第33話
異世界に来たら、驚いた事に彼女ができた。告白されたのも初めてなら、彼女ができたのも初なんだけど?
すげえな、異世界。人生急転直下だよ!
はは、そんなはずは無い。これは、きっと夢だ。
「わたしの夢は現実です♡」
トモヨちゃん!?ここまで侵食しないで!
──・──・──・──・──・──・──
『ちょ、ちょっと待ってよ!』
「待ってもらっていいかな!?」
「ま、待って下さい!」
マホ達が、異議を唱えてきた。まあ、マホはそうだよな?
けど、一緒にリゥムとヒナギも声を上げたんだけど、この二人はなんだ?いきなり二人が声上げてたから、メィムが驚いてるじゃん。
『勝手に話を進めないでくれるかな!彼方くんも!雰囲気に流されないで、断ったっていいんだからね?』
マホは、俺に詰め寄ってきた。
まあ、半分くらいは流されてる。あの状態じゃ、どうしてもな。それに、トモヨちゃんを泣かすのはどうかと思うし……。
「マホさん。ちゃんと、考えて結論を出して下さいましたよ、カナタさんは」
トモヨちゃんが俺から離れて、マホと向かい合った。そんなトモヨちゃんを、ムッと見返すマホ。
ヤバい、火花散ってる?でも、正直俺は修羅場の経験とか無いから、どうしていいかわからないんだよ!いや、悪いのは多分俺なんだろうけどさ!
なので、俺はおろおろとするばかりだった。情けないぜ、俺ー!
『……でも』
「マホさん。一つ、わたしの話を聞いてくれませんか?」
『?何?』
きょとんとするマホに、トモヨちゃんは微笑みかけた。冷静に余裕ある態度を取ると、あの子は本当に年齢以上に見えるな。
「マホさん。わたしは、こう見えて王族です。もし、わたしとカナタさんが結婚すれば、当然カナタさんも王族になるという事になります」
『……そうね?もし、仮にだけど?』
「はい。そして、王族には王家の血を絶やさない為に重婚が許されています。まあ、王族の特権ですね。それがどういう事かは……、わかりますよね?」
『!それって……』
トモヨちゃんの言葉を聞いて、マホは目を見開いていた。
……どういう事だ?
(『王族には夫や妻は何人いてもいい、という事だろう?』)
(はあ!?でも、王様は……)
(『何人いてもいいという事は、一人でもいいという事でもある。そして、そういう状況はクイーンは十分知っているだろう』)
(マホは、ハーレムの女王だもんな……)
確かに、マホはそういう生活をしてきたんだもんな。
しかし、重婚が許されてるのか、ここの王家は。まあ、日本も江戸時代には大奥とかあったから、理由自体はわからないでもないけど。
「わたしは、美味しい物はみなさんで分けあった方が、より美味しくなると思うんです」
『え?それじゃあ……』
「あと、わたしは「女の子」ですよ?」
トモヨちゃんが、ウィンクした。
『あ……』
「わたしの話に、一口乗ってみませんか?」
トモヨちゃんの意図はよくわからないけど、マホに何かを提案しているみたいだ。
少しだけ考えていたマホは、ややあってにっこりと笑うと、トモヨちゃんと握手を交わしていた。マホは、トモヨちゃんに籠絡されたらしい。
(『?あの王女。本当にただ救世主の未来を見ただけか?』)
(?何がだ、ダブル・ジョーカー?)
(『いや、何……。「国を救う救世主」の未来を見ただけであれば、クイーンの性的嗜好。女好きという事まで知っているのが少々不思議に思ってな。今王女、クイーンの女好きを突いて籠絡したようだからな』)
確かに、マホはすっかりニコニコで、上機嫌になっている。
ハッ!まさか、トモヨちゃんはマホとも付き合おうと!?
