第43話その2
「きゃあ~!」
V2ホッパーの映像が捉えた、一つの戦場。
「逃げろー!」
「助けて~!」
「撃て撃て!ここで食い止めるんだ!」
「チョクメイ、『ハイビーム』!」
逃げ惑う市民、杖や剣・槍などの魔札道具で光のビーム光線を放つ兵士達。
使っている勅命カードは、『ハイビーム』。光タイプのカードで、その効果は『ファイヤーボール』と同じ。一般兵に行き渡らせないといけないからなのか知らないけど、もう少し威力の高い魔法を渡しておいた方がよかったんじゃないだろうか?
まあ、二百四十八年に一度の戦いだから、真剣に用意できていなかったのかもしれないな。
彼らの戦う先には、キラキラ輝く水晶の体をした、水晶の怪物。あれは確か、魔フォーのカードにあった鉱石族の『プリズマンガン』。腕の先や足の先、肩や頭の上までそこら中が針のように尖った、いかにも危険な鉱石族だ。
この『プリズマンガン』には、光の魔法は素通りしてしまっていた。水晶には、光の魔法は完全に無効化されるらしい。
「駄目だ!光タイプは効かない!別のタイプを使え!」
「『ファイヤーボール』!」
兵士達は別のタイプの魔法を放つが、『プリズマンガン』は両腕の針で蹴散らしてしまう。あの『プリズマンガン』、魔法攻撃に対して滅法強いみたいだ。
「ぐわあ!」
侵攻した『プリズマンガン』の腕の針に、兵士達が貫かれていく。
くそ!こうもあちこちで戦闘されていては、さすがに全ての人間を守るなんてできねえ!
「邪魔だ!」
目の前に立ちはだかったクマベアーを、さっさと片付けて先へ進む。こっちはこっちで、敵を蹴散らしていくしかない。
「きゃあ!」
『プリズマンガン』に襲われていた戦場で、逃げ遅れた女の子が地面に転んでいた。
「!メイ!」
女の子の母親っぽい女性が、慌てて女の子に駆け寄る。だが、そのすぐ側の家の壁を突き破って、新たな『プリズマンガン』が現れる。
それは、最悪のタイミング。
「あ……」
親子を認識した『プリズマンガン』が、両腕の針を振るって二人に襲いかかった。
「「きゃあー!!」」
親子は、悲鳴を上げるしかできなかった。
ところが、次の瞬間その親子の姿が消え、『プリズマンガン』の針は空振った。
「……?」
『はぁい。大丈夫ですか?』
親子は、空を飛んでいた。というか、ブラックが二人を抱えて飛んでいた。
あの攻撃の一瞬、ブラックが割って入って親子を助け出したのだ。その辺をサラッとこなしてしまうのが、さすがブラック!伊達男!
「あ、あなたは……?」
呆然としている親子を、ブラックは地面に下ろしてやる。
『気にしないで?それより、早く逃げるといいよ。コロシアムに、避難所が用意されているはずだからね。そこの兵隊さん達も、後退するべきだよー』
ブラックが、『プリズマンガン』の群れに向き合う。
と、その横をローラーダッシュでメィムが抜けて、『プリズマンガン』に向かっていった。彼女は、その勢いのままジャンプして、『プリズマンガン』の顔面目掛けて膝蹴りを食らわせる。
蹴りと同時にドリルが回転し、『プリズマンガン』の顔面を穿ち、ひび割れさせた。
「『フレア・メテオ』!」
ドリルを抜いたメィムは、『プリズマンガン』の体を蹴って飛び上がり、勅命カードの『フレア・メテオ』を食らわせる。『プリズマンガン』に光魔法が効かない事を察知して、炎タイプの『フレア・メテオ』に変えていたらしい。
グレート・バリアリーフ戦でリゥムから渡されたあのカード、結局そのままメィムが持つ事にしたんだな。
炎の玉を穴の空いた顔面に受けた『プリズマンガン』は、その炎に体内まで浸食されたのか粉々に爆発した。
「兵士のみなさんは、市民の人達を安全な場所に!」
メィムが、ブラックの隣まで戻ってくる。
「……ま、魔王族?」
ブラックに助けられた母親が、信じられない物を見るかのような目で、呆然とつぶやいていた。
魔フォーの設定では、魔王族と人間族は敵対状態にあるとなっていた。魔王族は人間族を基本見下して、平気で殺そうとしてくる。
どうやら、あの様子を見る限りそれはこの世界でも同じらしい。
ブラックは、翼と尻尾を見れば魔王族なのは一目瞭然だからな。ただ、助けてくれた相手をそういう目で見るのはどうよ?
