第29話その2
「でも、ここにも一人いるけど?」
ほぼ自然に、全員の視線がマホに集中した。
『……え?わたし?あ、わたしはその……。友達あんまりいないから』
なんだか凄く悲しい事を言って、マホは笑っていた。その様子があまりにも痛々しくて、誰もその事にツッコミを入れられなかった。
まあもっとも、友達がいないというよりは同じ時代を生きた天使が残ってないって意味なんだろうけどな。……ん?天使って、寿命どれくらいなんだ?マホがあまりにも人間っぽいから気が付かなかったけど、人間と同じくらいの寿命なんだろうか?
「マホ。あたしとあんたは、友達だからね?」
メィムが、マホの頭をそっと胸に抱き締めた。
『……メィムちゃん。うん♡』
マホは、一瞬で笑顔になってメィムの胸に顔を埋めた。埋めるだけあるかは、別としてだけども。
「私も友達だよ」
「はい。わたしも、マホちゃんの友達にして下さい」
リゥムとヒナギも、マホに抱き付いた。友達が一気に三人できたマホは、嬉しそうだ。良かったな、マホ。
なーんて、思うわけねえ。
三人に抱きつかれて、マホはだらしないデレデレ顔になっていた。さっきまでのシリアスな表情が、まるで嘘のよう。お前、三人の女体を堪能してフィーバーしてるだけだろ!物凄い勢いで、メィムの胸の感触楽しんでやがるし。
こいつ、本当にこんなんで女王やってたのか?
「……はぁ。まあ、だいたいわかった」
『(わかっていない)』
「お前がそれ言うな、ダブル・ジョーカー!」
おのれ、サモンドスレイヴにまで受け継がせるなよ真穂!
「とにかく!……なんともはや、とんでもない事態が始まったってわけだな」
『そういう事になるな』
俺は、ため息をついて頭を抱えた。
まったく、俺は真穂を探しに来ただけだってのに、それがたまたま二百四十八年に一度の年に当たるか、普通!?異世界に来るだけでもとんでもない確率なのに、更にレアなタイミングに当たるとか、どんだけツイてないんだよ俺は!?
やはり、言うべきか。絶望したぁ!
「じゃあ、次行こうぜー」
俺には知識と絶望を、マホには女体の感触を残して話は終了した。再び、スケールに乗って街道を走る。
今日の所は、途中で寄った町に一泊する。
『彼方くん』
その夜、マホが部屋にやって来た。
『ちょっとお話があるんだけど、いいかな……?』
「話……?」
俺は、廊下に立つマホを上から下まで見回した。
格好は、普通の部屋着。このホテルの寝間着は、翼のあるマホには使えなかったようだ。持ち物は特に無く、手ぶら。
『大丈夫だよ。今日は何も持ってないから。手ぶら手ぶら』
警戒されている事に気付いたのか、マホは手ぶらをアピールした。
仕方ないので、俺は中に入れる。
「それで、話っていうのは?」
『うん。そのね……、多分彼方くん誤解してると思って』
「?誤解って?」
『ああ!』
?なんか繋がってなくね、その返し?
