第46話
なあ、ダブル・ジョーカー。ちょっと聞きたい事があるんだがいいか?
『ん?構わぬが……。ここで君の方から話しかけてくるのは珍しいな?』
ちょっと、気になってさ。
この世界って性質上ゲームでは使い捨ての勅命カードとかも、捨て場に送られずに発動状態のままじゃん?それで、その効果をもう一度使う事ができるみたいじゃん?実際、アクセル・スピーダーも単発の『竜の咆哮』を何度も使い回してるし。メィムとかも、サンダー魔法を撃ちまくってるし。
『うむ。そうなっているな。それで?』
そうなると、本当はダブル・ジョーカーも『エクストリーム・ジョーカー・フルバースト』を何回も使えるんじゃないのか?前回も今回も、一回使ったらその後使っている様子が無さそうなんだけど?
『ああ、あれな……。正直、何回も連続して使いたくはないのだよ。一回なら、まだ問題無いのだが』
?なんでだよ?
『……はっきり言って、使うと口の中が痛くなるのだよ、あの技は!』
はあ?それだけ?天下のダブル・ジョーカーが、たかが口が痛くなるだけで使わないって?たったそれだけで、全体破壊効果を使わないって言うのか!?
『それだけと言うが、口の中の荒れ方は尋常ではないのだぞ!昔、荒れすぎて同時に九つの口内炎が発生したほどなのだ!』
ひっ!同時に九つ、だと?なんて、地獄……!
『あれは、本当に地獄だった……』
ダブル・ジョーカーをも叩きのめす、恐ろしい敵口内炎……。
いい加減な事を言って済まなかったな、ダブル・ジョーカー。
『わかってくれればよい。……ところで、アバンが明らかにオーバーしているぞ?』
あ、マジだ。
よし、本編開始だ!インド人を右に!
『スーパーウリアッ上!』
──・──・──・──・──・──・──
ミチヨさんの歌声が、王都中に響き渡った。
『あん?なんだ、この歌は?』
桃浦が、バラバラにした『アークライト・デーモン』の残骸を蹴り飛ばしていた。そこへ、聴こえてくる歌声。
「ああ!こいつは、母上の歌だ!」
ロキヒノが、『スケルントン』を粉々にして火葬しながら、桃浦に声をかける。当たり前だけど、ロキヒノにはそれが誰の歌なのかすぐにわかったようだ。
『へえ。お前の母親なのか』
「ああ。母上は父上と結婚する前は舞台女優をやってたらしくてな。こんな感じで、歌を歌うのが得意なんだよ」
ミチヨさん、舞台女優をしていたのか。だから、あんなに堂々と歌えるんだな。声もいいから、まさに適役って感じ。
『ほうー。だが、こりゃなんだ?聴いていると、力がみなぎってくる感じがするぞ?』
「ああ。理由はよくわかんねえけど、母上の歌はなぜか聴いてると強くなった気がするんだよな!桃浦も感じるのか!」
ロキヒノも、当然その事は知っているのか。ただ、その理由まではわかっていないようだな。まあ、歌声に魔力が宿っているなんて目では見えないから、普通はわからないよな。それを感知できる、サモンドスレイヴの方が特別なんだろう。
『は!いいな!どういう事かはわからんが、俺様も力ギンギン燃え上がってるぜ!まだまだ、戦えるぞ!』
あー、桃浦は大雑把そうだから、歌声の魔力とか気付かないわな。「んな事どうでもいいから戦うぞ!」、とさっさと切り替えるタイプだ。
「おうよ!まだまだ、敵はわんさかいるからな!いくらでも戦えるぜ!」
ロキヒノも、戦う気満々。すっかり、似た者コンビに……。
『行くぞ!最初から最後までチョコたっぷりだ!』
「おっしゃあ!熱血ファイヤーだ!」
倍以上の体躯を持つ魔物も、二人で次々と倒していく赤いあいつら。逃がさないぜ?
