第49話その2
『『グラビティ・プレッシャー』!』
ラビッツが、右手をダブル・ジョーカーに向けた。すると、ダブル・ジョーカーの周りが更に陥没する。
この感じ、そして『グラビティ・プレッシャー』という名前からして、これは重力を操ってダブル・ジョーカーに負荷を与える技かな?さっき、飛んでいたダブル・ジョーカーを墜落させたのも、この技だし。
けど、ダブル・ジョーカーは少し頭を下げたくらいで気にせずラビッツに歩み寄る。
『貴様の技、『グラビティ・プレッシャー』は一定空間の重力を十倍にする技。その技で散々我を鍛えておいて、通じると思っているのか?』
ダブル・ジョーカーは、翼を羽ばたかせて十倍の重力をものともせずに飛び上がった。
元々、ダブル・ジョーカーとラビッツは仲間。その重力操作の技を使って、ラビッツがダブル・ジョーカーを鍛えていたらしい。つまりあれだな、ドラゴンボー……。
そうやって強くなって、バトル・ファイオーに勝てるまでになったんだから、意外とダブル・ジョーカーもストイックな戦士だ。そういうのを見ると、そのダブル・ジョーカーに強化されているだけの俺はちょっと情けないかも。ダブル・ジョーカーの力だけじゃない、自分自身の力も鍛えないと。
まあ、そうすると意識高いとか言われるんだろうけど……。
『ま、そうでしょうな!』
ラビッツは更に高度を上げると、ベルトの小瓶を一つ外した。よく見るとあの小瓶、色々な色の液体が中に入っているな。今取ったのは、オレンジ色の液体が入っている。
ラビッツは小瓶を軽く振ると、キャップを外して中の液体をゴクリと飲み干した。
ああ、あれ一応飲む物だったんだ。
『来るか!』
『はあ!』
ダブル・ジョーカーが、停止した。
そのダブル・ジョーカーの前には、体の色が黒からオレンジに変色したラビッツがいた。あの液体を飲んで、体の色が変わった!?
『オレンジ……、雷光か!』
『『デス・サンダーボルト』!!』
ラビッツが、全身から電撃を発生させた。そして、その電撃を集めてダブル・ジョーカーに向けて撃ち放つ。
あいつ、さっきは重力を操作してたのに、今度は電気を発生させたぞ!?もしかして、あいつ小瓶の中身を飲む事で体色を変えて、それによって使える力まで変わる能力を持っているのか!?
『ぬお!』
電撃はダブル・ジョーカーの右腕に当たり、右腕の皮膚を切り裂いた。ただ、それほど重症では無いようで、出血も軽微だ。
『それも散々受けたぞ!』
『ですな!』
再び接近しようとするダブル・ジョーカーに対して、ラビッツは別の小瓶を取り出して素早く飲んだ。
体色が、濃い紫に変わった。
『『マグネット・リフレクション』!!』
眼前に迫ったダブル・ジョーカーに、紫のラビッツが両手を差し出した。次の瞬間、ダブル・ジョーカーは弾かれるように飛ばされてしまう。それはまるで、磁石の同じ極同士が反発するかのような、反発力だ。
次は磁力か!?でも、ダブル・ジョーカーは磁石なんか持ってないんじゃ?
『ぐお!』
反発したダブル・ジョーカーは、今度は背中から地面に叩き付けられた。
『おのれ……。『デス・サンダーボルト』で、我に磁力を植え付けていたか』
お?さっきの電気の力の時に、ダブル・ジョーカーの体をN極だかS極だかに変えていたのか。それで、それと同じ極のエネルギーを放ったからダブル・ジョーカーが反発されて吹き飛ばされたって事か。
俺は理科が苦手だから、どうしてそんな事ができるのかよくわからないけど、できたんだからできるんだろう!
