第39話その2
は?白銀のオーラが、目に見える!?いや、待て待て。なんで、オーラっぽい物が目に見えるんだよ!?スーパーなんちゃら人か!
“「な、なんだあれはー!?勇者の体が、銀色の光に包まれてるぞっ!?え?あれが見えるの俺だけか!?」”
「自分にも見えますー!」
「光はありまーす!」
ロキヒノの実況に、観客席から答えが返ってくる。どうやら、あのオーラは全員に見えているようだ。
「何よ、あれ?」
『勇者に、サモンドスレイヴが魔力を分け与えた!?』
さすがにマホは聖天族の元女王だけあって、何があったかは気付いてるみたいだな。
勇者、アクセル・スピーダーが放った魔力を吸収して魔力量を増大させたらしい。もちろん、ただ魔力量を増やしただけじゃねえだろ。
「へえ。ずいぶん面白い事をしますね、勇者。……でも、わたしのカナタさんにはそれでも及んでないそうですけど?」
トモヨちゃんが、そう言って余裕綽々に笑っていた。
あの子、魔力量も見ただけで量る事ができるのか?君は本当に、一体どれだけの力を隠しているのさトモヨちゃん?
「アクセル・スピーダーとのコンボプレイかよ。どうやら、それがあんたの更なる真の力ってヤツなのかな?」
「……ええ、そうです。ストッパーと私の力を一つにする切り札、『アクセル・ブースト・オン』です。まさか、この切り札を見せる事になるとは思ってもみませんでした。何だかんだで、さすがは救世主ですね。感服しましたよ」
お、やっと評価を上げてくれたのかな?
「最強の隠し球って所かな?それは嬉しいね。じゃあどんな技なのか、しっかり見させてもらうよ」
「見えるかな?」
「え?」
次の瞬間、勇者の姿が消えた。
“「あれ!?勇者が消えた!?舞台のどこにもいないぞ!?え?もしかして家に帰っちゃったか?それだったら、カナタの勝ちに……!」”
「残念ながら違いますよ!」
「!?勇者さんの姿は無いのに、声だけ聞こえるよ?」
「どこかにいるんでしょうか?」
「目にも止まらぬ!ってヤツだな!」
俺は、振り返る。
「さすがは、救世主ですね!そう!私は、人間の目には見えないほどの最速を超えた最高速のゼロの領域に踏み込んだ!それが!『アクセル・ブースト・オン』!」
勇者の声だけが、会場に響く。
速さに特化したアクセル・スピーダーの力を取り込んだ勇者は、人間の限界を超える速度で動けるようになったようだ。それが、『アクセル・ブースト・オン』。ダブル・ジョーカーとの会話を聞く限り、これはアクセル・スピーダーの能力でその最高速に耐えられるのが勇者の能力だという事らしい。
つまり今は、この舞台の上を目にも見えないスピードで走り回っているんだな。
“「勇者はいたー!俺達には見る事すらできないくらい、勇者は速いのかー!?」”
目に見えない奴が相手じゃ、審判は大変よな。彼方、動きます。
「……早いのは嫌いです」
トモヨちゃん、その「早い」ってどういう意味ー?
「くらえ!『トリプル・ブッキング』!!!」
「なんだ、その技名!?」
俺は、右斜め後ろに向かって剣を振り下ろしつつ、ジャンプした。そこに、一つの光。
「!」
「!」
“「ダーメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ぶっぶーですわ!」”
俺は、吹き飛ばされた。そして額から、ダメソングが鳴っているのが聞こえる。見えないけど、額に×印が刻印されてしまったみたいだ。
“「カナタの額に×印だー!勇者の技が炸裂したか!?全く見えないのは難点だが、勇者が一点返したー!!」”
吹き飛ばされても、俺は床に手を突いてさっさと体勢を立て直して、あっさりと着地した。そもそも、吹き飛んだと言ってもほとんど自分で飛んだだけなので、ダメージ自体は無いと言っていい。
それでも、勇者がポイントを取り返したので観客席は大盛り上がりだ。
『彼方くん!』
「ああ、カナタ!」
「トオノくん、×印が!」
「打たれちゃいました!」
「……なるほど。今のはそういう技ですか」
「ふ。見ましたか?いえ、見えなかったでしょう?私の最高速からの三段突き、『トリプル・ブッキング』。一点、返しましたよ」
足を止めたのか、勇者がその姿を現した。
“「おおっとー。勇者が現れたぞ!やっぱり、ちゃんといたぞ!」”
そりゃ、いるだろ……。
勇者の放った技は、目にも止まらぬスピードで繰り出す高速の三段突き『トリプル・ブッキング』。多分、ブースト・オンする前からの必殺技なんだろう。さっきから突きをよく出してたから、あいつの得意技は突きか。
ただ、名前は他に無かったのか?トリプルブッキングは駄目だろ、トリプルは。
「トリプルブッキングをするような方は、遠慮願いたいですね。……まあカナタさん相手でしたら、ブッキングしてもそのままグループデートに雪崩れ込めばいいだけですけど」
トモヨちゃん、勇者には厳しいね。そして、俺には甘々だね。うん、頑張ってスケジューリングするよ。……何のだ?
