第43話
バトル・ファイオー、前哨戦一回戦。
選ばれた人間族と鉱石族は、ダークネスの軍隊に襲われていた。まあ、俺は人間領国にいるわけだから、鉱石族がどんな風に襲われているのかは知らないが、恐らくは同じように首都に直接部隊が送り込まれているんだろう。
現れたダークネスの軍は、まさに魔物と言っていい存在。無慈悲に、横暴に王都を蹂躙していく。
笑って命を奪える、そのメンタル。邪悪って言葉じゃ足りない、吐き気を催すって言い捨てられる真の悪魔だぜ、ダークネス!
古来より、悪が栄えた試し無し!教えてやるぜ!俺が!俺達が正義だ!
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「ヒュームよ」
城内に入ろうとする評議会メンバーと、そのお付きの四十七士。その中の一人、白髪混じりの五十代くらいの人が良さそうな男が、隣に付いているマッチョに声をかけていた。
その男は、エフィー領の領主で確か名前はサトル・サウザン。四十七士一のパワーとか謳われている、ヒューム・ハンドレッドとかいうのの主だ。
「は」
「お前は、今すぐ市街へと出て市民を守るのだ」
お、エフィー領主が四十七士に出撃を命じたぞ?
「だ、大丈夫ですか親方?」
「私は城にいるから、大丈夫だろう。だが、見る限り市民はそうはいかん。ここで戦わねば、何が四十七士だと思う?」
「親方……」
「お前の力、今こそ世の中の役に立たせるべき」
エフィー領主は、戦場への出撃を促す。
正直、驚いた。領主なんて、肩書きだけは立派でそのくせ有事には盾に隠れるだけの小者だと思っていたんだけど、その盾を市民を守る為に使うとは。
「わかりました、親方!ヒューム・ハンドレッド!市民を守る為に、ただ今より出動いたします!」
四十七士は、嬉しそうに命令を受諾し敬礼をした。この男は、桃浦とは違い戦えるのが嬉しいわけではないようだな。あれは、何かを守る事を喜びとしているタイプだ。その為なら、嬉々として戦いに飛び込んでいくみたいだ。
四十七士って、所詮は領主の腰巾着だと思ってたんだけどな。いや、先入観だけで判断したのは申し訳なかった。
「健闘を祈る」
エフィー領主も、敬礼を返す。
そして、武器のハンマーを抱えてマッチョ、というかハンドレッドが駆けていく。
「ミジー様、自分も」
やたら長い物干し竿と呼ばれる槍を持つササツ・サッサーが、側にいたおばちゃんに声をかけていた。その相手は、ナゲエ領の領主でクロイ・ミジー。服が紫で髪の色も紫に金の差し色が入った、大阪のおばちゃんみたいな人だった。
「ええ、行きなさい。みなの為に、存分に働くのですよ」
しゃべると、案外まともなんだよなあの人。あ、でも昨日挨拶で会った時に飴ちゃんをもらったわ。やっぱ、根っこは大阪のおばちゃんか。
「は!行って参ります」
サの人も、槍を構えて出撃する。
「よっしゃ。じゃあ、俺も行くんで後は頼んだぞ、ジョン」
「気を付けて下さい、父さん」
イワン領主のジョン・ハリスンが、四十七士を見送る。
そういえばまだ三十になっていない若い領主だとは思ったけど、四十七士のリンゴ・ハリスンが父親だったのか。父親が四十七士になったから、息子がそのあとを引き継いだんだろうな。二世議員ってヤツか。
そうして、続々と四十七士が戦いに参戦していく。
その様子をV2ホッパーの映像で見ていた俺は、少し感動してしまった。この一大事に個人の保身よりも対局を見据えて動けるなんて、伊達に領主をやってなかったわ。ホント、知りもしないのに勝手に小者だと判断したのは、反省だ。
そして、それに対比して際立つのが、さっさと城内へ入って行ってしまった勇者とオッサンの駄目すぎる動き。オッサンは出撃を命令しないし、勇者は自分から出撃する事を提案すらしない。これが勇者、ねぇ……。
「ぎゃあっ!」
兵士が、骸骨兵士『スケルントン』の剣に鎧ごと斬り裂かれた。
避難する市民を守って移動していた兵士の部隊が、『スケルントン』集団に行く手を阻まれていた。
