第27話その2
俺達は、街道を進む。時々、すれ違う旅人や馬車の御者が驚いた様子でこっちを見ていたが、まあ気にしない。
『風が気持ちいい~!』
マホが、流れる景色を眺めながら、本当に気持ち良さそうに言っていた。
今日は天気もいいし、屋根の無いオープンカーの上に窓も全開状態なので、走っていればいい風が入ってきて、確かに気持ちはいい。
「さっすが、サモンドスレイヴは早いわね。これ、ウマナミが引っ張ってる馬車よりも、断然速いんじゃないの?」
メィムも、楽しそうにそんな事を言っていた。
ウマナミ?馬車を引っ張ってるって事は、それ馬の事か?いや、馬並みって……。馬そのものじゃん。
そういや、スケールは何を燃料にして動いているんだ?この世界に、ガソリンがあるとも思えないしな。
「スケール。燃料は何を使うんだ?」
『マスターの魔力』
「あ、やっぱり魔力なのか。……なんでもできるな、魔力。万能」
スケールも、燃料は魔力らしい。つまり、食事とかはしないのか。
(『我々は、君のサモンドスレイヴとして存在しているからな。君の魔力が続く限りは、魔力が流れ込んでくるので飢えたりはしないし、食事を摂る必要も無い』)
(ダブル・ジョーカー。……そうか。魔力は勝手に流れていくのか)
(『うむ。また、君の魔力がある限り我々は死ぬ事は無い。ダメージを受けて破壊される事はあっても、君の魔力を受けて蘇生する事ができる。その蘇生に時間がかかるか即復活できるかは、別の問題だが』)
(ふーん。不死身ってわけじゃなくて、無限に再生できるって感じかな?つまり、破壊されて捨て場に送られても復活魔法を使えば復活できるって事か)
(『そういう事だな』)
なるほど、プレイヤーのHP回復カードは意味が無いらしいけど、サモンドスレイヴの復活カードには意味があるという事だな。
(一度戦闘が終わってカードに戻れば、サモンドスレイヴ達は次の召喚時には元通りって感じになる?)
(『前の戦闘で破壊されて消滅していれば、再生に時間がかかる者もいるだろう。召喚が成功しなければ、そうだと思うといい』)
(そっかー。しかし、サモンドスレイヴになった方が得じゃないか?一度死んでもサモンドスレイヴになればほぼ不死身になれるし、二度目の生を生きられるし)
(『そうは言っても、死んだら必ずサモンドスレイヴになれるわけでもないしな』)
(その基準は、何なんだ?)
(『知らん。それは我の管轄外だ。一度、死んでみるかね?』)
(遠慮しとく。そんな未知数な事には賭けられねーわ)
俺は、心の中で肩をすくめた。サモンドスレイヴになる為に死ぬのは、さすがにNOだ。
(『その通りだな。それに、君に死なれると我々の大多数も消えてしまうから困る』)
(?消える?)
(『我らは君とリンクして存在しているからな。君がいなくなれば、それにリンクして消えてしまう。特に、我以外の者達はな』)
(なるほど、それもそうか。て、ダブル・ジョーカーは?)
(『我には、一応真穂嬢のリンクもあるから、即座に消える事は無い。ただ、今はリンクが断絶しているので動く事すらできなくなるが』)
ああ、ダブル・ジョーカーは元々真穂のサモンドスレイヴだもんな。
(そうか。俺は、お前達の命も背負って生きているのか)
(『そう、深刻に考える必要は無い。死を警戒しつつ、精一杯生きてくれればいい。君が寿命を全うするならば、我々は祝福するさ。そして、君の命を脅かす敵が現れれば、我々が全力で戦う。君には、我々が理不尽な死を与えさせない』)
ダブル・ジョーカーの言葉に、俺は真穂の事を思い出す。俺が、もっとちゃんとできていればきっと……。
(ああ、これからもよ……)
“「ぴんぽんぱんぽ~ん!」”
いきなり、大きなチャイムが響き渡った。いや、今のチャイムは明らかに誰かが口で言ったチャイムだぞ!?
「!?なんだ!?」
「なんだ今の大声!?」
「今の誰の声!?」
「ていうか、声だったよね!?」
「はい!誰かの発した声でした!」
今のはロキヒノ達にも聞こえていたようで、全員が驚いていた。
「止まれ、スケール!」
『了解』
俺は、スケールを停車させて辺りを見回した。でも、周りには今の声を発したような人影は見当たらない。
『今の声、まさか!?』
(『まさか、もうそのような時期なのか!?』)
『声的に一致』
俺達と違い、マホやダブル・ジョーカー、スケールは今の声に心当たりがありそうだった。人間組が知らなくて、マホを含めたサモンドスレイヴ組が知っている?
「マホ?お前、何か知って……?」
“「エクディウムのみんな、チャオ~♪」”
そう言う声と共に、上空に一人の男の顔が現れた。
……顔?ちょっと待て。空一杯に顔が浮かんでるんだけど、巨人か!?いや、グレート・バリアリーフなんかメじゃない巨大さなんだけど、そんな巨大生物がこの世界には存在してるのかよ!?
俺は、慌ててスケールから降りた。
「な、なんだありゃ!?」
ロキヒノも降りてきて、唖然とした様子で空を見上げていた。
「な、なんか気持ち悪!」
女子陣も、スケールから降りてきていた。メィムは、なんか身震いしている。
「えっと……、人なのあれ?」
見た目だけは、人間の男性に見えるな。そのでかさに目をつぶれば、だけど。
「怖い……。一体、何が起こって……?」
ヒナギは、突然の怪現象に不安そうに空を見上げていた。なんとなく、俺に寄って来ているのは、もしかして無意識かな?