『だが、それも我を寄せ付けなくするだけの防御技。逃げ回っていた所で、勝てはせぬぞラビッツ』
ダブル・ジョーカーが、立ち上がった。地面に叩き付けられた程度なら、ダブル・ジョーカーにはたいしたダメージにはならないさ。
『おや?そういえば、この形態ではほとんど訓練をこなさなかったですな?この形態では、このような事もできるのですよ!『マグネット・リバース』!!』
ラビッツが、左手を開いてダブル・ジョーカーに向けた。
『ぬ?うおっ!?』
ダブル・ジョーカーが、今度は高速でラビッツの方に飛んだ。いや、あれは飛ばされたか。
次は、極を変えてダブル・ジョーカーを自分に引き寄せたのか!
『ち!この使い方もできたのか!?ぐお!』
高速で近付いたダブル・ジョーカーを、待ち構えていたラビッツのパンチが直撃する。
『おのれ!ぐ!』
ダブル・ジョーカーが反撃しようとしても、その攻撃が届く前に極が変更されてすっ飛ばされてしまう。
引き寄せられて殴られ、反撃しようにも反発で飛ばされる。それを、何度も繰り返す。
自分は攻撃を受けずに、確実にダブル・ジョーカーにダメージを与えていくその戦法。それは、確実で堅実な戦い方なんだろう。けど、さっき真正面からの殴り合いで派手に戦うダブル・ジョーカーとアクセル・スピーダーを見たからなぁ。
それに比べると、ラビッツの戦い方は地味というかショボい。まだ、爆発でバンバンやってたマホとミイナの方が見ごたえあったな。
ダブル・ジョーカーが、無人の家々をなぎ倒して地面に落下する。
『フフ、どうですかな?反撃もままならずに一方的に殴られる味は?』
ラビッツは、満足そうに尋ねてきた。
瓦礫をどけながら、ダブル・ジョーカーが立ち上がる。その表情は、なんだかつまらなさそうだ。
『何も?こんな事を続けても、我を倒すには百年はかかるぞ?』
ダブル・ジョーカーは、肩をすくめて答えた。
確かにダブル・ジョーカーは、殴られてはいたがはっきり言ってダメージを負っている様子は無かった。正直、アクセル・スピーダーとの殴り合いの方が血みどろでダメージを受けているようだった。
『では、百年続けてみましょうか!』
ラビッツが、再びダブル・ジョーカーを引き寄せる。
『いい加減、その芸も飽きたぞ!』
ダブル・ジョーカーは、自分が破壊した家の屋根の瓦礫を持ち上げると、ラビッツに向けて投げ飛ばした。その瓦礫は、引き寄せられるダブル・ジョーカーよりも速くラビッツに到達する。
『無駄な事を!』
ラビッツは、飛んできた瓦礫を片手でパンチして粉々に打ち砕いた。何だかんだで奴も魔竜族なので、瓦礫程度ではかすり傷一つ負わせる事はできない。
が、その一瞬でダブル・ジョーカーがラビッツの眼前に移動していた。
『何!?』
極が変更されるより前に、ダブル・ジョーカーの一撃がラビッツの顔面に炸裂した。
『グアッ!』
今度はラビッツが、家々を破壊して地面に叩き付けられる。
お前らさぁ、そんな簡単に家をなぎ倒していくなよ!戦いが終わった後、後片付けからの戦後復興が大変になるだろうが!
『引き寄せるのも結構だが、その動きに我が乗っかれば我のスピードがアップするだけだぞ。さすがに、引き寄せと反発を同時にはできまい?』
ダブル・ジョーカーが、少し小バカにしたように言う。
まあ、自動で引き寄せるという事は、移動エネルギーをダブル・ジョーカーに与えるって事だもんな。それにプラスして自分も移動すれば、スピードアップ!更に倍!って感じになるわけだ。
『所詮、「技」の貴様ではパワーが足りぬな。せめて、カスミほどの力を付けてから我に挑むのだったな』
ん?ラビッツは、魔竜四天王では「技」って言われていたのか。確か、アクセル・スピーダーが「速」だったから、自分を切り替える事で別の技を使えるラビッツには相応しい称号かもな。
ところで、カスミって?名前的に、女性?
