第31話その2
ミッション終了、ここでお別れだなロキヒノ
「さて、ロキヒノ。お前も無事家に着いた事だし、俺達の任務は完了だな?」
「え?」
なぜか、ポカンとするロキヒノ。
「俺達の任務は、お前を家に帰す事だったからな。まあ、懸賞金稼ぎの三人はまだ依頼料の支払いを受けてないみたいだから、そっちの支払いはちゃんとやってやれよ?」
ここまでロキヒノを送ったのは俺達が勝手についてきただけだけど、マンション塔での探索&バトルに関しては三人に仕事として依頼してたからな。それの清算だけは、ちゃんとしてもらわないと。
つっても、そこから先は俺とマホは部外者だから、口を出す資格は無い。
「そういう事だから、マホ。俺達はそろそろおいとまして……」
「まあまあ、カナタさん」
マホに声をかける俺の前に、トモヨちゃんが出てきた。
「そんなに急がなくてもいいじゃないですか?どうせ、この後どこに向かうべきなのかもまだ決まっていないですよね?」
「え?いや、まあ……」
確かに、この後の予定は何も決まっていない。そもそも、どこへ行けばいいのかすらわからない。それを客観的に指摘されると、結構心にクル物があるなぁ。
つか、ロキヒノめ。そんな事まで、報告してるんかい。
「そういう事でしたら是非、ウチのお父様とお母様に会って行って下さい」
「え?でも、何も用事が無いのに顔を出すのは……」
「こちらに、用事があるのです。あと、お兄様。お父様が詳しい討伐状況を知りたがってましたので、報告をお願いします。その報告の際には、カナタさんもいて下さった方が何かといいですよね?」
トモヨちゃんが、ロキヒノに顔を向ける。
彼女、ロキヒノより遥かに有能そうな気配を漂わせているな。ただ、向こうの用事ってのは一体なんだろうか?
「まあな。つか、トモヨの言う通りだぜ?そんなすぐ帰ろうとすんなよ。せっかく来たんだから、お茶でも飲んでけって。なんなら、ずっといてもいいんだぜ」
なんかよくわからないけど、ロキヒノが右手の親指を立ててニカッと笑いかけてきた。
「いや、俺の目的は知ってるだろ……」
「焦んな焦んなって。急いでもいい事無いぞ?」
「そうですよ、カナタさん。何か必要な物があれば、お兄様に買いに行かせますから、ゆっくりしていって下さい」
「俺はパシリか!」
「あ……。ごめんなさい。お兄様にはパシリも無理でしたね」
にっこり笑顔で、ロキヒノを一刀両断するトモヨちゃん。この子、怖い……。
「誰がじゃい!」
ロキヒノのツッコミに、トモヨちゃんはくすくすと笑う。
常日頃からこうやって、手の平の上で弄ばれて来たんだろうな、ロキヒノ。見た目は天使みたいに愛くるしいのに、めっちゃ小悪魔だ。今でこれじゃあ、成長して大人になったら一体どうなるのか……。想像もつかん。
「んったく……。メィムとリゥムとヒナギも後で依頼料の件片付けるから、もうしばらく付き合ってくれよな?」
「ええ」
「うん」
「はい」
三人は依頼の件があるから、当然付き合うわな。マホはまあ、俺の行動に合わせるだろうから。
「……わかった。まあ、急いでも仕方ないのは事実だから、少し付き合うぞ」
どこに進んだらわからない、船を手に入れた後の昔のRPGみたいな状態だからな、今。自由度が高すぎるのは、それはそれで困りもんだ。まあ、何らかの指針が固まるまでは、ここでロキヒノに付き合うのも悪くないだろう。
なので、肯定の返事を返した。すると、トモヨちゃんがやけに嬉しそうな顔をする。
「はい!それではさっそく、お父様の所へ参りましょう!」
「んじゃ、案内するからついてきてくれよ?」
ロキヒノとトモヨちゃんが、俺達を先導するように先に立って歩き出した。俺は、というか俺達は城の中をよく知らないので、ついて行くしかない。
『トモヨちゃん、かわいいよね~』
マホは、トモヨちゃんを見てニコニコだった。
