第35話
なぜか、勇者と力比べをする事になった。
なんか、どんどん話が明後日の方に飛んでいくんだけど、何でなんだろうな?いやもう、ここまで来たら腕自慢を集めて、天下一な武道会でも開いた方がよかったんじゃなかろうか?コロシアムが狭いなら、地球がリングだ!で外に。
俺が逃げるから駄目?く、バレたか。
と、その勇者と婚約披露パーティーで遭遇した。
「私と結婚して下さい」
勇者は、トモヨちゃんに結婚を申し込んだ。
……よし、ボコる。
──・──・──・──・──・──・──
突然、勇者がトモヨちゃんに結婚を申し込んでいた。
な、何を考えてんだこいつ!?言っておくけど、このパーティーは俺とトモヨちゃんの婚約披露パーティーも兼ねてんだぞ!?その一方にいきなり結婚を申し込むとか、どんだけ常識無いねん!
会場内が、一気にざわついた。
あまりの唐突な申し出に、トモヨちゃんも目を丸くしていた。まあ、君に申し込まれた俺も、同じような感じだったんだけどね。
「……ありがとうございます、勇者様。ですが、わたしはカナタ・トオノと婚約しましたので、お気持ちだけいただいておきますわ」
トモヨちゃんは、丁寧に断っていた。まあ、当たり前だよな。婚約披露パーティーの席上だぞ?受けるわけないだろ。
なんとなくホッとした気がするのは、それこそ気のせいだ。
「国を救う力でしたら、私にもあります!」
しかし、それでも勇者は引かない。
「はぁ。そうなのですか」
あ。トモヨちゃん、一気に対応が雑になった。笑顔が消えて真顔だし、いかにも興味無さそうな目をしてる。
うわぁ……。トモヨちゃんにあんな目で見られたら、結構クル物がある。
「プリンセスは国の為に救世主の嫁になると聞きました。でしたら、私がギルフォードライ王国を救ってみせます!どうか、私と結婚を!」
勇者は、言い切った。
国の為に救世主に嫁ぐってのはどうも表向きの理由で、トモヨちゃんの真の目的は「俺と結婚する事」だったみたいなんだよな。ただ、それを知っているのはあの時謁見の間にいた人間だけだから、こいつは知るはずがない。国の為に云々は、オッサンから聞いたのか?
それにしても自分が国を救ってみせるなんて、どんだけ自惚れてるんだか。そういうのは、大言壮語って言うんだぜ?
勇者って割に、自分の欲望一直線な奴だな。普通勇者って、自分の欲望なんて二の次にしてみんなの為に戦う存在じゃないのかよ?こいつは、自分の欲望を前面に押し出して、その為に戦うタイプじゃん。
あと気になるのは、あのオッサン。勇者がトモヨちゃんに求婚してるのに、なんでニヤニヤ笑ってるんだ?もし仮に、絶対あり得ない事だけどトモヨちゃんが勇者と結婚したら、王族になるのは勇者であってオッサンじゃないぞ?こいつ、王の座を狙っていたんじゃないのかよ?
(『一つ考えられるのは、勇者を王座に座らせつつ、自分は裏から勇者を動かして実質的な支配者になる事かな』)
(院政みたいなモノか?)
(『それよりは、政界のフィクサー(笑)でも目指しているのだろう。そうすれば、王女も手に入れる事ができるだろうからな』)
(ああ、オッサンがやりそうな事だな。絶対、先に手を付けるとか考えてるわ、あいつ)
(『だろうな』)
「はぁ……。まあ、自分で言った事ですので仕方ないですが、わたしは国を救ってくれる方と結婚がしたいのではありません。カナタ・トオノさんと結婚がしたいのです。そもそも、あなたはどうしてそんなにわたしと結婚したいのですか?王族の権力目当てですか?」
トモヨちゃんは、ため息混じりに尋ねていた。
「ち、違います!……私は、二年前にあなたの肖像画を拝見した時から、プリンセスに心奪われておりました!」
肖像画……。まあ、この世界にカメラは無いものな。
(『いや、発明はされていた。だが、カメラは鉱石族に進化して写した人間の魂を本当に吸い始めたので製造が禁止されたのだ』)
(ああ、なるほど。迷信じゃなくてガチで吸ったのか)
怖いな、この世界のカメラ。
そして、二年前って事は八歳のトモヨちゃんに心奪われた勇者……。ちょっと、ヤバそうじゃねえか?
(『十歳と婚約するのと、どちらがマシだろうな?』)
(ダイレクトアタックやめて?)
