第4話その2
「だ、大丈夫ですか!?」
「よかった、無事そうね」
「凄い!本当に頭を残して倒してる!」
マホに先導されて、メィム達がやって来た。
「ああ、お疲れ。頭と、あと魔札道具の鎧が残ったよ」
「あら、本当。凄いわね……。あなたの竜は?」
「カードに戻したよ」
俺は、右手に持っていたダブル・ジョーカーのカードを見せた。そのカードを、三人が興味深そうに見つめてくる。
「これが、竜の召喚カード……」
「私、初めて見たよ」
「わたしもです。召喚士自体も珍しいのに、あんな強いドラゴンを呼び出すなんて……。凄いんですね、トオノさん」
三人は、ダブル・ジョーカーのカードと俺の顔を交互に見回している。
「いや、凄いのはあくまでダブル・ジョーカーの方であって。……というか、サモンドスレイヴを召喚するカードって珍しいの?」
変に褒められてくすぐったかったが、俺はそこより気になる方を尋ねる事にした。彼女達の反応を見ると、どうもサモンドスレイヴを召喚するという行為自体が珍しい感じだ。サモンドスレイヴカードも出回っていない感じ?
「他の領国ではどうか知らないけど、人間領国では珍しいわね。あたし初めて見たし」
「王家に伝説のカードが保管されているって話は聞くね」
「普通の魔札道具では、召喚には耐えられないと聞きます。でも、トオノさんは魔札道具を使わずに召喚されていませんでしたか?」
ヒナギが、小首をかしげて尋ねてくる。まあ、召喚の様子はバッチリ見られていたからな。そこ疑問に思われるのは、当然か。
「そうよね?手ぶらで召喚しているし、メチャメチャ強い竜だったし。聖天族の子と一緒にいるし、もしかしてあなた人間族ではない?」
『彼方くんはちゃんと人間族だよ?それは、わたしが保証する』
マホが、胸をドンと叩いて言い切った。会ったばかりの奴に保証されて意味があるのだろうか、とは思うが。
ニコニコ笑顔のマホには、メィム達もツッコミを入れられないようだ。
「そ、そう……。まあ、助けてくれたしいいか」
メィムは、そう言って追及を諦めてくれた。彼女、竹を割ったようなさっぱりとした性格のようだ。
「残してくれたし、頭を持ってって懸賞金貰わなきゃね」
「あっちの魔札道具はどうする、お姉ちゃん?」
「魔札道具はねぇ……。竜サイズだから重いしかさばるし……。今回は頭だけでいいでしょ」
「あ。それじゃあ、わたしがカードだけでも回収します」
ヒナギが、ちょこちょこと歩いていって魔札道具を調べ始めた。
(そういや、ダブル・ジョーカー?)
(『どうした?』)
(俺って、異世界物ではテンプレのステータスを開いたりとか、謎の空間にアイテムを収納したりするのはできないのかな?あれば、魔札道具も回収できそうだけど)
そういや俺は、定番の「ステータスオープン!」をしていなかった。落ち着く間もなく、戦闘に巻き込まれたからな。
(『そんな便利な物があれば、君のカードをリュックに入れたままになどさせていないさ。この世界はカードゲームの舞台設定に酷似しているが、しかしゲームの世界ではない。パラメーターなどという、変な数字で割り切れる物ではないからな』)
(そっか。まあ、当たり前か)
所詮は漫画か、あの辺は。
「とりあえず、包み込んだけど……。頭だけでも結構な荷物ね」
姉妹は、デカイ布を出してカバの頭を包んでいた。色々な所に移動する懸賞金稼ぎだから、レジャーシート的に常備していたようだ。
「馬車かなんか借りてきた方がいいかも。お姉ちゃん大変だろうし」
「あたしが担いで行く事決定なの?」
「お願い、お姉ちゃん♡」
リゥムは、キラキラした目でメィムにお願いをした。
「ま、まあ……。リゥムとヒナギじゃ持ち上げられないだろうから、仕方ないわね~」
メィムは頬を赤くして、若干嬉しそうにその申し出を受けていた。ああ、この子妹に甘いんだな。シスコンかな。
そんな二人の所に、ヒナギが戻ってきた。
「結局、カードは一枚しかありませんでした」
魔札道具を調べた結果、カバの持っていたカードは戦いで使った『フレア・メテオ』だけしかなかったらしい。さすが、万策尽きただけあって、手持ち一枚かよ。
「さっき使ってたやつね?それだけ?時化てるわね」
気持ちはわかるけど、カツアゲみたいな台詞はやめよう。
「これって、私達が使っても口から火を吐くのかな?」
「多分ね。だから、リゥムが使って?」
「え!?でも、攻撃魔法だからお姉ちゃんが使った方がいいんじゃ?」
「見た目大人しそうなリゥムが、怒ったら口から火を吐く。そのギャップがいいんじゃない!」
「えぇ……」
この姉もヤバいな。妹、明らかに引いてるぞ。
「まあ、とりあえずリゥムちゃんどうぞ」
「う、うん……」
結局、リゥムはヒナギからカードを受け取った。
(ドラゴンが使ってたカードだけど、あのカード人間が使えるのか?)
