第38話
力比べ当日。コロシアムは、観客で一杯だった。不思議と、コロシアムというよりは野球場みたいな所だよ。
よし、これが終わったら野球回だ!
『野球回って何、彼方くん?』
お前まで来るのか、マホ……。
その前にどんなシリアスな話を展開していても、「そんな事より野球しようぜ!」で全てをリセットできる便利な回。それが、野球回だ!
『そんな事よりえっちしようよ?』
人の話は聞けぇー!
──・──・──・──・──・──・──
「ファイトオー!!!!!!」
観客の人達が、一斉に声を上げた。
ちょっと予想してなかったから、めっちゃビックリした。綺麗に声を揃える事ができるって、力比べの恒例行事なのか?
『うわ~。ビックリした~』
「いきなりね……」
「すっごい息合ってたね」
「練習、したんでしょうか……?」
外様のマホ達四人も、同じように驚いていた。隣のトモヨちゃんはそんな四人を見て笑っているだけなので、慣れているらしい。
城のすぐ近くで普段から叫んでたら、「またか」と思うだけか。
さて、力比べが始まったみたいだし、どうしようかな。さっさと終わらせるのもいいけど、一応国を救うと豪語していた根拠を知りたいから少し様子を見るのも、ありっちゃぁありだな。
(『マスター。あの勇者、剣を抜くぞ?』)
「え?」
ダブル・ジョーカーの言葉に前を向くと、勇者が剣を抜いている所だった。
「ちょ!?武器増やすのは禁止だろ?」
「え?ああ、心配しないで下さいよ。この剣は確かに私の武器ですが、魔札道具でもあります。魔法を使えば、納めますよ」
そう言って勇者は、持ち手の所にあるカードスロットを見せた。
ああ、ロキヒノと同じ剣の魔札道具か。しかし、剣の刀身まで金色なんだけど、どんだけ成金趣味なんだよ。勇者は孤児だったらしいから、剣も鎧も後見人(?)のオッサンの趣味が入ってんのかな?
「行きますよ、救世主。これが私の、真の力!」
勇者がカードを取り出し、カードの表面を俺に見せ付けてきた。
「!?今のは!?」
(『サモンドスレイヴだと!?』)
離れていたのでカードのイラストや名前は見えなかったが、今のカードの外枠の色は明らかにサモンドスレイヴカードだった。
勇者がカードを装填する事で、その周りに魔法陣が浮かび上がる。
「あの勇者、召喚士だったのか!」
初めて見たぜ、俺以外の召喚士!
『こんな所に、召喚士がいたなんて!?』
「他にもいたんだ……!」
「あの魔法陣は、同じ……!?」
「トオノさん!」
「なるほど。それがあなたの自信の裏付けでしたか」
ふ……、ヤベェな。どんなサモンドスレイヴを出してくるのか、ワクワクが止まらねえ!
「最速を超える究極の速度!そのスピードで、全ての絶望を振り切るぜ!我が下に来い!サモンドスレイヴサモン!『アクセル・スピーダー・ドラゴン』!!」
魔法陣が、激しい光を放つ。
『おお!』
その中から現れたのは、ダブル・ジョーカーと同じくらいの体躯の魔竜族。真紅の体と、右腕が青、左腕が黄色という信号機カラーのドラゴンだった。その特徴は、腰の前部にあるバイクのスロットルのような突起物。
「『アクセル・スピーダー・ドラゴン』か!」
そのサモンドスレイヴは、魔竜族のサモンドスレイヴである『アクセル・スピーダー・ドラゴン』。ダブル・ジョーカーに匹敵するステータスを誇る、強力サモンドスレイヴだ。
ちなみに、あのカードは俺は持っていない。向こうの世界では、大会の優勝賞品で勝てなかったんだよ!
