お菓子の家は事故物件?
「いらっしゃいませ。当ファンタジー不動産は、ファンタジー世界の不動産を広く取り扱っております。お客様はどういったご用件でしょうか? 不動産売買、賃貸物件のご案内、あるいは賃貸物件のオーナー様のお手伝いなど、お引き受けさせていただきますが。」
目の前に座っている男は、いかにも如才ないといった風であった。
「あの、不動産売却をお願いしたいのですが。」
私は、要件を伝えた。
「売却でございますか。ええと、どちらの物件でしょうか? こちらの用紙に売却を希望される物件のご住所をご記入いただけますか?」
私は渡された用紙に、備え付けの羽ペンを使って住所を書き入れ、男に手渡した。
男は用紙を一瞥すると、申し訳なさそうな表情をした。
「こちらの物件は、なんと申しましょうか、所謂“事故物件”に該当しますね。申し上げにくいのですが……。」
「事故物件ってどういうことですか? 誰も死んじゃあいませんよ。まあ、大火傷は負いましたけどね。」
私は抗議した。そう、私は死んだりはしなかった。危うく、竈に閉じ込められそうになったが、間一髪逃げのびたのだ。しかし、あの忌々しい盗人兄妹が、家の中の財産を盗んでいってしまったので、すっかり備蓄が無くなってしまった。
もう、家を売るしか方法がなかったのだ。
「そうなのですか? しかし、幼い子どもが誘拐、監禁された現場でもあるようですし。虐待も疑われているんですよ。」
「冗談じゃありませんよ。不法侵入に器物損壊。こっちの方が訴えてやりたいくらいなのに。相手が子どもだから我慢したんだ。その上、私に大火傷を負わせて、盗みまで。こっちが入院せざるを得なかったのをいいことに、勝手に話を捻じ曲げて。弁護士費用さえ捻出できていたら……。」
私は悔しさのあまり、初対面の男の前でつい涙をこぼしてしまった。
「困りましたね。誰も死んでいないのなら“事故物件”には該当しませんし、普通に査定させていただきますが。」
「お願いします。もう、売ってお金に換えることができるものが他にないんです。入院費もまだ未払いでして……。」
結局、家の売却は、難しいということだった。
なので、家を解体して珍しいお菓子ということで、売りに出した。
世の中には、“お菓子の家”に浪漫を感じる人が大勢いたらしい。あの“お菓子の家”の一部というだけで評判を呼び即日完売となった。一部は、ネット上で転売されているらしい。
おかしなこともあるものである。