第36話その2
ゲストルームに戻ると、扉の前にマホが待っていた。四人も今日の所は泊まっていく事になっていたから、いて当然だった。
「マホ……」
『彼方くんさぁ。一体、これはどういう事なの?』
部屋に入れると、開口一番マホが文句を言った。
まあ、言われるわな。
「どういう事なんだろうな?」
俺は、ただお手上げポーズを取るだけだ。
『婚約までしておいて、なんなのそれ?トモヨちゃんとどこで知り合ったのよ?』
「どこったって、今日の昼にここでだよ。それ以前に知り合っていない事は、お前だってわかるだろ?ずっと、一緒にいたじゃん」
『それは、そうだけど……』
マホは、ベッドに座った。
いや、ナチュラルにベッドに腰かけるなよ。部屋にはテーブルも椅子も用意されてるんだから、こっちに座れや。
『それにしては、好かれっぷりが異常というか……。初対面の相手に対する態度じゃないでしょ、あれ?』
「トモヨちゃんは予言の姿を見たから……、とか言ってたけど。それがどこまで本当の事かは、わからんからな。何とも言えん」
『何かの陰謀……って事は、無いわよね?』
「実は敵だってか?さすがに、それは無さそうだ。それだと、ロキヒノまで敵って事になっちまうし。トモヨちゃんも、まあいい子だしな」
『まあ……』
そこはまあ、反論の余地は無いよな。ロキヒノが敵だなんて、絶対考えられないし。あいつは、そんな陰謀を裏に隠して接する事ができる人間じゃない。それは、今までの戦いの中で理解した。
トモヨちゃんも、よくわからない底知れなさは感じるけど、俺を好きだっていう想いだけはメチャクチャ伝わってくるからなぁ。そこだけは、信じてもいいように思える。
『トモヨちゃんねぇ……。あの子、なんとなく不思議な感じするよね。子供離れしてるというか、人間離れしてるというか。まさか、サモンドスレイヴだとか?』
(『少なくとも、人間ではあるな』)
『やっぱり、そうよね』
トモヨちゃんの場合は、精神的に落ち着きすぎてるって感じだな。
「彼女は、確かに子供離れしてるな。精神年齢、マホより高いんじゃないか?」
『いや、トモヨちゃん十歳だよ?さすがに、それは無いよ。わたし、何年生きてると思ってるの?』
「でも、お前トモヨちゃんに丸め込まれてたじゃん」
『うぐぅ!』
俺が指摘すると、マホは顔を真っ赤にした。
『あ、あれは……!』
「トモヨちゃんの話には、乗っかったんだろ?」
『それはまあ、そうなんだけど……。だって、彼方くんと結婚できる上に、トモヨちゃんも手に入れられるって事なんだもん。そんなの、乗るしかないじゃない!わたしの夢を一度に叶える、最高最善の計画なんだよ!』
お前的には、そうだろうな。まさか、ハーレム思考の奴がお前以外にいるとは、夢にも思わなかったわ。
『だから、トモヨちゃんとの婚約は許すよ。って言うか、ちゃんとトモヨちゃんと結婚して、わたしの事もお嫁さんにしてね?』
マホはそう言って、ウィンクした。
あー、なぜか知らないけど、どんどんマホの想定しているハーレムが完成に近付いている気がする。どうして、こうなってる?
「お前って百合の女王って事だったけど、もうバイの女王だな?」
『なんとでも言って』
「……そういや、パーティーの時は四人でパーティードレスみたいなの着てたな?あれは、どうしたんだ?」
あの時見たパーティードレスは、今まで見た事の無い代物だったからな。ちなみに、今はいつもの部屋着に戻っている。
『ああ、あれ?借りたんだよ?パーティーに出るなら、相応しい格好がありますからって王妃様が言って』
ミチヨさんが、用意させたのか。まあ、いつもの格好で出たら浮いてただろうから、妥当かな。
「なかなか似合ってて、かわいかったぞ」
俺は、右目をつぶった。
……はっ!?何をサラッと言ったんだ、俺は!?
『ひゃ……』
マホは、真っ赤に赤面していた。
『や、やだな~!そんな褒めたって、何も出ないわよ~。やぁん、もう~』
頬を押さえて照れまくっているマホは、本当にかわいかった。
いかんな。最近、誰も彼もがかわいく見えてきたぞ?いや、実際にマホもメィムもリゥムもヒナギも、トモヨちゃんだってかわいい女の子だから!みんな結構な美少女なんだから、かわいく見えても仕方ないよね!是非もないよね!
『あ!あれならえっちする!?わたしは、いつでもバッチコーイだよ?』
「いや、いいから……」
お前、行動がトモヨちゃんそっくりだぞ?