(『ん?特に種族も個人も特定されていないので、問題無く使えるぞ』)
(つまり、他人から奪ったカードでも使えるのか)
戦闘中に奪ったら、こっちの戦力に出来るのか。俺の場合は消えてるから、問題無さそうかな。
(『使用が限定されていなければな。例えば、『エクストリーム・ジョーカー・フルバースト』は我が存在しなければ発動できないので、持っていても何にもならない。そして、我はマスターのサモンドスレイヴであるから、相手が使った所で全滅するのは相手だ』)
(コントロールが移らない限り、効果はカードに書かれている通りというわけか。魔フォーのルール通りというわけだな。サモンドスレイヴカードは?サモンドスレイヴカードを奪われて使われた時には、相手に召喚されるのか?)
(『この世界のサモンドスレイヴカードには、魂が宿っている。使用者を認めなければ、我らは力を貸さぬよ。君の好きな言い方をすれば、我々はカードの精霊だからな』)
カードの精霊!キタコレ!
(なるほど。でも、お前達ってこの世界で普通に生きていたんだよな?それが、どうして精霊になるんだ?)
(『死んだ後、精霊になる者、そのまま消滅する者、生まれ変わる者と選別されていくのだ。君の世界でも、そういう話はあっただろう?』)
(ああ、確かに地獄だの極楽だのあるな。……そうか。ダブル・ジョーカーもマホも一度死んで精霊になったのか)
(『我もクイーンも、真っ当に生きてランクアップしただけだから、そこは気にする必要は無いぞ?むしろ、第二の生を満喫している状態だ』)
(はは、確かに)
そういう意味では、サモンドスレイヴも転生案件か。転生って、この世界だと珍しい事ではないのか?
「ふんぬ!」
メィムが、カバの頭の包みを持ち上げた。リゥムとヒナギが、後ろから支える。一応、持ち上げる事はできたようだが、これから山を下りるのは大変じゃないか?
『彼方くん。これ、使ってあげて?』
回収してきた俺のリュックを漁っていたマホが、そう言って俺にカードを一枚差し出してきた。
マホが差し出したのは、勅命カードの『引っ越キネシス』。場に出ているカード一枚をサイコキネシスで持ち上げて、隣のレーンに移動させるカードだ。なお、魔フォーではレーンを移動する事には、何の意味も無い。カードを一枚使って無意味な移動をするだけの、ギャグカードでしかなかった。
なんで俺、これ持って来てたんだろう?まあ、いいや。
「その移動、俺が手伝うよ」
「?手伝う?」
「うん。勅命発動。『引っ越キネシス』」
「お?」
俺が魔法を使うと、リゥムやヒナギの手から包みが浮き上がった。当然、メィムも重さを感じなくなったはずだ。
「え?浮いてる?」
メィムが、包みから手を放した。しかし、包みは地面に落ちずに浮いたままだ。
「魔法で移動させるよ。道案内してくれ」
「うわ、凄~い!」
リゥムは、素直にはしゃいでくれた。
「凄いです、トオノさん。ただ、すみません。こんな事までしていただいて」
それとは対照的に、ヒナギは申し訳無さそうな顔。そこは、素直に喜んで欲しいかな。
「いいって。代わりに、町まで案内してよ」
「……それじゃあ、お言葉に甘えましょうか。ついて来て」
「了解。マホも行くぞ」
『うん』
マホが、リュックを背負ってついてきた。翼は、器用にショルダーストラップを回避している。
そんなこんなで、俺達は山を下りた。異世界での冒険は、ここから始まるんだ!
