第40話
勇者は、確かに並の人間よりは遥かに強い。特にアクセル・スピーダーとのコンボ『アクセル・ブースト・オン』は普通の人間には耐えきれないだろう。
けど、俺の敵じゃないな。
「そもそも、カナタ舐めプしてるでしょ?」
あ、バレてた?
「だって魔法も使わないし他のサモンドスレイヴも呼ばないし」
いやー、だって全力全開でボコって顔変わらせた状態でこの先の人生過ごさせるのはかわいそうじゃん?今回は、殺しちゃいけないし。
「あんた、考える事が邪悪ね……」
悪魔で、いいよ。
──・──・──・──・──・──・──
「ちょっと本気出すけどいいよね?答えは聞いてない」
俺は、勇者に向かって宣言する。
ん?あれ、なんか違う事を言ったようなそうでないような……?
「おのれぇ、救世主!」
勇者が、再び突進してくる。
ん?勇者の速度、なんかさっきより下がった?
「はて?」
俺は、勇者の突進をひらりとかわして、その背後に回り込んだ。確かに、勇者の速度は先程までよりかは確実に落ちている。
「くっ!」
勇者が、振り返る。速度が落ちたとは言え、こっちの動きもちゃんと捉えられてはいるようだ。
けど、それが命取り!
「ふ!」
振り返るのに合わせて、勇者の左胸を突く。これで、ゲームエンドや!
と思ったんだけど、振り返った勇者は腕で左胸をガードしていた。さすがに、そこまで無神経に突っ込む奴ではなかったか。
ガードはしたけど突き自体はまともに受けたので、勇者は吹っ飛んでいった。
「う、ぐっ!」
今度は、勇者も床には転がらずに、ズザザーと床を滑って停止した。
「はぁ、はぁ……」
勇者は肩で荒く息をしていた。
あー、これはあれかな?強大な力を使った、その反動ってヤツかな。だいたい、人間の限界を超えるスピードで動き回るんなら、体にダメージが行かないわけないよな?もし何もデメリットが無いのなら、常日頃からオーラを出しっぱなしの状態でいるだろうし。
「な、なぜです……?私は、ストッパーの力を取り込んで最高速の力を得た。それなのに、その私をこんな簡単に……」
勇者が、わざわざ聞いてくる。まあ、勇者と褒め称えられて周りからチヤホヤされて持ち上げられている所で、突然現れた俺にトモヨちゃんを奪われた挙げ句ボコボコにされちゃあショックを受けるわな。
いや、俺がトモヨちゃんを奪ったわけではないけどさ。
「……まあ、いいけど。あんたはさ、アクセル・スピーダーのブーストを必殺技みたいな感じで使ってるだろ?で、実は俺も俺のサモンドスレイヴのダブル・ジョーカーから身体能力の強化を受けているんだ。それも、常時ね」
上空のダブル・ジョーカーを指差して、俺は答えた。
特に答える義務も理由も無いんだけど、疑問にいちいち答えてあげる俺って、本当に優しいなー。
「わざわざあんなのの質問に答えてあげるだなんて、本当にカナタさんは優しいんですから、まったく」
トモヨちゃんが、苦笑しながらつぶやいていた。
なんか、他人に言われると恥ずかしい気がする。自分で自分の事優しいとか、思い上がってすんませんした!
それを聞いて、会場がどよめく。
「なん……だって?」
“「サモンドスレイヴからの強化!召喚士が強い、そしてカナタが強い秘密はこれだったのか!道理で、あいつだけやたら強いわけだよー」”
「それで、強い力を更に強くする方法は知ってる?それはね、常時その強い力を受け続ける事で体を慣れさせて、それから鍛える事なんだよ。昔、ドラゴン……文献で見たよ」
おっと、危ない。某漫画の事とか言っても、通じないしな。
『彼方くんってば、スーパーヤサイ人になっちゃえ!』
「そこは、スーパー地球人で」
『あはは、それいいかも』
マホとトモヨちゃんが、変な事で意気投合していた。
そして、向こうの世界にカードでとは言え存在していたマホと、向こうの世界の話題で盛り上がれるのか、トモヨちゃん。向こうの世界の事を知っているのは、ほぼ確定か。そもそも、「地球」って言っちゃったよ。トモヨちゃんって、意外にうっかりさん?
本当に、何者なのだろうかこの子は。
「あれが、救世主か……」
「アダルをまるで相手にしていないとは……」
四十七士も、愕然としているらしい。まあ、勇者なんて呼ばれているんだから、四十七士の中でも上位の強さなんだろうな、勇者。
『まさか、フィリップの強化を受けていたとはな。それならば、ブーストしたアダルをも凌ぐのはうなずける』
ダブル・ジョーカーとアクセル・スピーダーは、ブーストした後は俺と勇者の決闘を見ていたらしい。
『そうだ。それに、ただ受けるだけではない。その力を、更に増大させる意識の高さを持ち合わせているのだ』
『意識高い系か』
『そうだ。意識高い系だ』
意識高い系って……。なんか、そこはかとなくバカにされてません?