「し、召喚士だ!」
「アダルめ!召喚士だったとは!」
「素敵~!」
勇者がサモンドスレイヴを召喚した事は、観客はおろか他の四十七士の面々まで驚いていた。どうやら、勇者は四十七士にも自分の真の力を隠していたらしい。
“「サモンドスレイヴだぁー!勇者が、サモンドスレイヴを召喚したぞー!これは驚き!事前には、何も聞いていないぞ!!」”
ロキヒノが、マイクが壊れんばかりに絶叫していた。ああ、完全にリーゼントのMCだ。
『アダル。力比べに俺を召喚してもよかったのか?』
現れた『アクセル・スピーダー・ドラゴン』が、勇者に尋ねていた。
さすがは、限定レアドラゴン。当然のように、しゃべっているよ。しかも、結構冷静で渋い声。
「武器は禁止とは言われたけど、サモンドスレイヴ召喚は禁止とは言われなかったからね。サモンドスレイヴを召喚する事だって、私の力だよ」
勇者が、ニヤリと笑って答えていた。
うん、俺もそのつもりだったんだけどさ。まさか、先にやられるとは夢にも思わなかったよ。意外にやるね、勇者くん。
「まさか先を越されるとは。これは、一本取られたな」
ユギカザさんも、苦笑しながらつぶやいていた。王家の方々も、勇者の力は知らなかったようだ。まあ、ミチヨさんが探らせていたくらいなんだから、当たり前か。
『あれが、例の救世主か。……一人相手に、アダルと俺でかかるのか?』
「私は、国を救う力がある事を知らしめる為に、救世主に勝つ!その為には、全力で完膚無きまでに叩き潰さなければならないんだ!」
勇者が、宣言した。
その目的が、ロリ○ンとしてトモヨちゃんを手に入れる、じゃなければカッコいいんだけどなぁ。
ただ、その本性を知らない観客のほとんどは盛り上がっていた。
“「勇者が勝利宣言だー!なお、その事情に関してはノーコメントとさせていただきます」”
さすがのロキヒノも、そこの暴露は避けたか。
『……わかった。そこの救世主よ』
「ん?俺?」
『人間である君に二対一だが、俺の友の為全力で戦わせてもらう。申し訳ないが、これも戦い。許して欲しい』
戦いを前に、アクセル・スピーダーが謝ってきた。ずいぶん、律儀なドラゴンだ。
『命までは取るつもりは無い。だが、絶望がお前の終着点だ』
あ、俺を指差して決め台詞っぽい事を言い放ったぞ。おおー、なんかカッコいい。
ん?「絶望がお前の終着点だ」って、どこかで聞いたような?
(『マスター!』)
「わっ!」
ダブル・ジョーカーが、突然大声を出した。しかも、デッキケースが勝手に開いて、カードが独りでに飛び出してくる。飛び出してきたのは、ダブル・ジョーカーだった。
トーリか、お前……。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
(『我を召喚してくれ!』)
ダブル・ジョーカーが、自分から召喚を催促してくるとは珍しい。
それで、思い出した。万策尽きしカバと戦った時に、ダブル・ジョーカーが言ったんだ。例の「絶望がお前の終着点だ」てヤツ。
「……知り合いか、あのドラゴン?」
(『恐らくは、な』)
まあ、同じ言葉を口にしていたんだから、生前の知り合いかな。サモンドスレイヴになって後の世で再会するなんて、ロマンチックじゃないか。
(『ちなみに、我もあやつも雄だぞ?』)
「わかってるよ。俺は、そういうのにも理解はあるぞ?」
(『おい』)
俺は、ダブル・ジョーカーのカードを手に取った。
「さあ。行くよ、ストッパー」
勇者が、剣の魔札道具を鞘に納めると、ゴム剣を構えた。
ストッパーが、アクセル・スピーダーの本名かな?さすが、「終着点」を決め台詞にしているドラゴンだ。それらしい名前。
『待て、アダル。救世主、何かをするつもりだぞ?』
「え?」
そっちが驚かせてくれたんだから、今度はこっちに驚いてもらう番だよな!
俺の足下に、魔法陣が発生する。
「なっ!?あれは召喚魔法陣!?」
『どうやら、あの救世主も召喚士だったようだな』
「さっきの勇者様と同じの?」
「なんだと!?」
魔法陣の発生に、勇者もアクセル・スピーダーも観客達も驚いているようだ。やられたらやり返す!倍返しだ!
(『同じ事をするだけなのだから、倍返しにはならないのでは?』)
(いいんだよ、そこはノリで!)
“「勇者に負けずと、カナタのサモンドスレイヴ召喚もキター!今だから言うが、救世主カナタも召喚士だったんだ!俺は、知ってたけどな!」”
変なマウント取ってんなよ、ロキヒノよ……。
「時を重ね罪を数え、尚悠久をたゆたう知識の番人よ!風の架け橋を辿りて、我が前にその姿を現せ!サモンドスレイヴサモン!!『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』!!!」
俺も、フル口上と共にダブル・ジョーカーを召喚した。
「うおー!」
「凄い!」
「これが、救世主か!」
魔法陣から現れたダブル・ジョーカーを見て、コロシアムがどよめいた。よしよし、ダブル・ジョーカーが一気に注目を浴びて、俺も鼻が高いぜ。
『彼方くんってば、ドヤってる』
「案外調子乗りよね、あいつ」
「まあまあ、あんなトオノくんはかわいいよ」
「さすがです、トオノさん」
「はぁ、カナタさん。濡れる……」
後ろの羽付きモブとシスコンモブは、うるさいよ!?持ち上げモブは相変わらずだし、ロリっ子モブはもう少し自分の年齢考えて!?巨乳モブは、眼科行こうか?
「まさか、救世主まで私と同じ召喚士だったなんて……」
どうだ、この野郎ー!凄いだろー!