ブラックの糸が、五体の『プリズマンガン』をがんじがらめにして締め付けていた。周りの建物、柱、折れて突き刺さった槍などの物を使って、そこら中に糸を張り巡らせているようだ。
『消えるといいよ、塵も残さずにね』
ブラックが、指を鳴らした。すると糸が更に締まり、そのまま『プリズマンガン』をバラバラに分解してしまう。
そして、大爆発を起こして四散する『プリズマンガン』。
『ふ。……ん?この歌は?』
そこへ、聴こえてくるミチヨさんの歌。
「ローリング『フレア・メテオ』!」
メィムが、ローラーブーツで回転しながら周りの『プリズマンガン』に『フレア・メテオ』を放つ。その直撃を受けて、次々に吹き飛んでいく『プリズマンガン』の群れ。
「ん?この声って、もしかして王妃様?」
メィムは、その声の主に気付いたようだ。
『あれ?この歌って、この国の王妃様の歌なのかい?』
「え?ええ、多分」
『へえ。声に魔力を乗せて飛ばしているよ。面白い事してるなぁ』
ブラックの方は、ちゃんと魔力に気付いたか。
「そうなの?声に魔力を乗せるなんて、そんな事ができるの?」
『実際やってるからできるんだろうね。僕には、できないけどね。こんな、味方なら無差別に強化してしまうなんてとんでもない芸当は』
ブラックは、肩をすくめた。
魔王族のブラックにもできないと言わしめる事をできるなんて、本当に凄いんだなミチヨさん。これは、舞台で培った物なのか天性の物か?どっちにしても、さすがはトモヨちゃんのお母さんだ。
こうなると、ますますあの子の力が気になるなぁ。
「味方を強化?……確かに、なんかさっきから力が湧いてきてる気がする。でも、無差別なのこれ?」
『僕も今、そんな感じなんだよね。でも、魔王族の僕まで強化するなんて、ちょっとやり過ぎじゃないかな?』
「何言ってんのよ?あんた、魔王族じゃないでしょ?」
メィムは呆れたように笑うと、ブラックに背を向けて次の『プリズマンガン』を倒しに行く。
『え?でも……』
「あんた、魔王族である前にカナタのサモンドスレイヴなんでしょ?だったら、強化されるの当たり前じゃない!胸を張って、強化されてなさい!」
メィムが、言い切る。
確かに、魔王族である前に俺のサモンドスレイヴだと言ったのは、お前だぞブラック。だから、お前は味方でいいのだ!
しばらくポカンとしていたブラックは、ややあって苦笑した。
『やれやれ、そうだねえ……』
ブラックは、ハットを目深に被って『プリズマンガン』に向き合った。
『それじゃあ、遠慮なく恩恵にあずかるとしましょう。……そして、ダークネス軍には死の制裁を!』
「我らは、負傷者を後退させる!お嬢ちゃん達は、避難所になっている中学校へ向かってくれないか!?」
「わかりました!」
「はい!」
ネズミを倒したリゥムとヒナギは、負傷者を収容させる為にコロシアムへと後退する兵士達と別れ、避難所になっている中学校へと向かっていた。
その途中で聴こえてくるミチヨさんの歌に、二人は足を止める。
「何?歌が聴こえるよ?」
「この声は……、王妃様でしょうか?」
「ああ、そうだね!トモヨちゃんのお母さんだ!」
二人は、しばらく歌声に聴き入る。
「なんか、意外と激しい?」
「ですね。ただ……、不思議と心の中が熱くなってくる気がします」
ヒナギは、自分の胸に手を置いて不思議そうに自分の体を見下ろしていた。
さすがに、この二人じゃ歌声に魔力が宿っていて、自分の能力を強化しているなんて事はわかるわけはないよな。俺も、ダブル・ジョーカー達の会話を見てなかったら絶対わからねえもん。
「ヒナギちゃんも?私も、そんな感じする。なんか、不思議だね?」
「はい。なんなんでしょう?」
「う~ん?」
二人して、首を捻る。
いや、お二人さん?今、戦場の真っ只中ですよ?
