第48話
人間領国での戦いに、ダークネス八武衆と名乗るダークネスの隠し玉が投入されてきた。その正体は、なんとダークネスが召喚したサモンドスレイヴ。
おまけに、その八武衆の「光」を名乗るサモンドスレイヴはマホの、「地」を名乗るサモンドスレイヴはダブル・ジョーカーに因縁のある相手だった。まさか、知っていて投入したわけでもなかろうに、色々イラッと来るぜ!ダークネスの野郎!
八武衆だかなんだか知らないが、全部俺が倒してやるぜ!
「……あれ?終わりですか、カナタさん?なんだか、あっさりしてませんか?」
いや、だって。マホとダブル・ジョーカーがなんかシリアスやってて、あんまり茶化せる空気じゃないし……。
「確かにそうですね。カナタさんなんか結構お気楽極楽に救世主漫遊記しているのに」
えー?俺も、結構頑張って戦ってるよ?そりゃまあ、あんまり危機一髪とかサービスシーンとかには遭遇してないけど。
「まあ、カナタさんは強いですから。……では、サービスシーンとして一発、わたしが一肌脱ぎましょう!」
は?いや、ちょっと待った!一肌脱ぐって比喩表現であって、本当に脱ぐ事じゃないんだけど!?脱いじゃ駄目だって!
「だって、そうでもしないとわたしの出番が~!」
メタ発言やめー!
「次回も、サービスサービスゥ♪」
今からだから!
──・──・──・──・──・──・──
『オラ!』
サトシが、剣を伸ばしてくる。俺はその剣をかわすと、その剣身の上に飛び乗った。そのまま、剣身を走ってサトシに接近する。
『ほう!』
「ぬっ!?」
ニヤリと笑ったサトシは、剣を手放した。支えが無くなって、剣が落ちて俺もバランスを崩す。
『ハハァ!』
剣を捨てたサトシは、そのまま拳で殴りかかってきた。その拳を、『アゴ・ストーム・セイバー』を盾にして受ける。おかげでダメージは受けなかったものの、俺は吹っ飛ばされてしまう。
「くっ!」
俺が体勢を立て直して地面に着地すると、既に剣を拾い直したサトシが斬りかかってくる。
『オラァ!』
「ぬりゃぁ!」
サトシの剣を、『アゴ・ストーム・セイバー』で受ける。
鍔迫り合いになって、俺達の動きが止まった。
『やるじゃねえか!救世主って名前は伊達じゃねえみたいだな!嬉しいぜ!』
「くだらねえ事で喜んでんじゃねえ!」
戦いがいがあるから喜ぶとか、迷惑にもほどがあるわ!
「てめえ、八武衆とか言ったな!?」
『あん?それがどうしたよ?』
「八武衆っつうんだから、八人いるんだよな!?この王都に、八人全員いるのか!?」
既に、こいつ含めて三人の存在を確認している。そんな奴らがあと五人もいたら、さすがにヤバい状況だ。
『ああ、心配すんな。半分は、機械んとこに行ってんよ!まあ、俺一人でも十分過ぎるんだがよ!』
!半分は、鉱石領国を攻めに行ってるって事か!?という事は、八武衆があと一人王都の中にいるって事だな!
「残り一人はどこだ!?」
『あーん?知るかよ。ガキのお守りなんざ、俺の仕事じゃねえ。他の連中なら、どっかその辺ブラブラしてんだろうよ』
こいつら、連携する気は無しか。一人で単独行動しているなら、いくらサモンドスレイヴでもなんとかできるかもしれないな。天使とドラゴンはマホとダブル・ジョーカーが相手しているし、こいつは俺が倒すのみ!
「なら、まずはてめえをぶち倒す!」
『アハハハハ!いいぞいいぞ!もっと力を出せよ、救世主!俺を、もっともっと楽しませてくれよ!』
サトシが、剣を振り払った。その力に押されて、俺はまた吹き飛ばされてしまう。単純な力では、あいつの方が上か!
あと、こうポンポン飛ばされるってのは、ちょっと体重が軽いか?確かに、平均よりは軽いって身体測定の時に言われてはいたんだよな。
周りの家屋を破壊しながら、サトシが迫ってくる。
「てめえ!いちいち周りの家を壊してんじゃねえ!復興するのが大変だろうが!」
『生き残ってから考えろや!』
「け!だったら、てめえを倒してから考えるよ!」
『ぬかせ!』
再び、真正面から激突する。
てめえは、俺がこの手でまっさらタウンに強制送還してやるよ!
