第36話
勇者は、十歳のトモヨちゃんにマジで恋する変態だった。しかも、言動を見る限りマジモンのアレな奴だし。
そして、メィムはやっぱり双子の妹に恋をしているガチだった。
そんな二人から、ライバル宣言される俺。
正直色々濃すぎで……むせる。
「まあ、きっとメィムさんも最終的には、ねぇ。カナタさん?」
変なフラグ立てないで、トモヨちゃん?
──・──・──・──・──・──・──
勇者の乱入ペナルティ2000以外は、パーティーは特に荒れる事無く終了した。
「カナタさん♪」
トモヨちゃんが、ウキウキで近付いてきた。
「えっと、今日はその……初夜、ですよね?」
恥ずかしそうにモジモジしながら、トモヨちゃんはそんな事を言ってきた。
うーん、この子は本当に何を言っているのだろう?婚約、て話がもはや新婚にランクアップされてるよ。会ってまだ、半日しか経ってないからね?君の方はともかく、こっちは君の事をほとんど知らないからね?
「あのね、トモヨちゃん……」
「早いって言いたいんですか?いいじゃないですか。ナンパしてホテルなんて、よくある話ですよ。わたし達はお互いの素性はもう知っているのですから、夫婦で問題ありませんよ。夫婦ですよ、夫婦。ああ、いい響き……」
いや、君は俺の本当の素性は知らないから。だから、俺には君と結婚とかそんな事をする資格は、本当に無いから。
「だから……」
「大丈夫です。全てをわたしに任せて下さい」
トモヨちゃんが、胸を叩く。
十歳の子に、何を任すんだよ?
「カナタさん」
そんな俺に、王妃様が話しかけてきた。
「!王妃様?」
「お母様?」
「む。私の事は、ミチヨと呼んで下さいな。まあ、お養母さんでもいいですけど」
いきなり、呼び方を訂正してくる王妃様。
「えっと、ミチヨ様?」
「そこはせめてさん、でしょ?ミチヨちゃんでもオッケーよ」
あー、うん。さすがは、トモヨちゃんのお母さんだわ。
「お母様……。さすがにミチヨちゃんはどうかと……」
「あら?私、普段からお若い頃と全く変わりませんねと言われているのよ?今でも、高校の制服着れるし、ユギカザさんとそれでデートしてるくらいだし」
今でもラブラブなのか、王様と王妃様。それには、トモヨちゃんも苦笑いしてる。
「お母様……。今おいくつですか……?」
「永遠の十七歳よ♪」
トモヨちゃんが二十歳になっても言ってそうだな、永遠の十七歳。
「えっと、ミチヨさん?何か、ご用ですか?」
「ええ。少し、お時間をいただけますか?お話ししたい事がありますので」
「む~、お母様?カナタさんはこれから、わたしとお風呂に入るんですが?」
トモヨちゃんが、俺に抱きついて不満そうに言った。
いや、入らないよ!?風呂には入りたいけど、トモヨちゃんと一緒には入らないよ!?確定事項のように言わないで!
「あなたも一緒に来なさい、トモヨ」
ミチヨさんは、優しく微笑んだ。
そういう事で、俺はトモヨちゃんと一緒にミチヨさんの部屋へと招待された。
ミチヨさんの部屋は、観葉植物と魚を飼育する水槽がたくさん置いてある、趣味全開の部屋になっていた。
「これは、メダカ……あ、いやいや」
見た所、飼育されていたのはメダカに似た海棲族だった。ただ、名前もわからずに口にするのはよくないので、俺は慌てて口を押さえる。
「こちらではメダノサクと言います」
トモヨちゃんが、教えてくれた。
つまり、メダカではあるのか。「サク」とかは、どっから出てきたんだか。
(『……』)
「二人とも、こちらに」
ミチヨさんは、テーブルにお茶を用意してくれた。
「寝る前ですから、ハーブティーで」
ミチヨさんが用意してくれたのは、ハーブティーだった。うん、いい香り。
「ところで、お話というのは?」
「はい。カナタさんは気になるでしょうから、勇者アダル・クリスピーナについて調査しましたの。せっかくですから、聞いていただこうと思いまして」
ミチヨさん、昼間に勇者を見てから即調査させたのか。仕事、早!
