第34話その2
パーティーまでに若干時間があったので、俺はトモヨちゃんと話をする事にした。
「ベッドがありますよ!どうですか!?えっち、しちゃいますか?」
場所は、トモヨちゃんの部屋。
天蓋付きのベッドに横になって、トモヨちゃんが妖しく微笑む。まったく、どういう教育をしているのか、ここの王家は?
「冗談でも、そういう事をしちゃ駄目だよ」
「わたしは、本気ですよ?だって、婚約者ですから」
微笑みながら言うけど、困った事に目は真剣なんだよな……。でも、こっちの世界でどうあれ、せめて十年は待たないと。
それは、ともかく。
「パーティーが始まるから、のんびりはしてられないよ」
「……まあ、そうですね」
トモヨちゃんはあっさりとうなずいて、すぐにベッドから降りてきてテーブルについた。
うーん、やっぱりどこまで本気かわからん。
「それで、お話というのはなんでしょう?」
「ロキヒノの遠征の事。ええっと、なんて言ったっけ……」
「トランド・ハークロですね」
「そうそう、それそれ」
あれ?今トモヨちゃん敬称略した?なんか、珍しい。
「あのオッサン……。ロキヒノ「だけ」を行かせるように仕向けた?」
俺は、いきなり核心から入った。相手はトモヨちゃんだから、遠回しにする必要無さそうだからな。
トモヨちゃんは、一度目を伏せると、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「この国は、王制を敷いています。最高権力者は、王。今代ならば、わたしのお父様ユギカザ・リードギルフですね」
「うん」
「この王は、血筋によって継承される、世襲制です。お父様が退いた後は、ロキヒノお兄様が。お兄様に何かがあれば、ノオトお兄様があとを継ぎます。ちなみに、わたしは継承権は三位ですが、ギルフォードライ王国は建国以来女王はいないので、わたしが王位を継ぐ事はまあ、まず無いと思います」
「でも、ロキヒノとノオトくんにもし何かあれば、お鉢は回ってくるんじゃ?」
嫌な想像だけどな。
「わたしは女ですから、その時は結婚した旦那様が王座に着くでしょうね。つまり、カナタさんが王になるという事です。……なんか、それはとてもいいですね!玉座に座る、カナタ王と傍らに控えるわたし……。いい!これはいっその事、ロキヒノお兄様とノオトお兄様を亡き者にしてしまいましょうか?」
どんな姿を想像したのか知らないけど、トモヨちゃんがとんでもなく物騒な事を言い出したぞ!?ロキヒノとノオトくんは、血を分けた兄妹でしょう!?
「いやいや。そんな物騒な事は、口にしたら駄目だよ!?」
「……つまり、部外者が王になるには、ロキヒノお兄様とノオトお兄様は邪魔だ、という事になります」
「ん!」
トモヨちゃんの表情が、真剣な物になった。
それが、目的か。
「王座の乗っ取りが狙いか、あのオッサン」
「もちろん、証拠はありません。でも、それ以外にロキヒノお兄様をろくな戦力も集めさせずに遠征させる理由が、思い付きません。カナタさんの異常な力があればこそ撃退できましたが、ロキヒノお兄様が人拐いドラゴンを討伐できるとは思えませんから」
トモヨちゃんの言う事は、もっともだった。何しろ、万策尽きしカバと下っ端ドラゴンが二十匹。ダブル・ジョーカークラスの力が無いと、相手にならないからな。
「そうなれば、討伐されるよりは全滅する事を望んでいたと考えるのが妥当かと」
あのオッサンの舌打ちを考えると、その辺が正解だろうな。しかし、そうなると……。
「あのオッサン、ロキヒノとノオトくんを排除して、トモヨちゃんと結婚するつもりだったと?いやいや、あいついくつだよ!?」
ロキヒノとノオトくんを亡き者にして、自分は王族の娘と結婚して王の座に座る。それがシナリオなのだろうが、あいつ髪が後退したすだれ中年デブだったぞ?それが、十歳の女の子を手に入れようと?
