第35話その2
パーティーの途中、俺は一人で会場から続いているバルコニーに出た。
そういえばこの世界、夜になると月も星も出てくるな。宇宙があって、別の星もあるのか?もしかすると、あの星の中の一つが地球とか?
(『さすがに、そこまではわからぬな。ちなみに、君達の世界では「ツキ」と呼ばれるあの物体は、この世界では「オシオキ」と言う』)
(……ツキに代わってオシオキよってか?)
(『……』)
なんとも、言いようが無いな。
「あら、カナタ?」
「ん?メィム?」
声をかけられたので顔を上げると、そこにはメィムが立っていた。
「あんた、こんな所にいていいの?今日の主役でしょ?」
「今日の主役は、トモヨちゃんだよ。俺は単なる添え物。パーティーの方は、ロキヒノがいるから勝手に盛り上がるだろうさ」
「はは、確かに。さっき、素手で木の板を割ってたわ」
何してんだ、ロキヒノ……。
「そう言うお前はどうしたんだ?」
「外の空気を吸いに来たのよ。正直、知らない人ばかりだからちょっと息苦しいし」
メィムは、バルコニーの手すりにもたれ掛かっている俺の横に立った。どうやら、ここに居座るらしい。
「……それにしても、カナタさあ?あんた、トモヨちゃんに何をしたのよ?物凄いレベルでベタ惚れされてるじゃない?」
メィムが、聞いてきた。まあ、気になるよな。
「何もしてねえよ。今日の昼に初めて会ったんだぜ?」
「ホントに?それなのにあんなにベタ惚れされて、いきなり婚約までする?」
「トモヨちゃんが言ってただろ?向こうが、一方的に知ってたんだよ。俺は、全く全然知らなかったんだからな?」
「……まあ、話を聞くとそんな感じよね。とりあえず、あんたはあの変態勇者とは違うみたいだからよかったわ」
メィムは、とりあえず俺の言う事は信じてくれたらしい。
「あいつなー。なんなんだろうな、あいつ」
「ただの変態でしょ。あんた、明日絶対負けちゃ駄目だからね?」
「だれが、あんなんに負けるかよ。……つーか、俺は勇者ってもっと尊敬できるような人間だと思ってたんだけどな。まさか、ドン引き案件とは」
「ね~。あれに比べたら、まだカナタの救世主の方がしっくり来るわ」
「来るか?」
今でも違和感大なんだけどな、救世主って呼ばれるの。
「あれに比べたら、よ。……まあ、あんな変態の事なんてどうでもいいわ。それより、あんたに聞きたい事があったのよ」
「ん?なんだ?」
メィムが、こっちを向いたので、俺も体を向ける。光の加減でしっかりとは見えないけど、メィムは顔を赤くして俺を睨んでる?
「あんた……リゥムには何をしたのよ?」
肩をいからせて、メィムは言った。
あー、うん。そこの問題、ね。
「リゥムに何したって……。何もしてないぜ?そもそも、山の中で出会ってからはお前ともずっと一緒だったんだから、何もしてないのは知ってるだろ?」
本当に、リゥムとは何も無いからな。正直、会話もそんなに多くない。交流したのは、どう考えてもメィムの方が多いくらい。
「それはそうだけど……!でも、あんただってわかってるでしょ?あの子が、トモヨちゃんの話に乗っかった事は……」
できれば、知らない振りのままでいたかったんだけどな。指摘されたんじゃ、逃げられないか。
「んー、まあ。て言うか、やっぱりあれはそういう事なのか?」
俺が聞き返すと、メィムは露骨に嫌な顔をした。
「それを、あたしに言わせる?……まあ、あたしから言うのはなんだけど、リゥムはあんたに惚れたみたいね」
メィムは、不承不承に頷いた。
結局、そこの所も決定か。できれば、そこの所からは目を逸らしたかったんだけどな。まさかマホとトモヨちゃんに続いてリゥムまでとか、完全に想定外だっての。
「なんで、俺なんだ?」
俺が尋ねると、メィムは思いっきり大きなため息をついた。