「あ。先越されました……」
トモヨちゃんも、勇者の調査を考えていたんだ。
「ふふ。私の1ポイントリードね♡」
「な、何がですか?お母様には、お父様がいるじゃないですか」
「私だって、たまには若い子と遊びたいわよ。ねえ、カナタさん?トモヨみたいな若さだけの子もいいけど、たまには熟女とも遊ばない?」
ミチヨさんが、ウィンクしてきた。
ヤバい、ドキドキする。顔は超の付く美人だし、声だけで心を揺れ動かすし、胸も結構大きい。この人、パーフェクトじゃね?
「お母様!」
トモヨちゃんが、立ち上がってテーブルを叩いていた。
……君もね、トモヨちゃんももちろん魅力的だよ?でも、ミチヨさんが相手だとさすがに不利というかなんというか、やっぱり発育の差がさ。
あれ?俺、おっぱい星人だった?ちょっと、ショック。
「うふふ。冗談よ」
「お母様が冗談だと言う時は、冗談じゃない事は知っています」
そうなの?
まあ、この話を推し進めてもいい事は無さそうだ。
「えっと、勇者の話をしてもらってもよろしいでしょうか?」
「そうですね。そういうわけでトモヨ、この話は終わりね?」
「むぅ……」
トモヨちゃんは、不承不承ながら椅子に座り直した。
ミチヨさんと一緒だとトモヨちゃんですら翻弄されて、普通の子供に戻っているのがなんかかわいいな。
「ええっと。アダル・クリスピーナさん、二十四歳。通称、勇者。この勇者というのは、一応他称であって自称ではないそうです」
ミチヨさんは、どこからともなく取り出した資料を見て、説明を始めた。
「自称であろうと他称であろうと、勇者なんて看板を背負うのは恥ずかしいと思わないのでしょうか?」
トモヨちゃんは、吐き捨てるように言った。あのトモヨちゃんがこんな事を言うなんて、あの求婚にかなりご立腹みたいだな。まあ、彼女の言う事完全無視して自分の都合だけ押し付けてたから、イラッとするのは仕方ない。
ちなみにトモヨちゃん?誰かさんも、同じようなムーブかましてたけど、それはどう思うのかな?
「出身は、クルナ町という所だそうです。ただ、生まれてすぐに両親が亡くなられて、孤児院に引き取られたそうです。その孤児院がハークロ家の経営する孤児院で、そこでトランド・ハークロに育てられたようですね」
「ああ。それで、オッサンには絶対服従みたいな感じなんですね」
孤児院で育てられたんじゃ、その経営者のオッサンには恩義を感じるか。そこで間違った教育を受けたんじゃ、自分がおかしいなんて気付けないわな。隔離されて情報を遮断された中で洗脳するのは、カルト宗教の常套手段だし。
「そのようですね。その後、成長する中で頭角を表し、トランドを守る筆頭騎士となり、四十七士の一人になりました」
「?四十七士というのは?」
「四十七士とは、ギルフォードライ王国を守る四十七人の守護騎士の事です。まあ、実際は評議会メンバーが推薦するそれぞれの領域から一人ずつ選ばれた騎士で評議会メンバーを守っているに過ぎませんけど」
ミチヨさんが、肩をすくめた。
なんだ、そいつら。王国を守る守護騎士とか言われてるのに、王族より評議会のメンバーを守るのが優先かよ。
しかも四十七人とか……。噛ませ臭しかしねえ。
「四十七人集まっても、カナタさんの方が強いですよ、きっと。だってわたし、その四十七人の名前を一人も知りませんもの。モブです、モブ」
トモヨちゃんが、ニッコリ笑って言い切った。
いや、さすがに四十七人を一斉に相手するのはキツいかな。それはそれとして、意外に辛辣だよなトモヨちゃん。モブって。つか、モブって言葉通じるのか。
まあ、四十七士という名前で、最後切腹させられそうなイメージしかないんだけど。
「一人も知らないって……。さすがに勇者の名前は覚えたでしょ?」
「刹那で忘れちゃいました。いいじゃないですか、あんな勇者」
笑顔で、トモヨちゃんは勇者を切って捨てた。
やめろ、トモヨッちゃん!……と思ったけど、別によかったや。