上空モニターから見える、王都の一部。そこに、小規模な竜巻が発生していた。
その竜巻の近くには、メィムとブラックが移動して来ていた。
『『ストリングス・ヘブンズ』!』
ブラックは、クマベアーを群れをバラバラに解体した。
「さすがは、サモンドスレイヴね。並みの獣じゃ相手にならないわね」
メィムも、『フレア・メテオ』でクマベアーを蹴散らしていた。さすがメィム、大きなクマベアー相手でも簡単に倒していっている。懸賞金稼ぎで生計を立ててたのは、伊達じゃないな。
『それはそうさ。本気になった僕に、たかが獣や鉱石連中ごときが勝てるわけ……ん?』
二人が立っている場所に、風が吹き込んできた。
『ん?なんだ、この風……?』
「って言うか、あれって竜巻!?」
メィムやブラックの視界にも、近付いてくる竜巻が映った。明らかにその竜巻は、二人の方へと近付いている。
そして、その竜巻にはその辺で戦っていたであろう兵士達や、クマベアー・ハヤト・『スケルントン』などの魔物まで巻き込まれて吹き飛ばされている。
『なんだい、ありゃ?自然現象?敵も味方も巻き込まれているよ?』
「つうか、あの竜巻こっちに来るんだけど!?」
竜巻は、進行方向にある家々を破壊しながら、二人のいる方向へ進んでいる。
『ギュルギュルー!』
竜巻の中から、何者かの声がする。
『なんだ!?』
竜巻が、二人の前に到達した。
その竜巻の中に、一つの影があった。上半身は、顔を含めて鼬が直立したかのような毛に覆われていた姿。そして、下半身は見えない代わりに、目に見えるほどの風が渦巻いている。この渦巻いている風が、竜巻を生み出しているようだ。
『なんだ、あれは!?下半身が竜巻になったイタチか!?』
ブラックが、ハットを風に飛ばされないように押さえる。
そういえば、『カマイタチング』のカードが普通に通じていたけど、鼬はこの世界でもイタチって名前なんだな。でも、鎌鼬って名前のイタチはいるのだろうか?
そのブラックの後ろで、メィムが愕然とした様子で目を見開いていた。
「……『カゼタチイヌ』?」
メィムが、小さくつぶやいた。
え?まさかメィム、あのよくわからないイタチモドキを知っているのか?
「……『カゼタチイヌ』!!!」
メィムは、そのイタチモドキに向かって叫んだ。その声にあるのは、怒り。メィムは怒って……いや、激昂していた。
『ギュル?なぜ、オイラの名前を知っているでギュルか?』
メィムの声を聞いて、イタチモドキが顔を向けた。と言うか、普通にしゃべれたのかこいつ。
「うわあぁっ!」
だが、メィムはその質問には答えず、イタチモドキに殴りかかっていた。
いや、確かにメィムは好戦的だけど、あんな何も考えずに突っ込んでいく奴じゃないはずだぞ!?何があった!?
『ちょ、マドモアゼル!?』
メィムの行動は、ブラックにも予想外だったようだ。突然すぎて、ブラックも止められない。
『なんだギュル?』
イタチモドキは、下半身にまとった風を上半身にまで上げた。
「ぐっ!」
風に阻まれて、メィムの拳はイタチモドキまで届かなかった。
『飛んでけギュルー!』
「!きゃあぁぁ!」
竜巻に巻かれて、メィムは上空へ吹き飛ばされた。10メートル近く吹き上げられて、あのまま落下したらかなりヤバいぞ!
『『ストリングス・ネット』!』
ブラックが、メィムの落下地点に糸でネットを作り出した。
「きゃ!」
ブラックのネットが、メィムをハンモックのように受け止めた。
「ブ、ブラック!?あ、ありがとう。助かったわ!」
ハンモックから降りて、メィムはブラックの隣に立つ。
『礼には及ばないけど、どうしたんだい急に?突然冷静さを失ったみたいだけど、あの変な奴の事知っているの?』
「……あいつは、通称『カゼタチイヌ』。正式名称は、知らない。あいつは二年前、ナード町を襲って死者百人を出した「クラの惨劇」を起こした生物なの」
メィムが、憎悪に満ちた目をイタチモドキに向けながら説明する。
ナード町って、ウィステリア姉妹とヒナギの実家のある町だよな?そこで死者百人を出した惨劇を、そこにいるイタチモドキがやったと?
