第28話その2
「!?種族を!?」
「丸ごとだって!?」
「それって、つまり……」
「一人残らず全滅させる、て事ですか!?」
いやいや、さすがにそれは無理だろう!?種族を丸ごと滅ぼすって簡単に言うけど、それはあのダークネスが一人で該当の種族を全滅させるって事だろう?例えば、この国に何人の人間が生きているのかは知らないけど、それたった一人で全員殺して回るって事になるんだぜ?
絶対無理だろ。正直、あのグレート・バリアリーフでだって容易ではないはずだ。
『……その昔、この世界には『龍帝族』という種族が存在していた』
いきなり、ダブル・ジョーカーが言った。
?『龍帝族』?そんな種族、魔フォーにはいなかったぞ?
「『りゅうていぞく』?なんだ、そりゃ?」
「?聞いた事ある、リゥム?」
「ううん、知らない。ヒナギちゃんは?」
「わたしも、聞いた事無いです。歴史の教科書にも、載ってなかったかと」
唐突に出てきた第八の種族の事は、ロキヒノ達も知らないようだった。歴史の教科書にも載ってないって事は、そいつらが存在した化石とか記録とか、そういう痕跡も存在していないって事になるな。
「そんな種族が、本当にいたのか?なんか、人間族の歴史の教科書には載ってないみたいだけど?」
『……人間族の歴史がいつ頃から記載され始めたのかは、我は知らん。とにかく、遥か過去の話だ。その頃、我々魔竜はそれほど強い存在ではなかった。龍帝の方が強く、魔竜は龍帝に迫害されるばかりだった』
「魔竜が迫害されてた?今からは考えられない状況だな」
ロキヒノが、驚いた様子でつぶやいていた。
魔竜と言えば、どっちかと言うと強力な種族の筆頭候補だからな。魔フォーでも、強力で使用に制限がかかるようなサモンドスレイヴは、圧倒的にドラゴンが多いし。
そもそも、『龍帝族』って事はそいつらもドラゴンなんじゃないのか?
『……君にわかるように言えば、「恐竜」に当たるか』
ダブル・ジョーカーが、わざわざ補足してくれた。
恐竜!つまり、ドラゴンというよりはダイナソーか!なるほど、恐竜は俺達の世界でも滅んでいたな。いやまあ、絶滅理由は違うだろうけど。
『とにかく、龍帝に迫害されていた魔竜の当時の王は、その状況を打開すべく自らを鍛え上げ最強の魔竜としてバトル・ファイオーに乗り込んだ』
ん?最強の魔竜の王……?それって、もしかして。
『魔竜の王はバトル・ファイオーで並みいる強敵を打ち倒し、見事優勝。そして、願ったのだ。恨み重なる龍帝を滅ぼしてくれ、と。……ダークネスは、一日でその願いを叶えてくれた。その日、この世界から『龍帝族』は消え去った。存在していたという痕跡すら残さず、きれいさっぱりとな』
ダブル・ジョーカーの言葉を、全員が押し黙って聞いていた。その言葉を否定する材料がこちら側には無いし、言葉自体に妙な説得力があって否定を許さない雰囲気を感じる。
この説得力……。やっぱり、そうなのか?
『わかるであろう?平和を望む者が勝てばいいが、特定の種族や世界その物に害意を抱く者が優勝すればそれは種族の危機であり、世界の危機だ』
「それを回避するには、そいつに優勝させない。もっと言えば、自分が優勝する事が一番だという事だな。それが、戦わなければ生き残れないという事か」
俺は、ため息をつく。
なんともはや、面倒臭い世界だな。そんなわけのわからない事を定期的にやってるとか、迷惑にも程があるなダークネス!
ところで、当然あれは見た目が人間っぽいだけの、全然別の存在なんだろうな。ダブル・ジョーカーの言う所の、遥か昔から存在しているみたいだし。珍しく自称神じゃなくて、本物の神かよ。
『うむ。まあそれも、二つ目の問題の前には霞むのだがね』
「二つ目の問題?」
『そうだ。……ダークネスが言っていたように、バトル・ファイオーは前哨戦と本戦の二部制になっている』
そういえば、前哨戦が開始されるとか言ってたな。
「前哨戦って、何をするんだ?」
『前哨戦は、奴に言わせると『首都攻防戦』だ』
「「「「「首都攻防戦?」」」」」
ダブル・ジョーカーの言葉に、俺達はポカンとなった。
首都というと、国の中枢の都市の事だよな?日本で言う所の、東京。このギルフォードライ王国なら、今向かっている王都リードギルフの事。
「それはどういう事だ?」
『バトル・ファイオーの期間中、ダークネスは突然くじを二回引く。そのくじで選んだ種族の首都を、奴の部隊「神王軍」が襲うのだ』
「は!?」
なんで、あいつが襲ってくるんだ?イミワカンナイ!
