第32話その2
問題は、本人やる気満々なのは理解できない事だが……。
「国を救うってのは断言しないけど、戦えってんなら戦う。裏切ったりはしない。ほら、言質取れたでしょう?なら、もう王女様を嫁がせる必要は無いですよね?」
「しかし、それは……」
確約してあげたのに、なぜか王様は渋っていた。
なんで、渋ってんの?口約束は、信用できないから?契約書が必要?娘を政略結婚に出すなんて異常な状態なんだから、それが無くなるなら喜んで飛び付く物じゃないの?
「それは駄目です!」
突然声を上げたのは、王女様だった。
「え?王女様?」
「わたしはトモヨです!そう言いました!」
なんか、物凄い剣幕で怒られた。いやまあ、言われたけど。
「……トモヨちゃん。国を救いたいって気持ちは、俺にもわかるよ?でも、その為に君が我慢をしたり無理をする事は無いと思うんだよ?」
会ったばかりの、何も知らない男に嫁ぐなんてさ。
「我慢も無理もしていません!」
「いや、国を守る為に嫁ぐなんてのは……」
「国なんて、どうでもいいんですよ!わたしが、カナタさんのお嫁さんになりたいだけなんです!」
トモヨちゃんが、力の限り叫んだ。
……え?今の、どういう事?
「あ……」
トモヨちゃんは、自分が言った事の内容に気付いたのか、顔を真っ赤にして俯いた。
あれぇ?トモヨちゃん、国の事なんかどうでもいいって言い放ったぞ?それで嫁になりたいって……。何がどうなってるわけだ?
「トモヨ」
王妃様が、トモヨちゃんに声をかけた。
ちょっと、ビックリした。王妃様、声が物凄く綺麗だ。見ると、周りの衛兵達もうっとりとした顔で王妃様を見ているぞ?とにかく、澄んでいるというか、心に響いてくるようなそんな魅力的な声だった。
三文字しか発声してないのに。
「はい……」
「それが、あなたの本心?」
「……はい」
俯いたまま、トモヨちゃんは頷いた。それを見て、王妃様もまた満足そうに微笑んで頷いている。
「救世主様。お名前を伺っても、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。カナタ・トオノです」
「カナタさん、ですね?初めまして。トモヨの母のミチヨと申します。……トモヨの方はともかく、カナタさんはトモヨの事はよく知りませんよね?」
「それは、まあ……」
名前はともかく、顔を会わせたのも言葉を交わしたのもついさっきが最初だからなぁ。おかげで、何がなんだかまるでわからない状態だから。
「でしたら、まずはお友達から、という事でお願いできないでしょうか?できれば、結婚を前提としてですが」
王妃様が、にっこり笑ってそんな事を言った。
……。
…………。
………………。
あれ!?王妃様から、娘と結婚を前提としたお付き合いをするように申し込まれた!?
(『反応鈍いな、君は』)
(ダブル・ジョーカー!?これ、夢かなんかか!?)
(『少なくとも、今目の前で繰り広げられているのは現実だな』)
(なんで俺なん?)
(『それは、あちらさんに聞きたまえ』)
「トモヨ。気持ちはわかりますが、焦って押すばかりではカナタさんも困ってしまうでしょう?それに何より、あなた一番肝心な事を伝えていないじゃない」
王妃様の言葉を聞いて、トモヨちゃんはハッとなって顔を上げた。
一番肝心な事って、なんだ?
(『ノーコメント』)
(おい、知識の番人!?こういう時こそ、お前の知識の出番だろう!?)
(『王女が寄ってきたから、すぐにわかるだろう』)
ダブル・ジョーカーの言う通り、トモヨちゃんがすぐ側まで近付いてきていた。
トモヨちゃんは、顔を真っ赤にして俺を見上げていた。……?何、この雰囲気?
「……」
トモヨちゃんは、両手を胸の前で組んだ。そして、口を開く。
「好きです、カナタさん。わたしを、お嫁さんにして下さい」
それは、告白の言葉。トモヨちゃんが、いきなり愛を告白してきた。
……なんだ、これ?告白、された?誰が?俺が?
初めて会った子に、いきなり告白されて結婚まで申し込まれたんですけど!?なんだ、これ?なんだ、これ?なんなんだ、これは一体!?
(『だから、告白されたのであろう?』)
(冷静だな、ダブル・ジョーカー!)