『しかし、よくフィリップの力を受けて、体が保つな?フィリップの力を普通の人間が受けたら速攻壊れるだろうに』
え、そうなのアクセル・スピーダー?
『そこが、我がマスターの器の大きさなのだ』
『そうか。意識高いな』
『そうだ。意識高いだろう?』
完全にバカにしてるよね、そこのお二人さんさぁ!?
“「意識が高いから強い!これが、救世主カナタだ!そして、俺の親友だ!」”
「意識が高い……」
「なんという意識の高さだ……」
「意識高い系男子……。なんだか、カッコよく見えてきた」
ああ、ロキヒノの実況のせいで、俺のイメージが「意識高い系救世主」で広まっていく。一度付いたレッテルは、剥がすの大変なんだぞ!
『あはは。意識高~い』
「意識高い~(棒)」
「はぁ、トオノくんかわいくてカッコいいよぉ……」
「さすが、トオノさんです」
「あぁ、カナタさん好き♡」
後ろの女子陣は、もう好きにしててくれ。ただ、いちいち口で括弧棒とか言う奴と壊れたレコードみたいになってる奴は、後で説教な?
「だからまあ、あんた力の使い方がなってないんだよ。今までどんな相手と戦ってきたのかは知らないけど、自分より弱い相手ならそのポテンシャルだけで圧倒できたろう。けど、自分より強い相手じゃそうはいかないんだぜ?」
「この私を……。私を未熟だと言うのか!?」
一言吠えて、勇者がまた斬りかかってきた。ただ、スピードはだいぶ落ちているし、白銀のオーラも弱まっている。あれじゃあ、なおさら敵にはならないわ。
「別に、未熟だとは言ってないじゃん?せっかくの力を、使える事だけで満足して使いこなせてないって言ってるだけだし?」
「それを!世の中では未熟と言うのですよ!」
あー、それはそうかもしれない。
勇者の剣を、俺はヒラリヒラリとかわす。もう勇者も、俺についてくるのは無理みたいだな。全然、動きが追い付いていない。ただ、勇者も開き直って心臓は腕で完全ガードしていたので、そのままでは撃ち抜けない。
「しょうがないなぁ……」
「何!?」
俺は、持っていたゴム剣をひょーいと真上に投げ上げた。いきなり剣を手放したのに驚いた勇者は、つい放り投げた剣の方に視線を釣られてしまう。
フィッシュ、オンー!
視線のそれた一瞬に、俺は勇者の背後に回って両腕を掴み、左右に開かせた。
「!?な、何をする気ですか!?」
「前見りゃわかんでしょ?」
勇者の足を蹴り飛ばして、胸を上に向けさせる。その先にあるのは、剣先を下にして真っ直ぐに落ちてくるゴム剣。
「ま、まさか!?」
事態を理解した勇者は慌てて体を捻らせてもがくが、逃がしたりしない。
「ダーメ。逃がさなーい」
「くそ!こんな、情けない負け方……!」
落ちてきた剣が、勇者の左胸にヒットした。バシッと左胸に大きな×印が刻印されて、存在まで否定されているようなダメソングが会場に響き渡る。
“「ダーメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ぶっぶーですわ!」”
“「決まったぁ!やはりカナタは強かった!当たり前だ!あいつは、救世主だぞ!俺の親友だぞ!カナタの勝利ー!」”
ダメソングをバックに、ロキヒノが派手に俺の勝利を宣言した。
ところで、その顎を変に突き出したシャクレ顔芸はなんなんだ?ポーズも変だし。元気ですか?
「まさかアダルが!?」
「強い!強すぎる、救世主!」
「これが、国を救う力を持つと言われる、救世主……」
「さすがは、救世主様じゃの」
「オ、オイドンは惚れたぞ、救世主様!」
「救世主様、意外にかわいい顔してるわよねー。オイラのタイプ♡」
「ほ、掘られたい……!」
「勇者様の方が顔いいのに……」
「救世主様、カッコいい~!」
決着が着いて、観客席は悲喜こもごもの状態だった。
俺の力に戦慄する者。俺の勝利に感心する者。救世主の名前を実感する者。勇者の敗北に嘆く者。逆に声援を送ってくる者。
力比べは、大嵐とハリケーンとサイクロンを巻き起こしてしまったようだ。
ただ、中に怪しげな薔薇が咲いていたのは、ちょっと聞かなかった事にしたい。しかも、複数いたぞ!?こういう時、耳がいいのは考えものだぜ。
勘弁してよ……。




