第48話その2
中学校は、王都の東北東のエリアに存在していた。グラウンドのすぐ横に池がある、少し変わった立地条件に建っている。
その中学校を攻めていたのは、上半身と言うか頭がピラニア・下半身が人間の男という逆人魚である海棲族『フリチェマーマン』だった。両手で銛を持って、二本足で迫ってくる。魚の頭をした人間の男が集団で進軍してくる様子は、かなり不気味だった。
ちなみに、女の人魚でよく言われる「マーメイド」なフリチェはいない。なぜわかるかというと、まあ人魚だからねえ……。魔フォーでサモンドスレイヴカードとして出た時も、マーメイドにしろとかなりのクレームが行ったらしいけど、結局イラスト変更も無く、「フリチェマーメイド」も出なかったな。
なお、フリーチェーンな効果は持ってない。むしろ、効果無い。
その『フリチェマーマン』通称フリーマンは、校門や壁を崩して学校の敷地内に入り込んでいた。それを、民が避難している校舎前水際で兵士達が食い止めている。フリーマンは海棲族なので陸に上がると多少弱体化するはずだけど、水辺周辺だと本来の力に戻るみたいだ。池が隣にあるここを攻めているのは、その為か。
「所詮海棲族!三枚に下ろすのよ!」
「『ウィンド・カッター』!」
ここの隊を指揮する隊長は、女性らしい。「風」属性の基本攻撃魔法である『ウィンド・カッター』で対抗している。
当然、フリーマンはそちらに向かって進軍していた。
そんなフリーマンの集団を、その後方からリゥムとヒナギが急襲した。
「マジカルアロー!」
「マジカルショット!」
「ギャグッ!?」
完全に不意を突いた急襲に、フリーマンは振り返る事すらできずに倒されていく。
「ギィ!」
「援軍!?」
「背中を向けたぞ!攻撃だ!」
フリーマンは単一的な思考しかできないのか、リゥムとヒナギが現れると全員がそちらに体を向けていた。それはつまり、今度は兵士達に背中を向けるという事。
次は、兵士達の攻撃が背中からフリーマンを撃破する。
すると当然のように、フリーマンはまた兵士側に体を向ける。半分はリゥムとヒナギの方を相手するという思考は、考えもつかないらしい。
結局、回れ右をし続けるだけのフリーマンは、その頼みの数も減らしていく。
「これなら、ここは大丈夫そうだね」
中学校の戦闘は、フリーマンが減った事で兵士達もフリーマンの背後へ回る事ができ、兵士達だけで挟み撃ちをする事ができるようになっていた。最初の襲撃で籠城するような形になったのが、戦闘が混沌化した原因だったのだろう。
「ですね。ただ……、あまり直視したくない敵さんです」
ヒナギが、赤面して視線をフリーマンからそらしていた。
「あはは……。ま、ね」
リゥムも、顔を赤くしている。
まあ、下半身人魚だからなぁ……。しかも、男。魔フォーのカードイラストだと、そこまでは見えなかったのに、現実じゃ存在してるんだから。
「なんだ、あれは!?」
兵士の誰かが、叫び声を上げていた。
「?何?」
「なんでしょう?」
二人は、兵士達が指差している方に視線を向けた。
そこには、ゆっくりと中学校に近付いて来ている竜巻があった。それは、明らかにラントボルの巻き起こしている竜巻。
「何だあれ、竜巻!?」
「なんで、こんな所で竜巻が起こってるんだ!?」
「こっちに近付いて来てないか!?」
家屋や巻き込まれた人、更には自軍のはずの魔物まで吹き飛ばしつつ移動する竜巻。
「あの竜巻……、あれは……」
「竜巻……。まさか、だよね……?」
ヒナギとリゥムは、顔を見合わせた。その顔が、青い。
二人はナード町出身だし、リゥムは父親を殺されているから、竜巻には敏感になっているようだ。竜巻を見て、クラの惨劇という事件を思い出したのだろう。
「……行ってみよう!」
「はい!」
二人は、竜巻の発生源に向かって駆け出した。
竜巻の根元では、メィムとブラックがラントボル相手に戦っていた。
『『ストリングス・ショット』!』
ブラックが、糸をラントボルに向けて飛ばす。しかし、糸は竜巻に巻き込まれてあらぬ方向へと流されてしまう。
『くっ!離れた状態からは僕の糸では捉えるのは無理か!』
遠距離からラントボルを捕まえようとするのは、糸使いのブラックには難しかった。かと言って下手に接近すれば、さっきのメィムのように飛ばされてしまうだけだ。
「『サンダー・グレネイド・シュート』!」
メィムは、光のレーザービームで対抗する。が、『サンダー・グレネイド・シュート』までもが竜巻に巻き込まれたのかひん曲がって明後日の方へと飛んでいく。
「なんで『サンダー・グレネイド・シュート』まで曲がんのよ!?」
『あれは厄介だね。あの風、物理攻撃はおろかある種のエネルギーも巻き込んでしまうみたいだ。それで、君の魔法もねじ曲げられたんだよ』
「な!?物理も魔法も届かないって、そんなのどうすれば……!?」
直接攻撃しようにも竜巻に巻かれて、遠距離から魔法で攻撃しようにも弾き返されてしまう。それでは、確かに打つ手が無い。
『さて、どうしたものかな……』
あのブラックが、非常に困った顔をしていた。
そこへやって来たのが、リゥムとヒナギ。
「凄い風です……!」
ヒナギは、髪とスカートを押さえていた。
「もう、なんなの!?」
リゥムも、マントと髪を押さえた。が、彼女の場合はスカートを押さえるのが一瞬遅れてしまったようで、スカートがめくれて下着が見えてしまう。
リゥムは、姉の短パンとは違って、白の生パンだった。
「白……!グッジョブよ、リゥム!」
そんなリゥムを見つけて、メィムはなぜか右手の親指を立てて爽やかな笑顔を浮かべていた。
お前……。双子の妹のパンツを見て興奮すんな、このシスコンめ!