「くそ!ただの骸骨のくせに、なぜこんなに強いんだ!?」
「チョクメイ発動!『ファイヤーボール』!」
兵士達が、魔札道具の剣から火の玉を放つ。多くの兵士達が使っている所を見ると、兵士達の基本魔法のようだ。
勅命カードの『ファイヤーボール』。魔法効果は、シンプルに火の玉を一つ撃ち出す物らしい。ただ、『スケルントン』の盾に簡単に弾かれているので、あまり威力は高くないようだな。
まあ、あの勅命カードは魔フォーのカード効果も相手のHPを100削るだけのショボい効果だったからなぁ。推して知るべし、か。
「く!後退、後退だ!別ルートでコロシアムを目指すんだ!」
部隊の隊長と思われる若干他より立派な鎧の兵士が、部隊員と保護している市民に指示を出す。正面から迫る『スケルントン』はザッと見ても二十匹はいる上に怯まず前進して来るので、突破を諦めたようだ。
「きゃあ!後ろからも骸骨が……!」
だが、その後方からも『スケルントン』の一団が迫って来ていた。彼らは、完全に挟撃された形だ。
「くそぉ!あと少しだと言うのに……!」
彼らのいる場所からは、もうコロシアムが視認できた。だが、その道が閉ざされている。
『オラオラオラァ!』
その道を塞ぐ『スケルントン』の一角が、宙に舞って粉々に吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
『オラ!てめえらの相手は俺だ!!かかってこいやぁ!』
桃浦が、『スケルントン』の集団に一気に襲いかかる。
いいぞ、桃浦!そのまま、その骸骨どもを一匹残らずぶっ壊せ!
「だ、誰だ!?」
突然乱入してきた桃浦に、兵士達も困惑気味だった。まあ、いきなり赤い着流しの男が乱入してくれば驚くわな。見た事ない人間だろうし。
『あん?俺は、お前らの救世主カナタ・トオノのサモンドスレイヴ!『桃浦金竜之介』様だ!俺のマスターがお前らを守れって言ってんだ!守ってやるよ!!』
剣を振り払って、桃浦が堂々と名乗りを上げる。
いや、桃浦?お前が名前を名乗るのはいいけど、俺の名前は出す必要は無いんじゃないかな?特に、救世主を強調するのはさ。
「あ、あの救世主のサモンドスレイヴ!?」
「え?確か、救世主のサモンドスレイヴはドラゴンだったんじゃ?」
力比べでダブル・ジョーカーを見ていた兵士がいるらしく、その人達は桃浦の姿に困惑しているようだ。
「ギルフォードライ王国第一王子、ロキヒノ・リードギルフ!これ以上お前達の好きにはさせないぞ、神王軍!!」
ロキヒノも乱入し、名乗りを上げる。
「お、王子!」
ロキヒノの登場には、兵士達も市民も安堵の表情だ。
「お前達!市民をコロシアムに避難させろ!ここは、俺とカナタのサモンドスレイヴに任せろ!」
「王子!それでは、やはり彼は救世主様のサモンドスレイヴなのですね!?」
「ドラゴンとは、別のサモンドスレイヴなのですか!?」
「ああ、そうだ。カナタは、救世主だけあって色々なサモンドスレイヴを従えているすげえ奴なんだぜ!そして、俺の親友な!」
物凄いレベルで、ドヤるロキヒノ。まあいいんだけど、なぜか付け足される親友ドヤりは一体なんなんだろう。
「おお……!」
「さすがは、救世主様!」
「あの勇者様にも勝った救世主様!」
「そんな凄い人がいるのか、救世主様という……」
「噂の救世主様……」
「さあ!早くコロシアムへ避難するんだ!既に、コロシアムは受け入れ態勢が整っているはずだ!」
ロキヒノが、避難を促す。その間に桃浦が正面の『スケルントン』の集団を蹴散らしているので、道は開いていた。
「は、はい!」
「さあ、後に続け!」
兵士達が先導し、市民がコロシアムへと進む。
敵の『スケルントン』軍団は、更に増えていた。上空から落下してくる蓮の花は、まだまだ増えていたからだ。
その『スケルントン』軍団に、敢然と立ちはだかる赤い戦士二人。
『ふん。お前、マスターの親友かよ』
刀を肩に担ぎながら、桃浦がロキヒノに声をかける。気になるのは、王子だって事じゃなくてそこなのか?
