第47話
ミチヨさんの歌声が、王都中に響く。
味方全体にバフ効果を与える全体能力持ちとか、なんて凄い能力持ちなんだろうかミチヨさん。しかも、魔札道具を使わない個別能力らしいし、なんて凄い人なんだろう。
ヤバいなぁ……。君のこと、好きになりそう。
「わたしは娘ですから、十年も経てばわたしだってあんな風に育ちますよ?」
いや、胸だけの話じゃないんだけど……。
うん、だから十年後期待してる。
「むぅ……。だったら、カナタさんがいじり回して育てて下さい。お母様がああである以上、わたしのポテンシャルは相当だと思うのですよ?」
でも、揉んだら大きくなるって言うのは都市伝説だと聞いたよ?
「どなたにですか?」
真穂。
「マホさん?確かにその、マホさんはアレですが……」
あ、噛み合ってない。まあ、いいか。
とにかく、そういう事だから育つのは時間に任せて。
「でも、やってみないとわからないじゃないですか!うぅ、ここはお母様の言葉をお借りします!」
ミチヨさんの言葉?
「わたしの胸を、揉めえぇぇぇ!」
変な事を叫ばないで、トモヨちゃん!熱気込めすぎ!
──・──・──・──・──・──・──
遊園地は、ジェットコースターとかの絶叫系の無い所を除くと、向こうの世界とそれほど変わらなかった。こっちの世界でなんて言うのかは知らないけど、コーヒーカップやメリーゴーランド、大きな観覧車もある。なんか回るアトラクションが多めなのは、魔法で回しているからかな。勅命カードの『うずまき』とか、それっぽいな。
あと、船は普通の存在なのか船同士で戦うウォーターアトラクションなんかもあった。
そして、遊園地の半分は植物園と動物園まで併設されていた。一ヶ所で遊んで、動物も見れて珍しい植物まで楽しめる、休日は混みそうな場所だ。
そこは今、『アークライト・デーモン』やハヤトの他、大きな樹木が独立して動き出した植物系獣生族の『ウッディー・タイイ』の群れに襲われていた。
市民はかなり逃げ出しているようだけど、兵士の部隊がなぜか魔物の群れと一進一退の攻防を続けている。
「うがっ!」
兵士の一人が、ウッディーの蔦に首を巻かれて持ち上げられる。相手は、3メートルはある巨木。兵士の足が、地面から浮く。
そこへ、俺が割って入ってその蔦を切り裂いた。
「うはっ!」
「撤退するんだ!ここで戦っても意味は無いだろう!?」
見た限り、この遊園地の市民の避難は順調に進んでいるみたいで、周りには逃げ遅れている市民の姿は見られない。戦力は明らかに敵の方が多いので、この場で戦う意味は薄い。ここは、死守するべき防衛ラインでは無いはずだ。
「だ、誰だ君は!?」
ここの部隊には、力比べを見ていた兵士はいないらしい。
「救世主!」
ウッディーを蹴り飛ばしながら、それだけ名乗る。もはや、姓が「キュウ」名前が「セイシュ」に改名してもいいくらいだな。
「き、君が噂の……」
「げほっ!だ、駄目だ!まだ、撤退するわけにはいかないんだ!」
さっき蔦から助けた兵士が、喉を押さえながら叫んだ。
「?どうして?」
「この先の植物園に、取り残されている人々がいるらしいのだ!それを、見捨てるわけにはいかない!」
別の兵士が、叫んだ。
なるほど、逃げ遅れの人はまだいたのか。それなら、撤退するわけにはいかないな。
「わかった、道をこじ開ける!兵士さん達は、救出に向かってくれ!」
「こ、こじ開けるってどうやって……!?」
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』を両手で構えた。
マンション塔での戦いから今までで、すっかり魔力のコントロールというか扱いにも慣れてきた。おかげで、移動する間に剣に魔力を溜める事もできたぜ。
その溜めた魔力を、『バンシューティング・ギャレン』の時の要領で撃ち放つ!
