第22話その2
「えーっと、『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』さん?」
俺は、茂みの側の木にもたれ掛かって座っている『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』に近付いて、声をかけた。親も子も、意識はあるようだけどぐったりしている。
「ありがとうございます。あなたの助言のおかげで勝てました」
話しかけると、親ドラゴンが体を起こした。子供の方は、親にべったり引っ付いてこっちを遠巻きに見ている感じ。
「いえ。こちらこそ、あなた方のおかげで助かりました。ありがとうございます」
親ドラゴンが、頭を下げてきた。見た目はドラゴンだけど、話してみると普通だな。
「動けそうですか?魔竜領国に戻ったりは……?」
「いえ……。まだ、体が自由には動かず」
バリアリーフは、この魔竜の親子を拐ってから一週間だとか言っていたな。その間、ずっと電撃の拷問を受けていたのだろう。体がろくに動かないのは、仕方ないか。
あいつ、この親子の誘拐に成功したから、見つからないようにこんな辺境にやって来たんだな。ここで捕まえた獣生族やツーカー達を改造実験の実験体にして、時期を伺っていたわけだ。一日俺達が遅れていたら、きっと大変な事になっていたな。
「ですよね……。今は静養して、体の回復に努めた方がいいですね」
と言ってみたものの、さすがにこんな戦闘の爪痕でボロボロな場所に滞在する事は、とても静養にはならないだろう。
そうなると、町に連れて行って休ませたいが……。
「ロキヒノ。ちょっと、金を工面できそうか?この親子が国に帰れるよう、町で休ませたい所なんだが」
「ん?まあ、金の方はどうとでもなるが」
ロキヒノは、親子ドラゴンの方を見て言葉を濁した。まあ、クルナ町は人間の町で、ドラゴンはいるだけで目立つからな。心が休まるとも思えないし、何より親ドラゴンが泊まれるホテルの部屋が無いか。
「えっと、『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』さん?」
「ラナ、とお呼び下さい」
「え?ラナ、さん?」
「はい。私の名はラナ・アリウスと申します。こちらは、娘のマナ・アリウスです」
親ドラゴンが、自ら名前を名乗った。まあ、トーリにもカード名とは別に本名があったから、このドラゴン達にあっても不思議じゃないか。
ダブル・ジョーカーにもあるんだろうか?
「ラナさんですね。えっと、俺は人間族のカナタ・トオノと言います」
「ご丁寧にありがとうございます」
「いえ。それで、ラナさん達は魔法を使えたりは……?」
「今は、道具もカードも何も持っていないので……」
ラナさんは、首を横に振った。まあ、そうだよな。
「そうですか……。よし」
俺は少し考えて、顔を上げた。
「マホ。あと、メィムも。お前ら、服がボロボロになってたから買いに行くよな?」
『え?うん、まあ』
「ま、さすがにね」
マホとメィムは、服をズタズタにされていたからな。
「なら、今から買いに行っていいぞ?とりあえず、金は渡す」
俺は、財布をマホに渡した。
『え?何、急に?』
「それで、お使いを頼みたいんだよ。グレードは低いヤツで構わないと思うから、魔札道具を二つ買ってきて欲しいんだ」
「魔札道具二つ?ドラゴンさん達の?」
「そういう事だな」
『ふ~ん。何か考えがあるんだね?わかったよ』
「ヒナギも行って、金が足りるようなら何か買ってきていいぞ?」
「ふぇ!?そ、そんな事は……」
まあ、唐突に言ってヒナギが承知するとも思えなかったけど。でも、今回はがんばってたしちょっと労いたい気分なんだよな。
「まあ、とりあえず見に行ってみましょうよ?」
メィムが、ヒナギを先導する。こういう時、こいつはこっちの思い通りに動いてくれるからありがたい。
「リゥムはどうする?」
「あ、私?私は……」
「悪い。リゥムには別にして欲しい事がある」
俺は、姉妹の会話に割り込んだ。
「あら、そうなの?」
「私にして欲しい事って、トオノくん?」
「ロキヒノ」
リゥムの質問に答える前に、俺はロキヒノを呼んだ。
「ん、なんだ?」
「お前、このイッヌを子供の所まで連れてけ」
そもそもの発端は、このイッヌだからな。ようやく救出したんだから、会わせてあげないと。そして、それをやるのはロキヒノの役目だ。
「ああ、そうだったな!」
「で、イッヌを届けたらそこで医者を紹介でもしてもらって、診てもらってこい。リゥムは、こいつが逃走しないようについて行ってくれ」
ロキヒノがまた「大丈夫大丈夫」と言い出して、医者に行かない可能性があるからな。そんな事が無いように、しっかりリゥムに監視してもらわないと。
「ああ、なるほど。わかったよ、トオノくん」
笑いながら、リゥムは快く承諾した。
「俺は、ラナさん達を見ているからよろしくな」
ラナさん達をここに放置するわけにはいかないから、俺はここで留守番だ。
『じゃあ、行ってくるね?』
「ま、すぐ帰ってくるわよ」
「では、行ってきます」
「じゃあ行こう、ロキヒノくん」
「わかったー。マント掴まなくても逃げないから」
そういう事で、五人は町へと向かった。帰ってくる間、俺はボーと待っている事にする。
「あの、よろしいでしょうか?」
ラナさんが、声をかけてきた。
「はい?なんですか?」
「あの……。どうして私達を助けてくれたのでしょうか?こう言うとあれですが、あなた方は私達とは縁も所縁も無い人間ですが……」
「それは、女の子達が言っていたでしょう?酷い事をされているのを見過ごせなかったんですよ」
「ああ……。あなた方はなぜ、あそこに?あの鉱石族と敵対していたようですが」
「さっき連れていった獣生族のイッヌがいたじゃないですか?あのイッヌの行方を探して俺達はここに来たんです。あいつと戦ったのは、ほとんど成り行きですね。あいつ放っておくと、もはや世界レベルで災厄が発生しそうだったので」
「確かに、あれは世界に仇なす存在でしたね」
さすがに酷い事をされた本人だけあって、バリアリーフをぶっ殺した事を咎めないか。むしろ、体が動けば自分でぶっ殺したんじゃないかな。
「本当に、この度はなんとお礼を言えばいいか……」
「さっきも言いましたが、ラナさん達の事を知ったのも成り行きです。だから、気にしないで下さい。助けたのはあいつを倒すついで、です」
なんか酷い言い草だけど、まあこれなら負い目は感じないだろう。
「……はい」
ラナさんは、笑ってうなずいた。
さすがは、女性に人気だったマスコットサモンドスレイヴ『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』。俺よりでかいドラゴンなのに、笑った顔がめっちゃかわいいぞ?