「え?」
『ごめん。口が勝手に……。その、昔のわたしが手を組んだ時の事』
マホは、視線をそらして言った。
「ああ、あれか。お前、バトル・ファイオーに参加していたんだな」
『うん。ちょうど、わたしが女王してた時だから。……でね。彼方くんは、わたしがロキヒノくんの先祖と同盟を組んだって思ってるでしょ?百合の女王のくせに、男と手を組んだんだって』
マホには、見透かされてたか。まあ、いきなりロキヒノの先祖の事を聞いたから、こいつなら察するわな。
「くせに、とは思わないけど。まあ、驚いたかな。百合の女王だし、男と付き合った事無いとか言ってたし」
『いや、男と付き合った事無いのは事実だよ!?別にロキヒノくんの先祖……、フォウンダさんとどうこうあって同盟組んだわけじゃないの!わたし達も人間族も正面きっての戦いはどうしても他に劣るから、それを補える形にしただけで……。だいたい、わたしはフォウンダさんと組んだわけじゃないし』
あー、俺がマホとロキヒノの先祖との事を何か勘ぐっていると思ったのか。いや、同盟を組んだ=付き合っているなんて思ってはいないぞ?ただ、マホは百合だし男と付き合った事無いって言ってたから、なんとなく男を敬遠するような印象があって気になっただけだ。それだけだぞ、きっと。
まあ、今のマホにはそんな印象ほとんど無いんだけど。
「?ロキヒノの先祖と同盟を組んだんじゃないのか?」
最後の方に愚痴り気味に言っていた言葉は、ちょっと気になったな。
『わたしが同盟を組んだのは、フォウンダさんの奥さん、ルミホ・リードギルフなの。まあ、結果としてフォウンダさんに協力する事になったわけだけどね』
「?奥さん?」
つまり、同盟を結んだ相手はフォウンダ・リードギルフという「男」じゃなくて、ルミホ・リードギルフっていう「女」だという事か。その女の人がいなければ、同盟は結ばなかったという事だな。
やっぱり、マホだな。
「その王妃がいたから、同盟を結んだってわけな?そっちと知り合いだったのか?」
『……元カノ』
顔をそむけて、ポツリとマホが答えた。
ああ、そういう事な。二人は、種族と性別まで越えて付き合っていたわけだ。その片方が男と結婚して子孫を残している以上、きっと色々あったんだろう。
『……わたしとルミホの間に何があったのか、聞きたい?』
マホが、若干悲しそうな表情をして聞いてきた。別れた時の事を思い出して、ツラいんだろうな。
「別に。そこに踏み込む理由は無いよ。それにまあ、そんな変な誤解もしてないから、そこは安心してくれよ」
『ホントに?』
うぅ……。若干不安そうに上目使いで見つめてくるマホは、マジかわいいなぁ。いやいや、平常心平常心。
「ホントホント。だからまあ、安心して今日の所はもう寝ようぜ?明日は、王都に着くから今夜はゆっくりしなきゃ」
俺は、椅子から立ち上がるとマホの肩に手を置いた。
実際、明日には王都に着く予定だからな。王都にロキヒノを送り届ければ、俺達の任務はそこでようやくコンプリート。その後は、また真穂を探す為に……どうしよう?
『……その。今夜は一緒に寝て、いい?彼方くん?』
「え……?」
顔を上げたマホが、いきなりそんな提案をしてきた。それを聞いて思い浮かぶのは、あの時のマホのドン引きするような痴態。
俺は、つい顔をひきつらせてマホの肩から手を引いた。
「あ、ええっと……」
『あ、手は出さないから!ただ、添い寝してくれるだけでいいから!』
慌てて、マホは取り繕った。
そんな必死なマホは、本当にかわいい。困ったもんだ。
「はは。女の子がその台詞って……」
『だって……』
「でも、なんでだ?」
『……その。ちょっと昔を思い出したから、寂しくて。こんな時に頼れるのは、彼方くんしかいないから』
マホは、俺の腹に抱きついて顔を埋めて言った。その言葉が本当に寂しそうで、多分昔の記憶が色々渦巻いているんだろうな、と思う。
そして、そんな事を話せるのは俺だけだからな。メィム達は女の子だから甘えたいだろうけど、肝心な事は隠しているから腹を割って話できないし。
まあ、添い寝くらいならいいだろう。マホもああ言ってるし。