「ちなみに「あれ」は、五十で独身だそうです」
「うわー……。ロリ○ンか」
年の差四十って……。ロ○コンか!俺に言われる筋合いは無い?知るか!
「だから、カナタさんがロキヒノお兄様を助けに行ってくれて、王家も救われたんですよ」
「そうか……。役に立てたのならよかった。ただ、あいつはのさばらせておいたらいけない奴では?」
「とは言え、証拠はありませんからね。あくまで、状況を考えるとそうとしか思えない、なだけですから」
トモヨちゃんは、両手を挙げて肩をすくめた。なまじ地位が高い奴だから、証拠も無しで手出しはできないよな。
その時、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「失礼します。トモヨ様、トオノ様。そろそろお着替えを」
メイドさん達が、パーティー用に着替える時間だと呼びに来た。
ん?トモヨちゃんだけかと思ったら、俺も?
「え?俺も着替えるの?」
「もちろんです。晴れて婚約なされた、お披露目の席でもありますから」
眼鏡をかけたメイドさんが、微笑んで言ってきた。雰囲気的に、メイド長だろうか?
メイドさん達は、裾の長い紺のメイド服にホワイトブリムと、俗に言うヴィクトリアンメイド風な服装だった。
うーん。メイド服、いいよね!向こうでも、何回かメイド喫茶行ったしね。まあ、真穂が常について来てたけど。
「……そうですね。カナタさんはメイド服がお気に入りでしたね」
ジト目で俺を睨んでいたトモヨちゃんが、ため息混じりに言った。
うわ!メイドさん眺めてたの、完全にバレてる!?
「あ、いや……」
「今度、わたしサイズのメイド服を作っていただけますか?」
「はい!お任せ下さい、トモヨ様!」
えー。なんでそこ張り切る、メイドさん達?
(『……』)
俺に用意されたのは、黒のタキシードだった。バカボン王子みたいな、カボチャパンツ用意されなくてよかった。
ちなみに、デッキケースだけは腰に付けておいた。ジャケットで隠れるので、見た目的には問題は無い(と思う)。
「カナタさん」
トモヨちゃんは、赤のドレスにティアラを着けていた。
うーん、この溢れ出るロイヤル感。俺が彼女の隣にいると、それこそみすぼらしいのかもしれない。
くそ、なぜ俺をイケメンに生んでくれなかったんだ、父さん母さん。これじゃあ、オッサンに反論できねえ。
「かわいいよ」
もう、その言葉が自然に出てくる。これは、きっとトモヨちゃんに言わされてるわ。
「カナタさんも、とてもよくお似合いです♡」
こっちは多分、お世辞。
「……あれでしたら、仮面とマントとステッキを用意しましょうか?薔薇も一輪持てば、完璧かもです」
「それは、いらない……」
それ、どこぞのタキシードな仮面さんやーん!
(『……』)
正直エスコートの仕方とかよくわからないんだけど、トモヨちゃんと一緒にパーティー会場へと入場する。
「大丈夫です。リラックスして、わたしに全てを任せて。痛くしませんから。天井の染みを数えている間に、終わりますよ♡」
トモヨちゃんが、囁いてくる。
あのさぁ……。それは多分、女の子の台詞じゃないよ?