「俺の必殺技、その3!『ストーム・セイバー・スラッシュ』!!」
俺は、大上段から一気に剣を振り下ろした。次の瞬間、光の波動になった魔力の奔流が魔物の群れを吹き飛ばす!
「おぉう……」
「す、凄い!」
「これが、救世主か!」
一気に放出した魔力は、魔物の群れを一瞬で消滅させた。ただ、一緒に後ろにあったアトラクションも吹き飛ばしてしまったんだけど、これは知らない振りをしておこう。
修理代とか賠償金とかは、ダークネスに請求してくれ!
そして、今の一撃で『アゴ・ストーム・セイバー』に溜めていた魔力は一気にすっからかんになった事も感じられる。また魔力を溜め直さないと、今の必殺技は使えないみたいだ。連発は、無理か。
「とにかく、兵士さん達は植物園に!次が来る!」
吹き飛ばしたのとは別方向から、魔物の群れがこちらに近付いてきていた。俺は、魔力を溜めつつこれを迎撃する為に飛び出す。
「かたじけない!」
「了解です!」
兵士達が、開いた道を進軍して植物園へと救出に向かう。
よく考えたら、さっきの必殺技方向を間違えてたら植物園消し飛ばしてた可能性があったな。広範囲で強力な技だったけど、使い時はちゃんと見極めないと。これからは、ちゃんと色々確認してから使おう。
取り残されていた人々を救出して、兵士達は後退をする。
俺も、ここを死守する意味は無いので適当に魔物を掃討して遊園地を離れた。だいぶ北上してきたので、このままメィムやブラックに向かわせていた裏門の方へ行ってみようと思う。
「ぎゃあぁぁ!」
進んでいた道の先で家が粉々に吹き飛んで、何人もの兵士達は飛ばされてきた。
「!おい!」
俺は、慌てて駆け寄る。
「!!」
そこの兵士達は、ほとんどが死んでいた。腹から上下真っ二つになっている者、頭が無くなっている者、左右分けられてしまっている者……。
「あ……あ……」
かろうじて呻いている兵士に、駆け寄った。ただ、この兵士も既に右半身を失っている。これは、もうどうしようもないだろう。
「な、何があった!?」
「に……、人間が……」
「人間?」
「人間が……、人間を殺し……」
それだけ言って、その兵士は力尽きた。
人間が、人間を殺している?それは、一体?
『おいおい、もう終わりか?』
「!?」
さっき吹き飛んだ家の瓦礫を踏み越えて、一人の人間が現れた。その人間は、黒い禍々しい鎧をまとった白髪の男で、3メートルはあろうかという赤黒い大きくて長い剣のような物体を抱えていた。と言うか、あれってとんでもなく長い刃を持った、ありえないほどの長い大剣みたいだ。それを、片手で持ってる?
『おっと、別の奴がいたか。つっても、貧弱そうだし一瞬ですり潰して終わりか』
つまらなさそうに言ったその男は、大剣を横一文字に振り払った。
男との距離は、ざっと5メートル。普通なら、届かない距離で剣を振って何をしてんだ?と思う所だけど、俺は嫌な予感がして『アゴ・ストーム・セイバー』を縦に構えた。
次の瞬間、突然伸びた男の大剣が俺を襲った。
なんとか『アゴ・ストーム・セイバー』を盾にしたものの、その力に俺は吹っ飛ばされてしまう。
「くっ!」
体勢を入れ換えて、叩き付きられそうになった壁を蹴ってなんとか地面に着地する。
『おぉ?今の一撃を防ぐか?なかなか、やるじゃねえか』
男は、今の一撃を俺が凌いだ事で、ニヤリと笑っていた。その顔は、獲物を見つけた狩人のようなSっ気に満ちた笑み。
「いきなり何をする!?お前、人間じゃないのか!?」
外から見る限り、あの男は人間にしか見えない。
『あん?ああ、種族で言えば人間か、俺は?』
男の返答は、なぜか疑問形だった。
「人間が、なんで人間を攻撃する!?そこの兵士達を殺したのも、お前だろう!?」
『ああ、そうだな。殺す、というのも馬鹿馬鹿しくなるくらい、弱すぎて話にならんレベルの連中だったがよ』
「だから、なんでそんな事をする!?今がどういう状況だか、わかっているのか!?」
『状況?ああ、バトル・ファイオー中だって事か?関係ねえな。俺が殺したいから殺す。それ以上の理由なんざいらねえだろ?』
男は、平然と言い切った。
こいつ、俗に言う快楽殺人者か?人間だからそんなのがいても不思議ではないけど、よりにもよってこの一大事にんな事やってる場合じゃねえだろ!