『心配しないで?僕は、「魔王族じゃない」から』
「え?でも……」
『僕は魔王族である前に!救世主、カナタ・トオノのサモンドスレイヴ!!『ゲン・ムレイザー』!我がマスター、カナタ・トオノの名において!この人間領国を守ってみせよう!!』
ブラックが、胸を張って堂々と宣言する。
あの飄々とした態度のブラックが、ここまで熱い姿を見せてくれるなんて、マスター冥利に尽きるぜ!
「あたしは、救世主カナタ・トオノの仲間、メィム・ウィステリア!人間だとか魔王だとか関係無く、共に救世主を信じる仲間として、一緒に戦うわ!」
メィムも、高らかに宣言する。
救世主の存在と、人間であるメィムが信じた事。これにより、周りの人達もブラックの事を信じる気になったらしい。
「助けてくれてありがとう、魔王のおにーちゃん」
ブラックが助けた女の子が、笑顔で礼を言った。そんな女の子の様子に、ブラックもメィムも小さく微笑む。
『……さあ。安全な場所に逃げるんだよ、マドモアゼル』
「うん!」
「……あ、ありがとうございました!」
母親も頭を下げて、親子は逃げていく。市民も続いて避難し、兵士達が護衛していく。
「……さて。カッコいい事言ってみたけど、結構相手いるわね」
メィムは、ため息をついて正面を向いた。その視線の先には、一定の歩行速度を保って侵攻してくる『プリズマンガン』の群れ。
「少しは、頼りにしてもいいのかしら、『ゲン・ムレイザー』さん?」
『マスターと同じで、本名のブラックでどうぞ。……もちろん、じゃんじゃん頼ってもらって構いませんよ、マドモアゼル』
「あの小さい女の子と同じ呼ばれ方するのはあれだけど……。一応魔王族だし戦うのは魔法主体?」
『マドモアゼルは、お嬢さんという意味だから……。いいや。実は、僕は物理の方が得意なんだ』
そう言ってブラックは、両手を左右に広げた。その手の先に、何かキラキラした物が見える。よぅく目を凝らさないと見えない、それは糸?
どうやら、ブラックは糸?鋼線?使いのようだ。
「へえ。頼りになりそうね」
『もちろん!……さあ、お前達?僕の糸に、釣ってあげるよ?魂まで、バラバラにしてあげよう』
ブラックが、ニヤリと笑う。その笑みは、酷薄なサディスティックな表情。
「行くわよ!ブラック!」
メィムとブラックが、『プリズマンガン』の群れに立ち向かう。
脳内モニターの隅。
そこに、城内へ入るユギカザさんやミチヨさん、評議会メンバーと衛兵達が映っている。そして、トモヨちゃんと彼女を護衛してきたリゥムとヒナギもいる。
「城内に入ったから、後は大丈夫だよねトモヨちゃん?」
「衛兵のみなさんもたくさんいますし」
リゥムとヒナギが、笑顔でトモヨちゃんに言っていた。
というか、何を確認してるんだ?とりあえず、王城がこの王都で一番安全な場所だという事は、わざわざ確認するまでもないだろうに。
「……行きますか、お二人とも?」
若干困ったような微笑みを浮かべて、トモヨちゃんが二人に尋ねる。
え?行くって、二人ともまさか!?
「……うん。みんな、戦っているから私達も行かなきゃ」
そう言って、リゥムはまだ折り畳まれたままの『イージスの盾』を示す。まさかあの二人、城から出て戦場に飛び込むつもりか!?