「あいつ、大会の実行委員長じゃないのか?なんで、いきなり襲ってくるんだよ?」
『奴に言わせると、大会を盛り上げる為などと言っている。だが、奴の軍は神の軍だけあってかーなーり、強い。正直、盛り上がるどころか疲弊するだけだ』
「何を考えてそんな事を……?その事に、何の意味があるんだ?」
マジ、意味がわからないな。
『首都攻防戦で首都を落とされた種族は、本戦が始まる前に失格となって問答無用で滅ぼされてしまうのだ。……弱い種族にバトル・ファイオーに参加する資格は無いとな』
「はあ!?種族同士で戦えとか言っといて、そこは種族間のバトル無しで消すのかよ!?もしかして、これで消された種族もいるとか?」
恐る恐る聞いてみると、ダブル・ジョーカーは普通にうなずいてしまった。
『うむ。『亜人族』という人間族とはまた別の人族がいたのだが、首都を落とされ消滅させられてしまった』
やっぱりいたのか、犠牲になった種族。
亜人っつうと、ゴブリンとかオークとかあっち系のヤツかな?こっちに来てから、そういうファンタジーの王道種族を見なかったのは、絶滅させられたからか。
ひでぇ事をしやがるぜ、ダークネス。
「だから、戦わなければか……」
『更に問題なのは、神の軍に便乗して襲ってくる他種族がいたりする場合だ。バトル・ファイオーで優勝して滅ぼしてもらうよりも、よほど手軽だからな』
ああ、滅ぼしたい相手がいればダークネスの軍の攻撃に合わせて襲えば、戦力倍増で攻撃する事が可能になるのか。……もはや、戦争か。
ヒナギが言ってたのは、これか。まあ、彼女も詳細は知らないみたいだったから、戦争のような状況だという事だけが歴史として伝わっているだけなんだろう。
俺らだって、日清戦争とか日露戦争とか歴史としては知ってるけど、個別の戦場の様子なんて知らないからな。ドラマとか映画とかになってるのもあるみたいだけど、そういうの俺見てないし。
……知らないのは、俺のせいか。
「んなもん、種族間の対立を煽ってるだけじゃないか。そんな事をして、あいつに何の得があるんだ、ダークネスの奴は?」
『実際に奴が何の目的でこんな事を行っているのかはわからない。だが、外から見る限りあいつの目的は「楽しむ事」だと思うぞ。俗に言う、愉快犯というヤツだ』
ああ、さっきの一瞬の映像しか材料ないけど、あいつそんな感じだったな。ピエロの衣装も、まさにピッタリだ。
ピエロが強キャラなのは、もはやお約束だな。
「なんかもう、全種族にとって迷惑な話ね」
まったく、メィムの言う通りだ。
「そんな奴があんなとんでもない力を持ってんのが、俺達……いやこの世界にとっての最大の不幸だな。不幸だー」
「お前の言葉からは、不幸だと思っている様子が感じられないんだが、ロキヒノ?」
「え?まあ、バトルはバトルで面白そうじゃん?」
ロキヒノは、ワクワクを思い出したかのようにウキウキだった。バトル・ファイオーが始まれば大手を振ってバトルができるから、それが嬉しいらしい。ここにもいたよ、バトルマニア野郎。
お前が王子なのが、人間族の不幸にならなきゃいいんだけど。
「あの、前哨戦というのはどれくらいの間、行われるものなのでしょうか?」
「そういや、くじを二回引くって言ってたな?つまり、襲われるのは一回の大会で二種族って事か?」
俺とヒナギが聞くと、ダブル・ジョーカーは首を横に振った。
『いや。襲撃する種族をくじ引きで決めるのだが、一回の襲撃時にくじを二回引くのだ。つまり、一度の前哨戦で二種族が襲われるという事だ。そして、前哨戦の回数、期間、間隔に決まったルールは無い。全て、ダークネスの裁量によって決められる』
「つまり、ダークネスの気が済むまで延々前哨戦を続ける事も可能だと」
『そういう事だな』
最悪だな。前哨戦が終わる時は、ダークネスに「気が済んだか?」と言わないとな。
「そのくじって、例えば二回連続で人間族を引いた場合は、二回とも襲撃されるの?」
『当然、そうなるな』
「えぇ~。さすがに、キツすぎない?」
それは、さすがのメィムでも辟易しているようだった。
「そうなると、首都……王都からは避難した方がいいのかな?襲撃されるのは、王都なんだよね?」
『一般人は避難した方が良いが、戦闘員ならば首都に集結した方がいいだろうな。首都を落とされてしまえば消されるのだから、疎開する事にあまり意味は無い。ダークネスはその辺は徹底しているから、一人も見逃してはくれん』
「ああ……。怖いね、それは」
リゥムは、ダブル・ジョーカーの答えを聞いて少し震えていた。この世界にいる限り、敗北すればダークネスの魔の手から逃れられない。それは、恐怖だ。
そんなリゥムの手を、メィムがそっと握っていた。繋がれた手を見て、リゥムはメィムに微笑みを返す。それは、微笑ましい姉妹愛の光景。片側には、それ以上の感情が宿っていたとしてもな。
普段なら、そんな光景を見たらマホが「姉妹百合キター!キマシタワー!」とかハッスルしてそうだったが、今のマホは押し黙ったまま深刻そうな表情をしていた。
「……マホ」
今のあいつは、「聖天族の女王」モードかな。あまり、茶化せる空気では無いな。
「ダークネスを倒したりはできないのか?」
『奴は比喩ではなく、実際に神の力を持っているからな。しかも、奴が姿を現すのはバトル・ファイオーの閉会式の表彰の時のみ。それ以外では、普段どこに存在しているかすらわからぬほど、謎に満ちている』
倒しに行こうにも、普段どこにいるのかわからないんじゃ問題だな。
「表彰式にのみ出てくるって……。ピンポイントすぎて、どう考えても襲撃が失敗するフラグにしか見えないんだが」
『そうだろうな。奴が、そこを対策していない間抜けだと、本気で思うかね?』
「思わんな」
ダークネス、ノリは軽めだけどその辺は抜け目が無さそうなんだよな。表彰式で襲撃しても、阻止されるならまだマシ。あいつなら、一旦死ぬ姿を見せておいて「今明かされる衝撃の真実ー!僕ちゃん死なないんだー!」とか言って平気で復活しそうだ。
場が、重苦しい空気に満たされた。
だって、いいニュース何も無いんだもんよ。