(『まあ、告白されたのは我では無いしな』)
(おのれぇ!)
俺は、混乱する頭でトモヨちゃんを見る。その顔からは、嘘を言っている様子は見受けられない。罰ゲームで告白してるとか、そういうのでは無さそう。って言うか、一番肝心な事というのはこれか!?
突然の告白劇に、謁見の間が完全に沈黙していた。マホ達も含めて、全員がどうなるのか固唾を飲んで見守っているようだ。
「えっと……、なんで?」
マホに続いて、二度目の「なんで?」。でも、今回ばかりはこれは当然の反応だと思うんだけど。
「好きになったから、です」
「だから、なんでかなぁと。ついさっき、初めて会ったよね?」
「わたしは、予言のお姿をずっと見てましたから。そうして実際にお会いして、確信したんです。「あぁ、好き……」と」
それって、ある意味一目惚れって事?予言で姿は知ってて、実際に会ったらなんか琴線に触れたとか、そんな感じなん?
本当に?予言の姿っていうのがこっちにはわからないから、どうしても疑ってしまう。
「わたしの事は嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないよ!?というか、まだ会ったばかりでよく知らないから、好きとか嫌いとか以前の問題だし……」
「でしたら、尚更お付き合いしましょう。わたしの全部、知って欲しいです」
トモヨちゃんが、また押してきた。この子、グイグイ来るなぁ……。
「えっと、結婚前提ってのは……」
「そこはいいです。わたしが、その気にさせてみせますので!」
トモヨちゃんは、グッと両手を握って前に出てくる。
いや、かわいい。必死な様子が凄くかわいいんだけど、でも相手小学生だよ?小学生相手に交際って、それは……。
「救世主様ー!姫様がこれだけ言ってるのだから、応えてあげて下さいよ!」
突然、衛兵の誰かから声が飛んだ。
「へ?」
「女の子にこれだけ言わせて逃げるのは、男じゃないですよ救世主様!」
「王女様を幸せにして下さい!」
「こんな美少女に迫られるなんて、この果報者ー!」
「ここは、はい以外ナシでしょ~!?」
「ここで逃げるのは、ヘタレですぜ救世主様!」
一つの叫びを切っ掛けに、あちこちから同じような言葉が次々に飛んできた。当たり前だけど、全部トモヨちゃんを応援して背中を押してやがる!
て言うか、完全に断れない状況にされてるんだけど!?こんなん、テレビカメラを連れてきて相手に断らせないようにプレッシャーを与える、クソな素人告白ドキュメント番組やないかい!
「みなさん……。わ~い。みなさん、ありがとうございます~」
トモヨちゃんが、衛兵達に手を振った。結果、更に彼らはヒートアップする。
「救世主!救世主!」
なんか、変なコールまで始まったぞ?
「救世主!救世主!」
つか、王様までノリノリで右手を突き上げてるんだけど?
「カナタ!カナタ!」
ロキヒノも、周りの勢いに乗って楽しそうにコールしてるよ。妹の交際の話だぞ?そんなノリで、本当にいいのかお前……?
ここは、ライヴ会場か?こんなよくわからないノリで王女の交際話を進めて、この国は本当に大丈夫なのか?
とは言え……。
「カナタさん……」
目の前には、若干不安そうに俺の返事を待つトモヨちゃん。
マホ達は、あまりの急展開についていけずに四人ともポカンとしている感じ。
周りには、囃し立てる王様を始めとした王家関係者一同。
逃げ場なんか、無かったよ。
「……その。と、友達からお願いします……」
俺は、観念した。この雰囲気で断れる奴がいたら、断ってみろ!俺はできない。
答えを聞くと、トモヨちゃんが満面の笑顔を浮かべた。輝くような笑顔で、うんかわいいよ。とんでもなく、かわいいよ。俺が巻き込まれてなければ、ね。
「はい!カナタさん!」
トモヨちゃんが、俺に抱き付いてきた。
そして、謁見の間が拍手と歓声に包まれた。
「ヒューヒュー!」
「よし!それでこそ救世主!」
「これは、祝わねばなるまい!」
衛兵達は、ハイタッチをしたり抱き合ったりして喜んでいる。
これは、果たして正解なのだろうか?
(『良かったではないか?人生初の彼女、であろう?』)
(あー……)
まあ、ダブル・ジョーカーの指摘は確かなんだけどさ。
異世界に来て、彼女ができました。