パーティーには、いかにも貴族と思える人間達が集まっていた。トモヨちゃんの言う所によれば、今日来ているのは中央政府評議会のメンバーとその関係者らしい。
「今日急に決まったパーティーなのに、よくこんなに集まったな?それぞれの地域の領主じゃないのか?」
「ほとんどの方が、領主とは名ばかりですから。みなさんこちらにいて、領域に帰るのは年数回の方達ばかりです。まあ、これが終わったら領域に戻るそうですが」
トモヨちゃんが、教えてくれた。
評議会メンバーは領主でありながら、普段は最も裕福なこの首都に住んでいるらしい。領域の方は、部下に任せて年に数回帰るだけ。そんな、いる意味あるんだか無いんだかな領主なんだと。
で、バトル・ファイオーが始まるから慌てて避難、かよ。上の方に行くと腐ってくるのは、世界が違っても変わらねえな。やれやれ。
「これはこれは、救世主様」
評議会メンバーが、次から次へと挨拶してきた。表面上は笑っているけど、心の中で「どこのウマナミの骨だ」と思っているのが、ビックリするくらい伝わってくる。どいつもこいつも、あのオッサンとたいして性根が変わらんな。まあ、上流階級なんてこんなもんか。
王家は王家で、よくわからない。熱血だけど、多分有能の王様。声を聞いただけでゾクゾクする、おっとり王妃様。熱血というか熱血バカの第一王子。第二王子は、まだよくわかりません。そして、それ以上によくわからない王女様。面子が、濃いめ!
俺には、この面子と渡り合うのは無理じゃねえかな。トモヨちゃんには悪いけど、早々に真穂を探しに旅に出よう。
そして会場を見ると、パーティードレスを着たマホ達四人の姿もあった。まあ、こっちが挨拶攻勢に晒されているので、声をかけに行けないんだけどさ。
「ん?」
視界の端に、王様に挨拶をしているオッサンの姿が見えた。そして、その横に長身痩躯のイケメンが一人。
こういうのを甘いマスクと言うのか、それこそ女子に人気のイケメンアイドル的な顔だ。髪はサラサラの銀髪で、瞳は青い。俺も一応175はあるんだけど、あれは身長190近くはあるな。あんなんが隣にいたら、俺は誰の視界からも消えるわ絶対。
見た所、二十五くらい?俺よりは年上っぽい。
トモヨちゃんが俺の視線に気付いたのか、そのイケメンを見てからまた俺に視線を戻して、ニッコリと微笑んだ。
「大丈夫です。わたしの視界に入るのは、カナタさんだけですから」
トモヨちゃんの言葉に、本気で俺の心がトゥンクっと鳴った。
ああ、なんてイケメンなんだ、トモヨちゃんー!メチャクチャにしてぇ!
(『彼女に実際にそれを言えば、きっと嬉々としてメチャクチャにしてくると思うぞ?』)
やっぱり、らめぇぇぇぇ!
そんな俺達の所に、オッサンとイケメンが近付いてきた。まあ、こうやって一緒に近付いてくるって事は、これが例の奴か。
「トモヨ様、救世主様。紹介いたしましょう。これが、我が勇者アダルでございます。アダルよ。こちらが、王女トモヨ様だ」
オッサンが、イケメンを紹介した。
まあ、予想通りそいつが例の勇者だったんだけど。
「存じ上げております」
そう言って勇者は、トモヨちゃんの前で片膝をついて頭を下げた。
「お初にお目にかかります、プリンセス・トモヨ。私、只今紹介にあずかりました、アダル・クリスピーナと申します」
勇者アダル・クリスピーナは、極自然にトモヨちゃんの左手の甲にキスをしていた。トモヨちゃんの方も、自然に左手を差し出している。
スマート!その動きは、二人ともあまりにもスマート!なんか、社交界って感じの雰囲気を感じる。終始あわあわ戸惑ってる俺とは、マジで雲泥の差!
なんか、既に勇者に完敗した気分……。
ただ、名前なんだから笑っちゃ駄目なんだろうけど、クリスピーナさんって。アイスですか、勇者さん?
「初めまして、勇者様」
まあ、当然トモヨちゃんも初対面のようだ。
「お会いできて、光栄ですプリンセス」
勇者は、手を握って膝をついたまま、トモヨちゃんを見上げた。
……おや?勇者の目が、不思議とキラキラしてる気がするぞ?て言うか、一体いつまで手を握っているつもりだよ?
「プリンセス。どうか、私と結婚して下さい」
勇者がそう言った瞬間、会場が沈黙に包まれた。
え?今、なんて、言った?
(『今度は、王女が結婚を申し込まれたな』)
なんなんだ、これ?一体、どうなってるんだこの世界はー!?