『君達、マスターの仲間の!?』
ブラックが、リゥムとヒナギに近付いた。
「あ!あなたは……!?」
「トオノさんの、サモンドスレイヴさん?」
二人も、すぐにブラックに気付いた。この間、会ったばかりだからな。
「リゥム!ヒナギ!あんた達、どうしてここに!?」
正気に戻ったメィムも、合流する。
「お姉ちゃん!」
「わたし達も、戦いに来たんです!今は、逃げていても仕方ありませんから!」
「あんた達……。カナタがせっかく逃がしてあげたのに、怒られるわよ?」
メィムが、若干呆れたように笑って言った。
だから、今更俺は怒らないって。
その言葉に対して、リゥムとヒナギはうなずいた。
「うん、覚悟してる」
「どんな罰でも受けます。でも、今はじっとしていられないんです!」
二人の決意は、固い。
「そ。なら、いいんじゃない?まあ、あいつが二人に罰を与えるなんてできないと思うけどね。……それとも、二人としてはカナタにえっちなお仕置きをして欲しい感じ?」
いきなり、メィムが意地悪そうに言った。それを聞いて、二人は顔を真っ赤にする。
何を言い出すんだ、この女……。
「えぇ~!いや、そんな、えっちだなんて……。やぁ~ん」
「ト、トオノさんにえっちなお仕置きだなんて……!?いやあの、して欲しいか欲しくないかと言われますとそれは……」
真っ赤になってしどろもどろになりながら、それでもなんか嬉しそうな二人。何を考えているんだろう、この二人は……?
そして、嬉しそうなリゥムを見てちょっとダメージを受けてるっぽいメィム。だったら、そんなフリをぶっ込むなよ。
『君達!おしゃべりは後だ!奴が来る!』
『ギュルギュルー!』
ブラックが、三人に叫ぶ。それを聞いて、三人はハッとする。だから今は、戦いの真っ最中だっての!
「お姉ちゃん!あの竜巻、何!?」
「……あれは、『カゼタチイヌ』よ」
「!?『カゼタチイヌ』!?それは、まさかあれですか!?」
「そうよ。あたしらの父さんを殺して、ヒナギのお母さんのカエさんに重傷を負わせた、例のあいつよ!」
メィムの叫びに、愕然とした表情をして竜巻に顔を向ける二人。その視線の先、竜巻の中にクルクル回っているラントボルがいる。
そして、ヒナギの母親も重傷を負わされたって?例のクラの惨劇には、ヒナギの母親も巻き込まれていたのか?いや、まあ命が助かっただけまだ不幸中の幸いなのかもしれない。
「嘘……。なんで、こんな所に……?」
「あいつはダークネスの部下!ダークネス八武衆の一人とからしいの!」
「ダークネス!?そんな!それじゃあ、メィムちゃんとリゥムちゃんのお父さんが死んだのも、わたしのお母さんが酷い目にあったのも……!」
「ええ!全て、ダークネスのせいよ!」
色々な人、いや生物の運命を狂わせてきたんだろうな、ダークネス。やっぱり、許せないぜダークネスの野郎!
「あたし達で、倒しましょう!こいつを!」
「うん!お父さんの仇!」
「わたし達の二年間の想いを、ぶつけましょう!」
三人が、ラントボルと対峙する。これもまた、因縁の対決。
『なら、僕が全力でサポートしましょう』
その三人の前には、ハットを押さえながら立つブラック。頼むぜ、ブラック。三人をしっかりと守って、あいつを倒してくれよ!




