第46話その2
───それは、V2ホッパーには映っていない光景。
ダークネスの蓮の花の一つが、王都に落下した。その蓮の花が開き、中から影が四つ姿を現す。
『祭の場所はここかぁ?』
長い棒のような物を背負っている影が、一番に王都に降り立ってつぶやいた。
『そうギュルね!ギュルギュルー!』
なぜか埃を巻き上げながら、別の影が答える。この影は、空中に浮いているようだ。
『埃を撒き散らすのをやめていただけませんか?』
次に現れた影が、呆れたように言った。その声は、女性の声に聞こえる。
『どうでもいい。さっさと終わらせるぞ』
最後の影、四つ目の影だけは他三つよりも大きな影だった。
『ああ、行こうじゃねえか』
『ギュルギュルー!』
『どうして、これと一緒に……』
『……ん?この感覚は?』
一番大きな影が、立ち止まった。
『どうしましたギュル?』
『すまんが、我は好きにさせてもらう』
一番大きな影は、巨大な翼を広げると勝手に飛び立ってしまった。
『!?これは……!』
更に、女性もビクッとなって足を止めた。
『あん?好きにするだと?俺達は最初からそのつもりだろうが』
『……そうね。だから、私も好き勝手させてもらうわね?』
女性の影も、翼を広げてどこかへ飛んでいってしまった。
『……行ってしまったギュル』
『てめえも、行っていいぞ?』
棒持ち影が、浮かんでいる影に言った。
『好きに暴れてこい。と言うか、俺の獲物を奪うんじゃねえぞ?そんな事したら、てめえも殺すからな?』
棒持ちの影が、ドスの利いた声で脅す。
『ギュルギュルー』
浮いている影も、棒持ちの影とは反対方向へ移動していく。
こうして、四つの影が王都に放たれた。───
ミチヨさんの歌は、三曲目に突入していた。
もはやライヴ会場になってるじゃん、王都……。しかも、兵士達だけじゃなく避難民まで興奮して叫んでいるほど。
まあ、さすがにバリアの外に飛び出してくるようなバカがいないのは助かるけど。そんなバカは、いくらなんでも守りきれん。
「……ふう」
ハヤトを一体真っ二つにして、一息つく。
しかしこいつら、どんだけいるんだよ?相当数破壊したのに、まだまだ湧いて出てくるぞ?ダークネス軍、脅威のメカニズムって感じ。
「『閃光のアローショット』!」
突然、飛んできた光が縦に並んだ三体のハヤトの頭を撃ち抜いた。
見ると、公園に増援が到着したようだった。ユギカザさんが指示していた、公園に回す部隊かな。
そして、その中には確かに四十七士がいた。
一人は、弓使いのリンゴ・ハリスン。さっきの光は、このリンゴ・ハリスンが放った矢のようだ。『閃光のアローショット』とか聞こえたから、それが矢を発生させる魔法のカードだな。多分召し物カードの事だろうけど、カード効果は割愛!
隣にいる四十七士は、半袖に半ズボンという変な格好の男。黒髪で、髪が後ろに尖っている不思議な髪型でもある。いや、手にサッカーボールを持っているからもしかしてサッカー選手?そういや、観客席でも浮いてたわ。
この男は確か、ズーカー領の領主タケシ・ロベルトの四十七士のウイング・スカイだったかな。ただ、観客の噂話でもどんな力かはわからなかったんだよな。
「四十七士の人ー!こいつらは腹のコアを狙って!コアを破壊しないと、こいつらは動き続けるから!」
俺は、四十七士に大声で忠告する。実際、今頭を射抜いたハヤトは止まる事無く前進してきている。
「ほう。本当に救世主だな。なるほど、コアを既に割り出していたのか」
「なら、早速攻撃しよう!チョクメイ発動!『ドライブ・シュシュシュシュート』!」
ウイング・スカイは、勅命カードをサッカーボールに組み込んで発動させた。
と言うか、あのサッカーボールが魔札道具なのか!?