「そういえば、トモヨちゃんのお母さんと言えば……。トモヨちゃんがトオノくんと結婚して、そのトオノくんと私達が結婚した場合ってトモヨちゃんのお母さんって私達にとってはどんな立場に当たるんだろうね?」
あ、なんか脱線した。
「どうなのでしょうか?その場合、私達はトオノさんと結婚したわけでして、トモヨちゃんと結婚したわけではないですから、お養母さんにはならないはずですよね?」
「だよね?遠い親戚?血の繋がりは全く無いから、ホント~に遠くなるけど」
「でも、あの王妃様だと「お養母さん」と呼んで欲しいとか言いそうですね」
「あ~、言いそう言いそう!」
なぜか、変に盛り上がっている二人。
しかし、本気でヒナギまで例のハーレム参加に前向きなのかよ。いやまあ、やけに持ち上げてくるなぁとは思ってたんだけど、そういう意味で上げてたのか?一体いつから?そもそも、なんで俺?
「……ねえ、ヒナギちゃん。ヒナギちゃんも、トオノくんの事を好きなんだよね?」
リゥムが、ヒナギにズバリと切り込んだ。
これは、俺が聞いていい会話なのだろうか?正直、できれば聞かなかった事にする難聴系の主人公になりたいんだけど、逆に地獄耳系主人公になってるやん!
「……はい。最初は、凄い人だな~と思っていてずっと見ていて。そしたら、いつの間にか寝ても覚めてもトオノさんの事ばかり考えるようになってまして……」
驚きが崇拝になって、更に変わっていった感じ?
これ、聞かれてるなんて絶対夢にも思ってないよな。なんか酷い事してるよ、俺。でも、やめられない止まらない!
「何より、トオノさん優しいですし……」
「そうだよね。私、あんまり男の子と仲良くした事無いから、優しくされて助けてもらって凄く嬉しかった。カッコいいし優しいし……。私も、好き」
二人は、顔を見合わせて微笑み合った。
こんな話をしていて、ギスギスしないのか、二人は。なんか、変わった二人だな。
「それじゃあ、二人でトモヨちゃんのお話に乗りましょう」
「そうだね~!……それにしても、トモヨちゃんってなんか大人だよね?あの子、私よりも大人かもしれない」
「不思議な子ですよね……?きっとわたしよりも大人ですよ」
二人の話は、トモヨちゃんの話題に移る。
その点に関しては、俺も同意だ。正直、俺よりも大人じゃないかと思う時すらあるからな。あの子、強すぎるわ。
「なんとなく、結婚したらトモヨちゃんが一番上になりそう」
「正妻、でしょうか?まあ、わたしはトオノさんと一緒にいられるなら別に……」
「私もそう思う。ヒナギちゃんと一緒にいられるのも、嬉しい」
「わたしもです」
仲いいな、この二人。この性格同士じゃ、ギスギスしないか。
いやいや違う違う。それは、なんかおかしいだろうお前ら。まだ、会って一週間だぞ?そりゃ世の中には一目惚れとか吊り橋効果とかあるけど、やっぱりなんか欠けてるだろ!
ちょっと頭、冷やそうか(真顔指差し)。
「でも、リゥムちゃん?メィムちゃんは……?」
「あ~、うん。お姉ちゃんはね……」
リゥムは、視線を逸らした。
あれ?このリゥムの態度、もしかしてメィムの想いに気付いてる?
「お姉ちゃんは見た所トオノくんに興味無さそうだし、わたしはお姉ちゃんの事は好きだけどあくまでお姉ちゃんだから……」
あちゃー、リゥムはそっち方面ではメィムに脈無しかぁ。メィム自身は、すっかりやる気満々なのに。
意外に、リゥムも察知してたんだな。まあ、ここ一週間だけでも結構頻繁にキスを迫ったりしてたから、あの調子で毎回迫られたら気付くか。
「大変ですね」
「まあ……、仕方ないんだけどね。お姉ちゃんにも、誰か他に好きな人でもできればいいんだけどね」
ため息混じりに、リゥムがつぶやく。ただ、この言葉には若干諦めが混ざっているようにも聞こえる。
そして、メィムは俺には興味無いんだな。……うん、それが正常だ。
「て言うか、こんな事してる場合じゃなかった!」
「あ、そうでした!急いで中学校に向かわないと!」
二人は目的を思い出して、再び走り出す。
戦場のど真ん中で、棒立ちでそんな話をしてたらあかんよ、二人とも。そういうのは、せめて平和な時にやろう?あと、俺がいない所で!
……とにかく、向こうが言ってくるまでは、知らない振りをしておこう。