『おのれ、王……!』
ラビッツが、立ち上がった。その顔は、今の一撃で口と鼻から血を流している。
『ふ、どうしたラビッツ?白の力は使わないのか?まあ、白の力は透視能力だから、戦闘ではまるで役に立たないだろうがな』
ダブル・ジョーカーの言葉を聞いて改めて見てみると、確かにラビッツのベルトには白い液体の小瓶もあった。あれを飲むと、透視能力が使えるようになるらしい。体は、多分白色になるんだろうな。透視能力って、レントゲン系?
ふむ、核に電気に重力、磁力。それがラビッツの力か。
……ん、あれ?ベルトの小瓶の中に、一つだけ今までとは違う色の液体が入った小瓶があるぞ?何て言うか、マーブル色というかマーブル模様?
『さすがは王ですな……。やはり、これを使わなければなりませんか』
ラビッツはそう言って、そのマーブル模様の小瓶をベルトから外した。
『?なんだ、その色は?そんな色の瓶は見た事が無いぞ!?』
その瓶の存在には、ダブル・ジョーカーも驚いていた。それはつまり、あの瓶をラビッツは生前には使っていなかったという事。
『当然でしょう。これは、ダークネスから戴いた「アルティメットエナジードリンク」!我が王ダークネスの力が詰まった最強のアイテムなのですから!』
ラビッツが、キャップを外しながら言い放った。
あれも、ミイナの爆弾羽根と同じダークネスから渡された追加装備か!サモンドスレイヴに装備を追加して送り出すとか、意外にマメだなダークネス。こっち側に対する嫌がらせだけは、忘れずにやるとか本当に嫌な奴だ!
ラビッツは、ダークネス瓶の中身を飲んだ。
『オオオオオ!』
カッと、ラビッツの体が一瞬光った。
『何!?』
光が消えた先にいたラビッツの体は、黒・白・オレンジ・紫の四色カラーになっていた。縦に四等分された、なんだかさっきまでが嘘のような派手なカラーリング。しかも、その体自体も二回りほど大きくなったムキムキマッチョになっている。
これ、俗に言うデュホニャララマッスルだ!
『まさか、四つの力を一つにしたのか!?』
『そうだ!今の我は、全てを超えたナンバーワンな存在!ビッグラビッツワンだ!』
吠えて、ラビッツが消えた。それは、モニターで見ている俺だけではなく、目の前にいるダブル・ジョーカーですら見失ったくらいだ。
『こちらだ』
ラビッツは、ダブル・ジョーカーの真後ろに現れた。
『何!?』
『ハァ!』
『がっ!』
ラビッツは両手を組んで、ダブル・ジョーカーの頭をぶん殴った。不意を突かれてそれを避けられなかったダブル・ジョーカーは、まともに食らってまた地面に叩き落とされてしまう。
が、落下した先の地面にはいつの間にかラビッツが先回りしていた。そのまま、落ちてきたダブル・ジョーカーを蹴り飛ばす。
『ぐあっ!』
今度は、横方向に飛ばされるダブル・ジョーカー。まだ無事だった家をなぎ倒しながら、地面を転がっていく。
『ぐはっ!』
五階建てのアパートの壁に当たって、ダブル・ジョーカーは停止した。
『バカな……。パワーもスピードも段違いに上がっているだと……』
『これが、我が王の力』
ダブル・ジョーカーの前に、両腕を組んだラビッツが降りてきた。
『ダークネスの力か……。さすがだな』
ダブル・ジョーカーが、ゆっくりと立ち上がる。その頭から、血が流れていた。今の攻撃で、ダブル・ジョーカーもダメージを被ったらしい。
『元王よ。我が望みの為に、ここで消えていただこう』
『そうはいかんな。我にはまだやらねばならぬ事、会わねばならぬ者がいる。その為に、ここで果てるわけにはいかぬのだ!』
戦闘体勢を整えるダブル・ジョーカーに、ラビッツも腕組みを解いた。
そうだ。俺は、いや俺達は真穂を探さなきゃいけない。その為に、この世界までやって来たんだ!こんな所で負けられないぜ、マホ!ダブル・ジョーカー!