「何のつもりでんな事やってるのか知らないけど、今はそんな事している場合じゃねえだろ!この首都を落とされたら、お前も含めて人間全てが死ぬんだぞ!?」
俺の言葉を、男は鼻で笑った。何を笑う?
『ああ、人間は絶滅するな。まあ、俺には関係ねえがな』
「関係無いって……。人間であれば誰であろうと、例外無く殺されるんだぞ?それは、お前だって一緒だろう?」
『人間だったら、だろう?なら、サモンドスレイヴの俺には何の関係も無いな!』
男が、堂々と言い放った。
な!?あの男、サモンドスレイヴなのか!?どこかの誰かが召喚したサモンドスレイヴが、人間を殺す為に王都の中を荒らし回っているっていうのか!?
「サモンドスレイヴだと!?お前のマスターは、誰だ!?お前が人間を攻撃するのは、そのマスターの命令か!?」
俺が聞くと、男は大剣を肩に担いだ。
『人間を殺すのは、俺の趣味だ』
「趣味、だと……!?」
『ああ。だが、俺の大将も皆殺しにしてこいと送り出したな』
「……!どこのどいつだ、そのマスターは!?」
男は、これ以上無いというほどに唇の端を上げて、ゲスな笑顔を浮かべた。
『……ダークネス』
男が、静かに言った。それは、闇の開く音。
「なん……だと……?」
『俺は、ダークネスの召喚したサモンドスレイヴの一人!ダークネス八武衆・「闇」のサトシ!人間どもを闇へと引きずり込む、闇の使徒だ!!』
闇のサトシと名乗ったその男が、高らかに宣言して笑い出した。
ダークネスが召喚したサモンドスレイヴで、しかもダークネス八武衆だと!?そんな存在が、ダークネスの神王軍にはいたのか!?
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』を握り直した。
こいつは、ここで俺が何とかしないと。こいつに対抗できるのは、王都では俺のサモンドスレイヴ達かアクセル・スピーダーくらいだろう。サモンドスレイヴ相手じゃ、普通の兵士達じゃ束になっても敵わない。だからと言って、誰も持ち場を簡単に離れられるような状況じゃない。
『おう、小僧。せっかくだから、名前を名乗っていけ。俺が今までに殺した、9982人の中に入れといてやるよ』
あいつ、殺した人間の数をカウントしてるのかよ。どっちにしても、こいつを他所に行かせない為には、いい機会だ。
「俺の名は、人間領国の救世主カナタ・トオノ!てめえのそのカウンター、俺がここで止めてやるよ!」
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』を構えて名乗りを上げた。これだけ言い切れば、こいつも標的を俺に定めるだろう。
『なんだぁ?救世主?は、おもしれえ寝言ほざく奴がいんじゃあねえか。おう、フルネーム名乗ったんだから俺も名乗っといてやるよ。俺はサトシ・セングラだ。この名を呪いながら死んでいけ』
変な所で律儀な奴だ。
さて、こんな奴魔フォーのカードにいたかな?




