第37話その2
そんなこんなで、やって来たコロシアム。
コロシアムの中には、円形の舞台が中心にあって、それを取り囲むようにスタンドがぐるりと回っている。確かローマのコロシアムというかコロッセウムは水を入れて通常の闘技の他に水上戦闘もできるようになっていたと聞いたな。
ここは……、野球ができそうだな。コロシアムという名前よりはスタジアムという名前の方が相応しいんじゃないだろうか。どう見てもここ、野球場だ!
スタンドには、既に観客がいた。収容人数は、最大で五万人らしい。観客の大半は、剣や槍を持った兵士達で、一般の市民はいないみたいだ。
「観客のほとんどは、王都を守っている駐留軍の方達ですね」
トモヨちゃんが、教えてくれた。
王都の市民の三分の二は、王都を守る為の兵士達とその家族らしい。このコロシアムも、普段は兵士達が訓練でよく使っているそうだ。今は、バトル・ファイオーの為に傭兵や懸賞金稼ぎが流入して更に戦闘員の比率は上がっている。
そして、野球場で言うバックネット裏には、昨日挨拶した評議会のメンバー達がいた。更に、それに付き従うように、様々な武器や鎧を装備した戦士達の姿が見える。
もしかして、あれが四十七士とかいう連中かな?
「み、見ろ!」
観客席の兵士達の声が、結構鮮明に聞こえてくる。
ダブル・ジョーカーの強化で聴力も上がっているから、ちょっと聞いてみるかな。今まで気にしなかったけど、練習すれば色々聞き分けて地獄耳になれる気がする。目指せ、聖徳太子ペガサスフォーム!
「あの巨大なハンマーを持つ戦士!エフィー領のヒューム・ハンドレッド様だ!」
「あんな巨大なハンマーを操るとは、さすが四十七士一のパワー!」
観客達の見ている先には、自分よりも大きなハンマーを携えるムキムキなモヒカンマッチョの大男がいた。その男が四十七士一のパワーを誇るというのは、まあ納得できないでもない。ただ、そのハンマーにはでっかく「100」って書いてあるんだけど……。それはもしかして、俗に言う100トンハンマーじゃね?
四十七士一のパワー!エフィー領のヒューム・ハンドレッド!
「あっちには、物干し竿のササツ・サッサー様がいるわ!」
「ナゲエ領からいらしてたのね!」
「四十七士一のクール美男子!」
別の女性達が、なぜか黄色い歓声を上げていた。
その対象は、2メートルを超えるようなやけに長い槍を持った男のようだった。本人も槍に合わせたのか長身で、髪が長く切れ長の目をしたいかにもクール男子といった様子のイケメン。まあ、その前に見たのがモヒカンだしな。
四十七士一のクール美男子!ナゲエ領のササツ・サッサー!サが多い!
「ヴィオリン使いのハオ・サヂン様がいる!」
「キコエ領のサヂン様!ヴィオリンを奏でながら敵を殴り殺すと噂の……」
次の男も、長髪の男だった。
この男は、サッサーとは違って背はそんなに高くなく、細目なのかずっと目を閉じているようにしか見えなかった。小脇には、確かにバイオリンのような楽器を抱えているので、つまりヴィオリンというのがこの世界のバイオリンなんだろう。
ただ、ヴィオリンを奏でながら殴り殺すってどういう意味?
「キコエ領のサヂン様のヴィオリンは魔札道具で、魔法で音楽を奏でる事ができるのです。サヂン様は、そのヴィオリンで殴るのが戦闘スタイルだそうです。ちなみに、魔法を使わないとサヂン様自体はヴィオリンが弾けないそうですよ」
聞いてみると、トモヨちゃんが教えてくれた。
つまり、音楽家じゃなくてヴィオリンを鈍器に使うだけなのか。本人的には、魔法で音楽を流すだけの音楽プレーヤーってわけだな。
……どっかのバイオリニストみたいなバーサーカーだな。
四十七士一の音楽プレーヤー!キコエ領のハオ・サヂン!
(『何でも知っているな、王女』)
(ググったら何でも答えてくれる。ググールトモヨちゃんだな)
人間領国一の物知り! 王女のググール・トモヨ!
(『だが、我に比べればまだまだ……だな』)
(十歳の子と張り合うな……)
「ああ!あちらには最高の弓使いと名高い、イワン領のリンゴ・ハリスン様が!」
それは、やけにデカい弓を持つ白髪、髭面の中年男性の事だった。弓は持っているのに矢筒を背負っていない所を見ると、あの弓も魔力で矢を生成するタイプの武器みたいだ。
(『あれ自体が魔札道具で、あれに矢を発生させる魔法を装填させて使う物だろう』)
(なるほどな。今手にしているって事は、そうなんだろうな。……ただ、別にトモヨちゃんに対抗しなくていいんだぞ?)
(『別に、そんな事は思っていないぞ?で?他に何か聞きたい事はあるか?』)
案外負けず嫌い!知識の番人、ダブル・ジョーカー!
