第26話
小休止を利用して、俺は自分の能力をテストする。他にやる事もなかったし、じっとしててもどうにもならないしな!
そのおかげで、色々な事がわかった。けど、気になる事も増えた。
……マホは、どれだけデッキのサモンドスレイヴ達から恐れられてるんだ?いや、俺もだいぶ怖いんだけどさ!酔っ払ったマホとか!
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───王都、リードギルフ。
彼方達は、クルナ町に滞在したまま、小休止している。
人間領国ギルフォードライ王国は、代々ロキヒノ・リードギルフの一族が王となり治めてきた王制国家である。権力のほとんどを王に集中させた、絶対君主制だ。
とはいえ、王一人で全ての責務をこなせるわけではないので、統治の雑務は中央政府を設置してそこに任せているのが現状である。王は、中央政府から上がってくる案件に、○か×かの判断を下すのが主な仕事だ。あと、他種族との折衝など。
中央政府は、四十七人の評議会を頂点とした合議制の政治形態を取っている。実質的に、この四十七人がこの国を牛耳っていると言っていい。この評議会のメンバー四十七人は、この国を四十七に分けた地域のそれぞれの領主も務めている。
日本の政治形態から言えば、王家リードギルフは天皇家、中央政府四十七人の評議会は各大臣&県知事に当たるといった所だろうか。
王、並びに評議会メンバーは基本的に選挙で選ばれる事はなく、世襲だった。もちろん、王家が断絶したり、評議会メンバーとして不適格だと判断されれば交代する事はある。王家が断絶した事は、これまでの歴史には無かった事ではあるが。
王都リードギルフは、周りを壁で囲まれた城塞都市だった。これは、王を他種族の攻撃から守る為に構築された防御壁であり、地方の町などではあまり見られない光景である。なぜ王都だけなのか、というのはまた別の機会に。
いずれわかるさ、いずれな。
王都にある王宮。立派な石造りの城であり、ロキヒノの家でもある。王家の住む場所であり、当然のように警備は厳重であり常に衛兵が待機していて王家を守護している。
その王宮の王執務室に、二人の男が向かっていた。
一人は、でっぷりとした中年腹を揺らすちょび髭の中年男性である。身なりは小綺麗だが、ずっと浮かべている微笑み?がだらしないニヤケ顔で、その体型と相まって第一印象最悪な容姿だった。
しかし、この男は中央政府評議会の議長、トランド・ハークロだった。この人間領国で王家を除くと最高の権力持ち、貴族の中でも最も上と言える存在なのだ。
トランドと一緒にいる男は、逆にスッキリした体型で背も高い。焦げ茶色で薄毛なトランドとは対照的に金髪の豊かな髪をした、こちらも身なりのいい中年男性である。
この男の名は、チャック・コシギーン。評議会メンバーの一人だ。
「王!ロキヒノ樣からヒキャクが届きましたぞ!」
トランドが、王に対して報告を行った。それは、ロキヒノの送ったヒキャクの報告。
「ほう、届いたか!で、ロキヒノはどうしている?」
ギルフォードライ王国現国王、ユギカザ・リードギルフ。ロキヒノに似た真っ赤に燃えるような逆立った髪をした、精悍な顔立ちの男である。赤髪に金のメッシュが入っているのが、なんとなくファンキー?なイメージだ。
「はい。ロキヒノ樣は、見事山賊並びに人拐いドラゴンの討伐に成功したそうです」
「やったか、ロキヒノ!さすがは、俺の息子だ!」
ロキヒノが勝った事を聞いて、ユギカザはガッツポーズを取っていた。どうやらこの王、ロキヒノ並みの脳筋な上に若干親バカ傾向もあるようだ。
「これで、ワシの地域も平和になります。ロキヒノ樣にお願いして、正解でした」
トランドが、そう言って笑った。ロキヒノが討伐した山賊や(トランドは知らないが)生物の改造でジュッカー・フィフティーンが暗躍した地域は、トランドの治める地域だったのだ。
「まあな。だが、トランドよ。これからは、先に俺の所に話を持ってこいよ?ロキヒノに言えば、あいつは今回みたいに一人ですっ飛んでいくからな?」
「はい、申し訳ありません」
トランドは、頭を下げる。
今回のロキヒノの討伐は、トランドが自分の管理地域を荒らす無法者に困って、ロキヒノに話をした結果行われた事だった。
「それでですね、王」
チャックが、口を挟む。
「ん?どうした?」