こういう時、ブラックだったら優しく肩を抱いて「大丈夫だよ」とか言えるんだろうか。でも、俺じゃあなぁ……。
『……』
マホは、空の男を睨み付けていた。その表情は、嫌悪?
“「みんなお久し……え?カメラに寄りすぎ?ああ、いけないいけない。久し振りだから、つい張り切っちゃった~。てへ」”
男は舌を出して笑うと、少し小さくなって全身を顕した。
ていうか、カメラって言ったぞ?そうか、あれは空に投影された映像なのか!という事は、でかいのは映像であってあの男自体は通常のサイズの人間なんだろうか。確かに、周りもどこかのテレビ局のスタジオみたいな場所に見えるな。
いや、そもそもあんなサイズの映像をスクリーンの無い空に投影できるって何だよ!?
“「では、改めて。エクディウムのみんな、チャオ♪二百四十八年振りのご無沙汰~。神の中の神、王の中の王。神王ダークネス・ライトくんだよ~♪」”
何だか軽い感じで、その男が自己紹介を始めた。
神の中の神?王の中の王?言ってる事もあれだけど、ダークネス・ライトって。闇なのか光なのかどっちやねん?
その男は、長身痩躯で顔はまあ、イケメンかな?髪が染めているのか知らないけど、真ん中から半分に分けて右を金髪、左を黒髪にしたファンキーな髪色にしていた。ああ、だからダークネス・ライト?
格好はあれは、サーカスのピエロ?
“「と言っても、二百四十八年振りだからボクの事を知らないかもしれないね~。だから、わかりやすく自己紹介するね?「バトル・ファイオー」実行委員会委員長、ダークネス・ライトで~す。みんなは親しみを込めて、「タラちゃん」か「いいんちょ」って呼んで下さいね~♪」”
その男、ダークネス・ライトがべらべらとしゃべっている。
バトル・ファイオー?そういえば、こないだロキヒノが何か……。
「あれが、そうなのか……」
ロキヒノには、あれに心当たりがありそうだな。あと、マホとサモンドスレイヴ達も。
“「はい。ボクが出てきたって事は、「バトル・ファイオー」の始まりって事だね~。まあ、前回から二百四十八年経ってるから予想できてる方達もいると思うけどね」”
「……「バトル・ファイオー」ってあれよね?」
「うん。歴史の授業で習った」
「本当にあったんですね、あれ」
よくわからないけど、歴史に名前が残る事態かこれは。
“「わかる者はわかると思うけど、これから「バトル・ファイオー」の前哨戦が開始されるからね~。ちゃ~んと、生き残ってね君達?本戦開始前に脱落なんて、つまらない真似は絶対にしないでね?タラちゃん、怒っちゃうぞ。ぷんぷん」”
両手を頭に当てて、かわいこぶりっ子しているダークネス。
いや、正直女子がやっても痛い仕草なのに、二十代前半に見える男のダークネスがやったら痛さが半端ねえよ!
そして、生き残れ……だと?
“「それでは、「バトル・ファイオー」の開会式を始めさせていただきますね~。まずは、前回大会優勝者の人間族のギルフォードライ王国のお城から、優勝カップを勝手に返していただきました」”
画像が、ダークネスから切り替わった。そこに映っていたのは、ダンボールか何かで作った手作りにしか見えない杯。手書きで「ゆうしょう」と書いてあって、作りもショボくてみすぼらしい。
正直、色々情報量が多過ぎて困るんだが、まずは一言。
優勝カップを「勝手に」返してもらったって、それお城に潜入して盗んだって事じゃないのかよ!?
「ああ、あれ優勝カップだったのか。ゴミだと思ってたぜ。優勝カップだから、一応保管してたんだな」
なんか、ロキヒノは優勝カップだって認識してないみたいだけど?仮にも、人間族の王子が!……いや、言われないと絶対認識できないと思うけど。
“「今度、これを手に入れる栄誉を勝ち取るのは一体どこの種族になるか!?う~ん、楽しみですね~!」”
栄誉なのか、それ?ゴミ、押し付けられるようにしか見えないんだけど。
“「種族の威信をかけて、「バトル・ファイオー」に挑んでねみんな!まずは、前哨戦から始まるので準備しておくように。日時が決まり次第、また連絡するのでその時は空が見える場所にいてね~」”
種族の威信……。人間「族」とか言ってたし、種族単位の話か。う~、これは詳しい説明が欲しい所なんだが。
(『この放送が終わってから説明しよう』)
うん。ここは、やっぱり知識の番人の出番だよな。
“「それでは、開会の宣誓!選手代表、ダークネス・ライトくん!はい!」”
自分で自分を指名して、自分で返事してるよ。全てが、痛い。
“「宣誓!ボク達エクディウム生物一同は、正々堂々戦ってトップを取る事をここに誓います!選手代表、ダークネス・ライト!」”
甲子園での高校野球よろしく、右手を挙げて選手宣誓を行うダークネス。
あんた、確か実行委員長じゃなかったか!?なんで、選手を代表して宣誓とかやってんだよ!?
“「それじゃあ、ここに「バトル・ファイオー」の開会を宣言します!レディース&ジェントルマン!お楽しみは、これから始まるよ!かっとぶんだぜ、みんな!」”
一人でしゃべりまくって、勝手に開会を宣言して、謎の存在ダークネスは消えていった。
どういう……事だ……?まるで意味がわからんぞ!




