第32話
ようやく王都に到着した俺達は、その王城でロキヒノの妹のトモヨ・リードギルフに会った。冷静で知的な美少女だけど、ロキヒノには小悪魔だし俺らには名前で呼ばないと返事すらしないと言い張る、ちょっと変わった王女様。
彼女のお願い?で、俺達は王様に謁見する。そして、王様が言った。
「救世主様」
なんだ!?一体、何が始まったんだよ!?まるで意味がわからんぞ!?
教えてくれ。俺はあと何回、頭を抱えればいいんだ?ゼロは何も言ってくれない……。
『これからも振り回されるのが、君の役割だ』
あ、ダブル・ジョーカーが答えてくれた。
──・──・──・──・──・──・──
「救世主様」
王様が、俺に向かって膝をついて頭を下げていた。
えー?王様って、この国の最高権力者だよな?そんな人が、なんで俺なんかに頭を下げてるんだよ!?て言うか、この状況じゃ俺取っ捕まるんじゃね?
実際、周りの衛兵達は騒然となっていた。
「あ、あのお方が!」
「常々言われていた、国を救う方!」
「我が救世主!」
「祝え!」
衛兵達は驚いているみたいだけど、俺に対しては悪感情は抱いてないっぽい?それに、口々に言われている「国を救う」って?
「父上!?って、救世主ってまさかトモヨが普段から言っていたあれか!?」
ロキヒノが、驚いて王様に聞いていた。
ん?「救世主」とやらの発生源は、トモヨちゃんか?
「うむ、そうだ」
王様は顔を上げて、ロキヒノの言葉にうなずいた。それを聞いて、ロキヒノは顔をトモヨちゃんの方に向ける。
「はい。いつも言っている方は、カナタさんで間違いありません」
トモヨちゃんも、肯定してうなずく。
……どういう事?
「そうか……、そうか!そういう事だったのか!やっぱ、カナタだな!いやー、さすがはカナタだぜ!」
ロキヒノは一人で納得して、大喜びで俺の背中をバンバン叩いてきた。お前の力で叩かれると、結構痛いんだけど……。
目の前で繰り広げられた情景に、俺……マホとメィム達もそうなんだけど、俺達はただただ唖然とするしかなかった。王家とその関係者は情報を共有してるみたいだから通じてるけど、説明ガン無視されているこちら側はちんぷんかんぷんだ!
ピプペポパニックだよー!
「いや、あのロキヒノ?トモヨちゃんでもいいんだけど、誰か説明してくれないかな?救世主って、何?俺は、どういう立場に置かれてんの?」
苦笑いをしながら、俺は説明を求める。それで、王様も状況に気付いたみたいだ。
「おっと、これは失礼しました。ロキヒノは、まだ説明をしていないのだな?」
「カナタは凄い奴だとは思っていたけど、トモヨの言ってた救世主だとは思っていなかったからなぁ」
「お父様。詳しい事は、わたしから説明いたしますよ?」
トモヨちゃんが、王様に進言した。
どうも、救世主という言葉の発生源は彼女みたいだし、そこから話を聞くのが確かに筋になるかな。まあ、ロリっ子だし。
……下品、俺!
