第45話その2
城内の様子を見ている内に、俺は西運動公園とやらに着いた。
そこは、本当に日本でよく見るような運動公園だった。広い公園に敷かれているランニングコース、何かのスポーツを行う為の競技場。多分、休みの日には家族連れとかで賑わうような場所だろう。
そこは、今や無残に蹂躙された戦場と化していた。
避難民は、競技場に集結して震えている。兵士達は競技場を光子のドームで囲って、魔物と戦いを繰り広げていた。
ここを襲っていたのは、上半身が人型で下半身が戦車のキャタピラーになっている鉱石族だった。両腕はミサイルランチャーになっている、俗に言うガ○タンク。
それは、鉱石族の『クラッカー・タンク』。攻撃より、守備の方が高いガードタイプの鉱石族だった。ちなみに、魔フォーでの愛称は「ハヤト」。まあほら、形が凄くそれっぽいからねぇ……。
ハヤトは、両腕のミサイルランチャーから大量のミサイルを発射する。ミサイルはバリアに弾かれて爆発するが、その度に震動と爆発音が派手に響く。
「きゃあー!」
避難民が、悲鳴を上げる。
「「「「「チョクメイ!『ハイビーム』!」」」」」
兵士達が、『ハイビーム』を一体に集中させて攻撃する。その攻撃がヒットして、そのハヤトの右半身を吹き飛した。が、半身を失ってもハヤトは構わず前進を続ける。
鉱石族は、コアを破壊しないと延々動き続けるからな。
「くそぉ!駄目だ!」
「足だ!足を狙え!」
別の兵士達が、ハヤトのキャタピラーを狙って攻撃する。狙いは的中して、キャタピラーを破壊されたハヤトは動けなくなった。
が、そもそもハヤトは移動する砲台。動けなくなっただけでは攻撃能力は奪えず、移動にエネルギーを使わなくなった分、更に攻撃が苛烈になってしまう。
爆発が連続して起こり、公園その物が揺れる。
「やぁー!助けて、救世主様ー!」
誰かの助けを呼ぶ声が、公園に響いた。
「はあっ!」
俺はその戦場に乱入して、一体のハヤトを縦一文字に真っ二つにした。縦一文字真っ二つになってはさすがに持ちこたえられなかったのか、ハヤトは大爆発を起こして四散した。
「あ、あれは!?」
「見た事あるぞ!?」
「俺の名はカナタ・トオノ!救世主だ!」
側のハヤトを同じように縦一文字にして、俺は名乗りを上げる。
救世主の噂が市民にまで浸透しているなら、人々を安心させる為にも使ってやるよ!救世主って言葉をな!
「そうだ!救世主様だ!」
「きゅ、救世主様が来てくれた!」
俺は、ハヤトに飛びかかる。
こいつら、真っ二つにしたら吹き飛んだって事は、コアは体の中心線上に存在するって事だよな?
「うりゃ!」
とりあえず、頭を落として破壊してみる。けど、ハヤトは構わず前進を続ける。そうなると、この形で怪しいのは……。
「V2ホッパー射出!」
俺は、ハヤトの腹にV2ホッパーを押し付けて発射した。V2ホッパーの衛星が至近距離で爆発し、腹に風穴を空ける。
次の瞬間、ハヤトが大爆発を起こした。
ビンゴ!こいつらのコアは、腹か!
「魔法で腹を狙うんだ!こいつらのコアは腹だ!そこを叩けば、こいつらは自壊する!」
俺は、兵士達に大声で伝えた。数が多過ぎて、俺一人では全てを倒すなんて不可能だからな。兵士達にも、反撃してもらわないと。
「そ、そうだったのか!?」
「それで、何体かは倒せていたのか!」
なぜか、ポンと両手を打っている兵士がいた。
いや、倒せていたならちゃんと分析しろよ?闇雲に攻撃して、倒せたらラッキー!みたいな戦い方じゃ、すぐ死ぬぞ?はわわ~でもあわわ~でもいいから、軍師を付けろ。
「攻撃は、腹を狙え!撃て!」
兵士達が、反撃を開始する。
王城に飛来する、『カッター・ツムリ・ドラゴン』。一部はダブル・ジョーカーやマホが倒していったけど、二人が学校の防衛に回った為に新たに攻めてくる敵までは対処できていない。
王城並びに避難所のコロシアムは、多数の衛兵が連携して『光子のバリア』を展開して、それを周りの衛兵がガードする通常スタイルの布陣を敷いていた。
なんで、自分を中にして展開できないんだろうな、あれ?