「まあ、勇者で通じるしね」
「勇者(笑)でもいいかと」
「トモヨちゃん、たまに毒舌だよね……」
「そういう事で経歴を調べてもらったのですが、彼がどのような力をお持ちなのかはよくわからなかったそうです。剣技や腕力、体力は当然高いそうですが、国を救うと自ら豪語するほどとは思えません。何より、カナタさん以上などとはとても……」
さすがに、肝心な所はわからず仕舞いか。
「あの人、なんなんでしょうね?カナタさんの事を何も知らないくせに、自分の方が強いだなんて、何様のつもりなのでしょうか?」
トモヨちゃんは、相変わらず憤慨していた。
確かに、何も知らないあいつが偉そうなのはムカついた。ただね、トモヨちゃん。君も、俺の事は本当は何も知らない。いや、知る事は無いと思うよ。
とは言えそれは言えないので、俺は苦笑した。
「まあ、勇者様、なんじゃない?」
「勇者とか呼ばれて、増長して舞い上がっているのでしょうかね?そんなの、勇者ではなく愚者ですよ」
「あはは……」
ぷぅと頬を膨らませて怒っているトモヨちゃんは、ホント困るくらいかわいいわ。
「本人を前にしては言っては駄目よ、トモヨ。いない所では、いくら言っても一向に構わないけど」
ミチヨさんが、トモヨちゃんを嗜めた。
でも、本人のいない所ではオッケーって、それ陰口って言いません?それで本当にいいんですか、ミチヨさん?
「あと、調査してわかったのですが、あまりいい噂を聞かないそうですその孤児院。詳しい事は調査中ですが、一部では「喜び組」と呼ばれているとか。……どういう意味なのかは、図りかねますが、いい噂ではないとだけ」
喜び組って、某国の例のヤツじゃん!……ロリ○ン、孤児院、オッサン。どう考えても、嫌な繋がり方しかしないんだけど。
「どこの将軍様ですか」
トモヨちゃんが、苦笑していた。
「だね」
それなー。ホント、嫌なピースのハマり方だよ。
(『……』)
結局、一番知りたい勇者の力は調べられなかったようだ。まあ、あれだけ言い切ったんだから、超強力な魔法を使えたりするんだろう。それは、明日出たとこ勝負で判断するしかないな。
「お部屋の方は、わかりますか?」
話が終わったので、俺はあてがわれたゲストルームに戻る事にした。
「はい、大体は」
部屋の方は、パーティーの前とかに荷物を置きに行ったから、まあわかるだろう。
「わたしがいるので、大丈夫ですよ」
なぜか、トモヨちゃんはゲストルームについてくるつもりらしい。
「トモヨちゃんには、自分の部屋があるでしょ?」
「カナタさんのいる場所が、わたしの部屋です。……それにしても、お父様にはわたしとカナタさんのスイートホームを用意しておくように言っておいたのに、まだできていないなんてとんだスカポンタンですわ」
「スカポンタンって……」
「トモヨ。あなたは、ここに残りなさい」
ミチヨさんが、トモヨちゃんに言った。
ん?「自分の部屋に帰りなさい」じゃなくて、「ここに残りなさい」?ここって、ミチヨさんの部屋だよな?
「?なぜですか、お母様?」
「あなたは、「本気」なのよね?」
「……カナタさんに対してですか?はい、本気です」
トモヨちゃんは、ミチヨさんを真っ直ぐ見つめて答えた。
正直、ここまで真剣に想ってくれているのがわかると、素直に嬉しい。例え、その愛情の出所がさっぱりわからなくてもね。
トモヨちゃんの答えを聞いて、ミチヨさんは微笑んだ。
「なら、あなたに教えたい事があるので付き合いなさい」
「教えたい事?というのは……?」
トモヨちゃんに聞かれると、ミチヨさんは彼女にだけ耳打ちした。それを聞いて、トモヨちゃんは顔を赤くする。
まあ、俺は身体強化を受けてるから、目の前でかつ静かな場所だから、その耳打ちの内容は聞こえてしまったわけなんだけどな。
「男の子の喜ばせ方、とかね」
「……♡」
母親直々の教育じゃ、俺には異議を唱える資格は無いわけで。