「ロキヒノ樣はもちろんご無事なのですが、一緒に行った兵士達が名誉の戦死を遂げたそうなのです」
「!……そうか」
ユギカザが、一転真剣な顔付きになる。
「それで、遺体を回収して遺族の下に返して欲しいと。ロキヒノ樣ご自身は王都へ帰還後、遺族の所を回りたいとの事で王都へ向かっているようです」
「わかった。その場所は、わかっているのか?」
「ヒキャクから、場所は聞いております」
「よし。すぐに部隊を編成して、遺体を遺族の下に返してやるんだ。あと、亡くなった兵士達のリストはわかるか?」
「ロキヒノ樣が連れていったのはここの衛兵達なので、すぐにわかります」
山賊との戦闘で亡くなったのは、全員がここの城を守る衛兵達だった。その方が、比較的短時間で集められたからだ。
「ならば、早々にリストをまとめてよこせ。遺族達には、俺が話をしに行く」
「王自らですか!?」
「王がわざわざ行かなくとも……」
トランドとチャックの言葉に、ユギカザが不愉快そうな顔をした。
「何を言っている?彼らは、命をかけてロキヒノを守ってくれた者達だぞ?俺が行かずに、誰が遺族に話すというのだ?」
王として、親として息子を守ってくれた者達の家族に説明するのは、自分の義務。ユギカザは、そう考えていた。
「はい!申し訳ありません」
「うむ。一分、一秒でも急げよ?」
「それでは早速」
トランドとチャックは、頭を下げると執務室を出て行った。
「ふん。ロキヒノ王子は、生き残ってしまったか」
執務室から離れると、トランドが吐き捨てるように小声で言った。
「山賊か人拐いドラゴンのどちらかの討伐で、ロキヒノ王子が死ぬと踏んでいたのに、失敗しましたな、議長」
チャックが、こちらも小声で答える。
「まったく……。わざわざバカ王子にのみ教えた上で、ろくな人員が揃わない内に出発させたというのに。運のいい奴め」
トランドが、毒づく。
この男がロキヒノにだけ話を持ちかけたのは、ロキヒノの性格ならば自分自身が討伐に向かうと読み、十分な戦力が揃わない内に討伐に行かせて、山賊か人拐いドラゴンに殺される事を狙っていたのである。
「ワシが王になる為には、王族が絶たれなければならないというのに」
トランドの目的は、自らがこの国の王になる事。その為には王族が邪魔なので、まずは与しやすそうなロキヒノを狙ったのだ。
「次はどうしますか、議長?戻ってくる王子を襲いますか?」
「我々が直接手を出すわけにはいかん。あくまで、我々のいない場で死ななければならん。とりあえず、王子への攻撃はまた今度だ。……次は、せっかく用意したあれの出番よ」
「ついに、あれを使いますか、議長?」
「フフフフ」
何やら悪巧みを抱え、トランドとチャックは廊下を歩いていった。その角にほんの少しだけ見えていた、何者かの靴には気付かないまま。
ユギカザは、椅子から立ち上がると窓の外の町を見下ろした。外には、常春の過ごしやすい空が広がっていて、町には優しい風が吹いている。
人間領国は気候が安定していて、過ごしやすい場所だ。
「お父様」
声をかけられて、ユギカザは振り向いた。
「トモヨか」
そこには、ユギカザの娘であるトモヨ・リードギルフがいた。
ユギカザの三子で、男子であるロキヒノ、ノオト兄弟の妹であるトモヨ・リードギルフ。ユギカザと違って母親と同じ腰まである長い黒髪をした、常に微笑みを浮かべている美少女だった。今年十歳になったばかり。ただその頭脳は天才的で、この年齢にして既に高校を卒業。成人と認められていた。
このギルフォードライ王国では小学校・中学校・高等学校という教育形態を採用していて、高等学校まで全国民受けなければならない義務教育だった。大学は、無い。そして、高等学校卒業をもって成人と認定している。
結果、期間が短縮されたとはいえ高校を卒業したトモヨは、成人として認められていた。
なお、卒業したトモヨは、今は王宮に住んでいる。将来的には評議会メンバーの一人になるのではないか、と噂されていた(王位継承権は三位なので)。
「どうした、トモヨ?何か用事か?」
ユギカザは、椅子に座り直してトモヨに尋ねた。
「お兄様が戻って来られる、とお聞きしました」
「ん?ああ、山賊と人拐いドラゴンを討伐して戻ってくるそうだ」
「ふふ。さすが、お兄様ですね」
トモヨは両手を合わせて、嬉しそうに言った。
「ああ、さすがはロキヒノだ」