「『サンダー・グレネイド・シュート』!」
城の一番外の側の外壁の上に集まっている衛兵達が、魔法で『カッター・ツムリ・ドラゴン』を迎撃していた。中には、メィムと同じ『サンダー・グレネイド・シュート』を使っている人もいるや。
まあ、メィムって普通の懸賞金稼ぎでしかないから、世界で一枚しかないとかいうレベルのカードを持っているはずがないんだよな。メィムが持っているカードを他の人が持っていても、別段不思議じゃない。
王城の北・東・西側の敵は、衛兵達が迎撃中。
そして、正面を守るは空を飛ぶ信号機、『アクセル・スピーダー・ドラゴン』!ちなみに、彼の基本色は「赤」なので、そこから先には進めないぞ?赤は、「止まれ」だ。
『ダークネスに与する、裏切者どもよ!この勇者のサモンドスレイヴ!更に、救世主カナタ・トオノに力を与えられた『アクセル・スピーダー・ドラゴン』が、魔竜四天王の名において貴様達を成敗する!』
アクセル・スピーダーが、名乗りを上げて『カッター・ツムリ・ドラゴン』の大群を迎え撃つ。
おや、アクセル・スピーダー?啖呵はカッコいいんだけど、そこはさすがに勇者くんの名前を出してあげよう?さっきのそれを知らない人が聞いたら、多分十中八九俺の名前しか記憶に残らないと思うんだ。
『消えろ!』
アクセル・スピーダーの雄叫びと共に、前方にいた一体の『カッター・ツムリ・ドラゴン』が破裂するように吹き飛んだ。
もしかして、今のは『竜の咆哮』の魔法効果?
『音波で敵一体を確実に破壊するとは、便利な効果だ『竜の咆哮』。欠点は、カナタといる時でないと使えない事くらいか。せっかくの機会だ!この戦いの間だけでも、存分に使わせてもらうぞ!』
アクセル・スピーダーは、スロットルレバーを引き抜くと『カッター・ツムリ・ドラゴン』を次々と葬っていく。翼を引き千切り、スロットルレバーで心臓を一突きにし、雄叫びで破裂させる。
『『マキシマム・アクセル・グランドツアー』!!』
更に、風の玉で三、四匹まとめて吹き飛ばす。
さすがは、魔竜四天王と呼ばれてただけはある。同じドラゴンでも、雑魚じゃ相手にもならないな。
「さすがは、強力なサモンドスレイヴだ!」
「救世主様に力をもらって、更に強くなったらしいぞ!?」
「つまり、これほどまでに強くなったのは救世主様のおかげか!?」
「さすがは、救世主様!」
ああ、なぜかここでわけのわからないAGEが入った……。違う、そうじゃない!あくまでそれは、アクセル・スピーダーの力だよ!俺が何かしなくても、アクセル・スピーダーは強いんだよ!
あと、アクセル・スピーダーが戦ってんだからせめて応援にくらいは来いよ、勇者!一緒に戦え、とは言わねえよ?でもさぁ、せめて側に来て応援するくらいは、マスターとしての最低限の義務だぞ!
だから、お前は駄目なんだよ。
『ん?』
その時、王城のど真ん中にある塔のドーム状の屋根が突然開き始めた。
「あれは?」
ハヤトを一体破壊しながら、俺は脳内の視点を切り替える。見ると、その天井を開いているシステムは手動でレバーを回しているな。
「チョクメイ発動!『引っ越キネシス』!」
次に、何人かの兵士が勅命カード『引っ越キネシス』で何かを持ち上げている。それは、かなりデカい物体だ。
そうして開いたドームから現れたのが、大きな円形ステージだった。円形ステージは、鉄のボルトで固定される。
そこは、まさにステージとしか言えない場所だった。まるで宝塚のような階段セットが奥にあって、サーチライトみたいな照明で照らしている。
このサーチライト、何かと思ったら『迫真の発光』の魔法を中に組み込んだ魔札道具らしい。『迫真の発光』専用の魔札道具、のような感じ。まあ、電気がなぜか無い人間領国だから生まれた、魔法式サーチライトか。
電気が無いのも、鉱石族のせいなんだろうな……。
『なんだ、あれは?ん?アダル?』
アクセル・スピーダーが、勇者がそこにいる事に気付いた。
「ストッパー!戦ってくれていたのか!?」
なぜか、驚いている勇者。自分のサモンドスレイヴの動向くらい、ちゃんと把握しとけ?