「確かに。かわいいと言うか、綺麗と言うか」
「でも、なんだか王女様って感じはしないね?」
「なんか、お茶目ですよね」
女子陣は、そう言ってほっこりしていた。かわいいトモヨちゃんに、萌え……癒されているみたいかな。
というか、女子にはあれはお茶目に見えるのか……。
先を歩く兄妹が、何かを話している。
「ところでトモヨ?俺はヒキャクにはカナタの名前は書いてなかったはずだけど、なんで最初から名前知ってたんだ?」
「つまらない所にばかり気付くんですね。……秘密です」
「またそれかよ」
その二人の会話は、俺には聞こえなかったわけで。
そこは、広いホールだった。まるでハリウッドのように、奥へと続く赤絨毯。ホールの両の壁際には、完全武装した衛兵が一糸乱れず並んでいる。
赤絨毯の先は何段か高くなっていて、そこには豪華な椅子が設置されていた。
その玉座と呼ぶに相応しい椅子には、ロキヒノを更に精悍にして年齢を重ねさせたような男性が一人、ゆったりと座っている。
まあ、どう見てもこの人が王だな。
玉座の隣には、トモヨちゃんと同じ白いドレスに黒髪の女性が、微笑みながら立っている。一目見ただけで、トモヨちゃんの母親だってわかる。
ここは、王の謁見の間。
(なんだかなぁ……)
目の前の空間は、まさに漫画やアニメなんかで見た謁見の間その物だった。
ザ・テンプレって感じだけど、実際に目の前に出されるとその雰囲気に思わず息を飲むな。そんな中で変な事をやれば、周りの兵士達が殺到して速攻捕縛。最悪、そこで殺されるんだろう。マナーとか、習っておけばよかったなぁ。
「父上!今戻りました!」
謁見の間に来ると、ロキヒノが王に向けて叫んだ。
まあ、大きな扉を入った場所から王の椅子までは、結構距離あるもんな。叫ばないと、聞こえないか。
つうか、「父上」呼びなんだ。らしい。
「おお!ロキヒノ!よくぞ帰った!」
それに対して、同じくらい大きな叫び声が帰ってくる。ロキヒノの父親だけあって、王もなんか熱そうな人だぞ?
そういうわけで、俺達は王の前に立つ。
ええっと……。こういう場合は、どうすればいいんだっけ?えっと、剣を置いて、片膝立ちで「本日はお日柄もよろしく……」みたいな事を言って……。
(『少し落ち着きたまえ。君は剣を持っていないぞ?』)
(あ、そうだった)
(『マナーが必要な相手かどうかを、先に見極めるといい』)
(でも、王様って言うくらいだから、やっぱりへり下ったりしないと駄目だろ?)
(『君が王子様に対してへり下った所を見た事が無いのだが?』)
(え?……まあ、あいつはロキヒノだし)
「勝手に遠征して、悪かったな父上」
「いや。事態が一刻を争う事だったのは聞いた。迅速に対応してくれたのは、むしろありがたかったぞ。だが、事前の報告はしろ?出立してからトランドに聞かされて、少し驚いたではないか」
ロキヒノ、山賊と人拐いドラゴンの話を聞いて、王様に報告する前に飛び出して行ったのか?うん、まああいつらしい。少しは考えろ、とは思うけどな。
「そこの所は、ハークロさんがやってくれるって言うんでさ」
「あいつ、三日くらい経ってから思い出したかのように言いやがったからな。まったく、もう少し早く知れば応援を回してやれたものを」
?ロキヒノ達の戦力が少な目だったのは急いで出て来たからだけど、王とロキヒノの間に誰かがいてそいつが連絡を怠ったから、少ない戦力のままで挑まなけりゃならなかったという事か?
いやいや、おかしいだろう。ロキヒノは強いけど、無敵じゃ無いぞ?実際、俺が駆け付けなきゃ結構ヤバい状況だったし。王子が遠征した事を三日も忘れるって、そんな事あり得るかよ。
「そうすれば、誰かの得になる……。んでしょうね?」
トモヨちゃんが、小声で俺に聞こえるようにつぶやいていた。見ると、彼女は右手の人指し指を立てて、ウィンクをしている。
……今は「シィー」って事?