「うむ。それでは、頼もう」
王様は体を起こして、玉座に戻った。それと入れ替わるように、トモヨちゃんが俺の目の前に立つ。
「それでは、不肖ながらわたしトモヨ・リードギルフが、カナタさんの為にお話しさせていただきますね?」
「う、うん」
「では。まずはカナタさん?カナタさんは、わたしの事に関して、お兄様から何か聞いていますか?」
いきなり脱線?トモヨちゃんの事、と言えば……。
「えっと、不思議な回復魔法を使える。あと……、予言めいた事を言う?」
「はい、そうです。わたしには、時々見えるんです。何かが未来に起こる、という事が」
トモヨちゃんは、小さく微笑んでうなずいた。
彼女、未来予知ができるのか?しかも、それに対して誰も異議を唱える様子が無い所を見ると、それは王家では周知の事実。かつ、実績があるという事か。
不思議な回復能力といい、この子人間離れした力を持っているみたいだな。
まあ、俺も人の事は言えないけど。……なんか、急に親近感が湧いてきたぞ。
「未来予知……?」
「はい。そして、わたしは見たのです。近々、この国に災厄が襲ってくる事と、それを払い国を救う人が現れる。と、いう事を」
「それが救世主で、俺?」
「はい♪」
笑顔で肯定する、トモヨちゃん。
俺はそんな立派な者じゃ……、と言いたかったけどそれはできなかった。それを見たのはトモヨちゃんで俺じゃないから、見た事は否定できない。彼女は実績もありそうで信頼されているようだから、それを覆す事もできるはずがない。
「この国を襲う災厄って……」
「既にご存じだとは思いますが、バトル・ファイオーですね」
確かに、あれは災厄だ。
「……俺が、バトル・ファイオーでこの国を救う?」
「はい。そう、わたしは見ました。……複数のサモンドスレイヴを従え、敢然と邪悪に立ち向かうカナタさん。それは、素晴らしい光景でした」
トモヨちゃんの言葉に、俺はドキッとした。
ロキヒノがヒキャクを送った時点では、俺がサモンドスレイヴを複数召喚できる事はあいつは知らないはず。当然報告はできないんだから、トモヨちゃんもそれを知っているはずが無い。それを知っているという事は、彼女は本当にその場面を見た?
「サモンドスレイヴを複数従える?」
王様が驚いていたので、その場面に関しては報告していなかったようだ。
「カナタさんはサモンドスレイヴを召喚する能力をお持ちなのですよ。それも、複数体」
トモヨちゃんが、若干のドヤ顔で王様に報告する。
なんか、背筋が寒くなってきたんだけど。この子、何をどこまで知っているんだ?
「……くす」
ちょっと引いている俺を見て、トモヨちゃんは微笑んだ。その後、声を出さずに口だけをパクパクさせた。
……な、ん、で、も?彼女の口は、そう動いていた。何でも?
「なんと!召喚士で、しかも複数召喚と!?」
謁見の間が、驚きに満たされる。
「はい。でも、カナタさんは魔王族ではなく人間です。だからこそ、わたし達の国を救ってくれる存在になりうるのです」
「そこまで、なのか……?」
「そうです。魔法も複数発動できる事は、お兄様もご存知ですよね?」
「ああ、こいつは凄いぜ?鉱石族との戦いでも、たくさん使ってたよな?結局どれくらい同時に使えんだっけ?」
「……サモンドスレイヴ召喚含めて16、かな」
俺が答えると、また場がざわついた。
「な、なんと……。そのような力を持つ人間がいようとは……」
王様は、呆然とつぶやいていた。
うん、まあ。驚かれるのはわかるんだけど、正直あなたの息子さん娘さんも大概ですよ?兄貴は明らかに人間離れしたパワー持ってるし、妹はもう何とも言えない底知れなさを感じるし。
「お父様。これで、わかっていただけたでしょうか?「わたしが必要」な事が?」
トモヨちゃんが、不思議な言い回しをした。
「なるほど、確かにお前の言う通りだったようだな」
王様も、納得している。
だから、そっち側だけで納得するのはやめて?一応、話の中心って俺だろ?ちゃんと、俺にもわかるように話してくれってばよ!
王様はまた、王妃様と顔を見合わせてうなずき合っていた。
うん、目と目で通じ合う~のは夫婦仲が良さそうで大変結構なんですけど、人間なんで他の人にもわかるように口にして?他の人間はもうこの際どうでもいいから、とにかく俺にわかるように説明して?
「救世主様」
王様が、俺に言葉をかけてきた。
なんか、ずっと「救世主」って呼んでくるんだけど、どうも俺の個人の事は認識していないようでちょっと嫌な感じだな。トモヨちゃんじゃないけど、俺は彼方であって「救世主」なんて名前じゃないぞ?