(『……まさか、本気で言っているわけではあるまいな?』)
(……必死に見ないようにしてるんだから、指摘すんなよ)
トモヨちゃんの言ってた事くらいは、ちゃんと理解してるよ。俺が王族になれば、トモヨちゃんともマホとも結婚できるから、一緒に結婚しましょうって言ってたんだろ?言ってる事はわかるけど、脳が理解を拒むんだよ!
二十年、陰キャの俺だぞ!?何の前触れも無い謎のモテ期が来て、素直に受け入れられるわけがないだろう!
(『陰キャの悲しいサガよな……』)
(言うな……!)
「ところで、そちらのお二人は?」
トモヨちゃんが、リゥムとヒナギに顔を向けた。
マホが異議を唱えるのはわかるんだけど、この二人は本当になんで出てきたんだ?
「え?えっと、その……」
問われたリゥムは、俺の方に顔を向けると赤面して、しどろもどろになっていた。
「えっと、そういうのはやっぱり、相互理解というかちゃんと知り合ってからというか」
「知る為に、お付き合いするんですよ?」
「それはぁ……」
「トモヨちゃんには、まだ早いと思うんです。その、確かまだ十歳でしたよね?」
ヒナギが、そこを指摘した。まあ、そこは気になるよな?俺も、まず気になったのは彼女の年齢だし。
「……確かにわたしは十ですが、早いと言われるのは少し心外ですね。わたし、もう成人していますから」
は?この国って、十歳で成人するのか!?いや、でもヒナギは早いって認識してたし。
「え?成人しているって……。高校を卒業したんですか?」
「はい。わたし、クラスを飛び級しまして。今年、高校まで卒業しました」
「ほえ~」
「す、凄いですねトモヨちゃん」
リゥムとヒナギは、トモヨちゃんが高校を卒業した事に驚いていた。
トモヨちゃん、飛び級小学生だったのか……。昔、そんなキャラブームがあったような気がする。
高校を卒業したのは凄いけど、それと成人したのはどう関係が?
(『この国では、高校を卒業した者を成人とする。つまり、高校を卒業したのだから、年齢がいくつであろうと成人扱いされるという事だ』)
(そうなのか?つまり、高校まで義務教育?)
(『うむ』)
(そういう事か……)
「で、でもやっぱり十歳は早すぎるのではないか、と……」
それでも、ヒナギは食い下がっていた。やっぱり、ヒナギは心優しいから、まだ幼い年齢のトモヨちゃんを心配しているんだろうな。
(『なるほど。君はそういう認識か』)
(?どういう事だよ、ダブル・ジョーカー?)
(『何。真穂嬢もそれでは苦労するな、と思ったまでよ』)
(???)
ダブル・ジョーカーまで、よくわからん事を……。
「……わたしを気遣っていただけるのは嬉しいのですが、わたしはただ年齢が若いからというだけで愛を口にする事が早いとは思いません」
トモヨちゃんが、横目で俺の方を見てきた。
「秘めた想いがあるのなら、口にするべきだとわたしは思っています。だって、言わなきゃ伝わらないんですよ?伝えないまま、もしその相手がいなくなってしまっては、ただ後悔が残るだけです。……そんな事は、わたしは嫌です」
その言葉は、俺の胸に突き刺さった。
後悔を抱えて、無力感に苛まれる日々。それは、よくわかる。その後悔に耐えきれなかったから、俺はこの世界に来たんだ。
トモヨちゃんの目は、まるで俺の全てを見透かしているように見える。
なんで、この子を見るとこんな……?
「それは……」
「……うん。私にはわかるよ」
リゥムが、うなずいていた。
「私も、あの時言うべきだったってずっと思ってきた。でも、もう言えない。それを、ずっと後悔してる」
リゥムは、何かを思い出して悲しそうにつぶやいた。
それがどんな感情なのか、誰に対しての言葉なのかは知らない。でも、そのツラい想いは伝わってくる。それは、あの時の俺と同じ感情。
誰か、大切な人を失ったのか、リゥム。
「リゥム……」
それを知っているのは、ここにいるのはメィムだけだろうか。
「……あの、トモヨちゃん!」
「はい、なんですか?」
「その……。一口乗るの、マホちゃん以外もオッケーかな?」
恥ずかしそうに、リゥムがトモヨちゃんに尋ねる。
いや、ちょっと待て?トモヨちゃんの言う一口って、例のアレだろ?それにリゥムが乗ろうとするって、それはどういう事だよ!?