勅命カード『ドライブシュシュシュシュート』は、魔フォーのカード効果は相手の場のサモンドスレイヴに四回攻撃する勅命だな。ただ、相手にサモンドスレイヴがいないとその攻撃がなぜか自分に飛んでくる変なカードだけど。
ウイング・スカイは、サッカーボールを地面に置くとハヤトに向けてシュートした。サッカーボールはドライブ回転がかかって山なりにハヤトの集団に飛んでいき、直前で四つに分裂する。
四つのボールが四体のハヤトの腹に命中して爆発、ハヤトを吹き飛ばした。ハヤトを吹き飛ばした後は、ボールは一つに戻ってウイングの所に戻ってくる。
「さすが、ブリリリーグのエース!」
とりあえず、この世界にはサッカー(みたいな)競技があって、ウイング・スカイはそこの選手でもあるのね?よくわかんないけど、まあそこはトモヨちゃんにでも聞けば教えてもらえるだろう。
ただ、一つ……。ブリリリーグって、あんまりいい印象が無い言葉なんだけど。なんか、トイレ臭がする気が……。
<注:ブリリリーグとは、ブリリアント・リーグの略称でカナタさんの考えるような意味は全くありません(解説:トモヨ・リードギルフ)>
援軍が到着して、敵とのパワーバランスはこっち側有利に傾いた。もう、一般兵士の方々でもハヤトを圧倒し始めている。
そのせいか、四十七士の二人が俺の方に寄ってきた。
「よう。お前さんが、救世主だな?俺は、四十七士のリンゴ・ハリスンだ」
「活躍は、色々聞いてるよ?僕は、ウイング・スカイ。よろしく」
初対面なんだけど、二人とも気さくに声をかけてくるな。と言うか、まだ戦闘中なんだけどもう全然気にしてない。まあ、もはやミサイルも飛んでこなくなったので問題は無さそうだけど。
「どうも、カナタ・トオノです。まあ、一応救世主っぽい事をやらせてもらってます」
「ぽいって、十分やってると聞いたぞ?ここも敵に壊滅的ダメージを与えたらしいし、あと中央病院も救ったらしいじゃないか?」
「四十七士序列二位の勇者をコテンパンにしただけでも、凄いしね」
あの勇者って、四十七士の中での序列二位なのか。この人ら勇者が召喚士だという事は知らなかったみたいだから、アクセル・スピーダーを出さずに序列二位にまで成り上がったって事だよな?案外サモンドスレイヴ無しでも強いのか、あれ。
「勇者、序列二位なんですか。一位は誰なんですか?」
「一位はハンドレッド君だ」
あの100トンハンマーのマッチョか。
「ハンドレッド氏は、スピードとパワーを兼ね備えているのでなかなかポイントを取れないんだよね」
「まあ、それ以前にその序列は力比べの結果なのだがな。身体能力の高い者はともかく、俺やウイング君のように魔札道具を武器として使用する者はどうしてもな」
リンゴ・ハリスンは、肩をすくめた。
「ああ、なるほど」
力比べの結果じゃ、メインの武器を奪われちゃ武器持ちの人は困るわな。力比べでは、武器はあのゴム剣に統一されるから。
「だからまあ、ここだけの話……。お前さんが勇者をボコボコにしてくれて、正直スカッとしたぜ」
小声で、リンゴ・ハリスンが耳打ちしてくる。その顔は本当に嬉しそうで、本当に心からスカッとしているみたいだ。
「ハリスンさん、アダル氏にボコられてましたからね……」
「あの野郎、ちっとも手加減しやがらねえんだよ!目上の者を、ちょっとは労れっていうんだよ!」
「あ、あはは……」
憤慨するリンゴ・ハリスンに、俺とウイング・スカイは苦笑する。
味方のヘイトまで集めてどうするんだ、勇者よ……。
援軍のおかげでハヤトの軍団はだいぶ減り、ここの戦闘も小康状態になってきた。この分なら、敵に大規模な増援でも来ない限りここは大丈夫かな?
「カナタよ。ここは、俺とウイング君が常駐して警護する。お前さんは、悪いがここから北上して王都の西北西にある遊園地を目指してくれないか?」
「遊園地、ですか?」
王都の中にも、遊園地という施設はあるんだ?電気が無いけど、どんなアトラクションを設置しているんだろう。
「そこにも多数の隕石が落下していて、大混乱になっているらしいんだ。今日は遊園地が開いた後にバトル・ファイオーが始まったので、逃げ遅れた市民も大勢いると報告があったんだよ」
「俺とウイング君はそこへ向かう途中、王からの伝令でこっちに回ったんだ」
なるほど。それで、一番近くにいたと。
「わかりました!すぐに向かいます!」
俺は、頭の中の地図とモニターを検索しながらその場を離れる。
「頼むぞ、救世主カナタ!」
「頼むよ、救世主君!うわ、速い……」
「あっという間に見えなくなったな。お前さんのチームに欲しいんじゃないか、あいつ?」
「いやー、むしろゲームバランスが崩れてしまうので、参加は遠慮するかと」
「ああ、それもあるか。一人で何点も取りそうだな」
この力のまま向こうの世界に戻ったら、俺オリンピックで金メダルとか取れそうだな。いやまあ、金メダルとか別にいらんけど。
「とにかく、ダッシュ!」
俺は、速度を上げる。
次の目的地は、遊園地だ。




