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平穏な日々ー2


心拍数が速くなり、自分の鼓動が聞こえるくらいだ。


「い、一番の楽しみですか……?」


何がこの人のスイッチになったのか分からない。

さらに、ほんの指一本分顔が近づいただけなのに、混乱が増す。

何、この人。急にどうしたの!?


私こんな色気激ヤバな人と結婚したの!?

以前の私よく頑張った。もう心臓もたないんですけど!?


「そう、君に似合う宝石を探すのを楽しみにしていたんだ。君はもう満足したかもしれないけど、僕はまだ満足していない。」


ずりずりとソファの端に逃げるが、肘当てが背中に当たり、逃げ道が絶たれたことを知る。

公爵様の左手は私の前から肘当てに添えられ、背もたれに右腕で頬杖をつき完全に私の視界には公爵様しか映らない。


黒い瞳は獲物を追い詰めたようにギラギラしている。


「伯爵家の次男からは受け取ろうとしていたのに、夫である僕からは受け取れない?そんなことがあるだろうか?」


反論をしようとするが、はくはくと言葉にならない何かが口から漏れるだけだ。

ミゲル様ががくれようとしたのは媒体石であってアクセサリーじゃない。

そう言いたいが、色気に圧倒されて言えない自分が、いる。



「じゃ、じゃあ、一つだけ……。」


「全部。」


「さ、3分の1は……。」


「3分の2。」


また顔近づけてきた!!

口から心臓が出そうとはこのことか!


これ以上近寄られると意識を手放しそうになると思い、公爵様を押し戻そうとしたのが失敗だった。

触れた手のひらから服の上からでも分かる筋肉質の体と、温もりを感じ、思考は停止した。


「お、……お任せします。」


「よし、支配人。全部包んでくれ」


振り出しに戻った。


でも、もう魂の抜けきった私に反論する元気は無かった。












それから2週間は平穏……というか、怒涛のプレゼントに埋もれる日々が続いた。


何着ものドレスに、靴、鞄に、そしてアクセサリー。毎日届けられるものに文句を言うも選ぶのが楽しみだからと一刀両断されてしまう。


でも、何より断れなかった理由は、毎朝、公爵様自ら庭で摘んできた花を部屋まで持ってきてくれる優しさに何も言えなくなるのだ。


最初、花言葉の意味を分かって贈ってくれているのかと、聞いたら、もちろん分かって贈っていると当然のように言われ、固まる私をからかっていた。


何故なら、ピンクのチューリップは『愛の芽生え』

アネモネは、『あなたを愛します』

カーネーションは『深い愛』

桔梗は、『変わらぬ愛』

バラに、かすみ草、……

品を変え、本数を変え、組み合わせを変え……。


花束と一緒にお茶や、庭の散策、ピクニックに誘ってくれる。


優しく穏やかな時間が流れるも、時折、急に始まる公爵様のフェロモンタイムに成す術もなく、修行の時間を強いられる。




――でも、決して私に触れようとはしない。


私に触れたのは、ソチアル邸で会ったあの時だけだ。

手の甲を額に当て、涙を流したあの時だけ。


いくら色気を出して迫られても私に触れることはない。

ドキドキしているのは私だけ。

翻弄して遊ばれているとしか思えない。


ただただ、混乱していくだけだった。








✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「ねぇ、ラナ。私って色気がないのかな」


「はい!?」


夜、寝る前に髪を梳かしてくれるラナに思わず聞いてしまった。


「ほら、私って胸も豊満とは間違っても言えないし、体の線も細くて肉付きがよくないじゃない?」


鏡越しに見るラナは口を開けて固まっている。


「だから公爵様は……夜も別々なのかなって……。本当に夫婦だったのかしら……。」


考えれば考えるほど、頭の中を疑問符が踊り出す。

大切にされていると感じるのに触れて来ようとはしない。

そのことが混乱を招き、不安を募らせる。


「そんなことはないですよ。エルナ様の抜けるような白いお肌の美しさも、紫水晶のような瞳も、お顔立ちの美しさも。女性から見てもため息が出るほどお美しいですし、なにより公爵様は本当にエルナ様を愛してらっしゃいますよ。」


櫛を力強く握りしめ、力強く力説してくれるラナにボソリとつぶやいてしまった。


「女性の美しいと、男性の美しいは違うって言うものね……。」


ふぅ、とため息を零した。


「直接公爵様にお聞きになればいいじゃないですか。夫婦なんですから。」


今度は私が固まる番だ。

それができないからラナに聞いていると言うのに。明日、他の人に聞いてみよう。

ラナの意見は褒めるだけで何の参考にもならない。


もっと率直な意見を言ってくれそうな人に聞いてみなくては。


頭の中で誰に聞くのが1番参考になるのか……、この短い期間で知り合った少ない人脈からリストアップしながら、私は眠りについた。











「――で、君は何をしているのかな?」


翌日の昼。公爵様の執務室。壁ドン状態の私は逃げ場を失っていた。


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