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平穏な日々は終わる

「何って、何でしょうか……。」


何を聞かれているか分かっているのに、わからないフリをする。このまま逃げ切れたらいいなと切実に願いながら。


「……執事と、騎士団長、君の護衛。更にはトム爺までが泣きついてきたよ……?」


黙っててって言ったのに、裏切り者!!!と罵倒しながらも、ドス黒い何かを孕んだまま、笑顔で詰め寄って来る超絶美形には、目を逸らすことで精神を保つしかないと悟る。


「彼らに口止めしたところで、僕の耳に入らないわけがないだろう?彼らの主人は僕だ。そして助けを求めてきたよ。君に潤んだ瞳で色気がないのかと言われたと。」


穴があったら入りたい。なくても自分で掘るから誰かスコップ貸してほしい。

視線を逸らしていても、公爵様から感じる視線がチクチクどころか、グサグサと痛い。


内容が内容で、羞恥で涙が滲んでくるし、顔に熱が集中するのが分かっていても止められない。


パニックなった私はもうどうにでもなれと言う思いで、正直に告白した。


「だ、だって……。公爵様は……私に触れようとしないじゃないですか。手すらも握らないし……だ、だから、何が悪いのかなって……。夫婦だって言われても、記憶のない私にはどうしたらいいのか……。分かりません……。」


だんだんと尻すぼみになっていく言葉はもう何を言っているのか聞こえないだろう。

チラリと公爵様を見ると、目を大きく見開いて固まっている。


あぁ、もう!はしたない女だと思われたに違いない。穴がないなら部屋に閉じこもってしまいたい。


「もう、みんなに聞いたりしませんから部屋に戻ってもいいですか!?」


恥ずかしいのを誤魔化すように、怒ったようにそこをどいてくれと暗に言ったが公爵様は固まったままだ。



そしてふっと目が柔らかくなる。

じっとこちらを見つめ、何か言いたそうに口を開くが口を噤む。


そして、少し戸惑いながら――



「君に……触れても?」



部屋の空気が重くなり、急に息苦しくなった。

切ない瞳でこちらをじっと見る目から視線が逸らせない。



「……触れても?」


あまりの切ない響きは身動きを取れなくさせた。

空気に溶けていきそうな、吐息と共に溢れる囁きは、私の何かを酷くざわつかせる。


「エルナ……君の許可がないと触れられない。」


もう一度問われ、躊躇いながらも小さく頷く。



すると、右手が確かめるように優しく頬を撫でる。左手は髪に触れ背中に触れる。

そして、そのまま優しく抱きしめられた。

私の髪に顔を埋めるように、髪にキスを落とす。

ガラス細工を扱うかのように優しく、優しく。確かめるように抱きしめられた。


「エルナ。」


熱い吐息とともにそう耳元で囁かれた言葉は、私の思考も一緒に溶かす。


「君に触れるのが怖かった。怖がられたらどうしようかと……。」


「……怖がる……??」


なぜそんなことを思うのか、分からない。


「ソチアル邸で再会した時、君は怖がっていただろう?君を怖がらせたく無かった。」


あれは、状況が分からなくて混乱していただけだ。


「そう言うわけでは……。」


そう言うと、公爵様は柔らかくもう一度微笑んで頬にキスを落とした。


「今夜、君の部屋に行ってもいいかな。話したいことがあるんだ。君に、話さなければならないことが……。」


そう言うと抱きしめる腕に力がこもった。

何かに怯えているような、不安を耐えているかのような。


「……はい、お待ちしています。」


そう言って私もソロソロとゆっくり公爵様の背中に手を回し、ゆっくり抱きしめた。


今夜、本当の夫婦に戻れるだろうか。


昨日までの不安は去り、心はとても満たされていた。温かい気持ちがじんわりと体を満たしていく。

視線を上げると熱を秘めた黒い瞳がこちらを見ていた。


公爵様の唇が自分のそれと重ねられた時、


「公爵様、レイニード公爵ご夫妻がお戻りになられました。」


とノック音とともに、ドアの外から執事の声がした。


「――――――っ。分かった。通せ。」


そう言って、公爵様はもう一度軽くキスを落として、ドアの方に向かった。


私はズルズルと壁にもたれたまま崩れ落ちそうになるのを、すんでのところで踏みとどまり、顔に集まった熱を逃そうと必死になった。その時、先ほどまで視界に入らなかったものに目を奪われた。


公爵様の執務机にあるあの箱は……。


あの小さなジュエリーボックスは見たことがある気がする。


レイニード公爵様と話す2人はもう意識から外れ、ジュエリーボックスに吸い込まれるように机に向かった。


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