あれ?ロキヒノの遠征って、実はかなり複雑な問題が絡んでる?
「どちらにしても、連絡は受けた。山賊と人拐いドラゴンの件は、両方片付いたそうだな。よくやったぞ、ロキヒノ」
「あ、いや。それは……」
「ん?亡くなった兵達の事か?うむ、痛ましい事だが平和の為に戦ってくれた尊い犠牲者だ。遺体は、お前の連絡を受けてすぐに回収に行かせ、それぞれの家族へと戻して弔った。家族への説明も、俺がしておいたぞ」
俺達がジュッカー・フィフティーンと戦って休息してる間に、あの山中の遺体は回収されたんだな。しかも、家族には王様が直々に説明に行ったのか。
ロキヒノといい王様といい、仕事が早い。
「父上が?すまない、父上の手を煩わせてしまって」
「構わんさ。それより、せっかくだ。山賊と人拐いドラゴンを討伐したお前の活躍を、一丁聞かせてくれよ」
王様が、楽しそうな顔でロキヒノに言った。
ああ、これは息子の活躍を聞くのをわくわくしてる典型的な親バカだな。
「まったく……。親バカなんですから……」
トモヨちゃんが、呆れたようにつぶやいていた。彼女から見ても、王様は親バカか。ただ、口調は呆れ口調だけど、顔は笑っているからそんな親の姿が微笑ましく思っているみたいだな。
十歳の娘に、微笑ましく見守られる父親って……。
あと、正直俺ら置いてきぼりだけど、まあそこは空気のままでいた方が楽だな。むしろ、このままフェードアウトしてもいいくらいだ。
「うん、まあ。その事なんだけどな。山賊も人拐いドラゴンも、討伐したのは俺じゃないんだよ」
ロキヒノが、バツが悪そうに苦笑しながら答えていた。
いや、そこは説明しなくていいだろう!?どうせわかりゃしねえんだから、手柄は自分の物にしておけよ!
それができる性格じゃないのはまあ、知ってるけどさ……。
「ん?ロキヒノが討伐したんじゃないのか?」
「ああ。討伐したのも、俺を救ってくれたのもこいつだ!」
ロキヒノが、俺と肩を組んでしっかりと言った。
ああ、この体勢じゃ目立たないように気配を消す事すらできやしない。
「そうなのか、ロキヒノ?」
「ああ!こいつは、兵達を失って絶体絶命だった俺を救ってくれて、更に人拐いドラゴンも壊滅させていた凄い奴なんだ!」
ロキヒノが、自分の事のように自慢する。たまたま、そのタイミングにかち合っただけなんだけどなぁ。
「ほう……」
王様の視線が、俺に向いた。なんだか、射抜かれるような鋭い視線だ。
勝手に自己紹介を始めるのは失礼だろうから、俺はとりあえずペコリと頭を下げて会釈しておいた。
王様は俺を見つめた後、隣の王妃様と顔を見合わせていた。目と目で言葉を交わしたのか、王様が小さくうなずくと王妃様も満面の笑顔を浮かべてうなずいていた。
あと、トモヨちゃんが物凄いドヤ顔で、両腕を組んでウンウンとうなずいているのは、一体なんだろうか?なんか、「ワシが育てた」的な空気を感じるんだけど……。本当にこの子は、よーわからん!
「そうですか……。あなたが、ロキヒノを助けていただいたのですね?」
王様が、俺に話しかけてきた。
「え?あ、いえ……。たまたま、タイミング的にそうなっただけでして……」
「何言ってるんだ?お前が命の恩人なのは確かだぜ、カナタ。人拐いドラゴンに至っては、俺が行く前にお前が倒しちまったんだしな?」
「いや、まあ。そうだけど……」
「そうですか。やはり、あなたがそうなのですね?」
王様が、玉座から立ち上がった。そして、俺の前まで歩いてくる。
「ようこそ参られました。救世主様」
そう言って、王様は片膝をついて俺に向かって頭を下げてきた。
……は?どういう……事だ?まるで意味がわからんぞ!?(数日振り?回目)