「見て!あっちには……!」
つか、これ四十七人分やるの?日が暮れるよ?
『あれが四十七士とかいうの?男ばっかじゃない。興味湧かない』
四十七士(と思われる人間)は、全員男だった。そりゃ、マホは興味引かれないわな。
急に、今までとは違う歓声が飛んだ。見ると、その歓声は俺達のいる側とは反対の入り口から入ってきた勇者に対して上げられた物らしかった。
「まあ、見た目だけはマトモですからね」
トモヨちゃんが、冷めた様子でつぶやいた。
あの勇者、見た目だけは爽やかイケメンなんだけどな。中身は、他人見下し&自信過剰のロリ○ン野郎という。
ちなみに、俺が入ってきた時は「あれが救世主?」と不審そうなざわめきが起こっただけだった。付添人も、マホ達四人&トモヨちゃんと女の子だけだし(ロキヒノはここに来る途中で別に行く所があると言ったので別れた)。
勇者の付添人は、オッサンの他にもう二人。一人は金髪の中年男性で、確か昨日挨拶した評議会メンバーの一人でコシギーンとか言う人だ。という事は、もう一人はコシギーンって人の四十七士かな。両手に鋭い鎌を持った、カマキリみたいな顔をした男だな。
“「みなの者、よくぞ集まった!」”
突然、大きな声がした。何かと思って見ると、バックネット裏席の上に特別に仕切られた空間があって、そこにユギカザさんとミチヨさん、ノオトくんがいた。ノオトくんは、今日は学校休み?どうやら、そこは王族というかVIP用の特別観覧席のようだ。
ユギカザさんが、マイクを握っていた。今の声は、それか。でも、スピーカーが見当たらないけど?
(『あのマイク自体が声を増幅して打ち出すので、スピーカーは不要だ』)
(へー、スピーカーを兼ねてんのか。マイクは普通にあるんだ?)
(『マイクは鉱石族に進化しなかったからな』)
(なるほど)
“「今日は、我が救世主であるカナタ・トオノと勇者アダル・クリスピーナによる力比べを行う!両者は、舞台の中央へ行くといい」”
もう、「我が」救世主なのねユギカザさん。
「やれやれ。とりあえず行ってみっか」
『彼方くん、頑張れ♪』
「あんな変態に負けるんじゃないわよ、カナタ?」
「ファイト、トオノくん」
「怪我しないように、気を付けて下さいね、トオノさん」
「お早いお帰り、お待ちしています、カナタさん」
五人の見送りを受けて、俺は舞台に向かった。五人の女の子に見送られるとか、なんて贅沢なんだ!
一段高くなっている舞台の上に上がると、そこにはなぜかロキヒノがマイクを持って立っていた。
「なんでいるんだ、ロキヒノ?」
「俺が、審判なんだよ。ついでに、実況もやるぜ?」
ニヤリと笑う、ロキヒノ。お前、絶対実況メインだろ。
「参りました王子様」
勇者も、舞台に上がってきた。今日は、さすがに勇者も金色に光る鎧を身にまとって、背中に黄金の鞘の剣を一振り背負っている。
なんか成金趣味的なギラギラ装備だけど、これが国を救う装備には見えないな。
「なんですか、その装備は?というか、何も装備が無いじゃないですか?それでも、救世主なんですか?」
俺の格好を見て、勇者は鼻で笑った。
まあ、あんたの格好に比べればみすぼらしいのかもしれないけど、ギンギンギラギラの成金趣味装備着けさせられるよりはマシかなって思うわ。
「で、ロキヒノ?どうやって力比べをするんだ?」
勇者の言葉は、軽く聞き流した。
「ああ、用意させてる。おい!」
ロキヒノもあっさりと無視して、アシスタント?の衛兵に合図をした。そうしてアシスタントが運んできたのは、剣の刃部分つまり剣先がゴムでできた模造剣だった。
「ゴム?」
「ああ。そいつには既にチョクメイ『×-ダメ-』が仕込んであってな。額、喉、心臓を突くと突いた部分に×印を浮かび上がらせるようになっているんだ」
「ふーん」
勅命カード『×-ダメ-』か。カードとしては、発動すると相手のサモンドスレイヴを召喚する場所に置かれて、そこを使用不可にさせる変わったカードだ。
で、魔法効果は決められた場所に×印を打つ効果になると。直球か。
「なるほど。これなら、極力怪我はしないわけだな」
「そういう事だ。三ヶ所、×印を打たれた方が負けな?こいつ以外の武器は使用禁止だが、魔札道具で魔法を発動させるのは構わない。ただし、武器は増やすなよ?」
「了解」
「はい」
俺と勇者は、ゴム剣を持って少し距離を開けた。
“「それでは、みなの者。しばし、救世主と勇者の戦いに酔いしれようではないか」”
ユギカザさん、ハードル上げてくるなー。
“「それじゃあ、行くぜ!力比べ、ファイトオー!!」”
「ファイトオー!!!!!!」
ロキヒノのアナウンスに合わせて、満員の観客が叫んだ。