「あの……。わたしはまだ十歳の子供ですから、勇者様のような大人の方とは釣り合わないと思いますよ?」
トモヨちゃんは、苦笑いをしながら再度断る。
こういう時は、子供である事を前面に出すのか。十歳である子供という事実と、高校を卒業した成人という立場を、その場その場で使い分けてるよ。
(『したたかな娘だな』)
(彼女には、勝てる気がしないわ)
「その、自分で言うのもなんですが、まだまだ全然成長していませんし……」
トモヨちゃんは、そう言って自嘲気味に笑った。
まあ、彼女はその年齢にあったストーンとした体ではあるな。実際の平均がどんなモノかは知らないけど、年齢相応の体と身長なんだと思う。ただ、内面はそれとはかけ離れていて、むしろ俺よりも大人に感じる。
「何を言っているのですか!それがいいんですよ!全く発育の無い胸!くびれの無い腰!ペッタンコなお尻!どれをとっても、まさに完璧なボディーです!!」
勇者が、立ち上がって力説した。それは、多分彼的には絶賛なんだろう。けど……。
こいつ、マジのロリ○ンか!?あんな事を力説するとか、正直まともじゃないぞ!?いや、他人の婚約の場で結婚を申し込んでいる時点で、既にまともじゃないけど。
会場に、「なんだこいつ」という空気が流れた。さすがに、あんな事を叫ぶようなのはここの世界でもドン引きされるようだな。健全でよかった(十歳と婚約している二十歳の男を祝福するのからは目を逸らしながら)。
「うわ、ロ○コン?」
「なんか、変な事力説してるよ……」
「なんか、怖いです……」
『最低ね』
会場がドン引きしている中で、マホ達が話しているのが聞こえた。当然のように、あいつらも引いてるよ。
「……キモ」
本当に小さな声で、トモヨちゃんですらそんな事をつぶやいていた。
まあ、自分が迫るのはよくても、迫られるのは嫌だよね?婚約乱入からここまで、まともな様子が欠片も見えないからなぁ。
そして、こいつを連れてきた元凶のオッサンよ?周りドン引きしてんのに、なんであんただけは「よくぞ言った!」みたいな満足げな顔をしてんだ?勇者を「育てた」とか言ってたから、それはあんたの教育の賜物か!?
「さあ、プリンセス。私と、結婚を!」
勇者は、シュバッと手を差し出した。こいつ、周りの空気は見えんのか?
「はぁ……」
さすがのトモヨちゃんも、うんざりしたようにため息をついていた。このまま行くと、トモヨちゃんでも怒り出しそうだ。
それをいつまでも黙って見ていられるほど、俺も大人しくはないぜ?
「そろそろ、いい加減にしてもらえないかな、勇者様?」
俺は、トモヨちゃんの肩を抱いて自分に引き寄せた。
「トモヨは、俺の婚約者ですよ?その婚約者を無視して、勝手な事を言わないでもらえますかね?」
俺が前面に立つと、トモヨちゃんは嬉しそうに微笑んで身を寄せてきた。さすがに、女の子一人にいつまでも変な奴の相手させられないし。
「救世主様ですか」
勇者は、俺を見下ろした。あっちの方が背が高いから、目を合わせようとするとどうしても見上げる形になるんだよな。
「一体、どうやってプリンセスの心を射止めたんですか?」
勇者が、若干悔しそうに聞いてきた。
いや、それは俺にもさっぱりわからねえわ。むしろ、なんでなのかこっちが教えてほしいくらいだよ。
まあ、素直にそうとは言えないんで。
「あんたにゃ、無理だ」
不敵に笑って、そう答えておいた。
なぜか、会場から「おー」という感心した声が聞こえてきた。あれ?もしかして、意外に高評価を受けてる?中身が無い事を悟られないように、適当に煙に巻いただけだけなんだけどな。
「はうぅ~。カナタさん、最高です~。抱いてぇ~」
小声でそんな事をつぶやきながら、トモヨちゃんが抱き付いて来る。
立場の違いがあれど、この反応の違いはほんの少しだけ勇者には同情するな。まあ、ほんの少しだけだけどね!
「く……。ならば、明日の力比べに私が勝てば、プリンセスを渡してもらいたい!力は、私の方が上に決まっている!」
俺を指差して、勇者が言い放った
。
……あ?言うに事欠いて、トモヨちゃんを渡せだと?犬猫の譲り合いって話じゃねえんだぞ?
「おい、勇者。てめえ、トモヨちゃんを物扱いしてんじゃねえぞ?」
さすがに、あいつの一言にはカチンと来た。俺の事なんざ何言ってもいいが、トモヨちゃんを物扱いするとか一体何様のつもりだ?
俺の怒りが伝わったのか、会場がまたシーンとなった。
けど、勇者はなぜか笑っていた。あん?なんでこの場面で、笑ってんだよ?
「いい怒気ですね。さすがは、救世主様だ」
?ドキ?……怒気土器?
「ですが、まだまだですね。あなたの力がどれ程なのかは知りませんが、私には及ばない」
勇者は、挑発的に煽ってくる。こっちの力を知らないくせに、やけに自信ありげだな。そんなに強力な力を持ってるのか、こいつ?
「なんなら、この場で始めてもいいですけど?」
自信があるのは結構だけど、時と場合くらいは考えろや。今いる場所を、どこだと思ってんだ?
「それくらいにしておけ、アダル」
さすがに、そこはオッサンも止めていた。
「ハークロ様」
「今日は単なる顔見せ。本番は、明日じゃ。今日はここまでにしておけ」
「は、はい」
オッサンに言われると、勇者も下がっていた。ああ、やっぱりこいつオッサンには絶対服従みたいだな。
「それではトモヨ様、救世主様。今日の所はお騒がせしたので、ここで退散させていただきましょう。アダルの真の力は、明日お見せしましょう」
「それでは、プリンセス。明日」
オッサンと勇者は、連れ立って会場から出て行った。まったく、本当にお騒がせな連中だよ。
二人が出て行くと、会場の人間がわっと寄ってきた。全員が、口々にトモヨちゃんを庇った事を褒めている。いや、それはやって当たり前の事だろ?
「はぁ~。カナタさん、ホント好き♡」
そして、トモヨちゃんの好感度は更に上がったらしい。