「ああ。命を預け合って、共に戦った仲間だからな。なので、お前も信用してるぜカナタのサモンドスレイヴ!」
ロキヒノは、左手の親指を立ててニカッと笑う。
誰が相手でも、態度が全然変わらないし動じないな、ロキヒノは。だから、あいつに親友だと言われると嬉しい限りだ。
『……俺の名は『桃浦金竜之介』だ。気に入ったぜ、お前。特に、お前のその赤髪はいい!実にいいぜ!』
桃浦は、わざわざロキヒノに自分から名乗っていた。
着流しが思いっきり赤いからそうじゃないかと思ってたけど、桃浦は赤い色がお気に入りなんだな。そりゃ、ロキヒノの赤い髪色は気に入るか。
そういえば、『桃浦金竜之介』は思いっきり個人名なのな。
言われたロキヒノも、ニヤリと笑った。
「ロキヒノ・リードギルフだ。お前もいいぜ、その赤い服!」
ロキヒノも好きそうだよな、赤。
『よっしゃあ!行くぞ、ロキヒノ!一匹残らず叩き潰すぞ!』
「おうよ!行こうぜ、桃浦!」
ロキヒノと桃浦が、一丸となって『スケルントン』に斬りかかっていく。
あの様子なら、あの二人は大丈夫そうだな。
「ん?」
「グオォー!」
病院へ向かう俺の前には、大きな熊、確かクマベアー(生物)に襲われている市民の一団。何人かの兵士が倒れているので、市民をここまで守って力尽きたか。
その思い、無駄にはしない!
「助けてくれー!」
クマベアーが、鋭く長い爪の光る腕を家族を守ろうとする父親に向けて振り下ろした。
「お父ちゃん!」
「あなた!」
「させねえよ!」
俺は、その前に割り込んでクマベアーの腕を叩き斬った。
「グ、ギャオォ!」
「おらぁ!」
腕を落とされて怯んだクマベアーを、腹に蹴りをぶち込んで蹴り飛ばす。こいつらには手加減一切無用なので、クマベアーは吹っ飛んでいって壁に激突する。
「逃げろ!」
ここにいるクマベアーは、残り二匹。一匹は同じように蹴り飛ばし、もう一匹は『アゴ・ストーム・セイバー』で真っ二つにする。
「あ、あなたは!?」
「兵士さんでは、ない?」
「救世主!」
吹っ飛ばしたクマベアーにトドメを刺して、一言叫んでから病院への移動を再開する。ここで名前を名乗っても仕方ないので、ロキヒノや桃浦が言っていたように「救世主」とだけ言っておこう。
「あ、あのお方が……」
「姫様の言っていた、救世主様……」
「カッコいい……」
「素敵な方……」
そこの市民達も、救世主の噂は知っていたようだ。
……どれだけ広めたのさ、トモヨちゃん。
どうやら、ロキヒノ達の戦いを脳内で確認しながら、目の前の敵も倒す事は可能みたいだ。色々な作業を一度にこなしてきた成果が、しっかりと表れているな。これなら、向こうの世界に戻ったら株のデイトレーダーとかになれそうかも。
問題は、戻れそうに無い事だけど……。