しばらくして、魔札道具を買いに行った三人が帰って来た。マホとメィムは、ちゃんと新しい服も買って着替えてきている。
『彼方くん。はい、魔札道具。あと、パーカーもありがと』
マホは、買ってきた魔札道具とパーカーを差し出してきた。そういや、パーカー貸したまんまだったな。
魔札道具は、パスケースだった。まあ、低いのでいいって言ったし。
「ああ、ありがと」
俺は両方受け取ると、とりあえずパーカーを着直した。
「その魔札道具をどうするんですか、トオノさん?」
「こいつで魔法を使ってもらって、ラナさんとマナちゃんに人間の姿になってもらおうと思うんだよ。それなら、町中で静養できるだろ?」
魔法を使えば、ドラゴンだって町に溶け込ませる事ができるだろう。それで、わざわざ魔札道具を買ってきてもらったんだ。
「しかし、私達にはそんな魔法は……」
俺の言葉が聞こえたのか、ラナさんが不安そうに言った。魔札道具だけじゃなくてカードも持っていないみたいだから、その不安はわかる。
けど、ノープロブレム!
「大丈夫です。ここに、このカードが二枚ありますんで」
そう言って俺は、用意していたカードを二枚取り出した。
『?あ、それって……』
「ふふ、『変身―メタモルフォーゼ―』さ。一枚は俺が持ってたし、一枚はマーシーが吐き出したのを拾っといたんだ」
そう、俺が用意したのは『変身―メタモルフォーゼ―』だった。まさか、マーシーが吐き出したカードがここで役に立つとは、拾っとくもんだぜ。
カードは拾った。
「さすが、カナタ。手癖が悪い」
「おい、メィム。せめて抜け目がないと言え。その言い方は印象悪いだろ」
「じゃあ、手が早い」
「それもおかしくないか?」
なんか、メィムの言語センスはわからん。
とにかく、俺は『変身―メタモルフォーゼ―』をパスケースにセットして、ラナさんとマナちゃんに手渡した。
「それにセットしたカードは、勅命カードの『変身―メタモルフォーゼ―』のカードです。そのカードは、使用者がイメージした別の姿に変える魔法です。なので、体が回復する間だけ二人にはそのカードで人間の姿に変身してもらいたいんです」
ツーカーに教えてもらったように、この魔法は使用者のイメージで変わるからな。これで人間の姿になれば、町で過ごせるだろう。それに、ツーカーは体格まで変わっていたから、体の大きさも変えられるはずだ。
「なるほど」
「人間の、姿……」
「わかるわね、マナ?」
「うん。わかるよ。できる」
「ええ。それでは……」
ラナさんは、立ち上がった。立ち上がると、さすがはドラゴン。でけえ。
「チョクメイ発動。『変身―メタモルフォーゼ―』」
「ちょくめい発動。『変身―メタモルフォーゼ―』」
ラナさんとマナちゃんが、魔法を発動した。カードが光を放ち、二人の体を変えていく。
あ、「変身!」の掛け声は必要無いのか。あれ無いと、なんか寂しいな。ちゃんとお約束を押さえてくれていて、ありがとうなツーカー。
光が消えて、人間の姿に変身したラナさんとマナちゃんが現れた。予想通り、ラナさんも普通の大人の女性くらいの身長になっている。マナちゃんは、七歳~八歳くらいの小さい子だな。
ただ……。
「「「『あ』」」」
現れたラナさんとマナちゃんは、全裸だった。
ああ、うん。そうだよな。ドラゴン、服着てないもんな。ツーカー達も体毛とかは変化してたけど、服は着込んでなかったわ。
マナちゃんの方はまあ、普通にちっちゃい子の体だったけど、ラナさんはその……胸の大きさというかボリュームが物凄いというか。あれは、巨を超えて爆にまで行ってる核ミサイル級だろう。
ヤバ、目が離せな……。
『見るなぁ!!』
俺の視界を、マホの翼が塞いだ。しかも、速攻俺の後ろに回ったメィムが俺を羽交い締めにしてきて、目を押さえてくる。
マホ、メィム!てめえら……!
「どうされたのですか?」
ラナさんの、不思議そうな声が聞こえてきた。
だよねー。裸を見られてるとか、そんな感覚無いよねー。
「な、なんでもないんです」
ヒナギが、俺達の奇行を誤魔化している。
「ヒナギ、マホ!あたしとカナタ、町まで戻って二人分の服買ってくるから、ここお願い!」
『うん、わかった』
「お願いします」
「おい、メィム……?」
「いいから!ちょっと、ひとっ走り付き合いなさいよ!」
付き合うというか、ほとんど引きずられるようにして、俺はその場を離れた。
スタート、ユア、エンジン!