「その為の力を、もらいましたから」
ヒナギが、『バンシューティング・ギャレン』をさすりながら微笑む。
いやいや、待て待て?お前達は、トモヨちゃんと一緒に王城の中に避難しろって言ったはずだぞ?武器も、あくまでもしもの時の護身用として渡しただけであって、それで戦いに行けとやったつもりはない。
「カナタさんは、怒るかもしれませんよ?」
「かもしれないね。でも、じっとしてられないんだ」
「わたし達は、「共に戦う」仲間です。みなさんが戦っているのを、ただ待っている事なんてできません」
リゥムとヒナギは、顔を見合わせてうなずいた。
……そうか。二人は、一緒に戦う仲間だよな。守らなきゃならない、お姫様じゃない。やるべき事は、安全な場所に逃がす事じゃなくて、一緒に戦おうと言ってその手を取る事だったんだな。
うーん、反省。
「……はい。そのお二人の覚悟を聞けば、きっとカナタさんも怒らないでしょう。戦いの世界に入ってはいけない、半端な気持ちじゃないとわかるでしょうから」
確かに、二人の覚悟は本物みたいだな。
「怒られたら、わたしに言って下さい。お二人の覚悟、一晩かけてカナタさんに納得させてみせますから」
「あはは、うん」
「その時は是非、お力を貸して下さい」
二人の覚悟を知った以上、もう怒れねえって。むしろ、メィムに俺が怒られそうだけど、そこはリゥムに取りなしてもらおう。
「それじゃあ、私達行くね!」
「トモヨちゃんは、城の安全な所にいて下さいね?」
「はい。お二人とも、十分気を付けて下さい。特にリゥムさんには、わたしとマホさんが作るカナタさんハーレムに是非入っていただかないといけないですから」
笑顔で、相変わらずわけのわからない事を言うトモヨちゃん。一体、トモヨちゃんとマホが作る俺ハーレムって、どういう意味だよ?それって俺が主体じゃなくて、トモヨちゃんとマホに「俺が作らされる」ハーレムって事か?……俺の意思はどこへ?
それを聞いて、顔を真っ赤にするリゥムとヒナギ。むしろ、年が倍のこっちの二人の方が純粋じゃね?
「あ、うん……。トオノくんに気に入ってもらえるように、頑張るよ」
「はい。……あと、ヒナギさんも。わたし達は、いつでもお持ちしてますからね?」
トモヨちゃん?何してんの?それって、ヒナギをハーレムに勧誘してんの!?駄目だよ、ヒナギを変な道に誘ったら……!
けど、耳まで真っ赤になりながら、ヒナギはコクリとうなずいた。
「……は?」
その映像を見ながら、思わず声が出る。
ちょ、ちょ、ちょっと待った!?なんで、そこでうなずくんだよヒナギ!?
「……嘘だよな?」
向こうには届かないのに、俺は思わず映像のヒナギに聞いてしまう。いやだって、そこでうなずくなんて……。
ヒナギは、ただ他人を持ち上げるのが癖なだけだよな?それ以外の理由で、やたらめったら俺を持ち上げていたわけじゃないよな?
「それでは、これからも仲良くして下さいね、お二人とも」
「あ、うん!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい。……みなさんで、幸せになりましょう」
相互理解をしたのか、三人はそれぞれに顔を見合わせて微笑み合う。
うーん、さっきまでの話がなきゃ、とても微笑ましい光景なんだけどなぁ、これ。正直、素直に見れないんですが。
「行こう、ヒナギちゃん!」
「はい!」
「ご武運を~」
トモヨちゃんに見送られ、リゥムとヒナギは駆けていく。二人は、そのまま上がり始めていた跳ね橋を通って、戦場へと飛び込む。
「……それにしても、会って一週間たらずでリゥムさんとヒナギさんを落としちゃいますか。本当に罪な人。……どうしてこれで、今までモテなかったんでしょうか、カナタさん?」
二人を見送った後、トモヨちゃんがつぶやいた。
知らないよ!むしろ、俺がその理由を知りたいよ!
「まあ、理由は察しがつきますが」
教えてくれ、トモヨちゃん!切実に!!