「あんたねぇ。今まで自分がやってきた事の自覚は無いわけ?ドラゴンを蹴散らして自分達を助けて、塔ではあり得ない魔法の力を見せ付けた上で、屋上から落ちた自分を颯爽と救出。巨大な敵を葬り去って、しかもその為に自分の力が必要だって認めてくれた。……こんな事されたら、あんまり男子との交流が無かったリゥムはイチコロよ」
ふーん、そんな感じなんだ。俺は男だから、いまいちその感じはわからないんだよな。
「て言われても、俺は必死に戦ってただけだし……」
リゥムへのアピールの為に、そんな戦いをしてたわけじゃないから、自覚無いのかとか言われてもなぁ。
「それはわかってるけど……。あんた、あの時あんな事言ってたんだから、あたしの気持ちには気付いているんでしょ!?」
「!……誤魔化したの、気付いてたか?」
ジュッカー・フィフティーンとの戦いの後に、ついメィムのリゥムへの想いを指摘してしまったんだよな。あの時は「姉妹愛」だと言って誤魔化したんだけど、それは通用しなかったみたいだ。
「気付くわよ。……あんたのお察しの通り、あたしはリゥムの事が好きよ。姉妹としてじゃなく、恋愛的にね」
メィムが、顔をそらして告白した。他人の恋愛の告白を聞くのも、ここに来て初めての経験だな。真穂を紹介しろと迫ってくるのは、それとは違う。
「ん……。でも、双子の妹じゃないのか?」
今更女子が女子をというのは驚かないけど、双子の姉妹相手というのはね。
「むしろ、双子だからよ」
「むしろ?」
「ええ。リゥムは、生まれてからずっと一緒だった存在。ううん、生まれる前から一緒だったあたしの半身。あたしにとっては、あの子のいない人生なんて考えられない。リゥムは、あたしの全てよ!」
「全て……」
「だから、あたしからリゥムを取らないでよ!」
メィムは、訴えてきた。その様子は必死で、気持ちはわかる。ただ、正直それを俺に言われても困るわけで。
「あー、うん。まあ、俺はこれから先も真穂を探して旅に出る事になりそうだから、三人は家に帰るといいんじゃないかな?しばらく会わなきゃ、忘れるだろうさ」
「駄目ね。あの子、あんたの旅についていくって宣言してたから」
「え?マジか?」
「マジよ。まあ、ヒナギもついていくみたいだから、結局あたしもついていくだろうけど」
全員、俺の旅について来るのかよ。まあ、三人はチームなんだからリゥムが行くと言えば一緒に行こうとするか。
「それじゃあ、どうすりゃいいんだよ?リゥムに冷たくすればいいのか?」
「は?んな事したら、ぶっ飛ばすわよ?リゥムには、これまで以上に優しくしなさい」
「お前、それじゃ俺にどうしろってんだよ?」
取らないでとこれまで以上に優しくしろは、両立しなくないか?
「あんた自身は、まあ今まで通りでいいわよ。リゥムにはとびっきり優しくして、ヒナギの事も優しくして、マホにも優しくしてあげなさい。つか、女の子には優しくしなさい」
「つまり、メィムには冷たくしていいと」
「あたしにも優しくしてよ!って言うか、女の子に優しくしろって言ったでしょうが!」
「あはは、さいでした」
こいつとの会話は、ツッコミが即座に返ってくるからテンポがいいんだよな。なんか、桜咲真穂に似てるなメィム。あいつも、こんな感じだった。
「まったくもう……。とにかく、今まで通りでいいっちゃいいんだけど。好かれてるからって、リゥムに無理やり変な事しちゃ駄目よ?」
心配なのは、そこかよ。でもな、今の所俺の方がマホとかトモヨちゃんに迫られてるんだけど?
「無理やりなんかするかよ。こっちからはそんなのする気がないから、リゥムからのはお前が責任もって止めろよ?」
「それは、もちろんそのつもりだけど……。それでもリゥムがどうしても、って言うならその時は受け入れてあげて?」
「え?お前はそれでいいのかよ?」
受け入れろって、つまりあれって事だろ?さっきまで言ってた事を、否定する事になっちまうぞ?