しかも、二年前って確か……。
『クラの惨劇……?』
「……あたしとリゥム。あたし達姉妹の父さんは、あいつに殺されたのよ!」
メィムが、悔しげに叫ぶ。
メィムとリゥムの父親は、二年前に死んだと言っていた。それは、事故とか病気とかではなくて、あの謎のイタチモドキに殺されたというのか!?
そんな奴が、どうして今この王都にいるんだ!?
『あーん?なんの事ギュルー?』
メィムの叫びが聞こえたのだろう、イタチモドキがメィムを冷たい目で見下ろした。
「二年前、あんたが……!」
『そんな事、もう覚えてないギュル。それよりお前?』
イタチモドキは、二人の父親を殺した事をざっくり切り捨てた。それに憤慨するメィムを尻目に、イタチモドキはブラックを指差す。
『?僕?』
『そうギュル。お前、サモンドスレイヴだギュルね?』
『……ああ、そうだね。それが?』
『お前、オイラの主のサモンドスレイヴに鞍替えしないギュルか?』
イタチモドキが、いきなりブラックに意味不明なスカウトをかけてきた。
ちょっと待てぇ!ブラックは、俺のサモンドスレイヴだ!俺のいない所で、勝手に勧誘するんじゃねえ!
『……あんたの主って、今言ったね?もしかして、君もサモンドスレイヴなのかな?』
『そうだギュルよ』
ブラックの質問を、イタチモドキがあっさりと肯定する。
この変なイタチモドキも、サモンドスレイヴなのかよ!てか、こんな『カゼタチイヌ』?とか言う名前のサモンドスレイヴなんて、俺は知らないぞ?
という事は、もしかしてこいつは……。
『誰だい?君の主って?』
目を細めて、ブラックが尋ねる。ただ、その言葉には確信めいた物が感じられて、多分ブラックはなんとなくは予想しているみたいだな。
『ダークネス様だギュルよ。オイラは、ダークネス様のサモンドスレイヴ。ダークネス八武衆「風」のラントボルギュル!』
なぜかクルクル回りながら、そのイタチモドキが名乗った。
やはり、こいつがダークネス八武衆の一人か!「闇」、「光」、「地」、「風」。この四体が、今王都に攻め込んで来ているダークネス八武衆の全てなんだな。
ちょっと、待てよ?ダークネス八武衆が半分ずつ二国に攻めてるって事は、ダークネスは一度にサモンドスレイヴを八体召喚しているって事だよな?俺の倍の能力持ちか、ダークネス!?ムチャクチャな奴だとは思ったけど、ついに魔フォーのルールまで超えるのか。
「『カゼタチイヌ』が、ダークネスのサモンドスレイヴですって!?」
メィムが、声を上げていた。
まさか、父親を殺したのがダークネスのサモンドスレイヴだなんて、そんな事予想するわけないわな、そりゃ。
ダークネスのサモンドスレイヴがバトル・ファイオーが始まる前から荒らし回っているって事は、こいつを含めてダークネス達はバトル・ファイオーの為だけにこの世界に発生してくるわけじゃなくて、普段からどこかに存在して何食わぬ顔で生きているって事かよ。
どこまで迷惑な存在だ、ダークネス!
「つまり、父さんはダークネスのせいで……!」
『ダークネスの軍門に下るなんて、死んでもありえないね。僕がダークネスにとって変わるという話だったら、考えてあげてもいいけどね?』
『ム。ならいいギュル。この人間領国と一緒に、片付けてやるギュル!』
イタチモドキ、ラントボルはあっさりとブラックの勧誘を諦めた。と言うよりも、ブラックにダークネスをdisられて怒ったような感じだ。あんなんでも、一応サモンドスレイヴには尊敬されているのか、ダークネス。
まあ、今俺の目の前にいるサトシには、尊敬とかはされてないんじゃないかな?なんとなくだけどな。
「おい、サトシ!お前は、ダークネスを尊敬してるのか!?」
サトシの剣を弾きながら、せっかくなので聞いてみた。
『あ?いきなりなんだ?大将を尊敬だ?大将は、力は強いが頭はバカだぞ?尊敬する所なんかあるか!』
うわー、サトシはバッサリだよ。
そしてまあ、案の定バカだよなあいつ。その点は、納得だ。
『ギュルギュルギュルー!』
ラントボルが、再び巨大竜巻を巻き起こし始めた。
「父さんの仇!」
『冷静になってね、マドモアゼル。その上で、一緒にこいつをぶち倒そう』
「当然よ!」
ラントボルが、周りの家々や木々を巻き上げながら、二人に迫る。