「うん。ちょっと驚いたよ。それより、×印ってどうなってる?目立ってない?」
『大丈夫だよ、彼方くん~。三つ目を絆創膏で隠したみたいになってるだけだから』
おう、闇がもう一人の自分を作りそうなのはやめてくれ。
「心配しなくても、すぐに残り二つも刻んで、終わらせてあげますよ?」
「ん?君、本当にそう思ってる?」
「?……どういう事ですか?」
俺が聞くと、勇者は怪訝な顔をした。
「わかってない?あんた、さっきの三段突きで三ヶ所を一度に突いて終わらせようとしただろう?でも、結局額だけしか打てなかった。もしかして、それ自分が手元が狂っただけ、なんて思っちゃった?」
さすがに、ここまで言えばわかるよね?勇者が、その力で額のポイントを打ったんじゃなくて、俺がミスって額を打たれたって事が。
当然、勇者も気付いたみたいだ。見る見る内に、顔が驚愕に満たされていく。
「まさか、あなた……。私が見えていたんですか?」
「うん」
目にも止まらぬとは言ってあげたけど、それはあくまで周りの声を代弁しただけ。俺には最初から見えてたよ、あんたの動き。
「だから、喉と心臓への突きは逸らせておいた。額の方は、間違って方向を逸らした方に自分の頭を動かしちゃった。ホントならサクサクかわせたんだけど、期待させちゃった?あはは、ごめんね?」
本当は、全部かわすつもりだったんだけどな。変に期待させるなんて、悪い事をしちゃったな。
「まあ、期待させてそれを落とすのもファンサービスって、誰かが言ってたからさ。ここはもう、ファンサービスだ!って事で」
とりあえず、思いっきり媚を売った笑顔でウィンクもかましてみた。ここまでやったら、勇者も許してくれるなんて……。
「ふざけるな!!」
あるわけないよね。激怒してるよ。
『きゃは!彼方くんウィンクかわいい~』
「な、何よそのウィンクってば……。かわいいじゃないの」
「かわいい、トオノくん~」
「はぁうぅ!」
「そのウィンクはこっちに向けて下さい、カナタさん……」
ほんの一部には、好評(?)だった。
「うわあああ!」
勇者が、再び動き出す。
“「勇者が、また消えたぞ!?」”
もちろん、観客には消えたように見えているだろう。けど、俺の目にはしっかりと映っているぜ?
激昂した勇者は、正面から飛びかかって来る。見えてない相手ならそれでもいいけど、俺相手じゃ冷静さを欠くのは命取りだ!
俺も床を蹴って、勇者に接近した。
「何!?」
速度は、確かに勇者の方が早い。けど、速すぎるせいでこっちがちょっと動くだけで、向こうから勝手に懐に飛び込んできてくれる。
「俺の必殺技その2!『衝・逢・対』!」
俺は、カウンターで勇者の額にゴム剣を叩き込んだ。
今即興で考えた、俺の必殺技その2『衝・逢・対』。相手の突きにカウンターで合わせてこっちの突きを入れる、後の先の技だ。……というか、適当に口から出ただけなんだけどな。だいたいなんだよ、「つき・あい・たい」って!?「あく・そく・ざん」みたい。
『もう~。彼方くんってば、わたしはいつでもオッケーだって言ってるでしょ?』
「それは、誰となのよ……」
「わ、私も……」
「うぅ……トオノさん」
「いつでも、わたしを突いて下さいカナタさん♡」
トモヨちゃんは、ホントに何言ってんの!?
“「ダーメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ダメ♪ぶっぶーですわ!」”
「うぐぅあぁ!」
ダメソングが流れる中、勇者が吹っ飛んでいく。
そのまま床に落ちていくけど、残念ながら場外に落ちる前に停止していた。こういう時は運がいいな、勇者。
「あ、あぐ……。そんな、バカな……」
額を押さえながら、勇者が体を起こす。その額には大きく黒い×印。
なるほど、確かに第三の目を絆創膏で隠しているのかのよう。そう間抜けには見えないから、俺の額の方も問題無さそうだ。
「いくら高速で動けても、猪突猛進するだけじゃ何も怖くねえわ。あんた、せっかくの最高速を使いこなせてないな?その程度だったら、まだ俺の仲間の方が速度を使いこなしているぜ」
俺は、チラッとだけメィムの方に視線を向けた。高速戦闘なら、多分あいつの方が上手いかもしれない。
視線に気付いたのか、メィムは顔を赤くしていた。ふふ、初い奴め。
……はっ!俺は今、何を考えた!?
「そ、そんな事は……!」
「はっきり言うぜ?お前、弱いだろ」
「なっ!?」
正直、あんまり脅威には感じないわこの勇者。
「けど、あんまりトモヨちゃんの周りを飛び回られても邪魔くさいからな」
俺は一度息を吐くと、勇者を指差した。
「ちょっと本気出すけどいいよね?まあ、いちいち返事は待ってあげないけどね」