つっても、腹に顔を埋められて真っ先に思ったのは、デブってなくてよかった!って事なんだけどな。
「まあ添い寝くらいなら……」
『……うん。ありがと、彼方くん』
マホは、顔を上げて小さく微笑んだ。
という事で、俺とマホはベッドに横になる。
『彼方くん。横向きになって?』
「ん?えっと……?」
『わたしに背中を向けてていいから』
マホが言ってくるので、俺はマホに背中を向けて寝転んだ。すると、背中にマホがピトッとくっ付いてくる。
さすがに、ドキッとする。
「マ、マホ?」
『ごめんね。わたし、翼があるから横向きでないと駄目だから……』
それはわかるけど、引っ付いてくるのはまた別だと思うんだが……。ただ、そこをツッコミ入れるのはもうやめる事にした。
「……おやすみ」
自分とマホに布団を掛けて、俺は寝る事にした。
───草木も眠る、丑三つ時。
ムクリと、マホが上体を起こした。
『ふ、ふ、ふ~。油断したね、彼方くん』
小声で、マホがつぶやいた。その顔に浮かぶのは、してやったりの悪どいほくそ笑み。そこに、過去のツラい恋愛を思い出して震えている、寂しげな様子は無かった。
『ああいう言い方をすれば、彼方くんは優しいから絶対気を使ってくれると思ったんだよね~。ルミホとの事も、色々勝手に想像してくれてそうだし』
マホは、寝ている彼方をそっと伺った。彼方は、安らかな寝息を立てて熟睡しているようで、彼女の動きに気付く様子も起きる様子も見られない。
『わたしとルミホの間に、深刻な空気0だったのに』
マホは、くすくすと笑う。
彼女は彼方に対して、ルミホとの関係を重い関係だったかのような雰囲気を出して話していたが、実はそんな関係は一切無かったのだ。元カノなのは事実だが、その関係にシリアスさは欠片も無かった。と、言っていい関係だった。
『さ、て、と~』
マホは一度舌なめずりすると、布団の中に潜り込んだ。
『せっかくの機会だし、彼方くんのお宝を拝ませてもらっちゃお~♡』
マホは、布団の中を彼方の下半身目掛けて進む。
深刻そうな雰囲気を出したのも、寂しげな様子も、全ては彼方を油断させて事に及ぶ為の演技だった。その為ならば、「手を出さない」なんて平気で嘘もつく。
自分の欲望には素直、それがマホだった。
『だが、変なオッサンの棒は下品だと一刀両断したと聞いたぞ?』
『は?何言ってるのよ?オッサンのはゴミ、彼方くんのはお宝。付いてる人間が違うんだから、当たり前じゃないの』
マホは、思わず答える。本体の人間が違えば、例え同じ物が付いていても扱いが違う。そんな事は、当然だった。
『……ん?今のは……?』
『我だ』
『へ?』
マホの目の前には、ちびダブル・ジョーカーがいた。いつの間にか、簡易召喚されていたらしい。
『ダ、ダブル・ジョーカー!?どうして!?』
『マスターに、監視を頼まれていたのだよ。どうせ、お前の事だ。素直に寝るとは思っていなかったのだろう』
実は彼方は、寝る前に布団の中でダブル・ジョーカーを呼び出し、監視を依頼していたのである。前回の事があって、彼方もマホの言葉を額面通りには受け取らなくなっていたようだ。
『い、いつの間に……』
『お前が、マスターを出し抜けるとでも思っていたのか?ついでにマスターは、こんな物も用意していったぞ?』
『え?』
ダブル・ジョーカーの後ろから、何か細い物が立ち上がっていた。それは蛇……ではなく、ロープだ。
『マスターは、チョクメイカード『ライドルン・ロープ』を我が使えるように発動していた。さあ行け、『ライドルン・ロープ』!』
ダブル・ジョーカーの号令と共に、ロープがマホに向かって走っていき、彼女を縛りあげていく。
勅命カード『ライドルン・ロープ』は、ロープを発生させて物体を縛る魔法である。物体から生物まで、見える範囲にある物ならばどんな物でも自在に縛る事ができる。ただし、対象は一つで、ロープの強度は普通のロープと大差は無い。
『え?嘘!?ちょ、やだ。そんな、強くしないで……!やん、ちょっと痛い!あ、そこは駄目!うみぃ、キツいぃ……。やあぁ、彼方くんってば乱暴すぎ~♡』
なぜか、最後は歓喜の声に変わっているマホだった。