「わたしは、もちろんオッケーです。いっそ、言っちゃいますか?」
「いや、あの、それは、まだ……」
リゥムは、俺の方をチラチラ見てあわあわしている。
えーと、マジですかこれ?いつから?そんな様子、無かったよねダブル・ジョーカー?
(『我に聞かれても知らぬが……。我が参加しなかった鉱石族との戦いで何かあったのではないのか?』)
(えー?別に何も無かった、はずよ?リゥムとはあんまり一緒に行動しなかったし。屋上から落ちたリゥムを助けたくらいで、あとは別に……)
(『そうか。……まあ、向こうにはまだ何も言う気は無いようだし、気が付かなかった振りでもしておけばいいのでは?実際に言ってくるまでは、ただの勘違いである可能性もある』)
(勘違いはあるよな、な!ただ、さっきからめっちゃメィムに睨まれてるんだけど……)
さっきから、メィムが怖い顔で睨んでくるんだよな。あいつ、リゥムに姉妹以上の感情抱いてるから、俺に対する心象悪くなってるっぽい。
(『それは、ご愁傷さまだ』)
「ヒナギさんは……、どうされますか?」
どうするって、ヒナギは何も無いだろう!?トモヨちゃん、何言ってるのさ?
「あ、えっと……。ほ、保留で」
「はい。わたしは、いつでも歓迎しますよ?」
保留って、なんだ!?ヒナギをあんまりかどわかすなよ、トモヨちゃん!
(『君は、あのアホ毛の少女に対しては不思議と保護者目線だな?』)
(いや、ヒナギを見ていると危なっかしいというか放っておけないというか……。つい構ってしまうんだよ)
確かに、保護者目線に立ってるな。一応、ヒナギは俺と同じ年なのに。
なんつうかほら、ヒナギは常に俺を持ち上げてくるから、なんとなく下的な感じがするんだよ。常に敬語で話してくるのも、それに拍車かけてるし。
だからまあ、ぶっちゃけ心配なんだよ!あいつの将来は!
(『オトンだな……』)
「トモヨ。話は、まとまりましたか?」
事態の推移を見守っていた王妃様が、トモヨちゃんに声をかけていた。
「あ、はい」
「そう。それでは、カナタさん。娘の事、お願いいたしますね?あなたに、「お養母さん」と呼ばれるようになる日を、楽しみにしています」
王妃様の言葉に、俺は曖昧な笑みを返すしかなかった。
「じゃあ、カナタ!前も言ったが、俺を兄さんと呼んでいいんだぜ?」
ロキヒノが、肩を組んできた。それから、俺を引き寄せて耳打ちする。
「できれば、お前があの生意気な小悪魔をしつけてくれよ。もうちょっとあいつを、素直な妹にしてくれ」
「へ~。お兄様はそんな事を思ってらしたのですか~」
ロキヒノの内緒話は、いつの間にか忍び寄っていたトモヨちゃんに筒抜けだった。この子、油断も隙も無いな。
俺の周りには、そんな女の子がたくさんいるんだけど……。
「うげ!聞いてたのか、トモヨ!」
「うふふ~。しつけてあげましょうか、お兄様?」
うわー、トモヨちゃん物凄い笑顔なのに、背中に真っ黒い闇のオーラが見える。
「ひえー。勘弁してくれー!」
「あ!待ちなさい、お兄様!」
頭を抱えて逃げ出す兄と、それを追いかける妹。そんな様子を見て笑う両親に、近所の人達というか衛兵達。
昔のホームドラマか!