ここからは、彼方達も知らない物語。
───人間領国で暴れていた『ツキタネ・シーカバー・ドラゴン』が討伐されてから、数日後。
使用していた魔札道具は、そのまま山中に放置されていた。討伐した懸賞金稼ぎの者達が、魔札道具が放置状態である事を報告しなかったからだ。
その放置された魔札道具の前に、一人の男が姿を現した。
男は、黒いスーツにサングラスを掛け、明るい金色の髪をした一見すると人間に見える、優男だった。しかし、その背中からは大きな翼が生えている。そこを見る限り、人間ではないようだ。
男は、魔札道具を見つめるとため息をついてサングラスをずり上げた。
「やれやれ。人間領国で暴れているバカがいると聞いて、わざわざ人間の形態を取ってまで退治しにやって来たというのに。まさか、もう討伐されているとはねぇ」
男は、肩をすくめてつぶやいた。男は、他国で暴れる『ツキタネ・シーカバー・ドラゴン』を討伐する為に、わざわざやって来たらしい。人間の姿をしているのは、人間領国内で行動する為の配慮か。
「これは手間が省けたと言うべきか。……それとも、人間ごときに討伐されるとは魔竜の面汚しめが、と言うべきですかね?」
男が、吐き捨てるようにつぶやいた。どうやらこの人間に擬態している男、その正体は魔竜族のようだ。
「匂うわ」
突然、男の後ろから声がした。男が慌てて振り返ると、そこには綺麗なドレスをその身にまとった小さい緑髪の幼女と、彼女に付き従うように寄り添っているメイド服の女性がいた。よく見ると、その二人にも尻尾が出ている。二人とも魔竜のようだ。
「!?ひ、姫!?」
男は、慌てて膝を突く。どうやら緑の髪のこの幼女、男が即膝をつくくらいの相手らしい。そもそも、姫と呼んでいる所からも、推して知るべしか。
「顔をお上げ下さい、アスカ様」
こちらは普通の眼鏡をしたメイド服の女性が、男に声をかけた。男の名前は、アスカであるようだ。
「は。しかし、なぜ姫がこのような場所に?」
アスカは顔を上げると、姫と呼ぶ幼女に尋ねた。確かに、その呼ばれ方ではこのような辺鄙な山の中は似つかわしくない。
「……匂いがするの」
「匂い、ですか?」
「そう、匂い。ダブル・ジョーカー様の匂い」
姫は、無表情のままで言った。
「!?ダブル・ジョーカー様!?あの、魔竜の伝説の!?」
「姫様は、ダブル・ジョーカー様の匂いを感じ取り、ここまでやって来たのです」
「ダブル・ジョーカー様が……」
アスカは、魔札道具の残骸に首を向けた。
「しかし、調べた所によれば、この暴れ者を討伐したのは人間だと聞いております。ダブル・ジョーカー様の話は……」
討伐者、メィム達は彼方やダブル・ジョーカーの事も報告はしていなかったので、当然その情報も出回ってはいなかった。あくまで、彼女達のチームメンバーのみで退治したという事になっている。
「それでも、匂うの」
「姫様がおっしゃる以上、その人間も無関係では無いのでしょう」
「そ、それは確かに……」
「ダブル・ジョーカー様を探して」
姫が、アスカに言った。これは、お願いか命令か?
「アスカ様。ダブル・ジョーカー様の行方、探っていただけますか?」
メイドが、柔らかくお願いをしてくる。だが、それはどう考えても命令で、選択肢は一つしか用意されていない。
「はっ!」
アスカは再び頭を下げて命令を受託する。
「まずは、ダブル・ジョーカー様の所在を掴んで下さい。掴んだならば報告を。その後の行動は、その時にまたお知らせいたします」
「わかりました」
「お願いね」
相変わらずの無表情だが、姫が小首を傾げた。姫としては、彼女の言葉はあくまで命令ではなくお願いらしい。
「は!一命を賭しましても!」
「捜索だけですから、そこまで深刻になる必要は無いと思いますよ?」
メイドは、柔らかに笑った。アスカの使命はダブル・ジョーカーの捜索であって、誰かと戦う物ではないのだ。それほど、危険の伴う使命ではない。
「まあ、もし姫様に危害を加える素振りがあるようでしたら、上のを排除していただけるとよろしいかもしれませんね」
「……ですね」
アスカ達は、上空に視線を向けた。
彼らのいる場所の上空に、翼を持った生物が浮いていた。アスカ達は、その存在に気付いていたようだ。
「あらあら。さすがは、竜のお姫様とそのお付きだわ。目眩まし魔法を二つも使っているのに気付かれちゃったか」
その生物は、ニヤリと笑ってつぶやいた。
その姿は、人間に近い姿で、大人の女性に見える。翼と尻尾があるが共に魔竜族とは形が違い、尻尾は形容するなら悪魔の尻尾といった感じだった。
そして、魔法を二つ使っているらしい。
「二百年に一度って時が迫っているこの時期に、人間領国に魔竜の伝説が降臨か。これは、面白くなりそうじゃない」
女性は、小さく笑い出した。それはどんどんと勢いを増し、結局高笑いに変わってしまう。隠密行動を取っているはずなのに、だ。
「オーホホホホ!」
「……高笑いしていますね」
「う~ん、あれは問題無さそうですね」
「あれは、きっとバカ」
幼女の姫様にも、女性は一刀両断されていた。───




