵様。私は公爵様にドレスを用意してもらう様な立場も、理由もありませんから。無駄遣いはしないで下さい。」
「貴族が金を使わなかったら誰が使うんだ?」
「うっ……。」
確かに、金は天下の回りものだが、彼に何か贈られるような関係でもないし、おそらくもらった服は普段着にはできないレベルのものが来そうだ。箪笥の肥やしになるだけだ。そして、それを持ったままの私の心はどこにいくのか。くれるなら食べ物とか、消えものにして欲しい。
「三大公爵家の1つ、スカイロッド家がランチの相手の衣装も用意出来ないと思われるのは心外だ。」
そうして、彼は一歩迫り、壁を背に頭1つ高いところから私をじっと見てくる。
いやいやいや、この状況何なの!?
ダメダメ、ここで折れるわけにはいか無い。
「じゃ……じゃあ……。」
あぁ、声が出ない。ここで負けたら今後も連敗することは目に見えている。
っていうか、この距離は紳士の枠をはみ出していませんか?
い、息がぁぁ。耳、耳にかかってますよ!?
最後の理性を振り絞って公爵を睨みつけた。
「この話は無かった事に!!」
たっぷり10秒。公爵様は固まり、項垂れた後、私の勝利が決まった。
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