『お前を含め、人間を滅ぼさせるわけにはいかないからな』
「おお!勇者のサモンドスレイヴも戦ってくれていたか!」
「これは、心強い」
階段セットの所に、評議会メンバーが並んでいた。
あー、歌番組の観客というか番協だな、あれは。ミュージックなんたら、ってヤツだ。
「ナモト発動!『ヴェール・シールド』!」
衛兵達が、防御魔法を展開していた。そういえば、ステージは王城としては最も高い位置に存在していて、そのせいで『光子のバリア』より外に出ちゃっているな。中から外に出るのは問題無いのか、あれ。
戦場に出る、というのはそういう事なのな。
階段の所には、ユギカザさんやトモヨちゃん、ノオトくんが控えていた。勇者は、そことは少し離れた位置に、剣を抜いて待機している。また、勇者とは反対側にはなぜかタキシード姿の衛兵が何人かマイクを持って立っているけど、こっちはコーラス?
そして、ステージにミチヨさんが上がった。その手には、マイク。完全に、大物歌手が歌い始める時の雰囲気だ。
「ミチヨ、頼むぞ」
「はい」
ミチヨさんは、ゆっくりとマイクを口元に持っていった。その静かな仕草、優雅な物腰。これは、オペラとかそんな感じの歌を歌うんだろうか?
ミチヨさんが、息を吸った。そして、
「私の歌を、聴けえぇぇぇー!」
吠えた。
「……へ?」
「チョクメイ発動!『吹き込みマッスル』!」
タキシードの衛兵達が、構えたマイクの前で勅命カードを発動させた。すると、そのカードから音楽が流れてくる。
うーんと、『吹き込みマッスル』ってどんな効果のカードだったかな?この感じだと、魔法の効果は音楽を鳴らす効果かな?と言っても元の音楽が無いのに音楽を鳴らせるとも思えないし、演奏した音楽を録音して再生する事ができる魔法かもな。
マッスルは、なんだ?
「♪~♪」
ミチヨさんが歌い出した歌は、バリバリのロックチューンな盛り上がり曲だった。普段のミチヨさんからは、全く想像できない曲調だ。
ん?どっかで聞いた事があるような?えたーなるぶれ……、いや空耳だな。
「こ、この曲は……!」
ミチヨさんの歌は、王城から結構離れた運動公園にまで届いていた。それどころか、この感じだと王都全土に響いてるんじゃないだろうか。
「これは、王妃様の歌だ!」
「ふつくしい……」
「綺麗な声……」
避難民達は、ミチヨさんの声に酔いしれていた。
だが、ハヤトと戦う兵士達の反応は、それとは少し違っていた。
「うおー、みなぎるぞ!」
「我らには、救世主様と王妃様がついているぞ!一気に叩き潰せ!」
「力が!力が湧いてくる!!」
「ぬおー!」
兵士達が、ミチヨさんの歌を聞いて高揚していた。そして、その勢いのままハヤトの軍団に攻撃を仕掛ける。
兵士達の攻撃が、明らかにさっきまでより上がっていた。士気が上がった、なんてレベルじゃなくて物理的に威力が上がっている。
『この声、王妃様?』
ミチヨさんの声は、マホとダブル・ジョーカーの所にも届いていた。
『ほう。この歌声、魔力を帯びているな』
ダブル・ジョーカーが、意外そうにつぶやく。
え、ミチヨさんの声が魔力を帯びている?どういう事だ?
『あ、ホントね。これは……、味方を鼓舞する魔力?』
『どうやらそのようだな。この歌声を聞いた味方陣営の士気を向上させ、能力自体にもバフ効果を与える。そういう歌声みたいだな』
マホとダブル・ジョーカーが、ミチヨさんの声を分析する。
まさか、ミチヨさんの歌声にそんな効果が!?いや、確かにこの歌声を聞いて俺も気分が上がってるというか、力が湧き上がってくる気がする。
『驚いた。普段しゃべってた時には、そんな魔力は感じなかったのに』
『これが「歌声」である以上、恐らくは歌う時にのみ発動する特殊能力なのであろう。実際、我も気付かなかったしな』
ダブル・ジョーカーが、推測する。
多分、ダブル・ジョーカーの推測は当たっているんだろうな。普段話している時は、綺麗な声だとは思うけど、今のような力が湧き上がるような感覚は無い。それが、歌を歌う時にだけ発揮される。
ミチヨさんって、何か歌を歌う仕事でもしてた?
『でしょうね。で、当然わたし達も味方認定されてるってわけよね』
『うむ。なかなか、面白い感覚だ。歌声に鼓舞されて、力が湧いてくるというのは』
ダブル・ジョーカーが、拳を握った。どうやら、マホもダブル・ジョーカーも味方陣営と認識されて、ミチヨさんの歌声バフを受けているらしい。
『神王軍よ!いくらでも来るがいい!全て蹴散らしてくれよう!』
『わたし達の満足は、まだまだこれからよ!!』
二人が、更なる力を発揮した。
そして、俺もな!
「一台残らず、ぶっ壊してやるぜ!ここが、てめえらの終着点だ!」