「ですね。それでですね、もうすぐお兄様が帰ってくると思いますので、歓迎の準備をしていただければ、と思ってお話に来ました」
トモヨがユギカザの所に来たのは、それが言いたかった為らしい。
それを聞いて、ユギカザは怪訝な顔をした。
「?それはなぜだ、トモヨ?いくら討伐してきたとはいえ、ロキヒノがウチに帰ってくるだけだぞ?出迎えはするが、歓迎するような事では無いだろう」
「ああ。歓迎するのは、お兄様ではありません」
トモヨが、にっこりと笑った。それを聞いて、ユギカザはますます首を傾げる。
「ん?ロキヒノじゃないのか?」
「はい。歓迎するのは、お兄様と一緒に来て下さる方です」
「ロキヒノと一緒に来る?ロキヒノは、誰かと一緒なのか?連れていった衛兵とかじゃなくてか?」
トランドとチャックの話に同行者の話は出てこなかったので、ユギカザはポカンとするのみだった。
「はい。衛兵の方ではなくて。……お兄様と一緒に来て下さるのは、あの方です。常々、わたしがずっとお話ししている方」
「何っ!?」
トモヨの言葉に、ユギカザは椅子からガタッと音を立てて立ち上がっていた。
「それはまさか、お前がいつも言っていた「ギルフォードライ王国を救ってくれる救世主」の事か!?」
「はい。その方が、お兄様も助けてくれたみたいです」
トモヨが、確信を持って話していた。
彼女は、常日頃からこのギルフォードライ王国を救う救世主が現れる、という事を言っていたのである。
トモヨはたまに予言めいた事を発信し、それが100%的中していた。その為、王家では(つまり王は)トモヨの予言を聞き流す事はしなくなっている。
そして、最も新しい予言が「ギルフォードライ王国を救う救世主が現れる」なのだ。
「ロキヒノをか……。それに、そろそろその時期か」
「はい」
「どのような者なのかは……、お前にもわからないのだったな?」
「はい。ですが、人間です」
「わかった。そちらの準備もしておこう」
「はい。あと、もう一つ言っておいた事の準備もお願いしますね?」
「……ああ。王国を守ってもらう代わりに、お前が救世主の嫁になるだったな?……それは本当に必要な事なのか?」
ユギカザが怪訝そうに尋ねると、トモヨは初めて笑顔を崩した。
トモヨは、現れる救世主に確実にギルフォードライ王国を救ってもらう為に、自らが救世主の嫁になると宣言していたのである。それは、国の為に自らの身を生贄に差し出すような行為。
それが、ユギカザはいまいち納得いっていなかったのだ。
「当然、必要です!考えてもみて下さい!王国を救ってくれる方だという事は、それはもうとんでもない力をお持ちだという事なのですよ!このような方を味方にできずに余所の国に取られるような事があれば、王族の恥!それを回避する為には、わたしが嫁ぐのが一番いいのですよ!」
トモヨは、物凄い勢いで力説した。そのあまりの勢いに、ユギカザは引く。
「あ、ああ……。その、用意は一応している」
「そうですか。では、いいです」
トモヨは、先程までの冷静な様子に戻った。
「ただ、俺もその救世主の人間性はチェックするぞ?」
「はい、どうぞ。ただし、お父様の意見は二の次になりますのであしからず」
トモヨは、ユギカザの意見を聞く気は無いようだ。
「……お前も、救世主の事は知らないのだろう?なぜそこまで信用している?」
「国を救ってくれるほどの方ですよ?そのような方でしたら、当然高潔で素晴らしい方に決まっているじゃないですか」
「つまり、予想か」
「予言、です。それでは、わたしはこれで。お仕事、お邪魔しました」
ウィンクした後、トモヨは深々と頭を下げて執務室から出ていった。
「……はぁ。仕事するか」
ユギカザは、仕事に戻った。
執務室を出たトモヨは、そのまま自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。
「……きゅうせいしゅ、かぁ。そんな人、いるわけないのに」
トモヨは、ぶっきらぼうに言い放った。どうやら彼女、あれだけ力説した救世主の存在を実は信じていないようだ。それでは、彼女の言う予言とは?
トモヨは、両手を天井に伸ばした。そして、頬を赤くする。
「やっと……。やっと会えますね……、カナタさん」
トモヨは小さくつぶやいて、何かを抱き寄せるようにして両腕を回した。
その、我が救世主。───