「よくはないけど……。あんたごときがリゥムを振るなんて、それはそれで許せないし」
リゥムと付き合う事は許せないけど、それ以上にリゥムを振って傷付けるのはもっと許せないって感じか。そういうのは、わがままというんだぞ?
「リゥムが泣くのだけは阻止したい、と」
「まあ、そういう事。あの子の涙は、もう見たくないから……」
メィムは、視線を外してうつむいた。それはもしかして、失った人の事かな?
「……聞いていい事なのかどうかわからないんだけど、リゥム誰か大切な人を亡くした事があるのか?」
俺が聞くと、メィムはしばらく視線を外したまま動かなかった。そしてややあって、顔を向ける。
「リゥムって言うか、あたし達ね。……あたし達の父さん、二年前に死んだのよ」
二人の父親は、亡くなってたのか。あの時リゥムの言ってた事も、それか?
「あの日、リゥムは父さんとちょっとした口論をしたのよ。それで、あの子いつも朝にしていた「行ってらっしゃい」の言葉をかけなくて。結局、その日に父さんが死んじゃって、二度と言えなくなったのよ。「行ってらっしゃい」って」
「……なるほど。それが、心の棘になってると」
「うん。ずっと泣いて、後悔してた。……だから、あたしはもうリゥムの涙は見たくないの。あの子を泣かさない為だったら、何でもする。あの子が幸せになれるんなら、一京歩譲ってあんたでもいい」
妥協のレベルが、文字通り桁違いだな……。
「だから、まずはリゥムを泣かさないで」
「?まずは?」
「ええ。で、なるべく引き延ばして」
「引き延ばすって、何を?」
肝心な中身を尋ねると、なぜかメィムは怯んだ。まさかその質問は、予期してなかったのか?
いや、引き延ばす対象が何かわからないと、そもそもが引き延ばせんだろうが。
「うぐ……。だ、だからその……、あの子と男女の関係になる事よ!」
顔を真っ赤にしながら、メィムは叫んだ。
あー、それな。いやまあ、すぐにそんなどうこうなる事は無いと思うんだけど。
「リゥムが求めてきても?」
「なるべく!……その間に、あたしがリゥムを物にしてみせるから」
メィム、俺を真正面から見つめて言い切ったよ。カッコいいな、メィム。
「……それができるなら、今まで何してたんだよ?」
「う……。しょ、しょうがないじゃない!あの子、男子とはあんまり交流しない子だったし、いつもあたしに頼ってくる子だったから、まさか速攻で惚れるなんて思わなかったのよ。 まあ、正直油断はしてたわ」
仲の良さに胡座をかいてたってヤツだな。
なんか、耳が痛い……。
「でも、もう油断はしない。本気で、リゥムを狙っていく。だから、あんたはあたしにとっては恋のライバルよ!」
メィムが、俺をビシッと指差して宣言する。
勇者に続いて、今度はメィムからの宣戦布告だよ。まあ、勇者なんぞよりかは幾分かマシだけど。
「そういう事なんで、あたしがリゥムを落とすのに協力してよね、カナタ?」
ライバル宣言した直後に、ウィンクしながらそんな事を言ってくるメィム。いや、ライバルじゃねえのかよ!?
「なんで俺が?ライバルなんだろ、俺?」
「女の子には優しくしろって言ったでしょ?で、あたし女の子♪」
「……お前はそれでいいのか?」
「リゥムを物にする為なら、どんな事だって利用するわ!あんたなんか、リゥムに惚れられてるんだから、利用価値マックス大草原じゃない」
「たくましいな、お前……」
恋のライバルすら、自分の踏み台に利用しようとする。これまた、したたかな奴だ。
「まあまあ。いつか、お礼はするからさ。だからまあ、協力してよ?」
メィムは、またウィンクしてくる。
……この世界の女の子は、強い子ばかりだな。