と思ったけど、よく考えたら王様にはまだ名乗ってないわ、俺。ロキヒノやトモヨちゃんが「カナタ」って呼んでるけど、名乗られてもいない王様がいきなり名前で呼びかけるのは不自然か。納得納得。
「ギルフォードライ王国国王、ユギカザ・リードギルフとしてお願いいたします。どうか、我が国を救っていただけないでしょうか?」
王様は、また頭を下げてきた。ユギカザさんって言うのか、王様。
「えっと……。その、救ってと言われましても……」
奇妙な力は持っているけど、いきなり国を救えとか救世主とか言われても正直困るんだよな。多分、俺はそんな器じゃないし。そもそも、俺はこの世界に真穂を探しに来ただけで、国を救うとか管轄外だし。
「もちろん、無償でとは申しません。我が娘、トモヨ・リードギルフを救世主様の嫁として嫁がせましょう」
「は?」
え?今、なんて、言った?ファルシのルシがコクーンでパージ?
「カナタさん。ふつつか者ですが、精一杯尽くしますので、よろしくお願いいたします」
トモヨちゃんは俺の前に正座をして、三つ指をついて頭を下げてきた。
え?これ、マジなん?
『え、えぇ!?』
「何、これ?」
「結婚宣言!?」
「トオノさん……?」
今まで静かだった女子陣も、驚きの声を上げていた。
「え?トモヨちゃん?え、嫁って……」
「はい。カナタさんに、嫁がせていただきます」
トモヨちゃんは、顔を上げてにっこりと笑った。
本気か、これ!?
「いや、待って!?なんでそうなんの!?」
「国の為、ですから」
「トモヨ、ずっと言ってたな?国の為には、自分が救世主に嫁ぐって。そうかぁ、カナタが俺の弟になるのかぁ」
なんで嬉しそうなんだ、ロキヒノ?トモヨちゃんまで、なぜか笑顔だし!
「ちょっと待ってくれませんか!?それって、トモヨちゃんを生け贄に捧げるから、救世主に国を救ってくれないかって言ってるって事ですよね!?娘を生け贄に捧げるって、王様はそれでいいんですか!?」
そんな政略結婚みたいなトモヨちゃんの意思を無視するような真似、俺は嫌だしされる理由も無いよ!
と王様に訴えてみたけど、王様はなぜかそんな俺を見て微笑んだ。なぜ、笑う?
「なるほど。トモヨの言う通り、高潔そうだ」
?何が?俺は別に、血圧高くないよ?
「カナタさん。これは、わたしの意思です。誰にも無視されていませんし、強制もされていません」
「え?でも……」
国を救う為に、苦渋を飲んで決断したとかじゃないの?
「わたしは、自分の意思でカナタさんに嫁ぎたいのです。それで国を救っていただければ、より嬉しいです」
トモヨちゃんは、自分の胸に手を置いて微笑んだ。
この話、トモヨちゃんは全然嫌がっている様子が無いな。むしろ、積極的と言うか、ノリノリ?ロキヒノの言葉通りだったなら、普段から自分で嫁ぐって言っていたみたいだし。
わけがわからない。
「どうして、そんな……?トモヨちゃんとは、ついさっき会ったばかりなんだけど?」
「国を救っていただける方ですし」
……国を救う救世主だから、嫁ぐ。それって、俺じゃなくて救世主だからだよね?別に国を救ってくれるなら誰でもいいし、国さえ救われれば彼女が嫁ぐ必要も無いのでは?
なんか、ちょっとイラッとしてきたぞ?
「俺に、国を救うような器があるとは思わない。救えるとも思わない。そんなに自惚れちゃいない。そこそこの力は持ってるけど、それを頼りに「王女様」を嫁がせようというのは正直理解ができない」
俺が言い放つと、場がシーンとなった。けど、もう止まらない。
「もちろん、バトル・ファイオーの事は理解してる。国……というか人間族全ての危機だって事もわかってる。だから、その為に戦えっていうのなら戦ってもいい。ただし、「王女様」を餌にしなくてもいい。どうせ、俺が他の種族に肩入れしないようにする為の保険なんだろうけど、俺も人間だから人間を滅ぼそうなんて考えないよ」
王様や王女様達の行動を見る限り、力のある者を自陣営に引き入れて裏切らせない為の保険として王女様を嫁がせようとしている、としか思えないんだよな。それは、政略結婚って言うんだぜ?
そんな事に、十歳の女の子を巻き込むなよ。