えっちえっちうるさいマホを、なんとか部屋に帰らせて一息つく。すると、今度はダブル・ジョーカーが話しかけてきた。
(『マスター。少しいいか?』)
「んー?どうした、ダブル・ジョーカー?」
(『うむ。クイーンの話ではないが……、あの王女には十分注意するのだぞ?』)
「は?王女って、トモヨちゃんの事だろ?注意しろって、何だよ?」
マホの話って、えっちがどうこうの話じゃなくて、敵か否かの話かよ。
「お前まで、あの子を敵じゃないかと思うのか?けど、どう見たって敵じゃないだろ。それともあれか?トモヨちゃんの回復魔法、解析して邪悪な魔法だったとかわかったとかあるのか?」
(『そういう事ではないが……。あまりにも怪しすぎるのだよ、彼女の言動が』)
「言動が怪しい?」
トモヨちゃんの言動……?いやまあ、確かにいきなり好きだと言ってきたり、突然初夜だとか言い出してきたりと所々おかしい所はある。ただそれは、怪しいというよりは、俺に会えて嬉しさのあまりに暴走してるようにしか思えないけど。
自分でそんな事考えてるとか、自惚れすぎだな俺……。
(『彼女が、君を好いているのは間違いない事だとは思うぞ?そこは、別に謙遜する必要も無い。存分にドヤるといい』)
「誰にドヤれと……」
(『心の中に作った、もう一人のボク辺りでいいのではないか?「へえ、デートかよ」とか言ってくれるぞ?』)
「なんか、悲しくなるからやめろ」
イマジナリー・フレンドは、空しいだけだから。
(『冗談はさておき。彼女は、明らかにおかしな事を何度も口走っていたのだよ。どうやら、君はスルーしていたようだが』)
「おかしな事?まあ、えっちとかいきなり言い出すのは変だけど、マホとたいして変わらないし……」
(『そこの辺ではなく。……一番新しいのでは、「どこの将軍様か」という言葉があったであろう?』)
「?ああ、そうだな」
それは、さっきのミチヨさんの部屋でのヤツだな。喜び組がどうこう、て話だ。
「喜び組がどうこうなんて言われたら、普通はどこぞの将軍様を思い出すだろう?なんかおかしいか?」
(『君は別に、おかしくはなかろう。……だが、彼女はおかしいだろう。喜び組と聞いてその国を連想するのは、君の世界の人間だけだ。この国には、「将軍」という地位自体が存在しないのだから』)
「あ……」
ダブル・ジョーカーの指摘に、俺は頭を揺さぶられる感覚だった。
言われてみれば、あまりにも自然すぎて何も感じなかったけど、なんでそんな言葉が出てくるんだ?
「え?なんでだ?なんで、トモヨちゃんがその事知ってるんだ?」
(『メダノサクの時は、「こちらでは」と言っていた。メダノサクの名前は、この世界では全地域で統一なのにも関わらず、な』)
「それって……」
(『評議会のメンバーを、「知事」と言い換えていたりもしたな。君にわかりやすくしたかったのだろうが、明らかに向こうの世界の事を知っている言動を取っている』)
「トモヨちゃんが、向こうの世界の事を知っている……?サモンドスレイヴでもない、こっちの人間なのに?」
(『だから言っている。注意せよ、と』)
向こうの世界を知っていて、俺に対するあの態度……。
「まさか、真穂?」
真穂が、トモヨちゃんに転生したとか?
(『いや、それはないな。我のリンクは、途絶したままだ』)
「そ、そうか……。そもそも、それだったらダブル・ジョーカーが言うよな?」
それじゃあ、あの子は一体何者なんだ?一体、何が目的で?
「何か匂わせてんのかな、トモヨちゃん?」
(『いや、あれは失言の類いだと思うぞ。君の気を引きたい、共感したい。そういった思いから、つい口に出てしまった感じだろう。何かの謀では無いとは思う』)
「そうなのか?」
そういう事を考えているのなら、それはそれで微笑ましいんだけど。ただ、ちょっと不気味さを感じてしまうな。
「はぁー」
俺は、ベッドに横になった。
「まあ、俺らがあれこれ考えたって、答えが出るわけないんだけどな」
(『そこは、実際に彼女に聞くしかないからな。だからまあ、疑問が解消するまでは頭の片隅にでも置いておくといい。注意だけは、怠らぬよう』)
「ああ、そうするよ」
あまり、トモヨちゃんを疑うとかはしたくないし。一旦は、保留ー。
そして、力比べの朝が来た。
ああ、メンド。




